地方公共財の理論 公共経済論I no.2.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
第5章第5章第5章第5章 競争的な市場が望ましくない場合. ①公益事業のかかえる問題 市場の失敗 ・問題が競争では解決しない ・競争状態の到達点が望ましい状態と 言えない 費用逓減産業問題 ( 自然独占問題 ) 圧倒的コスト優位のため市場が競 争的にならず、自然と独占状態になる 産業.
Advertisements

公的年金 (3) 公共政策論 II No.9 麻生良文. 公的年金制度改革 公的年金バランスシートと通時的予算制 約 年金純債務と暗黙の租税 年金制度改革をめぐる誤解 – 積立方式の優位性 – 「二重の負担」 – 財源調達:税と社会保険料の最適な配分? – 賦課方式も積立方式も output をどう分配する.
2.一極集中と多極分散. 連携の在り方 都市の発生 分業の発生規模の経済 ・地域特化の経済 ・都市化の経済 集積 大都市の形成.
消費者行動の理論 (3) 貯蓄・労働供給の決定 貯蓄の決定理論 – 2 期間モデル – 割引価値,生涯の予算制約 – 貯蓄の決定 – 利子率の変化 労働供給の決定理論 – 基本モデル – 後方屈曲的労働供給曲線 – コーナー解 – 所得再分配政策.
所得に対する課税 財政学(財政学B) 第 3 回 畑農鋭矢 1. 所得とは? ヘイグ=サイモンズの所得の定義 所得=消費+資産の純増(貯蓄) 所得に含まれるべきもの 自家消費:農家の農産物消費、 専業主婦の家事 帰属家賃:持ち家のサービス(自分への家 賃) キャピタル・ゲイン:資産の値上がり分.
再分配政策 (2) 公共政策論 II No.5 麻生良文. 所得再分配政策 所得格差の原因 所得再分配政策の評価 – 補助金と一括移転 – 累進課税 – 最低賃金制度 – 生活保護給付 – 負の所得税 – 新しい考え方 給付付き税額控除 世代間再分配.
経済の仕組みと経済学. 経済学とは 「経世済民」経済 世の中を治め、民の苦しみを救うこと 人々が幸せに暮らすためのしくみでありその活動 = 経済学とは: 「希少な資源を競合する目的のために, 選択・配分 を考える学問」 2.
陰関数定理と比較静学 モデルの連立方程式体系で表されるとき パラメータが変化したとき 如何に変数が変化するか 至るところに出てくる.
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved.1 所得控除 課税所得=収入-控除 – 控除の例 基礎控除 給与所得控除 配偶者控除、配偶者特別控除 その他.
市場の失敗と政府の役割.
所得に対する課税 財政学(財政学B) 第2回 畑農鋭矢.
公共経済学 24. 地方分権と政府間の役割分担.
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
赤井伸郎 大阪大学大学院国際公共政策研究科 教授
最適間接税.
租税の基礎理論 財政学(財政学B) 第1回 畑農鋭矢.
第16章 総需要に対する 金融・財政政策の影響 1.総需要曲線は三つの理由によって右下がりである 資産効果 利子率効果 為替相場効果
市場の失敗と政府の役割 公共経済論 II no.1 麻生良文.
市場の効率性と政府の介入.
2012年度 九州大学 経済学部 専門科目 環境経済学 2012年10月29日,11月5日 九州大学大学院 経済学研究院 藤田敏之.
私的財と公共財 非排除性と需要の共同性 コモンズの悲劇
土木計画学 第11回(12月21日) 土木計画と説明責任 計画における代替案の作成1 担当:榊原 弘之.
現代の経済学B 橘木俊詔「ライフサイクルの経済学」第3回 第5章 消費と貯蓄 第6章 引退後の生活 京大 経済学研究科 依田高典.
第7章 市場と均衡.
入門B・ミクロ基礎 (第7回) 第4章続き 2014年12月1日 2014/12/01.
再分配政策 公共経済学(財政学A ) 第7回 畑農鋭矢.
3章 なぜ政府が必要なのか 渡辺真世.
短期均衡モデル(3) AD-ASモデル ケインジアン・モデルにおける物価水準の決定 AD曲線 AS曲線 AD-ASモデル
地方公共財とクラブ財.
第12章 外部性.
経済原論IA 第11回 西村「ミクロ経済学入門」 第12章 市場機構の限界 京都大学経済学部 依田高典.
特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ経済学
公共経済学 24. 地方分権と政府間の役割分担.
ミクロ経済学 10 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2015年7月16日
租税の基礎理論 財政学B(財政学) 第2回 畑農鋭矢.
© Yukiko Abe 2008 All rights reserved.
国と地方の役割分担 財政論 I/II No.7 麻生良文.
市場の失敗と政府の役割 経済学A 第8回 畑農鋭矢.
生産要素への需要と生産要素価格: 労働市場・資本市場・土地の市場
財政論I / II introduction 麻生 良文.
公共経済学 24. 地方分権と政府間の役割分担.
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
マクロ経済学初級I 第7回講義.
公共経済学(06,04,28) 公共財1.
貨幣の流通速度 貨幣が平均して1年間にいくつの経済主体 の間を移動するのかを表わす MV=取引総額(年間) Vは流通速度あるいは平均回転率.
市場の失敗と政府の役割 経済学A 第9回 畑農鋭矢.
政府介入 経済学A 第5回 畑農鋭矢.
VI 短期の経済変動.
第8回講義 マクロ経済学初級I .
11 公共財と共有資源.
市場均衡と厚生経済学の基本定理 部分均衡分析での結果 厚生経済学の基本定理 消費者余剰,生産者余剰,社会的余剰 Pareto効率性
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
地方税と補助金 公共経済論I no.3.
6. セカンダリー・マーケットのCBA 10/05/27.
6章 セカンダリー・マーケットのCBA 12/05/24.
6. セカンダリー・マーケットのCBA 政策評価(07,11,14)三井.
公共経済論 I 麻生良文.
8. 顕示選好法1 市場類似法、トラベルコスト法など 仮想評価法 (CVM) Contingent Valuation Methods
© Yukiko Abe 2015 All rights reserved
第3章 CBAのミクロ経済学の基礎.
5章 プライマリー・マーケットにおけるCBA
5. プライマリー・マーケットにおけるCBA
第4章 プライマリー・マーケットにおけるCBA
古典派モデル(1) 基本モデル 生産要素市場の均衡(労働市場,資本市場) 生産関数 消費関数,投資関数 財市場の均衡 政策の効果
6章 セカンダリー・マーケットのCBA 09/05/21.
24. 地方分権と政府間の役割分担.
第8章 外部性と公共財 パレート最適が達成するための条件:
都市・港湾経済学(総) 国民経済計算論(商)
公共経済学 完全競争市場.
経済学入門 ミクロ経済学とマクロ経済学 ケインズ経済学と古典派マクロ経済学 経済学の特徴 経済学の基礎概念 部分均衡分析の応用.
Presentation transcript:

