北海道駒ヶ岳火山 先史時代噴出物の岩石学的特徴

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北海道駒ヶ岳火山 先史時代噴出物の岩石学的特徴 宮坂瑞穂・高橋 良・中川光弘 (北大・理) 吉本充宏 (東大・地震研)

研究の目的 北海道駒ヶ岳火山は、西暦1640年以降火砕流を伴うプリニー式噴火を4回起こしている 1996年以降小噴火を繰り返している 近い将来に規模の大きな噴火が起こる可能性は? 1640年噴火以前には約5000年間の休止期があり、噴火と休止期を繰り返している マグマがどのような状態になると休止期に入るのか? Ko-f Ko-g Ko-h Ko-i

柱状図 32000年前以降の 噴火史 Ko-f:5500 yBP =Ko-NS1 or NS2? Ko-g:6000 yBP  Ko-NS4:11000 yBP  Ko-NS5:>12000 yBP =Ko-SR1 or SR2  :12000-24500 yBP =Ko-h?:17000 yBP  Ko-i:32,000 yBP

記載岩石学的特徴 火砕流堆積物:スコリア、灰色軽石が多い 降下軽石堆積物:大部分が白色軽石、縞状軽石 岩屑なだれ堆積物・山頂アグルチネート:スコリア

全岩 化学組成 先史時代噴出物の組成トレンドはK2O, Baのハーカー 図の苦鉄質側で、歴史時代噴出物のものと明瞭に異なる 先史時代噴出物は、TiO2, K2O, Vなどのハーカー図で、3つの組成トレンドに分かれる *DAD<Ko-i:Ko-iより下位の 岩屑なだれ堆積物

新たに発見された噴出物との比較 V-Ba図による 噴出物の判別 歴史時代(1640AD〜) Ko-f〜Ko-g (5500-6000yBP) Ko-NS4(11000yBP) Ko-NS5(>12000yBP) Ko-SR1 Ko-SR2(<24500yBP) Ko-i flow Ko-i fall(32000yBP) DAD

先史時代噴出物の特徴 ●火砕流堆積物、降下軽石堆積物、岩屑なだれ堆積物・山頂アグルチネートは、本質物質のタイプが異なる ●先史時代噴出物の組成トレンドの大部分は、歴史時代噴出物とは特に苦鉄質側で異なる ●先史時代噴出物は、Ko-f・Ko-g噴出物、Ko-i火砕流堆積物、Ko-i降下軽石堆積物・岩屑なだれ堆積物・山頂アグルチネートの3つの組成トレンドに分かれる ●先史時代噴出物は、V-Baの図において噴火年代の近い噴出物ごとにそれぞれ異なる組成領域を示しているように見え、全岩化学組成からどの活動期の噴出物かをある程度推測することができるかもしれない

新たに発見された噴出物との比較 V-Ba図による 噴出物の判別 歴史時代(1640AD〜) Ko-f〜Ko-g (5500-6000yBP) Ko-NS4(11000yBP) Ko-NS5(>12000yBP) Ko-SR1 Ko-SR2(<24500yBP) Ko-i flow Ko-i fall(32000yBP) DAD

歴史時代噴火のマグマ供給系 本質物質のタイプが混合端成分マグマに対応している 斑晶鉱物は珪長質マグマに由来しており、その中心部組成は歴史時代噴火を通してほぼ一定である

5500-6000年前噴出物の全岩化学組成 5500-6000年前噴出物 の組成幅は歴史時代の ものより狭く、その組 成トレンドは、珪長質 側で交差するが苦鉄質 側は明瞭に異なる

各噴出物の全岩化学組成 歴史時代噴出物は本質物質のタイプによって全岩化学組成が異なる 5500-6000年前噴出物では、本質物質のタイプによる組成差が認められない Ko-gよりKo-fでより珪長質な組成を示す 本質物質のタイプ・組成によるとKo-f=Ko-NS1である可能性が高い 5500 yBP 5700 yBP 5450 yBP 6000 yBP

