都市型建築の効果的な耐震補強・改修法の開発と推進 都市減災研究センター(UDM)2010年度研究成果報告会 研究テーマ 1 都市型建築の効果的な耐震補強・改修法の開発と推進 小課題 1.4) 都市型木造建物・伝統木造建物の 耐震診断・補強法の開発と推進 建築学部 建築学科・教授 後藤 治 教授 宮澤健二 (独)建築研究所 河合直人 (4月より本学建築学部建築学科教授)
研究目的 現在の我が国においては、既存建物の耐震補強を推進し、建物の耐震化率を高めることが喫緊の課題である。 なかでも都市内にある建物は、都市防災の面からも耐震性能の改善や火災への対策が求められている。 一方、こうした建物のなかには、歴史的・文化的な価値が認められる建物も存在する。 本研究は、これらの建物の耐震診断方法や補強方法を新たに開発し、その普及を目指そうとするものである。
研究実施状況 伝統的建築物の補強法の検討例として横手市増田町の中心市街地地区を取り上げ、伝統的建造物の耐震性能及び地区防災について、現状と課題、その改善案をまとめるための現地調査を行った。 調査内容は、主要な伝統的建造物の実測調査(平面図、断面図、立面図、配置図等の作成)、耐震性能の簡易診断、街並の景観資源の調査、周辺の街並との比較調査、冬季の積雪対策等の調査である。
研究成果 横手市増田町の中心市街地地区の現地調査を行い、町屋と土蔵が連続する特殊な形状の建物の耐震性能、それらが連なる街並みの地区防災に関する基礎資料を得た。 これらの成果は、査読付き論文2編、国際学会論文2編、学術雑誌等の投稿4編、口頭発表12編などにとりまとめ公表している。 今後は、より詳細な耐震性能評価と補強方法の検討及び地区防災の課題抽出と改善策の提案につなげる予定である。
調査地区の概要 増田町は、横手市内の南方にあり、調査地区は増田町の中心市街地にあたる。 地区の範囲は、明治期の地図上で街並が形成されていたことが確認できる一帯である。 古絵図から江戸期には、街並が形成されていたことが知られ、主要な伝統的建造物がある各家屋の敷地は、通りに面して、間口約10m、奥行約100mの短冊形になる。 主要な伝統的建造物としては、通りに面して町家形式の母屋、並びに、母屋の背面に接続する土蔵などがある。
伝統的建造物の概要 主要な伝統的建造物の建設年代は、江戸時代後期から昭和30年頃までである。 町家は切妻造、妻入、2階建ての場合が多い。 建設年代が新しいものほど棟高が高く、周辺地域と比較しても高い。敷地の間口が狭く、高さ方向に部屋のゆとりを求めたためと考えられる。 耐震性能上の課題は、一般的な町家と変わらない。豪雪地にあること、並びに棟高が高いことから、特に補強が必要な可能性がある。 2010年度は積雪による被害として、軒の破損や家屋の倒壊が見られた。
土蔵(内蔵) この地区では、土蔵がサヤ・ウワヤ等と呼ばれる建物(以下、覆屋)の内部にあり、覆屋の屋根の下にあたる蔵前を介して、母屋と接続している。(「内蔵」と呼ばれている) 内蔵が設けられている背景には、間口に制約があり、主屋と蔵を前後に配置する必要があったことが関係するものと推測される。 内蔵の内部は、単なる倉庫ではなく、1階後方に畳を敷き、座敷として利用されていたことがわかる。
土蔵(内蔵)つづき 他地域の蔵と比較すると、外装の仕上げ、扉の囲い、隅部の細部意匠等が装飾として発達している。 また、覆屋の架構が本格的で、蔵前の空間での蔵の立面の見せ方に工夫がみられるなど、意匠上の工夫が多く見られる。 基礎を石積みで立ち上げていることが多いため、湿気防止の効果があり、維持の状況が良好な点は、耐震性能上は評価できる。 土蔵と覆屋の揺れ方の違いが、耐震性能上どう影響するのか、今後検討が必要である。
事例(松浦千代松家) 中町・七日町商店街の東側水路脇に位置する代表的な商家。
事例(松浦千代松家) 敷地内は、道路側から主屋、座敷蔵、米蔵、資材蔵。通り土間が裏口まで一直線に延びる増田町の商家建築の基本形態といえる。
事例(松浦千代松家) 主屋は木造2階建、桁行36.4m、梁間10.5m。建築年代は内蔵の建造以降とみられ、小屋組の構造等から明治中~後期と推測される。 内蔵は土蔵造2階建。外部は黒漆喰の磨き仕上げで、内部は奥座敷を備え、材を漆塗りで仕上げた、増田町の内蔵の典型的な造り。
土蔵・土蔵造りの耐震性能 2011年東北地方太平洋沖地震においても、広い範囲で土壁や土蔵造りの建物に被害があり、耐震性能については不明な点が残されている。 土蔵の大破(栗原市) 土蔵造りの大破(つくば市)