災害時要援護者の避難支援と 地域における促進のあり方について
自然災害と避難行動
+ 災害とは何か? 災害因 人間社会 災害の発生 (自然現象) 風水害 土砂崩れ 地震 津波 火山活動 等 人間社会に対する 破壊的なインパクト (自然現象) 風水害 土砂崩れ 地震 津波 火山活動 等 人間社会 個人の生命・財産の損失 社会システムの機能不全 インフラストラクチャーの破壊 + 個人・社会が脆弱性を有するとき
自然災害に対する対応の仕方 災害因(自然現象)に働きかけることで、未然に発生を予防したり軽減する (例:地震・火山・台風そのものの制御) (例:地震・火山・台風そのものの制御) →現在の科学技術では不可能 災害因が人間社会に及ぼす影響(破壊)を最小限に抑える (例:耐震補強・避難体制の整備) →現在において可能な対処方法 「病気」にたとえればわかりやすい
耐震改修の話 阪神・淡路大震災における死因は「倒壊」によるもの 「倒壊」によって、火災・道路の不通など負の連鎖が起きる 地震による損害は、「家屋の倒壊」を防ぐこと(=耐震改修)で大半の抑制が可能である 自治体によっては、住宅の耐震診断・改修費用の一部を助成しているところもある ただし、持ち家の再建をするには「地震保険」の加入が不可欠(被災者生活再建支援法:最大300万円はあっても、それだけでは足りない)
兵庫県における人的被害(死者)の原因
避難体制の整備の話 どれだけ家屋を補強しても、風水害や土砂災害、津波には対応できない。 ただし、なかなか避難というアクションをしてくれないのが現状。 とくに、高齢者・障害者の方が避難するに当たっては危険が増大するので、特別な配慮が必要となっている。 地域的な取り組みが求められている。 とにかく逃げるに限る!! 病気のはやっているところには行かない
なぜ逃げないのか?その1 ―災害情報の「伝達」と「到達」 なぜ逃げないのか?その1 ―災害情報の「伝達」と「到達」 「(送り手からの=行政)情報伝達」と「(受け手の=住民)情報到達」は話の次元が異なる 防災に対して「伝達」された情報が、受け手の認知や態度、行動に変容が生まれたときに、その情報は受け手に「到達」したと見なされる 情報を伝達はしたが、住民には到達していなかったというのでは、無意味に帰してしまう ・避難情報の意味を理解しているのか ・避難場所を普段から知っているのか ・行政と住民との共通認識・理解の必要性
なぜ逃げないのか?その2 ―災害心理学からの検討 なぜ逃げないのか?その2 ―災害心理学からの検討 それぞれ、「病気」に置き換えることができる 正常性のバイアス(=偏見) →ある程度の異常は、正常と判断(警報・避難勧告慣れしてしまう)=人間、細かいことをいちいち気にしていたら生きていけない エキスパートエラー →専門家・行政の判断に依存 行動の遅れ 災害経験の有無 →「これまでは大丈夫だった」という経験が避難行動を鈍らせている 災害経験が悪影響
2003年水俣水害
実は、普段危険な場所に住んでいる人が助かって、安全な場所に住んでいる人が被害に遭っている。
まとめ―避難行動を促進する要因とは何か? ①個人のリスク認知 ハザードマップの作成・普及=自分自身のリスク情報の会得 →個人的信念の形成につながる ②規範的信念 これまでの災害体験の話=一般的なリスク回避情報の会得 →規範的信念の形成につながる 自分自身のリスク(自分が危険であるということ)を知る リスク(危険)に対して、これまではどのような対応をしてきたのかを知る ①と②が個人に把握・認識されて初めて避難行動に移る(立木茂雄教授) それぞれ、「病気」に置き換えることができる
→守るべき地域資源(まちの景観等)を住民が共有していることが防災意識の向上につながっていく その他の避難行動を促進する要因 守るべき地域資源の存在 →守るべき地域資源(まちの景観等)を住民が共有していることが防災意識の向上につながっていく 利用可能な資源の存在 →災害に対して社会的な仕組みとして資源を投入していると、防災意識を増大させる 自分には守るべき家族がいる! 死んでたまるか!! 魅力のある「まちづくり」「まちおこし」が実は防災意識の向上につながっている 近くに病院や健康セミナーが充実 災害情報が円滑に伝達される仕組みが整っている、安全な避難場所・避難経路が確保されている 等
災害時要援護者を支援する必要性
災害時要援護者とは何か? 自分だけでは、災害の認知が困難・十分かつ適切な避難行動等が出来ない人のこと 要援護者は、個人レベルで災害に対して脆弱性(vulnerability)を帯びている <津波避難において災害時要援護者(災害弱者)となりうる者の例> (津波対策推進マニュアル検討報告書5頁より) 誰でも要援護者になり得る!!
