Uncovering the Migration History of Giant Exoplanets

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Uncovering the Migration History of Giant Exoplanets 東京大学大学院 宇宙理論研究室/MIT 平野 照幸 国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田 憲保

目次 惑星の軌道進化について トランジット惑星系のロシター効果 ロシター効果観測のこれまでの結果 本インテンシブプログラムの目的と必要性 チーム体制と観測戦略 他のグループとの比較と今やることの重要性

木星のような巨大惑星がかなり内側の軌道にある 太陽系外惑星の軌道長半径・質量分布 スノーライン 惑星の質量(木星質量) 木星 主星から惑星までの距離(天文単位) 木星のような巨大惑星がかなり内側の軌道にある

水星軌道よりも細長いような、楕円軌道の惑星が多い 太陽系外惑星の軌道離心率分布 エキセントリックプラネット 惑星の軌道の離心率 木星 主星から惑星までの距離(天文単位) 水星軌道よりも細長いような、楕円軌道の惑星が多い

太陽系外惑星の軌道の理論的説明 太陽系外惑星では、太陽系とは全く異なった軌道の惑星が多い → この多様な惑星系はどのようにしてできたのか? 太陽系外でも最初はスノーラインより外側で巨大ガス惑星ができると予想される 惑星が最初に形成された場所から現在の軌道へ移動する「惑星軌道進化」の理論が提案されてきた 惑星落下モデル (e.g., Ida & Lin 2004) 惑星散乱モデル (e.g., Nagasawa et al. 2008) 古在移動モデル (e.g., Fabrycky & Tremaine 2007)

惑星落下モデル 原始惑星系円盤の中で公転しているうちに、円盤との相互作用で惑星が少しずつ主星に向かって落下していくという移動モデル 太陽系のように、ほぼ円軌道の惑星ができる 惑星の軌道は円盤平面の中から大きく傾かない 主星の自転軸と惑星の公転軸がだいたいそろう 太陽系外惑星の主星からの距離の分布をだいたい説明できる このモデルだけでは離心率の分布については説明できない

惑星散乱モデル ガス円盤が晴れ上がった後、3つ以上の巨大惑星がある場合に、 惑星同士が重力でお互いを弾きとばして(散乱して)移動するモデル 2つの巨大惑星でも起こる場合がある シミュレーションでは、内側と外側に1つずつ惑星が残り、1つが 惑星系から放り出される場合が多い 離心率を持った惑星、大きく傾いたり、逆行する惑星を予言する 大きな離心率を持った惑星は、潮汐力でさらに軌道進化する 放り出された惑星

古在移動モデル 連星系の一方に惑星がある場合、もう一方の恒星(伴星)の影響で 惑星の軌道が変化する 伴星の公転軸と惑星の公転軸(相互軌道傾斜角)が~40度以上 傾いている場合に起きる (古在機構:Kozai 1962) 古在機構によって惑星の離心率・軌道傾斜角が振動する 離心率が大きくなった際に潮汐力で軌道進化する 離心率を持った惑星、大きく傾いたり、逆行する惑星を予言 (惑星にとっての)主星 伴星

どうやってこれらの惑星移動理論を観測的に検証するか? 惑星移動理論の予言 惑星落下モデル 小さな軌道離心率、小さな公転軌道傾斜角を予言する このモデルだけでは観測されている軌道離心率の分布を説明できない 惑星散乱モデル、古在移動モデル (few-body interaction models) さまざまな軌道離心率、公転軌道傾斜角を予言する 主星の自転に対して大きく傾いたり、逆行する軌道を持つ可能性がある どうやってこれらの惑星移動理論を観測的に検証するか?

この現象を利用して、トランジット惑星がどのような経路を通って トランジット惑星系のロシター効果 近づく側を隠す → 遠ざかって見える 遠ざかる側を隠す → 近づいて見える 惑星 主星 この現象を利用して、トランジット惑星がどのような経路を通って 主星の前を通過したかがわかる

Ohta et al. (2005, 2009), Hirano et al. (2010a)などが解析方法を定式化 惑星の公転方向とロシター効果の関係 順行 恒星の見かけの速度 順行 逆行 遠ざかる 近づく 逆行 恒星の見かけの速度 遠ざかる 極行 極行 近づく 星ナビ2005年2月号 解説記事より作成 Ohta et al. (2005, 2009), Hirano et al. (2010a)などが解析方法を定式化

