微生物学1 微生物学序論.

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福島県教育センター 生物研究室.  主な高校生物教科書の中に出てくる地衣類 ○ 生物Ⅱ ・生物の分類 ・遷移 ・課題研究 (大気汚染調査) (いわき市石森山 撮 影)
抗酸菌染色 (チール・ネルゼン) Ziehl-Neelsen method for acid fast bacteria.
1
メソポタミアのウル、バビロン、ラガシュ等で下水道築造 BC3000 モヘンジョ・ダロ、カーリーバンガン等の都市に下水溝、水洗便所築造
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12 化学療法薬(悪性腫瘍治療薬を含む)  病原微生物に対して選択毒性を有する化学物質を用いた疾病の治療を”化学療法(chemotherapy)という。また、悪性腫瘍に対して抑制的に作用する薬剤も化学療法薬と呼ばれている。このような化学物質のなかで、微生物が産生し他の微生物や細胞の増殖を抑制する物質を”抗生物質(antibiotics)”と呼ぶが、広義にはサルファ剤やニュ−キノロン系薬剤のような微生物の生産物でない合成抗菌薬を含めて、抗生物質あるいは抗生剤と呼ばれることもある。本編では、病原微生物に対する
微生物学1 細菌学総論.
微生物学1 細菌の遺伝学.
微生物学1 抗菌薬.
衛生環境課 ノロウイルスによる食中毒について.
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大成企業株式会社 環境事業部 新活性汚泥技術研究会会員 〒 東京都府中市八幡町2-7-2
第19課 人の寿命と病気 背景知識.
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研究テーマ 福山大学 薬学部 生化学研究室 1) 脂質代謝を調節するメカニズムに関する研究 2) がん細胞の特徴と
活性化エネルギー.
脂肪の消化吸収 【3】グループ   ~
 自然環境農法の定義とは.
壊死桿菌感染による牛に肝膿瘍など 感染局所の化膿性病変を主徴とする疾病
Geneticsから Epigeneticsへ
微生物学    小林正伸.
3.汚水の処理について.
10 水環境(5)富栄養化 水の華(Water bloom) 赤潮 アメリカ カリフォルニア州 アオコ 神奈川 津久井湖.
ENEMIES CALLED “DORMANTERS”
好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 水素伝達系.
代謝経路の有機化学 細胞内で行われている反応→代謝 大きな分子を小さな分子に分解→異化作用 第一段階 消化→加水分解
緩衝作用.
オーダーメード型の 発酵培養機.
8章 食と健康 今日のポイント 1.食べるとは 何のために食べるのか? 食べたものはどうなるのか? 2.消化と吸収 3.代謝の基本経路
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マンニット食塩寒天培地 番号と名前 この印はつけないこと、(指を押しつける場所) 消毒前 消毒後.
生体分子を構成している元素 有機分子   C, H, O, N, P, S(C, H, O, N で99%) 単原子イオン 
粘菌.
グラム染色 (Gram staining).
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酸化と還元.
微生物学2 序論.
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9 水環境(4)水質汚濁指標 環境基本法(水質汚濁防止法) ・人の健康の保護に関する環境基準 (健康26項目) 
9 水環境(4)水質汚濁指標 ・人の健康の保護に関する環境基準 (健康26項目) 環境基本法 地下水を含む全公共用水域について適用
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従来の感染症法では、感染症患者の治療及び感染症の予防を行うための法律内容であった。
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オゾン層破壊による生物への影響 東 正剛  高緯度で紫外線を増加させる 南極海に異変 南極オゾンホールの発見 忠鉢 繁(1984)
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化膿レンサ球菌 L 型菌 124 L 株の ストレプトリジン O と ストレプトキナーゼの非産生について -川崎病との関連を考える- 1
化学療法学 化学療法の歴史.
合成抗菌薬 (サルファ剤、ピリドンカルボン酸系)
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物質とエネルギーの変換 代謝 生物体を中心とした物質の変化      物質の合成、物質の分解 同化  複雑な物質を合成する反応 異化  物質を分解する反応 
特論B 細胞の生物学 第6回 エネルギーはどこから 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
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微生物学1 微生物学序論

