ー政党数に対する制度の影響と戦略的投票行動ー 浜中新吾(山形大学) 首相公選制度下における 二票の行方 ー政党数に対する制度の影響と戦略的投票行動ー 浜中新吾(山形大学)
研究報告の構成 1.選挙の近接性による政党数削減効果 2.イスラエルの首相公選制 3.分裂投票による政党数の増大 4.仮説と分析モデル 5.データの概要と変数の作成 6.ネスティド・ロジットモデルによる分析結果 7.おわりに
1.選挙の近接性による 政党数削減効果 大統領選挙の議会 選挙に及ぼす影響 Lijphart(1999) Jones(1995) Shugart & Carey(1992) デュヴェルジェの法則の拡張 単純相対多数決制の大統領選挙が、議会選挙と同時に行われた時、議会の政党システムは二党制に近づく。 <威光効果>
Gary Coxの議論 Cox(1997)Making Votes Count 大統領選挙と議会選挙の行われるタイミングが同じであれば、大統領選挙の候補者調整の影響を受けて、議会の有効政党数が減少する。 選挙の近接性による政党数削減効果
絶対多数二回投票制の 制度的効果 Fillippov, Ordeshook & Shvetsova(1999) 中東欧諸国とCIS諸国で大統領制を採る事例を分析 大統領選挙が絶対多数二回投票制ならば、多党化が進む (デュベルジェの法則の拡張)
2.イスラエルの首相公選制 有権者は二票を持つ Bogdanor(1993)の見解 ・絶対多数二回投票制(フランスとの類似性) 大統領制での投票行動研究の知見が有用 Bogdanor(1993)の見解 ・絶対多数二回投票制(フランスとの類似性) ・二党制の強化につながる @政府首班の選出が議会での政党選択に影響して政党システムの形成に寄与?
Sartori(1994)の予想と現実 分極化した多党制の国で、威光効果が首相の政党を絶対多数派に押し上げる機会はない→予想は正しかった。 採用された制度→絶対多数二回投票制 首相選挙の候補者は二人に絞られた 選挙の近接性→二つの選挙は同時 @政党削減効果が疑わしい
3.分裂投票による政党数 の増大 首相公選制は失敗だと判断。 ストレート・チケット型投票が見られない。「首相候補への支持」→「首相候補の政党」 スプリット・チケット型投票(分裂投票)が 多く見られる。 「首相候補への支持」→「他の政党を支持」
図1:有効政党数
分裂投票のメカニズム 一般的な政治学理論 自発的分裂投票説-Fiolina(1992) イスラエルの場合 理念差異説-Hazan & Rahat(2000) 戦略的投票行動説 Nachimias & Sened(1999) Bueno de Mesquita(2000)
4.仮説と分析モデル 分裂投票発生の仮説 首相選挙と議会選挙で政策イシューが 異なるため 制度変更によって戦略的投票行動が 失われたため 首相選挙と議会選挙で政策イシューが 異なるため 制度変更によって戦略的投票行動が 失われたため 有権者の人口動態学的な属性が表面化 したため
本研究で検証する仮説 首相選挙では国内の社会的亀裂をあまり反映しない問題が争点となるが、議会選挙では社会的亀裂を反映する問題が争点になる(複合仮説)。 中小政党支持者が次期政権の連立参加を考慮して、大政党に投票する(戦略投票を行う)必要がなくなる。
計量分析モデルの選択 従属変数は複数のカテゴリ型選択肢 (非序列化離散変数) 独立変数が従属変数の属性に依存している(選択肢固有の独立変数) 従属変数は複数のカテゴリ型選択肢 (非序列化離散変数) 独立変数が従属変数の属性に依存している(選択肢固有の独立変数) 「無関係な選択肢からの独立性」が仮定できない ネスティド・ロジットモデルを選択
ネスティド・ロジットモデルで想定される政党選択の構造
ネスティド・ロジット分析で立証すべきこと 基本モデル:政党選好→投票先を決定 戦略的投票行動:政党選好の影響が弱い 首相公選制度下での投票では政党選好の影響が強まる。
5.データの概要と変数の作成 選択肢固有の独立変数(政党選好)は各政党に対する「感情温度計」 Israel Election Studies を使用 従属変数は「投票する政党」 ・労働党、リクード党、左派、右派、中道 選択肢固有の独立変数(政党選好)は各政党に対する「感情温度計」 選択主体固有の独立変数は 「政治イデオロギー軸」と「宗教ー世俗軸」
6.ネスティド・ロジットモデルによる分析結果 1992年選挙における政党選択の構造 1996年選挙における政党選択の構造 1992年および1996年選挙の推定結果 1999年選挙における政党選択の構造 1999年選挙の推定結果 2003年選挙における政党選択の構造 2003年選挙の推定結果
1992年選挙における 政党選択の構造
1996年選挙における 政党選択の構造
1992年・1996年選挙の 推定結果(基準カテゴリは<右派宗教系>) β’ 標準誤差 β’ 標準誤差 政党選好 .2983683701 .029372228 *** .4478387304 .062523656 *** <左派> 2.251640877 1.4727018 -3.140884553 1.4748441 * イデオロギー -2.093028086 .36756214 *** -1.905728258 .38300046 *** 宗教/世俗 1.208049580 .26970741 *** 1.996725685 .39701758 *** <労働党> 3.557774653 1.3318876 ** -.464874867 .81427511 イデオロギー -1.204772847 .30677018 *** -.743315139 .22837690 ** 宗教/世俗 .4800255945 .17611753 ** 1.105524898 .25900131 *** <リクード> .5355137827 .68890582 -2.008877610 .98972797 * イデオロギー -.3358321678 .13436364 * .173536033 .20664236 宗教/世俗 .2730969209 .11459866 * 1.007084991 .16828150 *** Log Likelihood 936 866 調整R2 .52809 .75190
