北海道大学 理学部 地球科学科 惑星物理学研究室 B4 近藤 奨

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北海道大学 理学部 地球科学科 惑星物理学研究室 B4 近藤 奨 熱圏大気と電離圏プラズマの 相互作用 北海道大学 理学部 地球科学科 惑星物理学研究室 B4 近藤 奨

はじめに 中性大気がプラズマに作用し,電離圏の構造を変化させるという過程が主に考えられている. Liu et al.,[2005] により中性大気密度がプラズマの影響を受け分布異常を引き起こすという,新たな相互作用が示唆された. Liu et al.,[2005] が示唆した相互作用を理解するとともに,過去に熱圏電離圏領域のパラメータを観測したDE-2 衛星のデータを解析することで中性大気とプラズマの相互作用の様子を探る.

電離圏熱圏領域 高度約80 km より高い領域を表す. 中性粒子とプラズマが両方存在. プラズマ密度が最大となる高度で,プラズマ密度は中性粒子密度の のオーダ. 中性粒子とプラズマの数密度の鉛直密度構造 [C. Y. Johnson (1969)]

衛星による熱圏電離圏の観測 CHAMP 衛星 DE-2 衛星 2000 年 7 月15 日打ち上げ 高度400 km 付近を円形の極軌道で周回 高性能な加速度計により中性大気の質量密度と中性風の測定が可能になった DE-2 衛星 1981 年8 月 – 1983 年 2 月まで      観測を行った 高度約310 km – 1020 km を楕円形の 極軌道で周回 中性粒子,プラズマの様々な データを観測 上の図: CHAMP 衛星の写真 http://op.gfz-potsdam.de/champ/main_CHAMP.html 下の図: DE-2 衛星の写真(上部.下部はDE-1 衛星) http://gbailey.staff.shef.ac.uk/researchoverview.html

CHAMP 衛星による中性大気密度の測定 ~Liu et al., [2005] 磁気赤道を中心に対称な分布. 昼間では磁気緯度 と で密度の極大を取り磁気赤道で極小となる. 密度は磁気活動度に伴い増加するが,基本的な構造は変わらない. 中性の大気が磁場の影響を受けたかのような分布をしている!! CHAMP 衛星から推測された中性大気密度[Liu et al., 2005]

電子密度と中性大気密度の 分布の比較~Liu et al., [2005] 磁気赤道で密度の極小を取り,磁気緯度±15°で極大をとる 電子密度の極大となる位置は中性大気密度のそれより低緯度側 中性大気密度の分布異常は電子密度の分布と関係があると考えられる 上の図:CHAMP 衛星が測定した電子密度[Liu et al., 2005] 下の図: 14 MLT, 15 MLT における中性大気密度 (CHAMP, MSIS90 モデル),電子密度の緯度変化.[Liu et al., 2005]

熱圏電離圏結合 中性大気密度の分布異常のメカニズムは現在も解明されていない 電子は昼間に高度400 km 付近で磁気緯度 と 付近で密度の極大を取る.電子はさらに磁力線に沿って下がり,下部熱圏(~150-200 km) の磁気緯度±20°付近で光化学反応による加熱が発生.中性大気が加熱,中性大気密度が上昇するという過程を示唆.(Fuller-Rowell et al, 1997) 中性大気密度の分布異常のメカニズムは現在も解明されていない

DE-2 衛星による 中性粒子・プラズマデータ解析 1981 年 8 月 6 日– 1983 年 2 月 16 日 までのデータを使用. 解析したパラメータ 高度 200 km – 600 km の範囲で解析 データを磁気緯度と磁気地方時 (MLT) で MLT に,磁気緯度と磁気経度を に分けその領域ごとに (データの総和) / (データ数) で平均を取り表示. 東西方向の中性風 中性大気の数密度 中性大気温度 電子温度 イオン温度 プラズマの数密度 東西・南北・鉛直方向のプラズマドリフト

東西風分布の比較 どちらの図も磁気赤道を中心に対称的な分布 値は少し異なるが基本的な構造は同じ (m/s) どちらの図も磁気赤道を中心に対称的な分布 値は少し異なるが基本的な構造は同じ すべての時間において,東西風が磁場の影響を受けたような分布をしている (m/s) 上の図: DE-2 衛星で測定した東西風 下の図: CHAMP 衛星で測定した東西風 [Liu et al., (投稿中)] MLT

