新株予約権の意義 新株予約権の発行 新株予約権の譲渡・質入 自己新株予約権 新株予約権の行使 新株予約権付社債 講義レジュメNo.10 新株予約権 新株予約権の意義 新株予約権の発行 新株予約権の譲渡・質入 自己新株予約権 新株予約権の行使 新株予約権付社債 テキスト参照ページ:366~379P
1 意義 新株予約権:株式会社に対して行使することにより当該会社の株式の交付を受けることができる権利(2-21) 1 意義 新株予約権:株式会社に対して行使することにより当該会社の株式の交付を受けることができる権利(2-21) すなわち、新株予約権者(新株予約権を有する者)が会社に対して権利行使した場合、会社が新株予約権者に対して株式を発行し、または、これに代えて自己株式を移転する義務を負う 新株予約権に関する事項は登記事項(911Ⅲ⑫)
新株予約権の用途 新株予約権は、ストック・オプションの付与のため(インセンティブ報酬)、社債と結合して新株予約権付社債の発行(資金調達)のために利用されるほか、その他の金融商品と結合することにより資金調達の手段の多様化のために利用される 敵対的企業買収の対抗措置(いわゆるライツプラン)として利用されることもある
新株予約権の内容(236Ⅰ) 新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社:株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額またはその算定方法(権利行使価額) 金銭以外の財産を新株予約権の行使に際してする出資の目的とするとき(現物出資)は、その旨ならびに当該財産の内容および価額 新株予約権を行使することができる期間(行使期間) 新株予約権の行使により株式を発行する場合:増加する資本金および資本準備金に関する事項 譲渡による新株予約権の取得について株式会社の承認を要することとするときはその旨(譲渡制限新株予約権:243Ⅱ②参照) 一定の条件が生じたことを条件として新株予約権を取得する旨(取得条項付新株予約権:273以下参照) 合併・吸収分割・新設分割・株式交換・株式移転において新株予約権の承継に関する事項 新株予約権を行使した新株予約権者に交付する株式の数に1株に満たない端数がある場合においてこれを切り捨てるものとするときはその旨 新株予約権証券の発行(発行しない場合は不要) ⑪ 新株予約権証券(発行する場合)の記名式と無記名式の転換に関する事項(証券の種類により譲渡方法等が異なる:254以下参照)
新株予約権と敵対的買収の事前予防策 既存株主や友好関係にある者(取引会社等)に対して、無償で新株予約権を発行し、行使価額も低く設定しておく。その際、新株予約権の行使の条件を「特定の株主が一定の割合(例:15%)の株式を保有したとき」、または「公開買付(TOB)が行われたとき」などと定めておく(会社法上行使の条件につき特に制限はない) 将来、大量の株式保有者や公開買付者が現れたときに、新株予約権者が権利を行使することで、敵対的買収者の株式の希釈化が生じ、敵対的買収を不成功に終わらせることができる また、取得条項付新株予約権を発行しておき、買収者が敵対的でなければこれを会社が買取る旨を定めておく場合もある
※新株予約権付社債の発行手続は、社債の発行手続ではなく、新株予約権の発行手続にしたがう(248参照) 2 新株予約権の発行 ※新株予約権付社債の発行手続は、社債の発行手続ではなく、新株予約権の発行手続にしたがう(248参照) 募集事項の決定と通知 引受の申込 割当 引受(払込)
(1)新株予約権の募集事項(238Ⅰ) 新株予約権を引き受ける者を募集する場合 募集新株予約権の内容(236Ⅰ)および数 無償発行とする場合はその旨 ②の場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額またはその算定方法 募集新株予約権の割当日 払込期日を定めるときはその期日(払込期日) 新株予約権付社債である場合:新株予約権の内容に加えて、その社債に関する事項(676) 新株予約権付社債に付された募集新株予約権の買取請求の方法に関する事項(別段の定めをするとき) ※募集事項は募集ごとに均等に定めなければならない(238Ⅴ)
(2)新株予約権の発行権限 株式会社が募集事項を決定するには、株主総会の特別決議を要する(238Ⅱ、309Ⅱ⑥) ただし、株主総会においてその決定を取締役(取締役会設置会社にあっては取締役会)に委ねることができる(募集事項の決定の委任:239Ⅰ、委任は特別決議による) 公開会社の特則:取締役会の決議で足りる(240Ⅰ、Ⅱ~Ⅳ・会施規53参照)