Long(1997)の方法による ロジット係数値のプロット(92年) イデオロギー 左派 労働 リクード右派 +―――+――――+――――+――――+――――+―― -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 宗教/世俗 右派 リクード 労働 左派 0.0 0.25 0.5 0.75 1.0 (92年選挙分析のロジット係数値)
Long(1997)の方法による ロジット係数値のプロット(96年) イデオロギー リクード 左派 労働 右派 +―――+――――+――――+――――+――――+―― -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 宗教/世俗 労働 右派 リクード 左派 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 (96年選挙分析のロジット係数値)
1999年選挙における 政党選択の構造
1999年選挙の推定結果 β’ 標準誤差 ケース数 平均値(標準偏差) 政党選好 .4049744954 .037491083 *** β’ 標準誤差 ケース数 平均値(標準偏差) 政党選好 .4049744954 .037491083 *** <左派> 1.755834034 1.8286300 51 イデオロギー -2.320133585 .4448220 *** 1.275 (.532) 宗教/世俗 1.062925468 .3856352 ** 3.627 (.528) <労働> 4.757479074 1.3940555 *** 242 イデオロギー -1.671192129 .3025186 *** 1.686 (.618) 宗教/世俗 .336019821 .2222380 3.310 (.590) <中道①> .735194732 1.2170273 57 イデオロギー -.755246834 .2525317 ** 2.386 (.881) 宗教/世俗 .681013793 .2059120 *** 3.175 (.601) <中道②> .735194732 1.2170273 22 イデオロギー -1.082950362 .2723297 *** 3.773 (.752) 宗教/世俗 1.133356901 .2972671 *** 3.273 (.935) <リクード> 1.326146199 1.3208775 219 イデオロギー -.590908558 .2610904 * 4.484 (.631) 宗教/世俗 .731430607 .1821159 *** 2.799 (.758) N=678 Log Likelihood –427.9595 調整R2 .64594
Long(1997)の方法による ロジット係数値のプロット(99年) イデオロギー 中道① 左派 労働 中道② リクード 右派 +―――+――――+――――+――――+――――+―― -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 宗教/世俗 リクード 中道② 右派 労働 中道① 左派 0.0 0.25 0.5 0.75 1.0 (99年選挙分析のロジット係数値)
2003年選挙における 政党選択の構造
2003年選挙の推定結果 β’ 標準誤差 ケース数 平均値(標準偏差) 政党選好 .2961510243 .031449337 *** <左派> 3.969043611 1.1281517 *** 95 イデオロギー -1.199783784 .2530224 *** 1.537 (.769) 宗教/世俗 .659210441 .2490476 ** 3.537 (.561) <労働> 3.204760412 1.0461851 ** 146 イデオロギー -.689268602 .1914117 *** 2.075 (.903) 宗教/世俗 .516716805 .1762488 ** 3.370 (.587) <中道> 2.563358107 .7633461 *** 121 イデオロギー -.415232008 .1294373 ** 3.231 (1.039) 宗教/世俗 .646264024 .1508614 *** 3.471 (.646) <リクード> 2.077425921 .68964110 ** 305 イデオロギー -.246254615 .14468283 4.203 (.838) 宗教/世俗 .476882874 .12644264 *** 2.846 (.862) N=853 Log Likelihood –676.4248 調整R2 .52952
Long(1997)の方法による ロジット係数値のプロット(03年) イデオロギー 左派 労働 中道 リクード 右派 +―――+――――+――――+――――+――――+―― -1.0 -0.75 -0.5 -0.25 0.0 宗教/世俗 リクード 中道 右派 労働 左派 0.0 0.25 0.5 0.75 1.0 (2003年選挙分析のロジット係数値)
「政党選好」係数の差 βt1-1 < βt1およびβt2+1<βt2 (t1=1996,t2=1999; t1-1 =1992, t2+1=2003) βt1-1=.2983(.0293) βt1 =.4478(.0625) βt2+1=.2961(.0314) βt2 =.4049(.0374)
7.おわりに 「選挙の近接性による政党数削減効果」はイスラエルでは認められない。 首相公選制度下で「戦略的投票行動」が消失したのではないか(仮説)? 計量分析の結果「政党選好」のウェイトが首相公選制度下において高まっていた。 ー仮説は計量分析によって支持されたー
「選挙の近接性による政党数 削減効果」の考察① 首相直接選挙の方法について考察すること。 絶対多数二回投票制が想定する政党間の候補者調整問題。 理論どおりであれば、政党数削減効果が 作用したはず。 イスラエルの場合、 あまり有益ではない。 3回行われた選挙全てで首相候補は二人に絞られた。 では、「選挙の近接性による政党数削減効果」とは?
「選挙の近接性による政党数 削減効果」の考察② 政党の性質というものを考えるべきでは? 「選挙の近接性による政党数削減効果」は 大統領職をめぐって政党がしばしば組織されるような国・地域の経験に支えられているのではないか、という疑いがある。