総合講座・女性学B 「女性とメディア」 第6・7回 スポーツとジェンダー 担当 有馬明恵(コミュニケーション専攻)
1.はじめに 2.講義の目標と内容 3.スポーツにおけるジェンダー研究の重要性 4.スポーツは“男らしさ”の象徴か? 5.マス・メディアに現れるスポーツとジェンダー・イメージ 6.スポーツ・バラエティとジェンダー・イメージ 7.スポーツにおける<ジェンダー神話> 参考文献
1.はじめに (1)受講に際し守って欲しいこと ・私語は慎むこと。 ・飲食は控えること。 ・メールその他、授業と関係ない行為は慎むこと。 ・毎回、遅れることなく参加してほしい。 (2)授業資料の公開 http://lab.twcu.ac.jp/arima
2.講義の目標と内容 スポーツとジェンダー研究のかかわりについて理解 する。 マス・メディアにおける“スポーツ”を題材に、<ジェ ンダー神話>の存在と強化について考える。 その際、スポーツを“すること”と“みること”の双方を 視野に入れる。
3.スポーツにおけるジェンダー研究の重要性 ジェンダー研究 =「女性の視点から捉え直す」(1970年代の女性 学) →「両性間の権力とヒエラルキーの関係性を問う」 →「知=学問」の多くが男性中心主義であることに 挑戦 「体育・スポーツ」は、ジェンダーの秩序やステレオ タイプなどを再生産する装置である。 ←ジェンダー研究の重要性
4.スポーツは“男らしさ”の象徴か スポーツが得意な女性はかっこいい? スポーツをすることで、女性は男らしくなる必要はな い? スポーツが不得意な男性は頼りない? 男だったらスポーツができた方がよいと思う?
女性がスポーツをすることの目的の1つに、 “ダイエット”がある。 女性にとってスタイルがよことは生きていく上で重 要? “理想のプロポーション”は誰にとっての理想か? スタイルの良い女性にスポットライトが当たる。 女性は見られる(鑑賞)の対象である。 <性の商品化>
スポーツ=「ジェンダーの最後の砦」「セクシズムの温床」 ←スポーツは男性の身体上に構築された文化(サッ カー、ラグビー、オリンピック) スポーツ=筋力が優れている人に有利な結果をもた らすゲーム。 ⇒男性が女性よりも本質的に優れていることを証明す るために利用されてきた。 多くの種目が「男子○○」「女子○○」と分かれていた り、男子だけあるいは女子だけの種目しかないことも本 質的な男女差を前提としていると考えられる。 <ジェンダー最後の砦>
アスリートとスポーツ種目に対するジェンダー・イメージ 調査協力者:2008年度C科「コミュニケーション概論 B」 履修者。有効回答数119。 方 法:授業中に質問紙を一斉に配布・回収した。 結 果:プリント参照 ・男性アスリート=女性アスリート “男性性”が高い人たちとの認知。 ←スポーツ=男性の領域との思い込み? ・自分≠女性アスリート
・ほとんどの種目が“女性向け”ではなく“男性向け”と 判断されている。 ←“スポーツは男性がやるもの”との判断? ・ラグビー、アメフト、ボクシング、野球など、“極めて 男性向け”と判断。 ←女子が参加できない種目により、女性競技人口 が隠されている? ・重量挙げ、レスリング、空手、サッカーなども“男性 向け”と判断。 ←スピード、パワーが必要とされる競技、身体接触 を伴うものは、“女性向けではない”と思われてい る?
・フィギュアスケート、シンクロ、新体操は“極めて女性 向け”と判断。 ←勝敗に“美”“芸術性”が伴うもの=女性が得意と の思い込み? ←容姿が重視されている? ・マラソン、バトミントン、卓球、テニス、ソフトボール、 バレーボール ←日本人女性選手が世界的に活躍しているもの (→“女性がやってもおかしくない”) ・今後はサッカーのサッカーのイメージはどうなるか。
5.マス・メディアに現れるスポーツ とジェンダー・イメージ 5.マス・メディアに現れるスポーツ とジェンダー・イメージ スポーツ観戦は、「身体的興奮」「アイデンティティの高揚」をもたらす(e.g. ワールドカップ、プロ野球)。 ニュース、中継とも男性競技者のスポーツが遥かに多い。 ⇒スポーツ=男性がするもの、男らしさの象徴! したがって、女性競技(者)が登場するときは、①その扱いは小さい、②“女らしさ”からの逸脱に着目(“スカートをはいたことがない”)、③“女らしさ”との一致(“ママの顔”“料理が得意”)が強調される。 ⇒スポーツ界における“ヒロイン”“マドンナ”の創造。 ジョイナー、オグシオ、愛ちゃん、真央ちゃん、etc.
