<JP3-079> 光環境の違いに対するエゾマツとトドマツの生理・形態・器官量配分反応

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<JP3-079> 光環境の違いに対するエゾマツとトドマツの生理・形態・器官量配分反応 060327 第53回日本生態学会@朱鷺メッセ(新潟) <JP3-079> 光環境の違いに対するエゾマツとトドマツの生理・形態・器官量配分反応 飯島勇人1)・渋谷正人(北大院農・造林学) 1) E-mail: hayato-i@for.agr.hokudai.ac.jp, Tel: 011-706-3346 はじめに 結果と考察 ・エゾマツ(Picea jezoensis)とトドマツ(Abies sachalinensis)は倒木上で主に更新→同所的に生育 ・しかし実生段階でも2種の空間的な分布は分かれている Ex.) Kubota and Hara 1996. トドマツ実生がエゾマツ実生を一方向的に排除. 飯島ら 2005. エゾマツ実生はトドマツ実生よりも暗い環境で生育している個体の割合が少ない. ・2種の分布の違い:光環境に対する反応の違いでは? ・林内では光はしばしば不足→光不足に順応できるかが重要 ・光が少ない=資源は恒常的に少なく、稼ぎは増やせない→器官を効率よく生成し、資源が少なくても炭素収支を正にすることが重要 生理:暗呼吸速度や光補償点の低下(暗い環境でも炭素収支を正に) 形態:単位個体重当たり大きい葉面積、薄い葉(コストが小さい) 器官量配分:葉へ多くの投資(常緑樹は毎年葉を落とす必要がない) 本研究の目的 1. 光環境に対する生理、形態、器官量配分の順応特性は林内の光環境の違いに反応するか? 2. これらの特性はエゾマツとトドマツで種間差があるか? 表 エゾマツとトドマツの生理・形態・器官量配分に種・個体重・光環境が与える影響 表にはANCOVAの結果のp値のみを示した. 交互作用項が傾きの検定を、要因単独の項が切片の検定結果を示している. + Spは種、Wは個体サイズである. なお個体サイズは解析に際し対数変換した. ++ Aarea, 最大光合成速度(単位葉面積あたり); Rarea, 暗呼吸速度(単位葉面積あたり); LCP, 光補償点 +++ LAR, (総葉面積)/(個体重); SLA, (総葉面積)/(葉重) ++++ LMR, (葉重)/(個体重); SMR, (枝重)/(個体重); RMR, (根重)/(個体重) + ++ +++ ++++ 生理・形態・器官量配分特性の光環境に対する反応 ・生理:全ての生理特性が暗い環境で低下しており、明るい条件で稼ぎを増加させるよりも、暗い条件でも炭素収支を正にするよう順応していた。 ・形態および器官量配分:ほとんどは光環境の違いに反応していなかった。これらの特性は種や個体重の影響の方が大きいと考えられる。 2種間での生理・形態・器官量配分特性の違い ・形態:LARで違いがあり、トドマツの方が単位個体重あたり葉面積が大きかった。一方SLAは種間差が見られなかった。 ・器官量配分:地上部器官内での配分比が異なり、トドマツはより葉へ、エゾマツはより枝へ投資を行っていた。LARがトドマツで大きかったのは、主にLMRがトドマツで大きいことによると考えられた。 ・生理:明確な違いは2種間で見られなかった。 材料と方法 図 光環境と生理特性の関係 調査地 ・北海道沙流郡日高町 日高北部森林管理署 110林班(42º 55’ N, 142º 45’ E, a.s.l. 1038m) 調査林分 ・エゾマツ(胸高断面積合計BAで50%)と トドマツ(BAで30%)を主体とする針葉樹天然林 ・林分密度:468本 ha-1、BA:45.9m2 ha-1 材料 ・近年上層で攪乱が発生していない倒木上で、孤立状に生育していたエゾマツ24個体とトドマツ22個体 方法 ・各個体の光環境:2005年7-9月に各個体の頂端部から上10cmで、 rPPFDの瞬間値を5回反復して測定(表を参照)。 ・生理:2005年7-9月に各個体で1年生枝を対象に光-光合成曲線を作成。光-光合成曲線からAarea、Rarea、LCP(光補償点)を算出。 ・形態:2005年10月に個体をサンプリングし、LAR(個体の総葉面積/個体重)、SLA(個体全体の総葉面積/葉重)を算出。 ・器官量配分:LMR(葉重/個体重)、SMR(枝重/個体重)、RMR(根重/個体重)を算出。 統計解析 ・生理:種を要因、rPPFDを共変量としたANCOVA(共分散分析) ・形態と器官量配分:種を要因、rPPFDと個体重(W)を共変量としたANCOVA 日高 表 調査個体のサイズと光環境 図 個体重と形態および器官量配分の関係 結論 ・光の違いには生理特性のみが反応していたが、その反応には種間差が見られなかった ・トドマツは葉へより多くの投資を行っており、エゾマツより耐陰性が高い可能性が示された