どんな菌が恐ろしいか? 1.結核菌 2.破傷風菌 3.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 4.コレラ菌 5.大腸菌O157

どんな菌が恐ろしいか? 1.結核菌 2.破傷風菌 3.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 4.コレラ菌 5.大腸菌O157

主要死因別死亡率(人口10万対)の年次推移 1945~2011年 250 悪性新生物 結核 200 脳血管疾患 心疾患 150 死亡率(人口10万対) 100 肺炎 50 昭和20年 1945 25 1950 30 1955 35 1960 40 1965 45 1970 50 1975 55 1980 60 1985 平成2 1990 7 1995 12 2000 17 2005 23 2010 人口動態統計 厚生労働省大臣官房統計情報部 注: 1995年の心疾患の低下および脳血管疾患の上昇は、ICD-10の適用と死亡診断書の改正による影響が考えられる。

微生物学1 細菌学 微生物学2 真菌学,寄生虫学,ウイルス学

微生物学の歴史

微生物の発見 Antonie van Leeuwenhoek (1632~1723) Leeuwenhoekの顕微鏡 オランダの織物商 レンズ Leeuwenhoekの顕微鏡 詳細な観察記録を報告(1684)  細胞の発見  微生物の発見

微生物自然発生説 微生物自然発生説の否定 Lazzaro Spallanzani (1729~1799) 栄養分を含む液体 細菌やカビの繁殖 イタリアの博物学者,実験動物学の祖 加熱,密封 栄養分を含む液体 微生物の発生なし 酸素不足のため ?

微生物自然発生説の完全否定 Louis Pasteur (1822~1895) フランスの生化学者,微生物学者,近代微生物学の開祖 通気可能 加熱後には微生物が発生しない 微生物自然発生説を実験的に否定(1861)

微生物自然発生説の最終否定 John Tyndall (1820~1893) 干し草の浸出液は煮沸では滅菌できない 微生物自然発生説の拠り所 アイルランドの物理学者 間歇加熱法・・・耐熱性胞子をもつ細菌の滅菌法 発芽 加熱 胞子 耐熱性消失 殺菌 繰り返す

生物的過程としての発酵 アルコール発酵への酵母の関与(1837) 糖 エタノール + 二酸化炭素 Pasteurの研究(1857~1876) アルコール製造業における発酵失敗例 糖 乳酸 乳酸菌の発見 実験室で乳酸発酵を再現 乳酸菌 糖 + 炭酸カルシウム 乳酸カルシウムの沈殿

嫌気性菌の発見 Pasteurによる酪酸発酵の研究 糖 酪酸 + 二酸化炭素 + 水素 酪酸菌 酪酸発酵 空気接触で運動性消失 通気により阻害 好気的 aerobic 嫌気的 anaerobic

発酵の生理的意義 Pasteurの酵母を用いた実験 酸素有:好気的呼吸 酸素無:発酵 糖 二酸化炭素のみ エタノール + 二酸化炭素 発酵 エタノール + 二酸化炭素 発酵 嫌気条件におけるエネルギー供給経路 通性嫌気性菌 facultative anaerobes 偏性嫌気性菌 obligate anaerobes H. Buchnerの実験(1897) 酵母抽出液 + 糖 エタノール + 二酸化炭素 発酵は化学反応である 生化学

抗菌薬開発の歴史

抗菌薬の発見 Paul Ehrlich(1854~1915) ドイツの細菌学者,生化学者,化学療法の父 サルバルサン(1909) 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)に有効 ヒトの梅毒に有効・・・世界初の化学療法薬

レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)感染マウスを用いたスクリーニング サルファ薬の発見 Gerhard Domagk(1895~1964) ドイツの病理学者,細菌学者 レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)感染マウスを用いたスクリーニング プロントシル・ルブラム スルファミン(1935)

