東京都立大学大学院 理学研究科 物理学専攻 宇宙物理実験研究室 X線観測による銀河団の 質量分布の研究 X-ray Study of Mass Distribution in Clusters of Galaxies 東京都立大学大学院 理学研究科 物理学専攻 宇宙物理実験研究室 早川 彰
講演の内容 研究目的 XMM-Newton衛星について サンプル銀河団の選定 銀河団の重力質量分布 議論 まとめ 再帰法 SSM-Modelを用いたモデルフィット 議論 まとめ それでは、本講演の内容について簡単にまとめます。 まず初めに、本研究の目的と本研究にもちいたXMMについて簡単に説明した後、 どのようにサンプルを選んだかについて述べます。 その後、本研究の核となる重力質量分布の導出方法について説明します。 そして、最後に議論、まとめと続きます。
1. 研究目的 銀河団の質量分布に着目 銀河団には、中心にcD銀河が存在する銀河団(cD銀河団)と 存在ない銀河団(non-cD銀河団)が存在する。 cD銀河はどのようにして作られるのか? 銀河団の性質に、どのような違いがあるか? 銀河団の質量分布に着目 Centaurus銀河団 Klemola44銀河団 500kpc (160万光年) 200kpc (64万光年) cD銀河 本研究の目的について述べます。 (あとは、そのまま。)
2. XMM-Newton衛星 cD銀河周辺の詳細な観測 XMM-Newton衛星 なぜ、XMM-Newton衛星を選んだか? 現在運用中 有効面積[cm2] 空間分解能[秒角] 大有効面積と高空間分解能の両立 XMM-Newton衛星 有効面積 ⇒運用中の衛星の中で最大 空間分解能 ⇒ 15″ 銀河団のスケールは r>10′ なので十分な空間分解能 XMM-Newton衛星が最適。
XMM⇒2-3倍の面積をカバー 3台のCCD検出器 3台のX線望遠鏡 視野: Chandra 16×16分角 Suzaku 18×18分角 MOS 1+2 pn 照射方式 前面 背面 ピクセル サイズ 40mm (1.1″) 150mm (4.1″) 視野 直径 30′ 角分解能 14″ 15″ 分光能 ~70eV ~80eV 有効帯域 0.15-12keV 0.15-15keV 有効面積 922cm2 @1keV 1227cm2 視野: Chandra 16×16分角 Suzaku 18×18分角 XMM⇒2-3倍の面積をカバー
3. サンプルの選定 本研究の目標 cD & non-cD銀河団の質量分布を詳細に調べる。 条件: (特に中心部分) cD & non-cD銀河団の両方のサンプルが必要。 距離が近い銀河団。 球対称性が良くmergingの痕跡がない。 条件: non-cD銀河団は少ない ⇒ 初めに条件に合うnon-cD銀河団を選ぶ ⇒ その後、cD銀河団を選ぶ XMM-Newton衛星の公開データを使用
選択した銀河団 cD 9 + non-cD 11 : 全20天体 cD銀河団 non-cD銀河団
4. 重力質量分布 重力質量分布の導出方法 b-モデル +再帰法 SSM-モデルフィット 導出の流れ 利点 輝度分布(2次元) 密度分布(3次元) 重力質量分布 静水圧平衡 +再帰法 SSM-モデルフィット 重力質量分布(NFW) 密度分布(3次元) 輝度分布(SSM-モデル) 静水圧平衡 NFWモデルと直接比較が可能 モデルによらない質量分布の導出が可能 利点 近年の観測⇒単一β-モデルでは再現が困難 (Suto, Sasaki & Makino 1998) i. 再帰法(←密度分布の導出方法) ii. SSM-モデルによるフィッティング
i. 再帰法 輝度分布がb-モデルで合わない原因 ⇒ b-モデルより中心が急勾配(中心に輝度超過)。 ⇒ 中心を除けばb-モデルで表せる。 密度分布 (2次元) (3次元) 例:A1060 (1)β-モデルフィット b-model ( R=5 - 13′) (2)輝度分布 (3)密度分布 Lx~密度2 βモデルであわない原因 比を考慮したにもかかわらず、実際のデータよりも小さくなっています。 (4)輝度分布 ⇒輝度分布を再現できる3次元密度分布を求めることが可能
積分型重力質量分布:M(<r) (cD銀河団) (non-cD銀河団) b-モデルのみ 観測領域 温度変化は考慮しない ガス分布 ガス分布 b-モデルのみ 観測領域 温度変化は考慮しない ⇒温度変化は2-3割程度⇒密度変化に比べ微小
