竜巻状渦を伴う準定常的なスーパーセルの再現に成功

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竜巻状渦を伴う準定常的なスーパーセルの再現に成功 EX1634 (東京大学情報基盤センター推薦課題) 末木健太 (東京大学大学院理学系研究科、現所属:理化学研究所計算科学研究機構) 竜巻を伴う回転積乱雲(スーパーセル)のエントレインメントを調べる理想化数値実験 1. はじめに 2. 実験方法と成果の概要 スーパーセルとは 鉛直軸回りの回転を有する特殊な積乱雲 しばしば強い竜巻を発生させる モデル設定 フリーで公開されている気象モデル CM1 ver. 18.3 を利用した (Bryan and Fritch, 2002; http://www2.mmm.ucar.edu/people/bryan/cm1/ ) 流体部分:完全圧縮非静力方程式系 水の扱い:Morrison et al. (2005, 2009) の方法により、雲水・雨・雲氷・雪・雹の混 合比・数濃度を予報する Subgridの乱流:Deardorff (1980) の方法により、乱流運動エネルギーを予報する スーパーセルの立体構造の模式図 回転する上昇流 格子間隔:Δx = Δy = Δz = 100 m 計算領域:水平 96 km × 96 km;鉛直 25 km (z ≥ 20 km は緩和層) 境界条件:側面は解放境界、上下は自由すべり 時間間隔:Δt = 0.9 s(音波は0.15 s) 典型的な竜巻の発生位置 実験方法 関東地方で多数の竜 巻・スーパーセルが発 生した事例(1990年9 月19日夜)の環境場を 水平一様に与える v (m/s) z (km) z (km) 水平風速 Klemp (1987), Fig. 12 3 km 6 km 1 km エントレインメントとは 積乱雲の上昇流が周囲 (環境場)の空気を取り 込む効果 実態は、雲側面での乱 流によって生じる雲内部 と環境場の空気の混合 温位 水蒸気量 環境場 上昇流 10 km 地表 u (m/s) (K) (g/kg) 地表面付近にスーパーセルの種となる warm bubble を置き、 対流を励起する シミュレーション結果 最大鉛直流速の時間変化 50 m/s 程度の強い上昇流を維持 なぜスーパーセルのエントレインメントを調べるのか Sueki and Niino (2016) は、スーパーセルの エントレインメントを陽に考慮した大気のパラ メータが、竜巻の発生リスクを精度良く評価し うることを示した スーパーセルのエントレインメント率の定量 化は、竜巻の予報精度向上に寄与する可能 性がある 発生したスーパーセルの x–z 断面 (m/s) 雲底下に 竜巻状渦が発生 鉛直渦度 0.3 s−1 以上 カラー:凝結物の混合比(kg/kg) 竜巻状渦を伴う準定常的なスーパーセルの再現に成功 エントレインメント率の見積もり 空気に「色付け」をし、色付けされた空気の分布に基づき推定 x–z 断面 15%/km程度 ほぼ20%/km エントレインメントを考慮したパラメータ ↑上昇流内の空気の色の鉛直変化 実験結果(黒)と、様々なエントレインメント率を仮定した場合の理論値(赤)との比較 実線:鉛直流速 5 m/s スーパーセルの上昇流コアと定義 大気の状態が不安定かどうかを示すパラメータ「CAPE」を、竜巻を発生させた台風の周辺で描いたもの(34個の台風の平均値)。  は竜巻の発生位置。左はエントレインメントを考慮しない場合(エントレインメント率0%/km)、右はエントレインメント率を20%/kmとした場合。 対流圏中層(z ≈ 6 km)まのスーパーセルのエントレインメント率が15–20%/km程度であることが分かった 3. 今後 なぜスパコンの利用が必要か 観測による見積もりが極めて困難 スーパーセルとその環境場をカバーする計 算領域と、雲側面での乱流混合を陽に表現 する解像度とを両立する必要がある 異なる環境場で発生するスーパーセルに対しても同様の実 験を行い、エントレインメント率を各々調べていく(実施中) エントレインメント率の環境場依存性を定量化し、竜巻の発生 ポテンシャルを表す精度の良いパラメータの構築を目指す