天球面上に射影した太陽系外惑星の公転軌道傾斜角を測定できる ロシター効果の観測でわかること 惑星の公転面 惑星 恒星 惑星の公転軸 主星の自転軸 天球面上に射影した太陽系外惑星の公転軌道傾斜角を測定できる

すばる望遠鏡でのロシター効果の観測 HDS すばる望遠鏡 ヨードセル

これまでにいただいた観測時間と成果 S06A-029: Narita+ (2007) S07A-007: Narita+ (2010a) S07B-091: Johnson+. (2008), Albrecht+ in prep., Narita+ in prep. S08A-021: Narita+ (2009b), Hirano+ in prep. S08B-086: Bad weather S08B-087: Narita+ (2009a) S09B-089: Narita+ (2010c) S10A-139: Hirano+ in prep. S10A-143: Hirano+ (2010b), Narita+ in prep. これまでに7本の論文を発表 3本(+α)の論文を準備中

すばる望遠鏡の観測結果例 順行 順行 逆行 順行 傾いている 極行 TrES-1b: Narita et al. (2007) HD17156b: Narita et al. (2009a) HAT-P-7b: Narita et al. (2009b) 順行 傾いている 極行 XO-4b: Narita et al. (2010c) TrES-4b: Narita et al. (2010a) HAT-P-11b: Hirano et al. (2010b)

初めての逆行惑星の発見:HAT-P-7b どちらもすばるを用いて 逆行する惑星を発見 S08A-021 Narita et al. (2009b) どちらもすばるを用いて 逆行する惑星を発見 UH時間:Winn et al. (2009)

初めてのSuper-Neptuneでの測定:HAT-P-11b S10A-143 Hirano et al. (2010b)

ヨーロッパグループによる逆行惑星 WASP-17b Triaud et al. (2010) WASP-15b Queloz et al. (2010) WASP-8b WASP-17b Triaud et al. (2010) WASP-15b Cameron et al. (2010) WASP-33b

これまでのロシター効果の観測結果 Stellar Spin Planetary Orbit 主星の自転軸と惑星の公転軸のなす角度 (spin-orbit alignment angle) は必ずしもゼロではない 多くの惑星系で惑星散乱/古在移動が実際に起きている

という問いの答えを明らかにすることができる 今後の研究の方向性 = 本観測提案の目的 惑星落下、惑星散乱、古在移動は、統計的にどれが主要な物理過程で、それぞれどのような割合で起こっているのか? 惑星の公転軌道傾斜角と、主星・惑星のパラメータの間には一体どのような相関があるのか? さまざまな仮説が提唱され出しているが、それらは本当か? これらを明らかにすることで 「惑星はどのようにして移動したのか?」 という問いの答えを明らかにすることができる

統計的に必要な観測数 惑星散乱と古在移動では、 結果として出てくる軌道傾 斜角の分布に違いがある 現在までの分布では85%の 有意性で惑星散乱モデル の方が古在移動モデルより よく合っている(ようやく傾 向が見え始めたところ) 95%の有意性で主要な移 動過程を判別するために 必要な追加観測数は・・ 統計的に有意に移動モデルを判別にするには、あと50-70個以上  ノーマルでこつこつやればいい? Morton & Johnson (2010) 惑星散乱が主要なメカニズムだった場合 → 20-30個以上 古在移動が主要なメカニズムだった場合 → 50-70個以上

なぜ今インテンシブか? ロシター効果は、系外惑星の分野で観測・理論の両面で重要性が認知されてきて、最近では研究が非常に活発になってきている 今後数年間の観測結果の数が、将来統計的議論において日本がプレゼンスを示すために必要(緊急性が非常に高い) 他のグループを大きく上回る数の観測数が最も重要 アメリカとヨーロッパのグループは、2009年頃からトランジットサーベイチームと協力を始めて、新惑星の発表前か直後にロシター効果を測定することが多くなった 発表されてから公募観測に出すのでは全く間に合わなくなった 安定した観測夜とトランジットサーベイチームとの協力が不可欠

新たなコラボレーション HATNet Project LCOGT project PI: Gaspar Bakos 地上トランジットサーベイの2大 プロジェクトのひとつ アリゾナ・ハワイ・イスラエルを 拠点にした北天サーベイ オーストラリア・ナミビア・チリを 拠点にした南天サーベイ 惑星検出数:26個(2010年に 13個発表) 惑星候補数:数十個以上 LCOGT project PI: Avi Shporer ハワイ・ハレアカラにある FTN2m望遠鏡で、ロシター効 果の同時測光観測を行う時間 を確保済み 新惑星でもトランジット時刻の 不定性をなくすことができる