ペニシリンの発見 Alexander Fleming(1881~1955) ペニシリン(1929) イギリスの細菌学者,リゾチームの発見 Penicillium nonatum が生産する抗ブドウ球菌物質 ペニシリン(1929) 化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes) 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae) 抗菌作用,毒性なし

ペニシリンの再発見 Howard Florey(1898~1968) & Ernst Chain(1906~1979) Oxford大学の研究グループ  ペニシリン研究再開(1938)  粗精製ペニシリン(2%)がブドウ球菌感染マウスに有効(1940)  ペニシリンの臨床試験(1941)  ペニシリン発酵法の改良と大量培養(1941)  ペニシリンGの構造決定(1945) ペニシリンG(ベンジルペニシリン)

ストレプトマイシンの発見 Selman Waksman(1888~1973) ストレプトマイシン(1944) アメリカの生化学者,微生物学者 Streptomyces griseusが生産し, 結核菌を含むグラム陰性・陽性菌に対して 幅広い抗菌スペクトル 微生物が生産する抗菌性物質 抗生物質

微生物遺伝学の歴史

Frederick Griffithの実験(1928) 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)の形質転換 注射 マウスから回収される菌 発病 S型菌 (病原性) 注射 発病せず 加熱 注射 発病せず 混合 R型菌 (病原性なし) 注射 発病 Oswald Averyの実験(1944) Griffithの形質転換因子がDNAであることを証明

James WatsonとFrancis CrickによるDNAの構造解明(1953) Phoebus Leveneの研究(1920~) DNAの化学組成 A,T,G,C,4種の塩基,デオキシリボース,リン酸 James WatsonとFrancis CrickによるDNAの構造解明(1953)

George BeadleとEdward Tatumの実験(1941) アカパンカビ(Neurospora crassa) 栄養要求突然変異株(アルギニン要求) argB argC argA 酵素A 酵素B 酵素C 前駆体 オルニチン シトルリン アルギニン 1遺伝子1酵素説

細菌のゲノム解析 ゲノムサイズ(Mb) 遺伝子数 Homo sapiens(ヒト) 3300 20000~25000 Saccharomyces cerevisiae (出芽酵母) 12 6286 Bacillus subtilis (枯草菌) 4.21 4100 Borrelia burgdorferi B31(ライム病の病原スピロヘータ) 0.91 850 Escherichia coli K12 MG1655(大腸菌) 4.64 4289 Haemophilus influenzae Rd(インフルエンザ菌) 1.83 1709 Helicobacter pylori 26695(ピロリ菌) 1.67 1566 Lactococcus lactis(乳酸菌) 2.4 2266 Mycobacterium tuberculosis H37Rv (結核菌) 4.41 3918 Mycoplasma genitalium (マイコプラズマ) 0.58 484 Myxococcus xanthus(粘液細菌) 9.5 10000 Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌) 6.3 5565 Streptomyces coelicolor(放線菌) 8.67 7825 Synechocystis sp.PCC6803 (ラン藻類) 3.57 3169 Treponema pallidum (梅毒トレポネーマ) 1.14 1031 Vibrio cholerae(コレラ菌) 4 3827

生態系と微生物

食物連鎖 太陽光 植物 無機物 生産者 捕食 有機物 草食動物 第一次消費者 微生物 捕食 分解者 死骸 排泄物 肉食動物 第二次消費者

窒素循環 排泄(動物) アンモニア 有機態窒素 NH3 分解(微生物) 窒素固定 (根粒菌) 硝化 窒素同化 窒素 (亜硝酸菌) (植物) 脱窒 (脱窒菌) 硝酸 NO3- 硝酸還元(脱窒菌) 亜硝酸 NO2- 硝化(硝酸菌)

