私たちの暮らしを支えるコンクリート 強いコンクリート構造物を作るためには? 私たちの暮らしを支えるコンクリート 強いコンクリート構造物を作るためには? 日本大学工学部土木工学科 コンクリート工学研究室 岩城 一郎 このサイバーキャンパスをご覧の皆さん,こんにちは. 今日は,私たちの暮らしを支える社会基盤施設を構成する材料のうち最も多く用いられているコンクリートを取り上げ,コンクリートの強さはどのくらいか?どうしたら強いコンクリートができるか?コンクリートの強さとコンクリートでできた構造物の強さとの関係など,コンクリートの強さをテーマに講義をしたいと思います.
はじめに コンクリート:橋,トンネル,ダム,あるいは建物といった私たちの生活になくてはならない構造物を作る上で最も重要な材料 コンクリートの不思議 - コンクリートはどのような材料からできているか? - どうして固まるか? - どのくらいの強さがあるか? メインテーマ:「コンクリートの強さ」 - コンクリートの強さはどのくらいか? - どうしたら強いコンクリートをつくることができるか? - コンクリートの強さとコンクリート構造物の強さとの関係は?
私たちの暮らしを支えるコンクリート コンクリート:我が国の社会基盤施設を構成する材料のうち最も多く用いられているもの. 国内年間需要量約2億m3(国民一人当たり1.5m3/年) 長所:安い,入手しやすい, 丈夫,長持ち 耐震性,早期劣化問題, 環境問題? コンクリートで作られている もの? かべ,階段,舗装ブロック,縁石,花壇,公園の遊具,電柱などなど
コンクリートは何から出来ているか? 水+セメント+砂(細骨材)+砂利(粗骨材)+α →セメントペースト部(約3割)+骨材部(約7割) セメントが 残った セメント 固まったもの コンクリート橋 気泡 砂利 空隙 砂 コンクリート セメントペースト C&Cエンサイクロペディア(セメント協会)より引用
なぜコンクリートは硬くなるか? 水とセメントが化学反応し,生成した水和物が セメント粒子間の隙間を埋めて一体化するため.(はじめ軟らかく徐々に硬くなる性質) セメント セメント 水 水 練混ぜ直後 数時間後 数日後~数年後
コンクリートの強さはどれくらい? 一般のコンクリートの強さ(圧縮強度)は 30MPa (300kgf/cm2)程度 →さいころの上にKONISHIKIが載っても 壊れない強さ! 体重60kg なんと 400人 載っても 壊れない! 直径 10 cm 30 メガパスカル MPa の コンクリート
コンクリートの強さは何で決まるか? コンクリートの中身(セメントペーストと骨材)の弱い部分で決まる. セメントペーストの強さ<骨材の強さ セメントペーストの強さ<骨材の強さ セメントペーストの強さで決まる.
コンクリートを強くするには?(Part1) セメントペーストを強くする. できるだけセメントペースト内部の隙間(空隙)を少なくする. 水に対するセメントの量を多くする. 通常は水:セメント=1:2(質量比) 水とセメントの比を1:4にしては?
水に対するセメントの量を多くすると? 練混ぜが困難になる.(ホットケーキ,お好み焼きを思い出して!) 特殊な薬を使ってセメント粒子を分散させる. (高性能減水剤) 練混ぜが可能になる.
水に対するセメント量とコンクリートの 強さとの関係は? 水に対するセメント量とコンクリートの 強さとの関係は? コンクリートの圧縮強度はC/Wに正比例する.
コンクリートを強くするには?(Part2) 特殊な薬を用いてセメント水比を高く設定することにより,100MPa近い圧縮強度をもつコンクリートを作ることが可能.ただしこの方法にも限界がある. セメント粒子よりもさらに細かい反応性の物質を用いて,さらに隙間を埋める. 例:シリカフューム:平均粒径0.1μm程度 (セメント:平均粒径30μm程度)
シリカフュ-ムを用いると? S.F.の使用により100MPa以上の圧縮強度をもつコンクリートが実現(ただし,骨材も強くする必要がある) 通常のコンクリート セメント 水和直後 数日後から数年後 シリカフュ-ム(S.F.)を 用いたコンクリート セメント シリカフュ-ムの製造法 シリカフュームの粒径 S.F. S.F.の使用により100MPa以上の圧縮強度をもつコンクリートが実現(ただし,骨材も強くする必要がある)
コンクリートを作っているところを 見てみよう コンクリートを作っているところを 見てみよう 材料実験の時間に,自分の目で確認して見よう.