チーム体制 すばる HATNet Project LCOGT project 平野照幸、成田憲保: 観測計画の立案・観測・解析 佐藤文衛: 解析 末永拓也、高橋安大: 観測・解析 Josh Winn: ターゲット選定、アドバイス 青木和光、田村元秀: アドバイス HATNet Project Gaspar Bakos, Joel Hartman 観測ターゲットの提供 新惑星探索の観測・解析 LCOGT project Avi Shporer 同時測光観測の実施 測光解析

観測戦略 HATNet Projectによる未発表のトランジット惑星を中心にロシター 効果の測定を行う 主星・惑星のパラメータとの相関を調べるために、なるべく無バイ アスなターゲット選定を行う LCOGT/FTN 2m望遠鏡による同時測光観測を行う 新惑星の場合にトランジット時刻の不定性をなくすことは非常に重要 ロシター効果以外のすきま時間を新惑星の確認・発見に使う すばるで惑星を確認・発見し、ロシター効果まで測定する 論文の生産性(→ 系外惑星分野でのすばるのプレゼンス)が大幅に 増す

観測・解析・出版体制 ターゲット選定はアメリカ人の共同研究者らと相談した上で行い、ロシター効果の観測・解析・出版は日本人が主導で行う アメリカグループとターゲットが重複しないようにする 現在の我々のスキルでは、観測後の解析に要する時間は 一次処理:1日、恒星テンプレート計算:1日、視線速度解析:3日、 ロシター効果の経験式作成:1日、フィッティングプログラム作成:1日 新解析公式の開発(Hirano+ in prep.)によりもう少し短縮できる 結果が出たら論文投稿までは順調なら1-2月程度 すきま時間の新惑星の観測では、解析・出版はHATNet Projectとの合意に基づいて行う

世界の他のグループとの比較 グループ ヨーロッパ 日本 アメリカ 望遠鏡 ESO 3.6m/HARPS OHP 1.8m/SOPHIE すばる8.2m/HDS Keck 10m/HIRES トランジット サーベイとの協力 WASP HAT 同時測光観測 OHPの場合 行っている LCOGT/FTN 2.0m 主な観測・解析 メンバー Triaud・Queloz 成田・平野 Winn・Johnson 夜数 WASPでの 惑星発見時に行う 本観測提案 0.5-1.5 / semester

今やることの重要性 アメリカはKepler、ヨーロッパはCoRoTが膨大な数の(暗い主星の まわりの)惑星候補を発見しており、KeckやHARPSなどの観測時間 が大幅にそのフォローアップに取られている 今後の数年間はロシター効果に使える時間がこの数年より減る 今がインテンシブの最大の好機(サイエンスメリットが最も高い) 「細々とやっている」「アメリカの手伝いをしてる」ではだめ 「日本が非常に力を入れている」というプレゼンスを見せることが重要 日本の惑星軌道進化の理論研究は世界をリードしている すばるでの観測研究が世界をリードする立場になるチャンス 日本のプレゼンスを見せる 他のグループを圧倒的に上回る数 精度<<サンプル数

夜数とスケジュールについて 20夜を強く希望します S11Bの割り当てを2012年に回すことは構いません minimumの12夜はアメリカと同程度の観測数 サンプル数は夜数に比例するが、サイエンスメリットは 非線形に大きく増加する 新惑星の確認数も夜数が多い方がずっと多くなる S11Bの割り当てを2012年に回すことは構いません 通常の公募観測に大きな影響を出すことは望ましくない より多くの未発表ターゲットが期待される2012年の方が サイエンスメリットは大きい

S10A-107でのレフェリー/TACコメント

補足スライド

S11A期の観測ターゲット kepler-5 HAT-P-16, HAT-P-20, WASP-24 HAT-P-26 比較的高温のF型星(Teff=6300K)だが,射影自転速度が遅い(v sin is=4.8 km/s)。このため星の自転軸が我々に対して傾いている可能性があり,ロシター効果の観測でもnonzeroのλを観測する可能性が高い HAT-P-16, HAT-P-20, WASP-24 周期3日程度の典型的なホットジュピターを持つ系であるが,表面温度6000〜6200K程度と推定されており,表面温度とλの関係に対する仮説を検証する上で重要であると考えられる HAT-P-26 ホット・ネプチューンを持つ惑星系。我々のグループはすばるHDSを用いて海王星サイズの惑星に対するロシター効果が検出可能であることをすでに示している(Hirano et al. 2010b)

