潮流によって形成される海底境界層の不安定とその混合効果 夏の学校 2004.08.08 坂本圭 (京都大学海洋物理学研究室)
1 はじめに(1) エクマン流の不安定 海底エクマン流は、レイノルズ数(UL/ν)がある臨界値を超えると不安定となる。 内部定常流 1 はじめに(1) エクマン流の不安定 Faller and Kaylor 1966から 海底エクマン流は、レイノルズ数(UL/ν)がある臨界値を超えると不安定となる。 (U、L、νには内部流速、エクマン層の厚さ、鉛直粘性係数が用いられる) 内部定常流 エクマン螺旋 不安定であれば、内部流に対してほぼ直交する平面(x,z平面)に構造を持つ擾乱波動が成長する。海底からエクマン層の厚さの数倍程度に中心を持つ循環セル(u’,w’)と、海底付近のv’の擾乱が形成される。
1 はじめに(2) 2つのエネルギー源 エクマン層流速鉛直構造 変曲点(タイプI)不安定 Uから直接u’へ擾乱エネルギー z U V 1 はじめに(2) 2つのエネルギー源 Kaylor and Faller 1972 エクマン層流速鉛直構造 変曲点(タイプI)不安定 Uから直接u’へ擾乱エネルギー z U V タイプII不安定 V(内部流方向)のシアーからv’へエネルギーが供給され、その後コリオリ力によってu’へ 2つのタイプで成長率、波長が異なる。低レイノルズ数(内部流速が小さい)ではタイプII、高レイノルズ数では変曲点不安定が起こりやすい。
1 はじめに(3) 潮流の海底境界層 内部流が三角関数で表せるとする(潮流楕円)。 1 はじめに(3) 潮流の海底境界層 内部流が三角関数で表せるとする(潮流楕円)。 反時計回りと時計回りの回転流の和で書ける(Davies 1985)。 反時計回りの回転流の粘性境界層内の流速は以下となる (Fang and Ichiye 1983)。 エクマン層と相似分布 鉛直スケールは異なる 潮流周期と慣性周期が近くなれば、シアーが海底から高くまで存在する。
1 はじめに(4) 目的 研究のテーマ: 潮流によって形成される海底境界層はエクマン層と相似な構造を持ち、不安定を起こすと考えられる。 1 はじめに(4) 目的 研究のテーマ: 潮流によって形成される海底境界層はエクマン層と相似な構造を持ち、不安定を起こすと考えられる。 1.どのような力学によって起こるか? 2.実際の海洋陸棚上においてどの程度の混合効果があるか? まずは鉛直2次元実験を行った。 報告の内容: 2章 数値モデル 3章 密度一様実験 3.1 実験ケース一覧 3.2 潮流周期 > 慣性周期 (エクマン層変曲点不安定) 3.3 潮流周期 < 慣性周期 (ストークス層変曲点不安定) 3.4 潮流周期 ~ 慣性周期 (エクマン層タイプII不安定) 4章 極と中緯度の海域における混合効果
2 モデル領域 14km×500mの矩形海。 鉛直2次元、非圧縮、ブシネスク近似、リジッド・リッド条件。
2 支配方程式系 運動方程式 連続の式 移流拡散方程式 鉛直2次元、非圧縮、ブシネスク近似、リジッド・リッド条件。 数値計算には渦度ζと流線関数ψを用いる。 渦粘性・拡散係数 ν =50cm2/s,κ=5cm2/s 重力加速度g=980cm/s2 標準密度ρ0=1.027g/cm3
2 境界条件、初期条件 海面リジッド・リッド条件。 海底で粘着条件、それ以外は非粘着条件。 フラックスなし。 U0(t)=-Utidecos( 2π×t / Ttide ) 初期条件 3章:密度一様、静止状態 4章:線形成層、静止状態 成層以外の実験の制御パラメータは、 1:慣性周期Ti (コリオリ・パラメータf= 2π/ Ti ) 2:潮流周期Ttide (振動数σ= 2π/ Ttide ) 3:左右境界で与える振動流の強さUtide コリオリ力によって、内部流はx方向振幅Utide、 y方向Utide×(Ttide / Ti) (Vtideと表記) の潮流楕円を描く。
3.1 密度一様実験 1. Ttide > Ti Vtideが35cm/s以上で変曲点不安定 拡大図 Ttide=12h 潮流楕円 (cm/s) Ttide=12h 40日までの実験結果 ×層流 □周期流 ◇乱流 3. Ttide ~ Ti タイプII不安定 ずっと小さい潮流で不安定化 Ti=6h 12h 1. Ttide < Ti Utideが50cm/s以上でストークス層不安定 24h ∞(ストークス層) Ttide=24h Ti=12h 24h 内部流y方向振幅 Vtide 48h (cm/s) 内部流x方向振幅 Utide
3.2 Ttide > Ti エクマン層不安定 擾乱場(流線関数) 基本流 U(z,t) 定常エクマン流とほぼ同じ擾乱構造 U V 等値線間隔:200cm/s 基本流 U(z,t) (m) (m) 定常エクマン流とほぼ同じ擾乱構造 U V 海底 等値線間隔:10cm/s (m) 海底 (cm/s) Ttide =12h Ti =6.3h Utide =30cm/s Vtide =60cm/s 定常エクマン流 Ti =12.5h V=13cm/s 海底 定常エクマン流
3.2 Ttide > Ti 擾乱運動エネルギー(EKE)方程式 変曲点不安定 Uのシアーからu’へ 擾乱位置エネルギーへの変換(密度一様では0) タイプII不安定 コリオリ力によるv’からu’への変換 粘性 再分配 y方向EKE Vのシアーからv’へ コリオリ力によるu’からv’への変換 粘性 再分配 潮流海底境界層の不安定で発達する擾乱は本来3次元構造を持つが、本実験では(x,z)平面内で循環セルが発達すると制限しているので、この議論が可能。