公開会社においても株主総会の特別決議が必要な場合(238Ⅲ、239Ⅱ、240Ⅰ) 無償発行であり、かつそれが「特に有利な条件」である場合(無償発行=有利発行ではない) 有償発行であるが、払込金額が特に有利な金額である場合 ※上記いずれの場合も新株予約権の「有利発行」 →株主総会においてその理由を説明した上で、特別決議を経なければならない
(3)株主割当 新株予約権の募集に際して、株主に持株割合に応じて新株予約権の割当を受ける権利を与えることができる(241Ⅰ) 募集事項のほか次の事項を定めなければならない(同Ⅰ①②) 株主に対して、「申込により当該株式会社の募集新株予約権の割当を受ける権利」を与える旨 募集新株予約権の引受の申込期日 株主割当を行うには原則として株主総会の特別決議が必要であるが(241Ⅲ④)、定款の定めにより、取締役の決定または取締役会の決議によることもできる(241Ⅲ①②)。また、公開会社である場合には、取締役会の決議で足りる(241Ⅲ③) 株主割当においては、株主(当該会社を除く)は原則としてその有する株式の数に応じて新株予約権の割当を受ける権利を有する(241Ⅱ) 株式会社は申込期日の2週間前までに株主に対して、①募集事項、②当該株主が割当を受ける募集新株予約権の数、③申込期日を通知しなければならない(241Ⅳ)
新株予約権の発行権限 会社形態 有利発行でない 有利発行の場合 株主割当 非公開会社 (原則) 株主総会の特別決議 株主総会の特別決議(有利発行の必要性説明義務) ・定款で取締役または取締役会に授権している会社⇒取締役の決定または取締役会決議(株主への通知義務) ・定款での授権のない会社⇒株主総会の特別決議(株主への通知義務) (取締役・取締役会へ委任) 委任は株主総会の特別決議、募集事項の決定は取締役・取締役会 委任は株主総会の特別決議(有利発行の必要性説明義務)、募集事項の決定は取締役・取締役会 公開会社 取締役会決議(株主への通知・公告義務) 取締役会決議(株主への通知義務)
(4)募集新株予約権の申込 株式会社は、募集新株予約権の引受の申込をしようとする者に対して、募集事項等所定の事項を通知しなければならない(242Ⅰ、ただしⅣ参照) 申込をする者は、その氏名・住所および引受けようとする募集新株予約権の数を記載した書面を株式会社に交付しなければならない(これに代えて電磁的方法を用いることもできる)(242ⅡⅢ)
(4)募集新株予約権の割当 会社は、申込者の中から割当を受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集新株予約権の数を定め、割当日の前日までに申込者に通知しなければならない(243Ⅰ・Ⅲ) 株式会社は割当に関して自由な決定権を有している(割当自由の原則) ただし、定款に別段の定めがない限り、募集新株予約権の目的である株式の全部または一部が譲渡制限株式である場合または募集新株予約権が譲渡制限新株予約権である場合には、割当に関する決定は、株主総会の特別決議(取締役会設置会社では取締役会決議)によらなければならない(243Ⅱ、309Ⅱ⑥)
(4)募集新株予約権の割当② 株主割当の場合:所定の申込期日(241Ⅰ②)までに申込みをしないときは、当該株主は失権する(募集新株予約権の割当を受ける権利を失う)(243Ⅳ) ただし、以上の規定(引受の申込と割当:242、243)は、総額引受(募集新株予約権を引き受けようとする者がその総数の引受を行う契約を締結する場合)が行われる場合には適用されない(244Ⅰ)
(4)募集新株予約権の引受 募集新株予約権の申込者は、会社が割り当てた募集新株予約権の数について 総額引受をした者は引き受けた募集新株予約権の数について 割当日に募集新株予約権の新株予約権者となる(245Ⅰ①②) 新株予約権付社債の場合は当該新株予約権付社債の社債権者(245Ⅱ)となる
(4)募集新株予約権の払込 有償による発行の新株予約権者は、払込期日または払込期間内(予約権の行使期間初日の前日まで)に全額の払込または金銭以外の財産全部の給付(現物給付:会社の承諾必要)をする義務を負う(246ⅠⅡ) 払込は会社の定めた銀行等の払込取扱場所で行う(246Ⅰ):払込保管証明は強制されない 現物給付に関しては、募集株式の発行におけるような規制は存在しない(権利行使に際しての現物出資は株式に準じる)