コンクリートを壊しているところを 見てみよう コンクリートを壊しているところを 見てみよう 材料実験の時間に,自分の目で確認して見よう.
コンクリートを強くすると?(Part1) コストが高くなる. セメント:10000円/ton,砂・砂利:1000円/ton
コンクリートを強くすると?(Part2) セメント量:増→発熱量:増→過大なひび割れ:増→強くて,値段が高い割には耐久性:低
コンクリートを強くしたとしても? コンクリートは圧縮に対しては大きな力に抵抗するが 引張に対しては小さな力で簡単に壊れてしまう. 引張強さは圧縮強さの1/10以下 いくらコンクリートを圧縮に対して強くしてもそれに見合う引張強度は得られない. 例 圧縮強度30MPa→引張強度3MPa 圧縮強度100MPa→引張強度6MPa コンクリートは強ければよいというものではない. コンクリートはなぜ圧縮に強く引張に弱いか? 多孔質材料(不均質材料),複合材料,ひび割れが発生しやすい材料,ひび割れに対して抵抗しにくい材料
曲げを受けるコンクリート部材 上側で圧縮力,下側で引張力を受ける 引張側でひび割れが発生し,急激に壊れる.
引張側に鉄筋を入れると? ひび割れは発生するが,十分な荷重に耐えることが出来る→鉄筋コンクリート
さらに鉄筋の量を増やすと さらに大きな荷重に耐えることができるが,別の大きなひび割れが発生し急激に壊れる. 荷重とたわみの関係 旧阪神高速道路公団資料より 荷重とたわみの関係 荷重とたわみの関係 P P δ δ さらに大きな荷重に耐えることができるが,別の大きなひび割れが発生し急激に壊れる.
あばら骨を入れると? 大きな荷重に耐えることが出来ると共に,急激な破壊を防止することが出来る. 荷重とたわみの関係 荷重とたわみの関係 P δ δ 大きな荷重に耐えることが出来ると共に,急激な破壊を防止することが出来る.
鉄筋コンクリートをさらに進化させると? プレストレストコンクリート:引張側のコンクリートに圧縮力を導入→ひび割れのないコンクリート,より大きな力に耐えられる(コンクリート全体が圧縮力に対して抵抗) 支間(スパン)の長い橋,タンク等,重要構造物のほとんどはプレストレストコンクリート 鉄筋コンクリート プレストレストコンクリート
新たなコンクリート材料の開発 超高強度鋼繊維補強コンクリート ダクタルプレミックス+専用鋼繊維+専用減水剤 骨材を使用しない. 鉄筋を使用しない. 自己充てん性あり. 圧縮強度200MPa以上 曲げ強度40MPa以上 厳しい環境下でも100年 以上の使用に耐えうる. 太平洋セメント㈱ HPより抜粋
酒田みらい橋 超高強度鋼繊維補強 コンクリートを用いた 歩道橋 最大部材厚8cm プレストレストコンク リート (外ケーブル方式) 超高強度鋼繊維補強 コンクリートを用いた 歩道橋 最大部材厚8cm プレストレストコンク リート (外ケーブル方式) 酒田みらい橋パンフレットより抜粋
これまでの内容の整理 コンクリートを強くすることは比較的簡単 コンクリートを強くするとコストがかかる. コンクリートをいくら強くしたとしてもコンクリート構造物が強くなるとは限らない(コンクリートは圧縮に強く,引張に弱い.) 鋼材により,適切に補強することが重要 新しいコンクリート技術の開発
まとめ コンクリートに求められるもの コンクリート 要求される性能・ 用途に合った最適な材料,構造形式を選定することが 重要!! 丈夫 要求される性能・ 用途に合った最適な材料,構造形式を選定することが 重要!! 丈夫 長持ち 美しい コンクリート技術者の使命 コンクリート 環境に優しい 安い