政治行動論 序章:政治行動論とは
私たちと政治 「政治」という言葉を聞いた時、何を思い浮かべますか?
ふだん目にする「政治」 政局(首相動静、政党間交渉、政治家の発言) 選挙前後の各党・政治家の行動、選挙結果 国会審議、予算 政策の内容 紛争、戦争 学部内政治、教授会政治、医局内政治、研究室内政治?
私たちと政治 自分たちとは直接関わりのない人物や制度を議論の対象にしているように思える 政治に関して何かを考える時に、当事者としての視点が抜けてしまう 日本のような民主社会において政治の主役は私たち!
私たちと政治の接点 選挙での投票 署名活動やデモへの参加 家族や友人との政治に関する会話 ニュースの視聴 政府や政策について意見をもつこと
さまざまな疑問 政策に関する私たちの意見はどこから来るのか 政党や政策について私たちはどれくらいの知識を持っているのだろうか 選挙の際に私たちはどうやってこれだと思える候補者や政党を選び出すのだろうか 政治に積極的に関わることで、私たちはいったい何を得ることができるのだろうか
政治行動論とは これらの疑問に答えることを目指すのが政治行動論という研究分野 政治行動論の分析対象は 選挙への参加や候補者の選択などの行為 候補者や政策に関する好き嫌いといった感情 候補者や政策に関する知識や理解といった認知 私たちが政治に関わることによって起こる政策・社会の変化
政治とはなにか 「政治とは誰が何をいつどのように獲得するかである(Politics is who gets what, when, and how)」(Lasswell 1936) 政治とは「私たちにとって価値のあるものを、誰がどれくらい受け取るのかを何らかのルールに基づいて決めること
価値のあるものとその配分先 お金の配分 税金の集め方 税金の使い方 権利の配分 夫婦別姓 選挙権
誰が決定に加わるのか 1人が決める → 独裁制 みんなが決める → 民主制 みんな=有権者 国や地域(都道府県や市町村)の一員 1人が決める → 独裁制 みんなが決める → 民主制 みんな=有権者 国や地域(都道府県や市町村)の一員 各有権者は平等な資格(つまり一人一票)を持つ 日本の場合だと、18歳以上の日本国籍を持つ人々が有権者
代表民主制 有権者は政治的決定に直接に参加しない 有権者は自分たちの代表である少数の代理人たちを選出し、その代理人たちに最終決定の権利を委ねる。 これを代表民主制と呼ぶ
代表民主制の過程 【選挙】:選挙を通じて、有権者は自分たちの代表となる政治家を選ぶ 【政策決定】:当選した政治家たちは議会において討議を行う。議会内での討議は多数派となった政府与党を中心に進む。議会内の多数の賛成を得た案(多くは政府与党の案)が最終的な決定となり、政策となる
代表民主制の概略図
例1 多くの有権者は消費税率の現状維持を望む これらの有権者は選挙において現状維持を公約として掲げる政治家・政党に投票する 議会では現状維持を公約とする政党が多数派となる この政党が自党の公約に忠実に行動したならば、つまり自分たちに投票してくれた有権者の民意を尊重したならば、投票を行うと現状維持が賛成多数となる よって、議会内での多数決の結果、消費税率は現状維持とするという案が可決され、政策として実行に移される
代表民主制と応答性 上記の例は、代表民主制という制度が理想的に機能している状態を描いている 理想的な状態とは、有権者の多くが望むことを政治家や政府が政策として忠実に実現している状態を意味する 代表民主制が理想的に機能しているこのような状態を、民意に対する政治家や政府の政策応答性が高いと呼ぶ 上記の例の場合、有権者の多くが望んだ消費税率の現状維持が議会により政策として実現されているので政策応答性が高い
例2 各有権者は理想の消費税率を0%から20%の間で選べるとする もし多くの有権者が理想の消費税率として高い数値を選んだ場合、それに呼応して議会が消費税率を上げたとする。 あるいは多くが低い消費税率を選んだ場合に、政府がその望みを実現して消費税率を低く設定したとする。 政策応答性が高いとき、理想の消費税率と実際の消費税率に図中の対角線のような関係が見られる。
例2:消費税と応答性
注意してほしいこと 政策応答性は全有権者に対して等しく高くなるわけではない 政策応答性が高いという時、議会の多数派を占める政党、つまり政府与党がその支持者(つまり多数派の有権者)に対して高い応答性を示していることを指す
政策応答性が低くなる時 政治家・政党が選挙で提示した公約を無視する 政治家・政党が自分の私利私欲を追い求める 政治家・政党が当選後に議会内での議論や投票に参加せず、政治以外の活動に大部分の時間を割く(例えば企業経営やレジャーなど)
政策応答性と選挙 代表民主制における有権者はどうやって政策応答性が高い状態を保ち、自分たちの望みを政策として実現すればいいのだろうか? 政策決定の権利を委ねる以上、政府が民意を無視して自分勝手に振舞ったり全く努力しない政治家がいたりしても、有権者は黙ってそれを見ているしかないのか? → 選挙が重要な役割を果たす → なぜ?
政治家と選挙 少数の有権者が政治家になる動機 よって、政治家にとって当選・再選が至上命題、選挙に負ければ政治家は「ただの人」 自分の望む政策の実現 金銭的報酬 リーダーとして働く満足感 よって、政治家にとって当選・再選が至上命題、選挙に負ければ政治家は「ただの人」 選挙に勝ちたい、そして勝ち続けたいという望みは政治家の行動を縛る重要な動機
政治家と選挙 有権者は応答性の高い政治家を望んでいる よって、選挙で勝つためには つまり、 多くの有権者の望む公約の提示、その実現を約束 当選したらその実現のためにがんばる つまり、 応答性の高い行動=再選 応答性の低い行動=落選 有権者は再選というアメ、落選というムチを使って政治家の応答性を高めることができる
政治家と選挙 有権者が → 常に応答性の高い状態が保たれる! 本当にこんなふうにうまくいくの? → 実は有権者の行動次第です 応答性の高い政党・政治家を再選させる 応答性の低い政党・政治家を落選させる → 常に応答性の高い状態が保たれる! 本当にこんなふうにうまくいくの? → 実は有権者の行動次第です
応答性の確保と有権者の役割 応答性を確保するための有権者の役割は大きい 有権者はどのような意見をもつのか 有権者は知識量はどれくらいか 有権者は重要な判断を下すために何を使うのか 有権者のうち誰が投票に参加するのか 有権者はどうやって最も望ましい政治家や政党を選ぶのか 有権者は政治家や政党に関する情報をどこから入手するのか 有権者の意見と政策に強いつながりはあるのか 選挙制度の役割とは何か
応答性の確保と有権者の役割 民意(分布と形成、知識、イデオロギー) 選挙(投票参加、投票選択) 議会(立法と政策形成、これはここでは取り上げません) 政策(景気、政策、選挙制度)