地方公共財の理論 公共経済論I no.2

内容 Tiebout仮説 地方公共財の理論 効率性の条件 ヘンリー・ジョージの定理 地方公共財の規模の経済性と足による投票の失敗

国と地方の役割分担(再掲) Oatesの分権化定理 Tiebout仮説 地域のことは地域に任せた方がよい 地方政府の方が情報上,優位(中央政府に比べて) 地域住民の選好が重視される ただし,適切な住民負担が必要 補助金付け財政錯覚住民は過度のバラマキを選択 Tiebout仮説 地方公共財:「足による投票」で効率的な水準に 各住民の選好を調査する必要は無い 住民の選好に応じた棲み分け Tiebout仮説に対する反論 規模の経済性,移動費用,住民の移動に伴う外部性

Tiebout仮説の前提 政府活動に伴う(他地域への)外部性は存在しない 住民の移動費用は無視できる 住民は各地方政府の公共サービス・地方税の内容をよく知って いる 十分多数の地方政府が存在し,住民は自らの選好を満たす地方 政府を見つけることができる 各地方政府は公共サービスを平均費用(および限界費用)一定 で供給できる 各地方政府は公共サービス供給の財源を比例税で賄う

Tiebout仮説の意義 Tiebout仮説が成立するならば 中央政府の役割はごく限定的 地方分権の推進が望ましい 全国的公共財の供給 地域を越えた外部性への対処 所得再分配 地方分権の推進が望ましい 住民の選好に応じた政策 政策の実験ができる ただし,地方政府の提供するサービスに見合う税負担が必要  中央からの過大な補助金は,住民に財政錯覚を生じさせ, 効率的な資源配分に失敗するから

地方公共財の理論 Tiebout仮説の検討 小国開放経済モデル 人口Nの流出・流入に費用がかからない 生産関数 Y=F(N) Y:その地域の総産出量,N:人口 労働の限界生産物は逓減(土地が一定のため) 私的財Xと公共財Gの限界変形率は1 Y=X+G=xN+G X:私的財の総量,x:一人当たり私的財の消費量 地方政府地方公共財Gの供給 非競合性住民数の増加は一人当たり費用を低下させ る規模の経済性 最適人口N,最適な公共財Gの水準は? 「足による」投票で効率的な資源配分を実現するか

