強震動予測に用いる手法の ベンチマークテスト ーその2 理論的手法ー

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強震動予測に用いる手法の ベンチマークテスト ーその2 理論的手法ー 工学院大学     松本 俊明           久田 嘉章 東京理科大学    永野 正行 港湾空港技術研究所 野津 厚 地域地盤環境研究所 宮腰 研                2010.11.18-20 13th JEES

はじめに ◇理論的手法は対象地盤が平行成層地盤に限定されるものの、近距離から遠距離までの広帯域な強震動を高精度かつ簡易に計算できる利点がある。 ◇2009年度ステップ1・2、2010年度ステップ3(速報)を発表する。 Vs=2000 m/s Q=40f Vs=3464 m/s Q=70f T12・T13モデル図 その1の概要にあったように、その2では理論的手法のベンチマークテストについて発表する。 時間の都合上、T12、T13モデルについて述べる。なおステップ2では比較に結果一致度が良好だったため省略。 最も、結果に大きな差異が生じた、T13とQ値の導入方法について詳述する。 Vr=3000 m/s T21モデル図

2009年度ベンチマークテスト参加者と用いた手法 注*:波数積分法では中川太郎氏(フジタ)も参加したが、久田と同じ手法・ソフトを用いているため、ここでは同一の扱いとした 注**:Bouchonの手法4)によりO.Coutant氏がプログラム開発 注***:T14では、永野氏は0-7 Hz、宮腰氏は0-25 Hz 注****:虚数とは(1)式、一定とは(2)式によりQ値を導入。 ・・・(1) ◇ベンチマークテストの計算条件は、振動数依存のQ値 ◇宮腰はプログラムの制約上、一定Q値のみ対応。(2)式導入 1式は虚数のみにQ値を導入。 2式は実部に自然対数を用いており、実部・虚部共にQ値を導入している。ω= ωrefとなったときに地盤速度は初期値と等しくなる。 2式は参照振動数の設定必要。地盤速度に分散性が生じる。 ・・・(2) 4) Bouchon, BSSA,71,959-971,1981 7) 久田嘉章, 成層地盤における正規モード解及びグリーン関数の効率的な計算法, 日本建築学会構造系論文集 第501号、pp.49-56、1997 8) 野津厚, 水平成層構造の地震波動場を計算するプログラムの開発-周波数に虚部を含む離散化波数法の計算精度-,港湾空港技術研究所資料,No.1037,2002 10) 永野正行,渡辺哲史:薄層法を用いた理論地震動の計算精度向上とその検証,日本建築学会技術報告集,第13巻第26号,pp.451-456,2007 3

ステップ1点震源 T12 +100km 速度波形 (2層地盤)減衰なし T13 +100km 速度波形 (2層地盤)減衰あり ・・・(3) RMSは0.021から0.046 振幅誤差4%以下 RMSは0.057から0.152 振幅誤差8%以下 +0.0371 -0.0448 -0.0037 +0.0039 -0.0038 +0.0043 +0.0044 +0.0058 -0.0061 -0.0453 +0.0369 +0.0385 -0.0478 +0.0376 -0.0467 比較の際のフィルターは0-20Hzで振幅1。20-25Hzで振幅0。 RMSはS(t)が評価対象波形、Srefは参照波形であり4波平均とした。(T13は宮腰以外3波平均) 波形の上下についている数値は、+が最大振幅、-が最小振幅です。 宮越のT13の結果は、振幅に加え位相にも差異が生じる。 T12:RMSは0.021から0.046。振幅誤差は4%以下。 T13:RMSは0.057から0.152。振幅誤差は8%以下。 T12 +100km 速度波形 (2層地盤)減衰なし T13 +100km 速度波形 (2層地盤)減衰あり 4

減衰(Q値)の導入法により振幅に加え位相にも大きな差異が生じる。 ステップ1点震源 ・・・(3) RMSは0.021から0.046 振幅誤差4%以下 RMSは0.057から0.152 振幅誤差8%以下 +0.0371 -0.0448 -0.0037 +0.0039 -0.0038 +0.0043 +0.0044 +0.0058 -0.0061 -0.0453 +0.0369 +0.0385 -0.0478 +0.0376 -0.0467 比較の際のフィルターは0-20Hzで振幅1。20-25Hzで振幅0。 RMSはS(t)が評価対象波形、Srefは参照波形であり4波平均とした。(T13は宮腰以外3波平均) 波形の上下についている数値は、+が最大振幅、-が最小振幅です。 異なるQを使えば、振幅に差異が生じるのは当然だが、拡大図のように位相にも大きな差異が生じる。 この影響については後に詳述する。 宮越のT13の結果は、振幅に加え位相にも差異が生じる。 T12:RMSは0.021から0.046。振幅誤差は4%以下。 T13:RMSは0.057から0.152。振幅誤差は8%以下。 T12 +100km 速度波形 (2層地盤)減衰なし T13 +100km 速度波形 (2層地盤)減衰あり 減衰(Q値)の導入法により振幅に加え位相にも大きな差異が生じる。 5

