Chandra衛星によるA1060銀河団の温度・重元素分布の観測

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Chandra衛星によるA1060銀河団の温度・重元素分布の観測 早川 彰(都立大), 山崎 典子, 古庄 多恵(宇宙研), 石田 学, 大橋 隆哉(都立大) 1. はじめに 3. データ解析手順 A1060 銀河団は、z=0.0114にある、ややgas poorな明るい銀河団である。 ASCA、ROSAT等の観測から、Intra-Cluster Medium(ICM)の輝度分布は球対称な構造を持ち、 温度や重元素量は銀河団全体で一様であることが知られていた。 また、中心部にcooling flowの兆候がほとんど見られず、例外的に一様性の良い銀河団である。 Chandra衛星による観測は2001年6月に30ksec行われた。 銀河団中心部に存在する2つの楕円銀河の性質と、ICMの輝度分布については、それぞれ、 2001年秋季年会、2002年春季年会で山崎、古庄により報告がされている。 本ポスターでは、ICMの温度、重元素分布に関して重点的に解析を行った結果を報告する。 本研究では、ICMの温度分布と重元素分布に着目し、スペクトル解析やハードネス比の解析を行った。 以下にスペクトル解析の手順をACIS-I全chipを参考に示す。 GTI Correction  back ground flareを取り除く。本観測では~1ksec除いた。 2) Source Elimination  wavdetect と celldetect スクリプトを使いsourceを取り除く。  NGC 3311 & NGC 3309は銀河の広がりを考慮し、中心から  半径30秒角を取り除いた。 3) Spectroscopy  右図にACIS-I全chipのスペクトル(1.0-8.0keV)をfitした結果  を示す。このように、1.4-2.2keVのIr edgeが合わない。  この領域をMaskするとc 2は飛躍的に向上する。  しかし、エネルギー範囲を制限すると、統計が極めて悪くなる  ため、以下の解析ではMaskは使用していない。    これによる結果への影響は問題にならない。 2. 観測   Chandra衛星による観測 観測日時 : 2001年6月4日 観測時間 : ~31 ksec(GTI補正後) 検出器 : ACIS-I0123(視野:16×16分角, 1pixel ~ 0.5秒角) 解析ソフト : CIAO ver.3.0 package & XSPEC ver.11.2.0 距離 : 46Mpc (H0=75km s-1 Mpc-1, 1秒角 = 0.22 kpc, 1分角 = 13 kpc) Mask あり 3.35keV 0.326 1.244 Mask なし  3.44keV 0.390 2.066    kT Z c 2 4. X線・光の画像 5. 半径分布 X-ray Image Optical Image  NGC 3311を中心として、温度と元素アバンダンスの radial profileを求めた(右図)。半径方向の領域は正味の カウント数が10000cts以上となるように選択し、各領域ごとにスペクトル解析を行った。 温度は2’(26 kpc)あたりでkT @ 3.8 keVに増加した後、外側へ向かって有意に低下し約3 keVとなる。A1060に系統的な                      温度勾配があることは、                      今回初めて見出された。                      参考までにASCAで観測                       された、温度分布、重元                       素分布のradial profileを 温度分布 NGC3311 NGC3309 重元素分布 ACIS-I FOV  A1060銀河団は球対称なX線輻射ガスを持つ銀河団として知られている。 上図にChandra ACIS-Iによる生のX線イメージと、対応する可視光(DSS)のイメージを示す。 X線イメージには取り除いたソースの領域を青で(3.を参照)、可視光イメージにはACIS-Iの視野を赤線で示した。 両イメージともスムージングしたX線の等高線を重ねてある。 (Errorは90%) 示す(左図:T.Tamura et al. 1996)。 他方、重元素の分布は半径15分角(200kpc)までほぼ一様である。 温度分布、重元素分布ともにASCAの結果と矛盾のない結果と なっている。 R(arcmin) T. Tamura et al. 1996 7. 温度マップ 6. アバンダンスマップ  重元素の2次元的な分布を調べるため、NGC 3311を中心としてchip内の領域を4分割し、各領域の重元素量を求めた。 各領域は正味のカウント数が5000cts以上となる ように取った。その結果、右図の様に、アバンダンスは銀河団全域で一様で、ほとんどの領域で0.3-0.4solarとなることが解った。  さらに鉄のK輝線の分布を見るために、2.2-6keVと6-7keVの強度比(hardness ratio)を求めたところ、下図のように局所的なむらがあることが明らかになった。ガス温度が銀河団全域でほぼ一様なので、これは鉄の分布を示すはずである。 (左:45×45pix、右:180×180pixごとに計算。  ただし、errorが30%以上となる領域は除いた。) “6.”と同じように温度に対しても空間分布を 求めた。その結果、スペクトル解析から求めた温度分布(左)、hardness ratio (2-6keV/0.9-2keV)から求めた温度分布(左下)の両方が、中心(NGC 3311)から半径 2-5分角にやや高温の領域が存在することを示した。ただし、 hardness ratioについてはerrorが10%以上となる領域は除いた。 また、下図に示すように4つの方位角方向についてradial profileを求めると、ある方向だけに 高温領域が存在するのではなく、中心部を取り囲んで温度が高くなっていることが解る。  a1060の中心領域のcooling timeは~1010yr のようにハッブルtimeと同程度になっている。 他方、中心領域の熱伝導時間は~108yrであるが、コア半径の2倍となるような外側の領域では~1010yrになる。このようなことから、中心領域のガスの温度が外側の領域まで十分に伝わっていないために、温度勾配が存在していると考えられる。 0solar 1solar 2keV 5keV 西側 東側 北側 南側 0solar 1solar 0solar 1solar 2keV 5keV 8. まとめと議論 kT ~ 3.5keV Z ~ 0.67solar (~9000photon) kT ~ 3.0keV Z ~ 0.30solar (~36000photon) 温度分布 A1060銀河団から有意な温度変化を初めて検出。 半径2-5分角(20-60kpc)の領域がほぼリング状に温度が高く、外側では緩やかに減少。 中心ではやや低下。 A1060は若くICMの加熱が進行する途中にあり、中心ガスの温度が外側の領域まで 熱伝導していないため。 アバンダンスの違いの有意性を求めるために、hardness ratioの 高い3領域(左)と低い領域(右)を選び、スペクトル解析を行った。 その結果、アバンダンスはそれぞれ、0.67solar、0.28solarとなり、 右図のように重元素分布の非一様性を99%の信頼度で確認する ことが出来た。 特に、この3つの領域の中でもっとも高かったNGC3311のすぐ北 側の領域には     solarのアバンダンスが存在しており、 仮にこの領域が球対称をしているとすると、~105M の鉄が存在 していることになる。一方、NGC 3311には~104M の鉄が含まれ   ている。この領域の鉄がNGC 3211起源であるとすると、    過去に大規模な星形成、超新星爆発活動があり、かつ、        重元素を含むガスが銀河外に脱出したことになる。 95% 98% NGC3311から出た低温ガスと混ざったため? Cooling は考えにくい。 99% (左) 元素分布 大局的な元素分布は一様。 銀河団中心領域に鉄が約2倍多い領域がblob状に存在している(スケール:~10kpc)。 今期、XMM-Newton衛星による高精度の観測を予定。 (右) 銀河から放出された重元素が十分拡散されずに留まっているため。 merger によるガスのmixingも起きていない。 より詳細な構造を明らかにする。