3.2 Ttide > Ti EKE方程式の見積もり 成長期24時間平均 最大値の1/4 最大値の1/4 (m) (m) 定常エクマン流 Ttide =12h Ti =6.3h Utide =30cm/s Vtide =60cm/s 再分配 粘性 海底 海底 (cm2/s3) (cm2/s3) 定常エクマン流と同様に変曲点不安定 反転時のUの変曲点付近からエネルギー供給 鉛直範囲は定常エクマン流とほとんど変わらず(海底から約25mまで)。
3.3 Ttide < Ti ストークス層不安定 擾乱場 ほぼ同じ擾乱構造 (m) 3日4時0分 等値線間隔: 2cm/s 3日4時0分 等値線間隔: 20cm/s 基本流U (m) 最大値の1/4 最大値の1/4 (m) 海底 Ttide =12h Ti =25h Utide =60cm/s Vtide =30cm/s ストークス層(f=0) Ttide =12h Utide =60cm/s Vtide =0cm/s 粘性 (cm2/s3) ストークス層と同様に変曲点不安定 反転時のUの変曲点付近からエネルギー供給(エクマン変曲点不安定と同じ) 範囲は海底から約50mまで
3.4 Ttide ~ Ti エクマン層タイプII不安定 基本流U (m) 擾乱場 (m) 海面 13日0時0分 等値線間隔: 100cm/s シアー (km) 海底 海底から130mまでの擾乱 海底 (cm/s) Ttide =12h Ti =12.5h Utide =5cm/s Vtide =5cm/s Ttide~Tiなので海底境界層の厚さは厚くなる(Htide=45m)。
3.4 Ttide ~ Ti エクマン層タイプII不安定 Ttide =12h Ti =12.5h Utide =5cm/s Vtide =5cm/s 基本流U 基本流V (m) EKE解析(成長期24時間平均) 最大値の1/4 (m) 再分配 粘性 海底 海底 (cm2/s3) (cm/s) 不安定はタイプII Vのシアー(潮流ベクトルがy方向時)がエネルギー源 (x,z)2次元実験なので、Uの同じシアーからはEKE供給なし EKE供給は海底から100mまでの範囲
4 極と中緯度海域における混合効果 南緯74°、成層弱 海底から160mまで一様化 南緯41° 、成層弱 南緯41°、成層強 南緯74°、成層なし 不安定による見かけの拡散係数の評価 トレーサー濃度鉛直分布(40日目水平平均) 初期分布:海底から25mまで1.0、それより上で0.0
5 まとめと課題 密度一様実験:3つの場合に区分 1.慣性周期 < 潮流周期:Vtide >35cm/sでエクマン層変曲点不安定 2.慣性周期 > 潮流周期: Utide >50cm/sでストークス層変曲点不安定 海底から50m。1.と同様に平均流プロファイルの変曲点の高さに依存する。 3.慣性周期~潮流周期:潮流が弱くても(5cm/s)発生、タイプIIの不安定 海底から100m。海底境界層が厚くなり、シアーが上方へ伸びる。 成層実験: 極域の慣性周期と成層で行った実験では、不安定によって見かけの拡散係数が212cm2/sにもなる混合が起こり、40日間の実験で海底から160mまでほぼ一様化された。中緯度の実験では不安定は弱く、見かけの拡散係数は2.1cm2/s程度であった。 課題: 1. Ttide ~ TiではなぜタイプIIの不安定が起こりやすくなるのか 2.不安定に対する成層の効果 3.3次元実験 擾乱はそもそも3次元構造を持つはずである。 潮流楕円に関する制限を外す。
1 はじめに(1) 斜面沈降流
1 はじめに(2) 不安定の構造 u 循環セルパターン(v,w タイプI) 空間スケールはエクマン層の厚さで規格化 1 はじめに(2) 不安定の構造 Kaylor and Faller 1972 u 循環セルパターン(v,w タイプI) 空間スケールはエクマン層の厚さで規格化
1 はじめに(3) 擾乱エネルギー タイプI Uからuへ Vからvへ K:v,wの擾乱エネルギー タイプII P:擾乱の位置エネルギー 1 はじめに(3) 擾乱エネルギー Kaylor and Faller 1972 タイプII タイプI Uからuへ Vからvへ K:v,wの擾乱エネルギー P:擾乱の位置エネルギー E:uの擾乱エネルギー uからvへ 粘性 粘性 拡散 値はE+K+Pで規格化
4.1 準定常流 基本場 m U V 海底から15mに変曲点 cm/s 図5 UとVのプロファイル、鉛直勾配のプロファイル
4.1 擾乱場 図6 擾乱場の流線関数とv:Kaylor and Faller(1972)との比較 fの符号が異なる点に注意 海底エクマン層の上端付近で鉛直流が強い
4.1 擾乱場へのエネルギー タイプI タイプII 等値線間隔5.0×10-5cm2/s3 100m Uからu 0m Vからv 等値線間隔5.0×10-6 vからuへ 10日 11日
4.1 混合効果 実線:f=-1.4×10-5 点線:f=-9.3×10-5 破線:f=-3.5×10-5 海底エクマン層の上端付近で混合が強い
4.2 擾乱場 Utide =5cm/sのケースは不安定だった。 左図:擾乱の流線関数とv。水平波長は約230m。
4.2 擾乱場へのエネルギー 等値線間隔1.0×10-6cm2/s3 Uからu V U タイプII y方向に構造が持てないのでエネルギー供給は小さい Vからv タイプII の時刻 の時刻 6時 12時 18時 V U vからuへ
4.2 擾乱場へのエネルギー