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○加藤聡史、占部城太郎、 河田雅圭 (東北大院・生命科学) 消費者の栄養塩循環による空間的異質性: 被食者多様性への捕食者の役割 "Spatial heterogeneity induced by Consumer-driven Nutrient Recycling: A new perspective in prey diversity." ○加藤聡史、占部城太郎、 河田雅圭  (東北大院・生命科学)

Abstruct ”Spatial heterogeneity" is important as one of the theories explaining "paradox of the plankton". In this study, we focused attention on Consumer-driven Nutrient Recycling(CNR) as a factor which makes "spatial heterogenity" As a conclusion, we showed that CNR might become the factor to enhance algal diversity. プランクトンのパラドクスについて説明する理論のひとつとして、系の空間的な不均一性が重要であるといわれている。 本研究では系の空間的な不均一性を作る要因として動物プランクトンによるリサイクルに着目した。 結論として、捕食者による栄養塩リサイクルが藻類の多種共存を促す要因となりうることを示した。

“paradox of the plankton” 共存できる種の数は利用資源の数を超えないとされている(Gause,1934; Hutchinson,1961)。 湖の藻類群集では少数の栄養塩類が制限となっているとされているが多種共存が成立しており、この矛盾は“paradox of the plankton”と呼ばれている。 ⇒この矛盾を説明するのは生態学的に重要なテーマのひとつであり続けている。 別の要因が制限となっている(ex:光、気温、etc…) 環境の変動。 捕食者の餌への選好性。 資源が空間的に不均一になっている。

“Spatial heterogenity” is one of the theories  explaining of “paradox of the plankton” 消費者は種ごとに好適な資源要求比が異なり、資源供給比が空間的に不均一なら多種の共存を説明できる。 (Tilman, 1982) ただし、陸上植物のように固定性の高い所では成立するが、水系では固定性が低いため成り立たない。 ・・・捕食者の排泄が水系での資源の空間的な不均一性を作り出すのではないか?

Consumer-driven Nutrient Recycle(CNR) 2種類の資源について、藻類の体内比率と捕食者の利用比率が異なり、動物プランクトンは成長に余剰な資源を排泄する。 捕食者がリサイクルした資源によって、藻類が利用できる系の資源比率が偏る。 均一な系では、動物プランクトンが藻類に栄養塩のリサイクルを行うと藻類の共存は困難になる。(Andersen,1997) algae egestion recycle Predator require

Hypothesis 栄養塩リサイクルの効果が空間的に不均一なら、逆に藻類の多種共存は促進されるのではないか? 捕食者である動物プランクトンの密度には空間的にばらつきがあることが知られている。 捕食者のリサイクルが空間的不均一性を作り出している可能性がある。 これまでは捕食圧の大きさや選択的な捕食などが多様性の要因として考えられてきた。 捕食者による空間の不均一性 リサイクル 効果小 効果大

Model① outline 1Lの体積の格子が10x10で水平に並んだものを空間構造として想定し、多種の藻類が2種類の資源を競争する系を考える。 上記の空間でシミュレーションを行い、藻類の共存種数について以下の条件での比較を行った。 1- 捕食者がリサイクルするときとしないときで、共存種数が変化するか? 2- 空間の不均一性の違いによって、共存種数が変化するか? (1)- 物理的な拡散性の違いによって、共存種数が変化するか? (2)- 捕食者の移動性の違いによって、共存種数が変化するか?

Model ② diffusion and dispersal 仮定 ①均等に拡散 窒素とリンの外部負荷は全ての場所で空間的に均一に供給される。 栄養塩と植物プランクトンは濃度勾配によって拡散する。 (図①) 動物プランクトンは個体ごとにランダムに能動移動する。 (図②) ②ランダムに移動

Model③ 3-trophic level(1) 格子ごとに 【捕食者1種-藻類n種-栄養塩2種類】 の 三段階の栄養構造を仮定した。 R1 Z R2 A1 A2 An …… 動物プランクトンの成長率(g)は以下の式で与えられる。 同化量 制限となる資源の律速効果 =必要な資源がどれだけ得られたか 呼吸量 動物プランクトンの栄養塩排出量(ρR)は以下の式で与えられる。 同化した資源量 成長に消費した資源量

Model③ 3-trophic level(2) 藻類の成長率(μ)は最も制限となっている栄養塩の含有率(QR)によって 律速されると仮定した QRが増加するとμが増加 藻類の資源Rの吸収速度(VR)は栄養塩の含有率(QR)と系の資源濃度(SR)によって変化すると仮定した QRが増加するとVRが減少 系の資源Rの濃度(SR)は以下の式により与えられる。 流入・流出 藻類の吸収 捕食者の排出 拡散

Parameterization trade-off among algal competitive ability algae1 Vmax,1 図① algae2 Vmax,2 下記の形質値以外は全て共通のものを用いた。 藻類の競争能力の違いと考えた形質値にtrade-offを仮定した。 最大栄養塩吸収速度(Vmax)と最小栄養塩含有率(Qmin)  (図①) リンと窒素の最大栄養塩吸収速度(VP,max : VN,max) (図②) Qmin   (Qmin,1< Qmin,2) ⇒(Vmax,1>Vmax,2) 図② VP,max :VN,max Vmax

Result ① “Consumer-driven Nutrient Recycle” (CNR) enhanced algal species diversity. No consumer No recycle 藻類バイオマス Recycle 経過日数 色線種の違いは藻類種の違いを表す。 いずれも初期種数25種、 10×10格子、 900日間、 拡散性と移動性は同じ値を用いた条件のシミュレーション結果。

Result ② “Spatial heterogeneity” enhanced algal species diversity. 均一 不均一 より不均一 いずれも初期種数25種、 10×10格子、 900日間、リサイクルありの条件のシミュレーション結果。

Conclusions and Discussions 空間構造と栄養塩リサイクルがあると藻類の多種共存を促進する。 リサイクルによって格子ごとの資源比率が変わるため、藻類の共存性が格子ごとに異なる。 系の不均一性が高いほど藻類の多種共存が促進する。 格子間の非同期性が高いほど、格子ごとのリサイクルの効果の違いが大きくなる。 捕食者の移動性が高いとき、格子ごとのリサイクルの効果の違いは小さくなる ただし、拡散・移動について現実的な値を考えると、このモデルの仮定のみで多種共存についてを議論するのは難しい。 より短時間・微小スケールで捉えるべき問題であるだろう。

Problems and Developments 濃度勾配による拡散以外の水の動きを考えていない。 対流などの輸送・攪拌が考慮されていない。 ⇒ これらの解決には扱う問題の時間オーダーを改良する必要がある。 ⇒ 攪拌等の効果を考えると共存は促進されるかもしれない。 捕食者の移動傾向を完全ランダムと仮定している。 捕食者の排泄を連続時間で扱っている。 攪乱、移入といった外的要因を考慮していない。 ⇒ これらの仮定を考えると、より現実的なモデルにできるかもしれない。