ターゲット選定の背景 惑星の公転軌道傾斜角と、主星・惑星のパラメータの間にはどのような相関があるのか? 主星の温度(質量)と相関がある? (Winn+ 2010) 惑星落下、惑星散乱、古在移動は、それぞれどのような割合で起こっているのか? 公転軌道傾斜角の分布と惑星散乱/古在移動の予言を比較 Triaud+ 2010: 古在移動がよく合う Morton & Johnson 2010: 惑星落下+惑星散乱の方がよく合う

Hot Stars with Hot Jupiters Have High Obliquities 主星の温度と惑星の傾きの相関 8.1 days 111 days 21 d Winn et al. (2010) Hot Stars with Hot Jupiters Have High Obliquities

主星の温度と惑星の傾きの相関 Winn et al. (2010) 恒星の対流層

主星の温度と惑星の傾きの相関 Winn+ 2010 の要点と仮説 温度が低い星は対流層が発達して、ホットジュピターの潮汐力で 主星のみかけの自転軸が惑星の公転軸にそろう 温度が高い星のまわりのホットジュピターはほとんど傾いている 温度が低い星で傾いた惑星は周期が長く潮汐効果が弱い 惑星はもともと傾いている(惑星散乱/古在移動した)のが普通? 温度が低い主星のまわりで傾いたホットジュピターを発見すると、 この仮説に反証できる この仮説が正しいと、温度が高い星の惑星だけで軌道傾斜角を 測れば惑星移動モデルの予言と直接比較できる

温度が高い星だけでλの分布を予言と比較した例 惑星移動モデルの統計的判別 温度が高い星だけでλの分布を予言と比較した例 Morton & Johnson (2010)

惑星の傾きの別の解釈 主星の自転軸は原始惑星系円盤の軸と本当に揃っている? Lai et al. 2010, Foucart & Lai 2010: 初期に2つの軸が大きくずれていた場合、円盤と主星磁場の相互作用によって、主星の自転軸はさらに傾くことになる 惑星の軌道は形成初期から傾いている可能性がある Watson et al. 2010: → Lai et al.らの理論に反論 デブリ円盤が撮像され、かつ主星の自転周期と自転速度が測定されている星で、円盤の軸と主星の軸を比べたところ、有意なずれは見られなかった

決定的な確認法 ダブルトランジット(同じ惑星系で2つ以上の惑星がトランジット)するような系で、ロシター効果を測定する もし両方ともゼロに近い値であれば惑星落下モデルの証拠 もし両方とも同じ値だが、ゼロからずれていた場合、Lai+の仮説が実際に起こっている → ロシター効果の解釈にその効果を加える必要がある もし両者が有意に異なる値の場合、惑星散乱/古在移動の非常に稀なケース?

Lower Right: AstraLux image, 12’’ x 12’’ 惑星移動モデルの個別の判別法 N E Narita et al. (2010b) Left: Subaru HiCIAO image, 12’’ x 12’’, Upper Right: HiCIAO LOCI image, 6’’ x 6’’ Lower Right: AstraLux image, 12’’ x 12’’

惑星移動モデルの個別の判別法 直接撮像によって、伴星の有無をひとつひとつ確認し、その伴星の距離、外側の惑星の軌道などを調べることで、惑星移動モデルを個別に判別していくことができる Kozai migration forbidden boundary Kozai migration allowed Narita et al. (2010b)

ロシター効果に対する解析公式 ロシター効果の解析には,観測される視線速度変動と恒星面上での惑星の位置を結びつける関係式が必要 これまで,シミュレーションに基づき経験的にその関係を求めていた しかしシミュレーションでは星のタイプとその自転速度を固定する必要があり,系統誤差となる可能性がある 我々のグループは,新たな解析手法を考案(解析公式を作成した) これにより解析にかかる大幅に時間が短縮されるだけでなく,解析の際の系統誤差を小さくすることが可能となる 視線速度変動 → Δλは位置の関数

新解析公式とシミュレーションの比較