塩害対策特別調査団(4/26)の調査および 塩害水田における塩分調査等の概要 農業農村工学会シンポジウム 「東日本大震災の津波による農地塩害と取組方向」 2011.8.9(火) 塩害対策特別調査団(4/26)の調査および 塩害水田における塩分調査等の概要 宮城大学食産業学部 加藤 徹 千葉 克己
(社)農業農村工学会の対応 ◆災害対応特別委員会(委員長:青山威康石川県立大学教授) として、1)現地調査団の結成・現地派遣、2)災害復旧・復興技術相談、3)災害復旧に係る技術図書・データの提供、4)ウェブサイトに技術相談窓口を設置。
農業農村工学会東日本大震災農地塩害対策特別調査団の行程 (平成23年4月26日) ●石巻市蛇田地区の除塩(代掻き)作業の視察と関係者との簡単な意見交換 ⇒●名取土地改良区に於いて懇談(被災状況の聞き取り、今後の対応についての意見交換;改良区は森理事長、総務課長、事業課長) ⇒●名取土地改良区管内の被災状況視察と塩分調査 (名取土地改良区での意見交換会~現地視察まで地元の民放「宮城テレビ」が随行→夕方のニュースで放映) ⇒東北農政局において調査結果の概要とりまとめ ⇒●17:00~宮城県庁記者クラブにおいて調査結果の記者会見 ↓ 4月27日朝刊、河北新報(社会面)、讀賣新聞(県内版)記事掲載 マスコミは、今回の塩害に注目するとともに、その対策には破壊された排 水機場や排水路等の早期復旧が必要と報道(地域の湛水排除のためにも)。 排水機場等の重要性についてこれだけ認識されたことはなかったのでは?
石巻市蛇田地区における除塩のための代掻き作業(調査団視察;4月26日撮影)
名取市閖上地区の農地・宅地の被災状況(調査団視察;4月26日撮影)
名取市閖上地区の農地の被災状況(調査団視察;4月26日撮影)
<現地調査報告> 平成23年4月26日 ◆塩害等の調査 ▽農地の塩害の塩害被害の実態は、陸地への津波の浸入の形態・経路により、農地浅層までの塩類化、長期にわたる湛水による深層までの塩類化が認められる。このため、今後の対策にあたっては、塩害の範囲・濃度をできる限り定量的に把握・評価した上で、塩害形態に応じた手法を選択していくことに留意すべきである。 ◆塩害に対する基本的な視点(被害地域の現地調査を行い、議論し取りまとめた塩害に対する4つの基本的な視点) 視点1 塩害は現在も進行中(地盤沈下により、相対的に海面が上昇し、堤防等の被災箇所から海水の浸入が繰り返され、湛水域の下層に塩水クサビが浸入している。これにより地下水の塩分濃度の上昇が懸念される。) 視点2 塩害対策には確実な排水対策が必要(排水対策なくして塩害対策は成功しない。今回の地震で地盤が沈下し、排水系統の確保が重要である。) 視点3 塩害対策には大量の用水(真水)が必要(除塩作業は、用水を農地に繰り返しかける必要があり、また地下水が塩害を受けている場合には別途の水源が必要になることもあり、大量の水が必要である。) 視点4 塩分濃度等に対応した対策の実施が必要(地域により塩分濃度が異なるため、濃度の違いに応じた対策が必要である。)
塩害水田における塩分等の調査 ◆調査地の状況 排水機場が機能不全に陥っているため,灌漑水による塩害対策(除塩)ができず,稲作再開のめどが立っていない。 暗渠の除塩効果は知られるが,そのメカニズムはよくわかっていない。 弾丸暗渠などで暗渠の除塩効果がどれほど向上するのか不明。 ◆目的 雨水による除塩を進め,後の除塩作業に必要な灌漑水を節減するとともに,早期な稲作再開に寄与する。 暗渠による除塩のメカニズムを明らかにし,効果的な除塩法を考案する。 弾丸暗渠など農地の地下排水機能を高めることによってどれだけ暗渠の除塩効果が向上するのかを明らかにする。
調査地 津波の浸水区域 (水田2200ha) ガレキ類が多い区域 2週間以上海水が浸水した区域 1か月以上海水が浸水した区域 調査地はガレキ類がほとんどなく5日間程海水が浸水 Google Mapに加筆
調査圃場 試験区2 試験区1 作土の電気伝導度 作土の電気伝導度 2.86mS/cm(5/10) 3.47mS/cm(5/10) 弾丸暗渠あり(6/14施工) 30a区画 黒泥土 試験区1 作土の電気伝導度 2.86mS/cm(5/10) 弾丸暗渠なし 30a区画 黒泥土
調査内容 降雨後の暗渠排水量とその水の電気伝導度を測定 降雨後の土壌の電気伝導度を測定 雨 田面 疎水材 どれくらい塩分を含んだ水がどれくらい排水されるのか 土壌中の塩分は降雨でどれくらい低下するのか
調査機器 流量計と水質センサー 雨量計
暗渠排水量(5/24-7/25) 弾丸暗渠
地区排水が進まず,排水路の水位が上昇し,暗渠排水が一時停止,田面も湛水した。 大雨時の調査圃場(5/30) 地区排水が進まず,排水路の水位が上昇し,暗渠排水が一時停止,田面も湛水した。
暗渠排水量(5/24-7/25) 358mm 264mm(74%) 198mm(55%) 弾丸暗渠 弾丸暗渠施工後,排水量が増大
暗渠排水の電気伝導度(5/24-7/25) 暗渠排水量が「大」のとき,電気伝導度も「大」
暗渠からの塩素イオン排出量(5/24-7/25) 1,144kg 915kg 最大時間排出量 試験区1=11kg,試験区2=13kg
土壌の電気伝導度(5/10-7/9) 降水および暗渠排水ごとに電気伝導度が低下 試験区2が試験区1より低い傾向
雑草が生い茂る(畦畔部は除草剤で枯れている) 調査圃場(7/25) 雑草が生い茂る(畦畔部は除草剤で枯れている)
まとめ 暗渠を開放するだけでも雨で除塩は進む 弾丸暗渠を施工すると,暗渠排水量が増大し,除塩効果が高まる。 雨水による除塩を進めるためには秋の長雨の前に弾丸暗渠などで圃場の地下排水機能を高めておくことが重要。 暗渠排水の塩分濃度は排水量が大きいほど高い。 灌漑水を利用して急速な除塩を行うためには,暗渠排水量を大きくする工夫が必要。 急速な除塩には給水しながら湛水状態を保ち暗渠排水を行うことが有効か(30a区画の場合,給水量は3~5m3/hr程度)。
急速な除塩法(かけ流し暗渠排水) 灌漑水を入れながら暗渠排水を行う(湛水状態を保ち,強力な暗渠排水を続ける)。 灌漑水を入れ続ける 湛水状態を保つ 大量の排水と塩分 疎水材 この方式により,除塩作業の回数が減り,除塩に用いる水量を節減できる可能性もある。