表1 北京オリンピックでの日本人選手・チームの成績 男 性 女 性 合 計 金 4 5 9 銀 2 6 銅 10 入賞 23 29 52 合計 36 41 77
表2 アテネ・オリンピックでの日本人選手・チームの成績 男 性 女 性 合 計 金 7 9 16 銀 5 4 銅 8 12 入賞 19 35 合計 36 72
北京五輪で活躍した日本人女性選手・チームは、 どのように伝えられたか? “女らしさからの逸脱”“女らしさとの一致”の強調 について、考えてみよう。 題材:新聞記事の切り抜きを題材とする。
6.スポーツ・バラエティとジェンダー・イメージ (1)番組視聴 『関口宏東京フレンドパークⅡ』 2010年8月30日(月)放送 ※バラエティ番組を成立させる、対立軸の存在 どんな対立軸が使われているか? (2)女性に手加減するのは当然 身体能力は、男>女。 女性には不利。 やるのは男性、見るのは女性。
(3)女性が男性に勝る場合の解釈 バラエティなので予想外のことも楽しめる。 女性に負かされた男性は、男性そのものではない。 ←着ぐるみを着た男性との対決 ←女性には有利な条件でプレー 普通の女性ではない。 女性に対する男性の身体能力の優位性を再認?
7.スポーツが強化する <ジェンダー神話> (1)身体的能力の男女差 男女別平均:男性>女性 しかし、女性トップアスリートは、ほとんどの男性 (98%)よりもスポーツにおいて優れている! それにもかかわらず、男女別別に競技が行われメ ディアで伝えられる。 <身体的な男性優位>の維持・再生産される。
(2)女性役割の付与 “娘”“妻”“ミセス”“主婦”“ママ”“母親”という枕詞が 女性競技者にはつきもの。 それぞれの女性役割を強調。 北京五輪では、谷亮子の“ママでも金”など。 <新性別役割分業>の強調
(3)男性に守られ導かれる女性像の強化 父が指導者(菅原教子、二柳かおり、三宅弘美、etc. ) 協力的な夫(楢崎教子、ジョイナー, F (3)男性に守られ導かれる女性像の強化 父が指導者(菅原教子、二柳かおり、三宅弘美、etc.) 協力的な夫(楢崎教子、ジョイナー, F.、etc.) 面倒見のよいコーチ(谷本あゆみ、高橋尚子、etc.) 女性は、保護者・庇護者に導かれる 従順で真面目(自立していない女性) ⇒女性自身の強さが割り引かれる <家父長制>の温存・強化
参考文献 羽田野慶子 (2004) <身体的な男性優位>神話はなぜ維 持されるのか―スポーツ実践とジェンダーの再生産― 教育 社会学研究, 75, 105-125. 市村操一・鈴木博 (1996) スポーツ種目の性度に関する研 究 筑波大学体育科学系紀要, 19, 167-171. 飯田貴子 (2003) スポーツ文化の変革を求めるジェンダー 研究 スポーツとジェンダー研究, 1, 2-4. 飯田貴子 (2003) 新聞報道における女性競技者のジェン ダー化 スポーツとジェンダー研究, 1, 5-15. 伊藤公雄 (1999) スポーツとジェンダー 井上俊・亀山佳明 (編) スポーツ文化を学ぶ人のために 世界思想社 Pp. 114-129. 河原和枝 (1999) スポーツ・ヒロインー女性近代スポーツの 100年 井上俊・亀山佳明(編) スポーツ文化を学ぶ人の ために 世界思想社 Pp. 132-149.
森康司 (2002) 大学運動部員のジェンダー観:スポーツ価 値意識との関連を中心に 人間科学共生社会学, 2, 47- 61 森康司 (2002) 大学運動部員のジェンダー観:スポーツ価 値意識との関連を中心に 人間科学共生社会学, 2, 47- 61. 森康司 (2006) スポーツ実践とジェンダー観:大学生調査 から 人間科学共生社会学, 5, 77-88. 來田享子 (2003) オリンピック大会への女性の参加をめぐ るIOC内部の議論とIAAFの擁護 スポーツとジェンダー研 究, 1, 39-53. 斉藤慎一 (2006) テレビニュース番組における性役割描写 とその影響に関する研究 Women’s Studies 研究報告 26. 田中東子 (2003) ジェンダー化された身体とスポーツ マ ス・コミュニケーション研究, 62, 40-57. 谷口雅子 (2007) スポーツする身体とジェンダー 青弓社 山科花恵・入口豊 (2006) サッカー競技とジェンダーに関 する一考察 大阪教育大学紀要, 54(2), 5-23.
最後に 来週から、曽我芳枝先生が担当します。 ご清聴ありがとうございました。