ハザードマップの理解に対する ドリルマップ提示の効果 村越真・小山真人 (静岡大学教育学部)
研究の経過 ハザードマップの地図表現は一般利用者にとって、適切に理解されているか? これまでの研究より 不確定・集約的表現が十分に理解されていない 地図の特性が生かされていない 実際の活用には情報が不十分との指摘 ハザードマップの表現特性を一般利用者にも理解してもらうためには?
ドリルマップ提示の効果(1) 富士宮市の中学生113名と静岡大学の大学生33名を被験者とし、基本的には二人を1グループとして、グループでの課題解決形式によって行われた。 課題:緊急火山情報が気象庁から発令されたという想定で、その時とるべき行動をハザードマップを見ながら25分で作成。 実験群vs統制群パラダイム 実験群にドリルマップの提示・説明、いくつかの読みとりのヒントを与える
ドリルマップ提示の効果(1) 実験条件で、ゾーニングへの配慮が増え(統制群3/34組が配慮:実験群15/37組で配慮) 、総合評価は実験群のほうがよかった(下表)。 教示は課題解決には有効であったが、理解が難しい印象を与えた(特に中学生)。課題解決中の様子としても担当教員からも指摘されている。 効果はみられたが、著しい効果とはいえない。 ハザードの特性についての質問について大中学生と実験・統制群で交互作用があった。対象者の属性への配慮が必要 条件 N 平均ランク 順位和 U値 現象別 統制群 34 34.25 1164.5 569.5 ns 記述数 実験群 37 37.61 1391.5 季節・川 33 1122 527 流路言及 38.76 1434 総合評価 29.69 1009.5 414.5 p<.01 41.8 1546.5
ドリルマップ提示の効果(2) ドリルマップの提示がハザードマップ表現(多様な場合を集約した表現)の理解を促進しているかを検証する。 仮説:ハザードマップ表現の理解が進めば、異なる火口想定において、同一地点の緊急度の評価が異なってくるはず。
方法 被験者: 手順: 国立大学学生47名中42名(男性16名、女性26名)を、実験群と統制群にランダムに割り当て 対照として、火山防災を専門とする研究者10名。 手順: ハザードマップの簡単な説明 噴火時に危険なハザード3つの解答 ハザードの紹介(図版) ハザードマップの凡例の説明 実験群へのドリルマップの提示 実験課題
ドリルマップの提示 実験群への教示 3つの火口想定による溶岩流下の様子を示したドリルマップを提示しながら、以下の文章を読み上げた。 「この地図はハザードマップを作る時の参考にしたドリルマップと呼ばれるものです。コンピュータのシミュレーションによって、溶岩がどのように流れるかを計算して地図にしたものです。図のように、火口のできる位置によって、溶岩の流れ方は異なります。実際のハザードマップは、様々な場合を想定したシミュレーション結果をまとめて作られたものなので、示された範囲すべてが同時に危険になることはありません。また溶岩以外のハザードについても、火口のできる場所によってその影響を受ける範囲は異なってきます。」
提示したドリルマップ
課題 以下の3想定それぞれについて、地図上に示したAからF地点それぞれに住んでいると想定した時の緊急度を、以下の目盛り上に示す。 想定1: 「臨時火山情報が発表され、富士山に火山活動の兆候があることが発表されました。」 想定2: 「緊急火山情報が発表され、地図の×1印のところに火口ができて、噴火が始まった模様であるという発表がありました。」 想定3: 想定2と同様の状況だが、火口が別の位置(×2)にできたことを想定
表3:質問紙の評定 統制群 実験群 平均値 SD 平均 t どうしたらいいか分かった 2.77 0.61 3.10 0.79 -1.51 ns HM難しい 3.43 1.12 3.20 1.01 0.69 確認問題 4.35 1.18 4.90 1.37 -1.36 ハザード指摘数(前) 0.18 0.08 0.15 0.09 ハザード指摘数(後) 0.64 0.14 0.55 火山があるのは不安(前) 2.36 1.22 2.55 0.94 火山があるのは不安(後) 2.73
3群の中央値の比較
想定0(臨時火山情報発令時) 実験群・統制群ともに専門家より緊急度を高く評価しているが、3群とも相対的な傾向については大きな差が見られず、有意な差があったのも、cのみに限られていた。いずれの群もcやfといった「火口ができる可能性がある」とされたエリアの緊急度を比較的高く評価し、周辺領域ほど緊急度を低く評価 想定1/2 統制群では、想定1と2(緊急火山情報)のいずれでもabcdの4地点の緊急度が高まる一方、専門家の想定1dを除くと、実験群・専門家とも、緊急度が高まっているのは、想定2のabdのみ。 実験群と専門家の間で評定が有意に異なったのは1地点であったのに対して、統制群と専門家の間では想定1においてbcdf4地点の評定4地点で評定が有意に異なっていた。
理由付け c地点 統制群(想定1) もっとも危険な「火口ができるかもしれない範囲」に入っていることだけを手がかりにした理由づけが多かった 実験群(想定1) 「迷ったんですが、すぐ避難が必要な、でも、状況を見てからのほうが良いと思ったので。ここが火口だとした時に、流れる方向はDの方には向いてこないと思った。」「火口と反対方向なので、来ることはないかなと。そんなに急がなくて良い。もし違うところに火口ができて危なくなったら逃げれるように、荷物はまとめておく。」 といった、火口の位置を意識した解答が見られた。
結論 依然、火口からの距離に単純に依存した解答はみられるが、ドリルマップの提示(2分間)と説明により、火口との関係によりリスクが異なるというハザードマップ表現への理解が深まった。 一般市民は専門家より、緊急火山情報時の緊急性を過大に評価している。 特に統制群ではその傾向が強い。適切な行動のためにはハザードマップの理解が有効。