※新株予約権原簿 新株予約権に関する事項は、新株予約権原簿に記載され、株主名簿におけると同様の規制がおかれている(249~253) 詳細は省略
(5)予約権発行の差止・無効・不存在 差止請求:新株予約権の発行が法令・定款に違反し、または著しく不公正な方法により行われ、その結果、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は株式会社に対して募集新株予約権の発行を差し止めることを請求することができる(247) また、新株予約権発行の無効確認の訴えおよび不存在確認の訴えの制度も存在する(828Ⅰ④、829③)
☆参考:敵対的企業買収の対抗策と新株予約権の差止 新株予約権は敵対的企業買収の対抗手段として利用することができるが、そのような新株予約権の発行が、株主の利益を害したり、また取締役の経営支配権の維持・確保に利用されるのであれば、著しく不公正な発行方法として差止事由となる。敵対的企業買収の対抗策としては、買収が開始される以前(平時)に対抗策を講じておくという事前予防型と買収が開始された後(有事)に対抗策を講じるという事後防衛型とがある。 事後防衛型の事例として、ニッポン放送事件(東京高決平成17年3月23日判時1899・56)がある
☆参考:新株予約権の無償割当 株式会社は、全ての株主に対して、持株比率に応じて、無償で新株予約権の割当をすることができる(277条以下参照)。 ブルドックソースは、スティールパートナーズによる買収を防衛するため、新株予約権の無償割当を不平等な行使条件を付して行おうとした。スティール側は、差止請求(247)を行った。 条文の配置上、無償割当に対する差止請求の可否が問題となったが、東京地決H19.6.28は、類推適用を認めた。
3 新株予約権の譲渡・質入 新株予約権は原則として自由に譲渡することができる(254Ⅰ) 3 新株予約権の譲渡・質入 新株予約権は原則として自由に譲渡することができる(254Ⅰ) 譲渡制限付新株予約権を譲渡するには会社の承認が必要(236Ⅰ⑥) 新株予約権証券が発行されない場合 譲渡の効力は、譲渡当事者間の意思表示(合意)があればよい 譲渡の対抗要件:会社または第三者に対しては新株予約権原簿への記載・記録(257Ⅰ)
3 新株予約権の譲渡・質入 証券発行新株予約権の譲渡:意思表示+新株予約権証券の交付を要する(255Ⅰ)。 3 新株予約権の譲渡・質入 証券発行新株予約権の譲渡:意思表示+新株予約権証券の交付を要する(255Ⅰ)。 自己新株予約権の処分の場合は、意思表示のみでよく、証券の交付は事後的に(遅滞なく)行えばよい(256参照)。 株券と同様、新株予約権証券の占有者は適法な所持人と推定され(258Ⅰ)、善意かつ無重過失で新株予約権証券の交付を受けた者には善意取得が認められる(258Ⅱ)
新株予約権譲渡の対抗要件 証券発行新株予約権でない場合 無記名式:新株予約権証券の占有移転(257Ⅲ) 記名式:257Ⅱ 新株予約権取得者の氏名・名称、住所を新株予約権原簿に記載・記録(257Ⅰ):記載・記録の請求については、260条を参照(自己新株予約権についての特則259参照)。 無記名式:新株予約権証券の占有移転(257Ⅲ) 記名式:257Ⅱ 対会社対抗要件:新株予約権原簿への氏名・名称および住所の記載・記録 対第三者対抗要件:新株予約権証券の占有移転 譲渡制限新株予約権の場合は261条以下
3 新株予約権の譲渡・質入 新株予約権者は、新株予約権に質権を設定することができる(267Ⅰ) 3 新株予約権の譲渡・質入 新株予約権者は、新株予約権に質権を設定することができる(267Ⅰ) 質入の効力:意思表示による(証券発行新株予約権の場合は占有移転が必要:267ⅣⅤ) 対抗要件(会社または第三者に対して) 新株予約権原簿への質権者の氏名等の記載・記録(268Ⅰ):登録新株予約権質権者となる 証券が発行されている場合:質権者が継続して新株予約権証券を占有していること(268Ⅱ) 新株予約権原簿への記載等請求権など(269以下)
3 新株予約権の譲渡・質入 新株予約権の質入れの効果(272) 物上代位権:会社の行為により新株予約権者が受領する金銭等に及ぶ 3 新株予約権の譲渡・質入 新株予約権の質入れの効果(272) 物上代位権:会社の行為により新株予約権者が受領する金銭等に及ぶ 優先弁済権:登録新株予約権質権者(270Ⅰ括弧書参照)は、前項の金銭等のうち金銭に限り新株予約権者に代わって受領し、自己の債権の弁済に充当できる 弁済期前は供託させることができる 新株予約権付社債に付された新株予約権の質権は、権利行使により交付された株式に及ぶ