バイオレメディエーション (bioremediation ) 風の谷のナウシカ 汚水処理 微生物等の働きを利用して汚染物質を分解等することによって土壌地下水等の環境汚染の浄化を図る技術 風の谷のナウシカ 汚水処理 活性汚泥・・・好気性微生物群を多く含む浮遊性の泥 有機物を分解・沈降

微生物の分類

微生物の生物学上の位置 細菌 真性細菌 放線菌・・・菌糸 原核生物 古細菌 真菌 糸状菌(カビ) キノコ・・・子実体形成 酵母 細菌 真性細菌 古細菌 真菌 糸状菌(カビ) キノコ・・・子実体形成 酵母 原生動物 微細藻類 (ウイルス) 放線菌・・・菌糸 原核生物 バイキン(黴菌) 粘菌 Pneumocystis carinii ラン藻(シアノバクテリア)

初期の微生物分類(1800年頃) 細胞説(1840年頃) 植物 藻類(非運動性,光合成性) 真菌(非運動性,非光合成性) 植物 藻類(非運動性,光合成性) 真菌(非運動性,非光合成性) 動物 Infusoria(運動性の顕微鏡的生物) 細胞説(1840年頃) Infusoria 微細無脊椎動物 原生動物 細菌     

微生物を植物界と動物界に配分しようとした最後の試み(1860年頃)  動物 小型後生動物  輪虫類  線虫類  節足動物 原生動物  繊毛虫類  鞭毛虫類  アメーバ状原生動物 競合した群 光合成鞭毛藻類 粘菌類  植物 藻類(光合成性)  非運動性種 真菌(非光合成性)  真菌類  細菌類

Haeckelが提唱した3界説(1866) 真核生物と原核生物(1950年頃) 動物 脊椎動物,無脊椎動物 動物 脊椎動物,無脊椎動物 植物 種子植物,シダ植物,コケ植物 原生生物 藻類,原生動物,真菌,細菌 真核生物と原核生物(1950年頃) 真核生物 動物,植物,藻類, 高等原生生物・・・藻類,原生動物,真菌 原核生物 下等原生生物・・・ラン藻類,細菌

Woeseが提唱した3ドメイン説(1990) 真核生物 Eukarya 動物,植物,藻類,原生動物,真菌 細菌(真正細菌) Bacteria  動物,植物,藻類,原生動物,真菌 細菌(真正細菌) Bacteria  細菌,ラン藻類,リケッチア,クラミジア,マイコプラズマ   原核,細胞の化学組成は真核生物に類似 古細菌 Archaea   原核,独特な細胞の化学組成

16Sおよび18S rRNA配列に基づく生物の系統樹 Bacteroidetes 細菌 緑色硫黄細菌 クラミジア スピロヘータ ラン藻類 放射線抵抗性菌群 グラム陽性菌 緑色非硫黄細菌 グラム陰性菌 好熱嫌気性菌 高度好塩菌 胞子虫類 メタン産生菌群 鞭毛虫類 粘菌類 古細菌 真核生物 繊毛虫類 高度好温菌 動物 真菌 植物

真正細菌の膜リン脂質 真核生物の膜ステロイド 古細菌の膜リン脂質 古細菌の膜ホパノイド

真核生物 細菌 古細菌 細胞構造 真核 原核 原核 膜脂質 脂肪酸エステル 脂肪酸エステル ポリイソプレノールエーテル ステロイド - ホパノイド 核膜 + - - ミトコンドリア + - - 小胞体 + - - ゴルジ体 + - - 葉緑体 ± - - 微小管 + - - 染色体数 >1 1 1 イントロン + - ± リボソーム 80S 70S 70S

生物の特徴とウイルス 典型的生物 偏性寄生性細菌 ウイルス 外界との境界 ○ ○ ○ 自己複製 ○ ○ ○ 代謝 ○ ○ × 典型的生物 偏性寄生性細菌 ウイルス 外界との境界 ○ ○ ○ 自己複製 ○ ○ ○ 代謝 ○ ○ × 細胞 ○ ○ × 遺伝子 ○ ○ ○ 刺激応答 ○ ○ ○