比較政治学における パレスチナ研究 ~交渉ゲーム理論を中心に~ イスラーム地域研究「中東政治の構造変容」 パレスチナ研究班 浜中新吾(山形大学)
Thick Descriptionから離れて 一般性、比較可能性へのこだわり 共通の方法論へのこだわり 制度への着目 制度がアクターの行動をどのように規定しているのかに関心を払う 「中東はわからない」「パレスチナはパレスチナだから」と言わせないために
分析の道具 計量アプローチ 社会調査データの統計分析 アグリゲートデータの統計分析 数理アプローチ ゲーム理論 フォーマル・セオリー
『パレスチナの政治文化』 比較政治文化論に位置づけられる 政治制度、市民社会、統治の正統性に対する意識を扱った Almond and Verba(1963) Civic Cultureの流れを組む 政治制度、市民社会、統治の正統性に対する意識を扱った 社会調査データを用いた仮説検証型の研究
トピックス:政治制度 半大統領制という制度 統治、リーダーシップの効率性 しばしば生じる「大統領」と首相の対立にどうアプローチするのか? 首相の存在 自治評議会との関係 統治、リーダーシップの効率性 しばしば生じる「大統領」と首相の対立にどうアプローチするのか? 「コアビタシオン」の状況
トピックス:選挙制度 複数投票制(plural ballot) 比例代表制との組み合わせ 政党の候補者擁立戦略 有権者の投票行動 多数代表制原理(多数派による政府形成) いわゆる「中選挙区制」ではない 比例代表制との組み合わせ 政党の候補者擁立戦略 有権者の投票行動
いろいろなトピックス 行財政と汚職問題 公営事業と自治政府利権 政党の組織と活動 治安組織の乱立 市民社会(団体)の活動
研究のアイデア 次期連立政権の可能性を探る「大統領」府と首相サイドの交渉をとりあげる パズル:連立交渉はなぜ長引くのか? 欧米からの開発援助停止が続けば、経済的破局が訪れる
交渉のゲーム理論 Rubinsteinの交渉モデル 忍耐強さ(δiが1に近い)がカギ 「交渉にかかる時間」を考察の対象とはしない 2人のプレイヤーが取り分の交渉をする 交渉が続くとそれぞれの取り分は減少していく(割引率δi, (i=1,2)を乗じる) 均衡はプレイヤー1の提案(1-δ2)/(1-δ1δ2)をプレイヤー2が受け入れて終わる 忍耐強さ(δiが1に近い)がカギ 「交渉にかかる時間」を考察の対象とはしない
パレスチナ交渉ゲームの前提 プレイヤーは2人(「大統領」と首相) 各プレイヤーは閣僚ポストにおける自派の影響を大きくしたい(利得の最大化) プレイヤーの提案を「内閣ポストの割合」にすることで数理モデル化できる 交渉期間は有限(経済破綻のため)
交渉ゲームの構造 X1,(1-X1) (1-Y1),Y1 X2,(1-X2) (1-Y2),Y2 X3,(1-X3)
提示条件の関数 Ωnはプレイヤー1、2の提示条件(Ω1>Ω2) ε(t)は交渉が長引くことで促進される譲歩関数 γはプレイヤー2の相対譲歩係数(0<γ<1)
ε(t)のグラフ
譲歩関数ε(t)の意味 時間が経過すると急激に交渉者に譲歩を促すように働く tが小さい時は、交渉者にプレッシャーを与えない 開発援助差し止めが長期化すれば、民衆の不満を急速に増大させる状況を描写したもの
交渉ゲームのシミュレーション 最初の提案:Ω1=0.9,Ω2=0.8 割引因子:δ1=0.9, δ2=0.95 譲歩係数:γ=0.7 大きいほど交渉で粘り強い 譲歩係数:γ=0.7 小さいほどプレイヤー1に比べて国際的圧力に強くなる
交渉ゲームのシミュレーション 均衡 均衡
パレスチナ交渉ゲームの解 解は4つある t=5の近傍におけるX=1-Xはプレイヤー1が提示した提案であり解のひとつだが、均衡解ではない t=5.6の近傍におけるX=1-YおよびY=1-Xはプレイヤー相互の提案が一致する点であり、均衡解である<交渉終> t=6.4の近傍におけるY=1-Yはプレイヤー2にとって非合理なので均衡解ではない
因果的推論 一方のプレイヤーは、交渉を長引かせることで、より大きな利得を手にすることができる 粘り強く交渉できる側(δの大きい側)が、より大きな利得を手にする(このケースだとプレイヤー2) γの値が小さい(経済悪化のプレッシャーに強い)ほど、均衡解に至るにはより多くの時間がかかる
分析結果の論点 交渉ゲームは、交渉をある程度長引かせる戦略に合理性があることを明らかにした 「連立交渉の長期化」というパレスチナの政治状況をヒントに汎用性のある演繹モデルを作成できること