4 自己新株予約権 会社は自己新株予約権を取得(273以下)してもそれを行使することはできない(280Ⅵ):混同による消滅はしない 4 自己新株予約権 会社は自己新株予約権を取得(273以下)してもそれを行使することはできない(280Ⅵ):混同による消滅はしない 自己新株予約権の消却はすることができるが(276Ⅰ)、消却しなくても行使期間を過ぎるなど権利行使ができない状態になれば消滅する 取締役会設置会社では消却する自己新株予約権の内容・数の決定は取締役会決議による(276Ⅱ) 取締役会非設置会社では業務執行の意思決定方法に従う(348Ⅱ)
5 新株予約権の行使 新株予約権の行使により、募集株式の発行の手続によることなく、当然に新株予約権の内容たる株式が発行される 5 新株予約権の行使 新株予約権の行使により、募集株式の発行の手続によることなく、当然に新株予約権の内容たる株式が発行される 証券が発行されていない新株予約権(280Ⅰ): その行使にかかる新株予約権の内容および数 新株予約権を行使する日を明らかにして行う 証券発行新株予約権(280Ⅱ): 新株予約権証券を会社に提出 権利行使した新株予約権者は、新株予約権を行使した日に、当該新株予約権の目的である株式の株主となる(282)
5 新株予約権の行使 新株予約権の行使に際してする出資:資本充実原則 5 新株予約権の行使 新株予約権の行使に際してする出資:資本充実原則 金銭出資:払込期日に払込取扱場所に所定の価額全額を払込まなければならない(281Ⅰ) 現物出資:払込期日に所定の財産を給付しなければならない(現物出資財産が所定の価額に足りないときは払込取扱場所に不足額を払込まなければならない)(281Ⅱ) 出資の払込と会社に対する債権を相殺することはできない(281Ⅲ):予約権自体の有償発行の場合との差異に注意 現物出資に関しては、検査役の選任(284Ⅰ)がなされる等、募集株式の発行と同様の規定がある
ストック・オプション 新株予約権はストック・オプションの実施に利用される。ストック・オプションとは、取締役または使用人等が報酬として会社から一定の価額で新株を購入できる権利をいう。業績連動型報酬の一形態であって、会社の業績が拡大し、株価が上昇すれば、取得した株式を売却して利益を得ることができる。ストック・オプションが付与されることによって、取締役にとっては会社の業績を向上しようとするインセンティブになる。 報酬規制との関係については、立法者と学説とで見解が異なる(葉玉:100問第2版444p以下参照)
6新株予約権付社債 新株予約権付社債:新株予約権を付して発行された社債(2ー22) 新株予約権付社債は、社債の安全性と株式の投機性とがミックスされており、非常に魅力的なものになる。すなわち社債権者に対して新株予約権という甘味剤が与えられているので、会社にとっては普通社債よりも利率を低く定めることができる。また、社債をもって新株予約権の行使の払込にあてるとする条件を付した新株予約権付社債の発行も可能である(転換社債型)。新株予約権が行使されると、社債が株式になり、借金が減り自己資本が増えることになる。ただし、社債権者にとっては新株予約権を行使する機会がなかった場合には、利率が普通社債よりも低いため、普通社債と比べると損をすることになってしまう。
新株予約権付社債の発行 募集新株予約権の発行手続とほぼ同様である。すなわち株式会社は募集事項の決定に際して、株主総会の特別決議を要し(238Ⅱ)、ただし株主総会においてその決定を取締役(取締役会設置会社にあっては取締役会)に委ねることができる(239Ⅰ) 公開会社が新株予約権付社債の募集をする場合には、取締役会の決議で足りる(240Ⅰ)。有利発行の場合にはその理由を株主総会で説明しなければならず(238Ⅲ)、このときには公開会社であっても株主総会の特別決議を要する(240Ⅰ、238Ⅱ、309Ⅱ⑥) 新株予約権付社債に付された新株予約権の数は、当該新株予約権付社債についての社債の金額ごとに、均等に定めなければならない(236Ⅱ)
新株予約権付社債の譲渡 新株予約権の譲渡と同様である(証券を発行しない場合や記名式または無記名式の証券を発行する場合など) しかし、新株予約権のみまたは社債のみの譲渡をすることはできない(ただし、どちらか一方が消滅した場合はもう一方を譲渡することができる(254ⅡⅢ)