小断層サイズ(久田はガウス積分点6×6=36点分布) ステップ2面震源 小断層サイズ(久田はガウス積分点6×6=36点分布) RMSは0.015から0.035 振幅誤差2%以下 RMSは0.008から0.033 振幅誤差2%以下 +0.00162 -0.00245 +0.00167 -0.00241 -0.0166 +0.00165 -0.00240 +0.0160 -0.00248 -0.0168 -0.0167 +0.0159 -0.0171 +0.0162 破壊が遠ざかる-100km観測点では、RMSが0.008から0.033。振幅誤差2%以下。継続時間が長く振幅が小さい波形になっているのに対し、 破壊が近づく+100km観測点では、 RMSが0.015から0.035。振幅誤差2%以下。継続時間が短く振幅が大きい波形になっている。 -100kmで、悪化してるのは、破壊が遠ざかる観測点では振幅が小さくS/N比が悪くなるため。 破壊伝播速度(Vr)が3000m/s、有効振動数5Hzのため、破壊フロントの連続性を確保するには、波長に相当する3000/5=600mより高密度で積分点を分布させる必要がある。 このため、永野氏は50*50、積分点は1点。野津氏と宮腰氏は250*250、積分点は1点。久田氏は500*500とし各小断層にガウス積分点を6*6=36点分布させている。 T21-100km 速度波形 (横ずれ断層)減衰なし T21+100km 速度波形 (横ずれ断層)減衰なし 点震源モデルに比べ一致度良好 6

Q値の導入法の差異が波形に与える影響について ◇地盤速度の虚部に導入 ・・・(1) ⇒任意のQ値を導入できるが、地震波形の因果性を満足しない。 ◇Futterman(1962)の方法 ・・・(2) (2)式を用いる場合、実数部に自然対数があるため振動数によって地盤速度が変化する。表面波のみならず実体波も分散性を生じる。 右のグラフは、参照振動数を0.1から10Hzに変化させたときの分散曲線。 対象とする振動数によって、参照振動数を適切に設定する必要がある。 こちらの4波はQ値一定としたときの、久田と宮腰のT13による比較。 虚数のみとは(1)式で、その他は(2)式。 一見同じように見えるが、P波初動と後続波形の拡大図を見ると・・・。 (2)式による地盤速度の分散性 ⇒一定Q値のみ対応。地震波形の因果性を満足する。地盤速度に分散性を生じる。 対象とする振動数帯域によって、fREFを適切に設定する必要がある。 7

Q値の導入法の差異が波形に与える影響について 虚数のみ fREF=1Hz fREF=0.16Hz Miyakoshi 虚数のみ fREF=1Hz fREF=0.16Hz Miyakoshi 1式 久田 2 式 fref=0.159Hz Miyakoshi T13 +100km (2層地盤)減衰あり Q一定での比較 (2)式を用いる場合、実数部に自然対数があるため振動数によって地盤速度が変化する。表面波のみならず実体波も分散性を生じる。 右のグラフは、参照振動数を0.1から10Hzに変化させたときの分散曲線。 対象とする振動数によって、参照振動数を適切に設定する必要がある。 こちらの4波はQ値一定としたときの、久田と宮腰のT13による比較。 虚数のみとは(1)式で、その他は(2)式。 一見同じように見えるが、P波初動と後続波形の拡大図を見ると・・・。 fREF=1Hzとした場合、P波初動の因果性と、虚数のみの後続位相をほぼ同時に満足した。 8

2010年度(ステップ3)参加者(2009年度と参加者は同じ、中川も結果表示) Vs=400 m/s Q=20f Vs=1000 m/s Q=30f 2010年度 ステップ3 ◇4層地盤モデルは、工学的基盤(Vs=400 m/s)まで考慮したモデル。 2010年度(ステップ3)参加者(2009年度と参加者は同じ、中川も結果表示) 久田と中川は同じ手法(中川が久田のプログラム使用。) ・宮腰はT31不参加(一定Q値のみ対応)・野津はT33不参加(地表断層に対応せず)

T31+100km速度フーリエ振幅スペクトル水平2成分 ◇宮腰は不参加(一定Q値のみ対応) ◇中川の高振動数での差異は震源時間関数の近似による ◇低振動数での差異は調査中 T31+100km速度波形水平2成分 T31+100km速度フーリエ振幅スペクトル水平2成分

◇宮腰・中川はやや振幅が小さい(深さ50mで近似) ◇低振動数での差異は調査中 T33モデル(2層地盤・地表点震源・減衰なし) ◇野津は不参加(地表断層に対応せず) ◇宮腰・中川はやや振幅が小さい(深さ50mで近似) ◇低振動数での差異は調査中 T33+100km速度波形水平2成分 T33+100km速度フーリエ振幅スペクトル水平2成分

まとめ 今後のベンチマークテスト(理論的手法) ◇参加者の結果は基本的に、実用的にはほぼ一致する。 ◇Q値の導入法、地表震源の扱いに注意が必要。 ◇ステップ3(速報)の詳細は、現在検証中。 今後のベンチマークテスト(理論的手法) ◇2010年度:ステップ4(面震源・地表断層)  ⇒11月1日提出締切。 ◇2011年度:ブラインドプレディクション。より複雑なモデル(関東平野)での検討。 ※割愛したモデルについても波形を比較し、減衰を導入するモデルにおいて波形の違いが顕著に現れた。 Q値の周波数依存を考慮しているか否か。 謝辞:Q値導入法やその影響に関して竹中博士氏(九州大学)、浅野公之氏(京都大学防災研究所)より貴重な意見を頂きました。本研究は日本建築学会・地盤震動小委員会と連携し、また文部科学省科学研究費補助金・基盤研究Bによる助成を頂いています。