18 MLT – 24 MLT における 東西風分布の比較 DE-2 衛星は質量分析計から,CHAMP 衛星は加速度計から中性風を測定. (m/s) DE-2 衛星は質量分析計から,CHAMP 衛星は加速度計から中性風を測定. DE-2 衛星,CHAMP 衛星それぞれから測定された東西風は非常に似た分布を示す. (m/s) 上の図,下の図の黒線は磁気赤道を表す.地理座標で表示. 上の図: DE-2 衛星で測定した東西風 下の図: CHAMP 衛星で測定した東西風分布 [Liu et al., (投稿中)]

DE-2 衛星によるプラズマドリフト 東西ドリフトの分布は東西風の分布と似ている 東向きのドリフトとなる時間は東向きの風が吹く時間とほぼ一致 (m/s) 右上: 東西ドリフト (m/s) 右下: 南北ドリフト (m/s) 左下: 鉛直ドリフト (m/s) (m/s) (m/s)

DE-2 衛星による プラズマ密度,中性粒子密度 プラズマ密度の分布は東西風の分布と類似している 08 MLT – 01 MLT まで密度の高まりがみられる DE-2 衛星による中性大気密度はCHAMP 衛星で測定された密度の特徴は見えない. 左下: プラズマの数密度 (log10) 右下: 中性大気の数密度 (log10) (cm ) (cm )

DE-2 衛星による イオン・電子・中性粒子温度 (K) どの図も似たような構造 電子温度は温度変化が大きい 低緯度に比べ高緯度側の方が高温 右上: 電子温度 (K) 右下: 中性大気温度 (K) 左下: イオン温度 (K) (K) (K)

解析結果 東西風はすべての時間において磁気赤道に沿った分布となることが発見された. 東西風の分布はプラズマの密度と東西方向のプラズマドリフトの分布とよく似ている. Liu et al, [2005] で見られる中性大気密度の赤道異常はDE-2 衛星の中性大気の密度と温度の結果からは得られなかった.

考察 中性大気密度の分布の違いについて 東西風が磁気赤道に沿った分布となることについて 中性大気とプラズマの間で運動量の輸送がある CHAMP 衛星は高度390-460 km を加速度計で,DE-2 衛星は高度350-450 km を質量分析計から密度を測定 それぞれの衛星の観測期間中のF10.7 の平均値はほぼ同じ180 機器の精度はCHAMP 衛星の加速度計: kgm ,DE-2 衛星の質量分析計: 測定値の20% 解析方法・観測機器による原因とは考えにくい. 赤道異常の発生頻度,下部熱圏で発生するエネルギーによって周囲の大気がどれほど加熱されるかを調査する必要がある 東西風が磁気赤道に沿った分布となることについて 中性大気とプラズマの間で運動量の輸送がある

参考文献 Asgeir Brekke, 1997, PHYSICS OF THE UPPER POLOR ATMOSPHERE, WILEY H. Liu, H. Luhr, W. Kohler, 2005, Global distribution of the total mass density derived from CHAMP, J. Geophys. Res., 110, A04301, doi:10.1029/2006JA010741 H. Liu, H. Luhr, S .Watanabe, W. Kohler, 2007, Strong Magnetic Control of the Thermosphere under both Quiet and Distarbed Condition, in International Symposium on Coupling Process in the Equatorial Atmosphere H. Liu, H. Luhr, W. Kohler, S. Watanabe, V, Henize, P. Visser, 2006, Zonal wind in the equatorial upper thermosphere: Decomposing the solor flux, geomagnetic activity, and seasonal dependence, J. Geophys. Res., 111, A07307, doi:10. 1029/2005JA011415 H. Liu, S. Watanabe, T. Kondo, Fast Wind Jet At The Dip Equator, Geophys. Res. Lett, (投稿中) R. Raghavarao, L. E. Wharton, N. W. Spencer, H. G Mayr and L. H. Brace, 1991, An Equatorial Temparature and Wind Anomaly (ETWA), Geophys. Res. Lett, Vol.18,No.7, 1193-1196 T. J. Fuller-Rowell, M. V. Codrescu, B. G. Fejer, W. Borer, F. Marcos and D.N. Anderson, 1997, Dynamics of the low latitude thermosphere: quiet and disturbed condition, J. Atmos. Terr, Vol.59, No.13,1533-1540

今後の課題 2 つの衛星で測定した中性大気密度の特徴の違いについて考察する. 特定の時間おける緯度変化,緯度における時間変化などをパラメータ間で比較.東西風の分布のメカニズムを考察する.