フロッピーケース型加速度計を利用した等速円運動の実験

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フロッピーケース型加速度計を利用した等速円運動の実験 京都教育大学付属高校 川村 康文 物理教育 第47巻 2号(1990) 輪講 発表者 2015年4月21日 川村研究室 M3 加賀 裕子

1. 問題と目的 等速円運動の学習(高校物理Ⅱ)で取り上げられている実験 方法 1. 問題と目的 等速円運動の学習(高校物理Ⅱ)で取り上げられている実験 ガラス棒を持ち、「おもり2」にはたらく重力と「おもり1」にはたらく遠心力がつりあうと、円運動をしているおもり1は安定した円運動を行うようになる。 方法 回転半径r、「おもり1」の質量m、「おもり2」の質量M、回転周期Tをおもりの質量や回転半径を変化させて周期測定を行う。

具体的な授業展開 1 講義形式で F=mrω2 を公式として与える。 2 回転半径rと「おもり1」の質量mと「おもり2」の質量M 2 回転半径rと「おもり1」の質量mと「おもり2」の質量M   の値のうちのいくつかを固定して周期測定を行い、 ω=2π/T に代入させ、ほぼこの式通りになっている ことを検証させる。

理由 現行の高校物理Ⅱの教科書では一般的な実験 しかし 以前から評判のよい実験ではなかった。 実験データの精度がよくない(誤差10~20%)   原因:おもりが周回運動を行う際の空気抵抗      ガラス棒と糸との間の摩擦力      回転周期は手加減一つで回転周期の値をある      程度の範囲なら自由に変えることができる。

教科書には周回するおもりの 運動が円錐振子になっても問 題は理論的には問題がないと 数式と図解で説明されている。 実際は等速円運動ではなく、 円錐振子   教科書には周回するおもりの 運動が円錐振子になっても問 題は理論的には問題がないと 数式と図解で説明されている。  大部分の生徒は 「きっとそれでいいんだ」と納得する 一部の生徒は 理論的な説明だけでは納得できない

著者、多くの教育実習生が可能な限り実験方法に忠実に実験測定を行ってもデータはかなりの範囲で振れた。 高校生に行わせる実験としては高い精度のものでなかった。

今回のフロッピーケース型加速度計を用いた 生徒実験の開発 目的 ・生徒にとって理解しやすい等速円運動の実験 ・高校生が自ら関係式を発見するような授業展開の 試行とその文脈に沿ったデータ処理

2. 方法 大阪市立科学館での展示

 フロッピー型加速度計         加速度計を手に持ち、体を中心軸として         円運動をさせる 加速度が大きな値のとき⇒放物面 加速度が比較的小さい間⇒         フロッピーケース型加速度計内の水面が         ほぼ平面であると近似

扇風機のモータ スライダック (30~50Vに減圧) カーテンレール 50 40  30     0    25 35 45         原点0からの距離[㎝] 

スライダックを一定電圧に固定し、モータを定速回転 6枚のフロッピーケース型加速度計を等速円運動 回転周期Tを一定に固定できる

実験方法 1 固定された回転周期Tを測定する。 2 フロッピーケース型加速度計内の水面の傾きをビデオカメラで撮影する。 2 フロッピーケース型加速度計内の水面の傾きをビデオカメラで撮影する。 3 映像をMPEGソフトを利用して動画としてコンピューターに取り込む。 4 カメラの正面にきた瞬間をキャプチャーし、プリンタ出力する。 5 出力された図からフロッピーケース型加速度計の水面の傾きθを   分度器を用いて読む。 6 a=g tanθ からそれぞれの距離での加速度aを求める。

実施の授業展開に沿ったデータ処理の手順 表1のように加速度a、周期T、回転半径rの3変数が得られた場合、高校生にはどれか1変数を固定し、残りの2変数についてグラフ化する方が行いやすい。 例 周期Tを図1に示すように固定して、加速度aと回転半径rとの関係をグラフ化する作業をさせる(図1)。 図1

⇒得られた勾配a/rと周期Tの関係をグラフ化させる(図2)。 図1より、加速度aと回転半径rとの関係式 ⇒ほぼ原点を通る1次式 ⇒それぞれの周期Tにおける   グラフの勾配a/rをよみとらせる   (表2)。 ⇒得られた勾配a/rと周期Tの関係をグラフ化させる(図2)。 図2

⇒「a/rとTとは反比例の関係であるという誤った考え は生徒の実体験により棄却。 ⇒あらためてa/rとTとの間にどのような関係があるか 図2                    生徒の多くはa/rとTとは反比例の関係で                    あると予想する                     ⇒ a/r-1/Tグラフを描かせてみる                   a/rとTが反比例の関係の場合、a/r-1/Tグラフが               原点を通る一次関数になることは既習事項                  ⇒ a/r-1/Tグラフが原点を通る一次関数にならない。 ⇒「a/rとTとは反比例の関係であるという誤った考え   は生徒の実体験により棄却。 ⇒あらためてa/rとTとの間にどのような関係があるか   を生徒達に考えさせる。  

「a/rとT2が反比例しているのではないか」 「a/rとTnが反比例しているのではないか」 ⇒生徒自身の手によって,a/r-1/T2グラフ 生徒の考え 「a/rとT2が反比例しているのではないか」 「a/rとTnが反比例しているのではないか」 ⇒生徒自身の手によって,a/r-1/T2グラフ  が作成  a/rと1/T2の間の関係式も作成 図3

3. 結果 図3より、 a/r-1/T^2グラフの勾配Kは、 K=39.99 3. 結果 図3より、  a/r-1/T^2グラフの勾配Kは、 K=39.99 これより、原点からのずれを誤差として、  a=39.99*(1/T^2)*r              ω=2π/Tなので,    a=1.01rω2    1%の誤差で向心加速度を求めることができたことを意味する。 この後の授業展開(多くの教科書に記述されている )      向心力Fは運動の第2法則により、 F=ma=mrω2    今回の実験により得られた向心力Fは、 F=1.01mrω2     1%の誤差で向心力を求められたことになる。

4. 考察 ・簡単な実験装置で,最終の実験式の誤差が1%で求まった ⇒学習効果を高めることができる生徒実験の教材 4. 考察 ・簡単な実験装置で,最終の実験式の誤差が1%で求まった   ⇒学習効果を高めることができる生徒実験の教材 ・生徒実験の際、各実験班ごとに実験をさせることが可能  (実験器の製作が比較的簡単) ・実験器具の製作は高校生でも十分可能   ⇒現行の物理Ⅱの課題研究のテーマとして、実験器具の    作成から研究課題として与えられる。 ・簡単な実験器によって精度高く実験結果が求められる実験なので、生徒にとって「やりがい」が感じられ,生徒に受け入れられる実験の一つになる可能性がある。

引用文献 1)山口浩人・坂田正司・唐木宏 「等速円運動の受容状況と生徒実験の工夫」 物理教育Vol. 46、No. 2、1998、 pp 引用文献 1)山口浩人・坂田正司・唐木宏 「等速円運動の受容状況と生徒実験の工夫」 物理教育Vol.46、No.2、1998、 pp.61-64 2)川村康文「遠心力再考」京都理化学協会会誌、1986年度版、pp.3-40 3)川村康文「フロッピーケース型加速度計」 近畿の物理教育第3号、1997、pp.25-28 4)川村康文「実験で知ろう!おもしろ科学(31)加速度をを計ってみよう」 L5(1998年10月号)、日本宇宙少年団、1998、p12