スズに埋め込まれたダイヤモンドによる研磨のFEMシミュレーション 東北大学大学院 工学研究科 宮本研究室 2009年6月26日
目的 スズに埋まったダイヤモンド砥粒の研磨時の力学挙動を有限要素法によりシミュレートし, 得られた物性をマクロシミュレーションへと反映させてマルチレベル化する. 前回まで スズに埋め込まれたダイヤモンド砥粒による磁気ヘッドの研磨をシミュレーションした.スズーダイヤーアルミナ(鉄)と二層の接触面を設定した三次元せん断計算を行った.押込み量を1-2nmとした上で,磁性体を跨ぐような接触計算によって,垂直荷重は10μN,せん断力は数十nNという値を得た. 今回 磁気ヘッドの物性を変更し,せん断による応力の変化を解析した. 磁気ヘッド側: アルミナでこの構造を挟んだ 直方体モデルとする. ダイヤの大きさは 100 [nm] 程度
有限要素モデル断面図 モデルA スズ+ダイヤ: 軸対称→三次元化 アルミナ+磁性体: 直方体 単位:nm 300 スズ+ダイヤ: 軸対称→三次元化 アルミナ+磁性体: 直方体 初期ダイヤ位置が A) 磁性体の真上 B) アルミナ上 の2モデルを解析 1934節点 8340要素 150 単位:nm 62.5 75 25 250 100 300 スズ ダイヤ 磁性体 アルミナ モデルB 50 nm
磁気ヘッドの有限要素モデル化について これを左右からセラミックス(アルミナ)で挟む構造. 2メッシュで25nmなので,125Åが最小単位となる. 平均化する 今回用いた物性値 ・ NiFe+Cu E=193GPa, ν=0.309 ・ FeMn E=205GPa, ν=0.281 NiFeとCuの 5:1平均物性 FeMn
合金の弾性物性を測った文献の調査 Fe-Niの最も基本的な実験の論文: HAUSCH & WARLIMONT, "SINGLE CRYSTALLINE ELASTIC CONSTANTS OF FERROMAGNETIC FACE CENTERED CUBIC Fe-Ni INVAR ALLOYS,” ACTA METALLURGICA 21 (1973) 401. Fe-Niの全ての組成比でヤング率,ポアソン比を測っている論文: TANJI, NAKAGAWA & STEINEMANN, “ANOMALOUS ELASTIC PROPERTIES OF Fe-Ni (fcc) ALLOYS AND THEIR INVAR PROPERTIES,” Physica B 119 (1983) 109. Fe0.6Mn0.4を測定した論文(ほとんど同じ結果): Lenkkeri, "Measurements of elastic moduli of face-centred cubic alloys of transition metals,” J. Phys. F: Metal Phys. 11 (1981) 1991. Cankurtaran et al., "Relationship of the elastic and nonlinear acoustic properties of the antiferromagnetic fcc Fe60Mn40 single-crystal alloy to Invar behavior," Phys. Rev. B 47 (1993) 3161. Kawald et al., "Anomalous temperature behaviour of the elastic constants of antiferromagnetic Mn-Invar alloys,” J. Phys.: Condens. Matter 6 (1994) 9697. Fe0.5Mn0.5の薄膜の測定(MEED使用): Pan et al., "Stress oscillations and surface alloy formation during the growth of FeMn on Cu(001 )," PHYSICAL REVIEW B 68, 224419 (2003).
Fe-Niの弾性物性 Fe0.5Ni0.5,15℃で ヤング率E=160GPa ポアソン比ν=0.317 体積弾性率K=174GPa ※厳密には等方的な物質ではないため,これは近似的な表現となる Cu:130GPa,0.343
Fe-Mnの弾性物性 Fe60Mn40とFeMnとで弾性係数はほとんど変わらない 剛性率の温度依存性 実測値 Fe60Mn40とFeMnとで弾性係数はほとんど変わらない FeMnで測定されたのは二軸弾性率E/(1-ν)=148(±5)GPaのみ Fe60Mn40のポアソン比ν=0.366を用いると,FeMnのヤング率はE=94GPaと算出される → 体積弾性率はK=117GPa
ミーゼス応力:モデルA(ダイヤが初期に磁性体上),1nm押込み 1nm押込み,25nm移動,50nm移動 中央の鉄部分にかかる応力が小さい 約10μNの荷重の結果と合わせて, 以前の磁性体部を鉄とした解析と ほぼ同じとなった
ミーゼス応力:モデルA(ダイヤが初期に磁性体上),2nm押込み 2nm押込み,25nm移動,50nm移動 1nm押込みとほぼ同様 これも鉄の場合とほぼ同じ結果となり, 回転の影響による押込み時の荷重の 落ち込みなども一致
ミーゼス応力の変動:モデルA(ダイヤが初期に磁性体上) 磁性体部にかかる 応力変化をプロット 後ろのエッジが磁性体部に乗り上げた際に応力が増大
ミーゼス応力の変動:モデルB(初期にアルミナ上),1nm埋込み アルミナと磁性体にかかる 応力変化をそれぞれプロット これも同様だが,応力値はより増大している
まとめ 実際の磁性体の物性を算出して導入し,押込み&せん断計算を行った 材料を鉄とした場合とほぼ同等の結果を得た → 物性値が近いため 材料を鉄とした場合とほぼ同等の結果を得た → 物性値が近いため 文献調査により,磁性体材料のFeNiおよびFeMnの弾性物性は組成比に大きく依存する場合があること,またfccの立方晶系であり等方性物質ではないことが分かった → 方向性の影響があるか マクロシミュレータへ反映する際に重要なことは,荷重に対する押込み量(あるいは切り込み量か油膜厚か)の十分な精度の計算であり,今後はこれに集中していく