主な結論 Henry George定理 implication 小国モデルでないときは,この定理は修正される 最適な地方公共財の供給量水準は,公共財供給量がその地域の地代収入にちょうど 等しくなるような水準 implication 土地単税論 地方公共財の財源は,地代収入に対する100%の課税で賄うべき 小国モデルでないときは,この定理は修正される しかし,固定資産税(土地分のみ)を地方政府の主要財源にすべきという議論を正 当化(効率性の観点から) 公共財供給の規模の経済性が大きいとき,必ずしもこの水準が実現するわ けではない

モデル 生産 住民(各人)の効用 U(x,G) 効率的な資源配分 : 代表的個人の効用U(x,G)を最大 化するようなG,N, x X + G = xN + G = F(N) : この地域全体の消費機会 X:私的財の総量 G : 公共財 x (= X/N ) 一人当たり私的財消費量 N : 人口   F(N): 総産出量,労働の限界生産物は 正で逓減 上の式を一人当たりに直すと  x+G/N=F(N)/N 住民(各人)の効用 U(x,G) 効率的な資源配分 : 代表的個人の効用U(x,G)を最大 化するようなG,N, x

モデル 続き x,G,N s.t. x+G/N=F(N)/N 問題の定式化 max U(x, G) モデル 続き 問題の定式化 max U(x, G) x,G,N s.t. x+G/N=F(N)/N  Nの変化: 一人当たりの消費可能フロンティアがど う変化するか Nの増加 公共財一人当たりの負担を低下させる 規模の経済性 一方で,Nの増加労働の限界生産物逓減労働者一 人当たりの所得F(N)/Nの低下

NとF(N)/Nの関係 労働の限界生産物は正で,逓減するような生産関数 Y Y2 Y=F(N) Y1 一人当たり所得F(N)/N はNが増加すると減少する N1 N2 N

一人当たりの消費可能フロンティア x+G/N=F(N)/N x F(N)/N Nの増加 1/N G F(N)

効率的な資源配分 s.t. x+G/N=F(N)/N x G G max U(x,G) G N*=∞ N*=0 内点解 u0 CPF u0

効率性の条件 N固定のもとでの条件 max U(x,G) s.t. x+G/N=F(N)/N  UG/Ux=1/N (通常の公共財の最適供給条件) Nを変化させる場合 Gを固定して,xの最大化  max x=[F(N)-G]/N  F’(N)=x 最適人口の条件  左辺=人口増加の限界便益  右辺=人口増加の限界費用(追加的住民に対する私的財供 給の費用;公共財は限界費用0で供給できる)

最適人口の条件 この点でx=X/Nが最大になるF’(N)=x X X=F(N)-G N - G N* N1 x=X/N N N* N1 - G 効率的な資源配分は,G固定のもとで一人当たり私的財消費量を最大にするようなものでなくてはならない

効率的な資源配分の条件 UG/Ux=1/N or N(UG/Ux)=1 公共財と私的財の限界代替率の総和=限界変形率  公共財と私的財の限界代替率の総和=限界変形率    (公共財の限界効用の総和=限界費用) F’(N)=x    最適人口の条件    人口流入の限界便益=限界費用  人口流入に伴う負の外部性(例えば過密)が存在すると,人口流入の限 界費用は私的財の消費(x)に加えて,限界的な外部費用を足したものに修 正される x = X/N = [F(N)-G]/N を最適人口の条件に代入すると G=F(N)-NF’(N)   右辺=総産出量-賃金総額=地代 最適な公共財供給量は,地代総額に等しい  (Henry George Theorem)

Henry George Theorem 地方公共財の最適供給条件 コーナー解が実現するとき,この条件は満たされない 通常の公共財の最適供給条件 公共財供給量=地代総額 土地課税によって公共財の費用を賄うことが望ましい コーナー解が実現するとき,この条件は満たされない 一極集中(公共財供給の規模の経済性が強いため) 一般的には,過度の集中により混雑・過密(負の外部性)が発生 裏には過疎の問題(特に,移住コストの高い高齢者にしわ寄せ) 移動する住民はこのことを考慮しない 足による投票は効率的な資源配分を実現しない場合がある

まとめ 「足による投票」で,住民の地方公共財に対する選好がわかる しかし,「足による投票」が失敗する場合もある 地方公共財の効率的供給へ 異なる種類の地方公共財に対する選好の違いが尊重される(以上のモデルでは考え られていなかったが) 環境 vs. 産業発展 しかし,「足による投票」が失敗する場合もある 十分な地方政府の数は存在しないかもしれない 規模の経済性 一極集中と過疎をもたらす可能性 移動に伴う外部性 移動費用