斑晶鉱物の中心部組成 狭い範囲に集中しており、歴史時代噴出物とは組成が異なる

斜方輝石の 累帯構造(1) 本質物質のタイプによる累帯構造の違いは認められない 歴史時代噴出物では、白色軽石中の鉱物は顕著な累帯構造を示さず、スコリア中のもので逆累帯構造を示す Ko-gは顕著な累帯構造を示さないが、Ko-NS2以降では逆累帯構造を示すものが多くなる

斜方輝石の累帯構造(2) Ko-gのMg#はほぼ一定(やや上昇)である Ko-fは周縁部で顕著な逆累帯構造が認められる Ko-gよりKo-fに、明瞭なマグマ混合の証拠が記録されている

輝石温度計 噴火様式、軽石のタイプや層序による差は認められない 歴史時代噴出物中の単斜輝石は、Ko-f・Ko-gのものに比べてWoに乏しい white scoria scoria gray scoria white Wells (1977) 噴火様式、軽石のタイプや層序による差は認められない 歴史時代噴出物中の単斜輝石は、Ko-f・Ko-gのものに比べてWoに乏しい Ko-fとKo-gの間に差は認められず、985-1025℃程度を示す white Lindsley & Andersen (1983) white

5500-6000年前噴火について ●本質物質のタイプによる全岩化学組成差は認められず、Ko-gからKo-fへ時間の経過とともに全岩SiO2が増加する傾向が見られる ●斑晶鉱物の中心部組成はほぼ同一の狭い範囲に集中しており、Ko-gより後の噴火では多くの斜方輝石が逆累帯構造を示す ⇨大部分の斑晶鉱物は珪長質マグマ由来であり、より未分化な無斑晶質マグマと混合していた ●直線的な全岩化学組成トレンドが歴史時代噴出物のものと苦鉄質側で異なり、珪長質マグマ由来の輝石・磁鉄鉱斑晶の中心部組成が歴史時代噴出物のものよりMgに富みより高温で晶出していた ⇨5500-6000年前噴火の混合端成分マグマは、歴史時代噴火のものとは異なる

歴史時代噴火との比較 <共通点> <相違点> ・斑状な珪長質マグマと無斑晶質な苦鉄質マグマの混合物 ・珪長質マグマの斑晶組み合わせは、pl,opx,cpx,mt,ilm <相違点> ・5500-6000年噴火では本質物質のタイプが混合端成分マグマを代表していない ・5500-6000年噴火の珪長質マグマは歴史時代のものよりも高温で、Mgに富む輝石・磁鉄鉱を晶出していた

今後の課題 ●噴火史の再検討を行い、駒ヶ岳火山における活動期と休止期を決定する   Ko-h ⇨ Ko-NS5, Ko-SR1, Ko-SR2と対応するか? ●斑晶鉱物に注目して、活動期ごとのマグマ供給系の構造とその変遷を探る  中心部組成⇨活動期の中では変化しないのか?  累帯構造⇨マグマ混合の履歴が記録されているか?  周縁部組成の変化⇨活動期内でのマグマの組成変化は? ● 混合端成分マグマは先史時代噴火を通じて次第に進化しているのか?活動期ごとに入れ替わるのか?

mt-ilm温度計 Ko-f・Ko-gのmt-ilm温度計は歴史時代噴出物のものに比べて高い温度を示す Spencer & Lindsley (1981) Ko-f pfl Ko-g pfa Ko-f pfa Bacon & Hirschmann (1988)

まとめ ●各活動期の噴出物はそれぞれ異なる組成領域を示し、全岩化学組成からどの活動期の噴出物かを推測することができる ●5500-6000年前噴火では歴史時代噴火と同様に、斑晶鉱物に富む珪長質マグマがより未分化な無斑晶質マグマと混合していた ●5500-6000年前噴火の混合端成分マグマはいずれも歴史時代噴火のものとは異なっていた

Incompatible 元素比