ii. SSM-モデル SSM-model (Suto, Sasaki & Makino 1998) ⇒NFW的なダークマター分布がつくる2次元輝度分布をモデル化 NFWモデル 表面輝度分布 DM 一般化したNFWモデル a = 1.0 ⇒ NFWモデル a = 1.5 ⇒ Moore et alのモデル aに着目し議論
フィット結果 AWM 4 (cD) Abell 1060 (non-cD) 2.147→1.150 3.909→1.679 a=1.0、1.5のフィットの比較(aは固定) AWM 4 (cD) Abell 1060 (non-cD) 2.147→1.150 3.909→1.679 c2/d.o.f. : z=0.0318 z=0.0114 a = 1.5 a = 1.5 a = 1.0 a = 1.0 特に中心部分で違いが顕著に現れる。 c2/d.o.f. が明らかに改善。
aの見積もり SSM-model : cD or non-cDによらずaは~1.5付近に分布(エラー大は無視)。
質量密度分布(微分型)の比較 (cD) (non-cD) AWM 4 Abell 1060 z=0.0318 再帰法 SSM(α=1.0) 観測領域 観測領域 中心領域は良く一致 外縁部は差大 外縁部まで観測できない為
ここまでのまとめ 再帰法 SSM-モデル 議論では、、 b-モデルでは再現できない中心領域の質量超過を再現 ⇒数値シミュレーションからもとまるNFWモデルと良く一致。 SSM-モデル cD or non-cDの違いによらずa~1.5で良く合う。 ⇒ 重力質量分布は概ねユニバーサル(cD or non-cDによらない) エラーの決まらないものも考慮するとanon-cD<acD ⇒ 何らかの違いはありそう 議論では、、 より詳細にcD or non-cDの違いを検証。 ⇒モデルに依存しない再帰法で求めた重力質量分布。 ⇒直接比較するために半径をr180で規格化。
5. 議論
β-モデルフィット b-モデルのパラメータ(rc、b)を使って評価 90%エラー領域を表示 再帰法の元となる外側の領域のみを持ちてフィットしたβモデルのパラメータを用いて評価する。 中心領域を除く大まかな特徴を知ることができる。 rc : cD (0.11r180)< non-cD (0.15r180) non-cD銀河団よりもcD銀河団ほうが力学的に進化している
質量分布(全域) 0.02r180 積分型重力質量分布:M(<r) 0.02r180 0.1r180 0.1r180 中心質量:cD>non-cD (1.5~2倍程度)
中心領域(r<0.1r180) cD銀河 困難 冷却時間(∝n-1T1/2) 1.5~2倍の質量差 半径 : 20~50kpc ~0.01r180(~10kpc)で2倍弱の重力質量差は〇。 0.1r180(~100kpc)付近まで差を生じるのは困難。 質量 : 困難 cD銀河の質量 輻射冷却の 影響がある 0.1r180 冷却時間(∝n-1T1/2) 0.02r180 0.1r180 各半径ごとの冷却にかかる時間を宇宙年齢でわったものです。 つまり、分布がこの1の線と交わるところがクーリング半径となり、それよりも内側では放射冷却の影響が生じている。 ⇒質量に差が現れる領域は冷却が効いている領域と一致。
cD銀河団 vs non-cD銀河団 cD non-cD rc 0.11r180 < 0.15r180 内側(<0.1r180) b-モデル 0.11r180 < 0.15r180 ⇒cD銀河団はより重力的に進化した状態にある 内側(<0.1r180) (1.5-2倍) McD > Mnon-cD cD銀河ではr=0.1r180まで質量差を作れない ⇒質量差の現れる領域はクーリングの影響がある領域と一致 原因として考えられる2つの理由 この原因として次の2つのような理由が考えられます。 cD銀河団の中心領域では、、 1. 深いポテンシャル構造→ガス密度が高くクーリングが効果的 2. クーリングによるダークマターの中心集中。 重力的に進化の進んだ銀河団にcD銀河が形成される。
6. まとめ 再帰法の開発 中心の質量分布の決定 cD or non-cD銀河団の質量集中の違いを発見 Coolingの重要性を発見 cD銀河の有無に着目し、XMM-Newton衛星で観測された 20個の銀河団の重力質量分布を系統的に研究。 再帰法の開発 ⇒b-モデルから外れた中心の質量集中を再現 中心の質量分布の決定 ⇒cD or non-cDによらずa=1.5 cD or non-cD銀河団の質量集中の違いを発見 ⇒ r<0.1r180の領域でMcD > Mnon-cD (1.5-2倍) Coolingの重要性を発見 ⇒cooling半径と質量差の現れる領域が一致 重力的に進化の進んだ銀河団にcD銀河が形成される。