避難支援の主たる対象 災害時要援護者 高齢者 障害者 外国人 子ども 妊婦 自力での移動困難者が多い
生き埋めや閉じこめられた際の救助 自助・共助が基本 公助は期待できず 地域での避難支援が必要となる!! 日本火災学会「1995年兵庫県南部地震における火災に関する調査報告書」(室崎益輝執筆分)
個人情報の取扱について考えておく必要がある!! 災害時要援護者の情報共有の必要性 災害時要援護者の避難を支援するために、地域内での情報共有が必要 なぜ情報共有が必要なのか? 潜在的要援護者の把握ならびに支援を可能にする + 現に存在している要援護者について、支援体制が整っているのかを確認する 防犯や福祉にも応用が可能 個人情報の取扱について考えておく必要がある!!
当事者の悩み1 法的制裁を受けるのではないか 当事者の悩み1 法的制裁を受けるのではないか
個人情報保護のあり方の原則 個人情報のあり方に関していえば、原則として、情報の取得にあたっては利用目的を明確化し、「本人の同意」の上で情報を収集するというプロセスを経なければならない。 取得した情報を、他の部局・警察・消防ならびに自主防災組織・民生委員等に提供する際にも、「本人の同意」が必要。 要するに、個人情報の収集・利用・第三者提供について「本人の同意」を得ていれば法的に問題になることはない。 ↓ 地域においては、非常時以外は常に「本人の同意」を得ながら避難支援台帳の作成・管理をしなければならない!!
個人情報保護が問題になる場合 「本人の同意を得ずに」個人情報を利用したり、外部に提供したりする場合に問題になる。 市町村が行う可能性がある もう一つは、一度収集した個人情報をきちんと管理が出来ていないと、「個人情報の漏洩」が起きてしまう。 市町村が行う可能性がある (悩み2) 地域が抱えている問題の一つ (悩み3)
当事者の悩み2 どこに要援護者がいるのか
個人情報の区別 存在情報と支援情報 要援護者存在情報(存在情報) 要援護者支援情報(支援情報) ここさえ情報共有が出来ていないのが現状 個人情報の区別 存在情報と支援情報 本人の同意は不要の場合あり (ただし、セキュリティーの確保が必修条件) 要援護者存在情報(存在情報) 要援護者の氏名 住所 性別 生年月日 連絡先 要援護者であることを示す情報など ここまで整備して、はじめて台帳が完成したといえる!! ここさえ情報共有が出来ていないのが現状 さきほど、存在情報といいましたが、補足的な説明と致しまして、要援護者の情報には存在情報と支援情報があるということを紹介しておきます。御覧の通り、本人の同意が不要なのは存在情報に限られます。 要援護者支援情報(支援情報) 要援護者の避難場所 避難経路 避難後の医療・福祉的配慮の必要性 避難支援者の氏名 住所 支援可能な時間帯など 本人とのアプローチがとれた後なので、 本人の同意が必要
既存の台帳(介護保険台帳 障害者台帳etc)によって、要援護者になりうる人間を把握している。 普段は、誰がどれだけ把握しているのか? 一番包括的に把握している 既存台帳の活用がポイント 行政による把握 既存の台帳(介護保険台帳 障害者台帳etc)によって、要援護者になりうる人間を把握している。 専門家(民生委員・地域包括etc)による把握 日常の業務の範囲で、主に高齢者・障害者に関する情報を把握している。 行政・地域を支援する形で活躍してほしい 災害時に一番把握していてほしい 地域による把握 日常の活動の範囲で、主に高齢者に関する情報を把握している。
地域は避難支援の担い手となるので最終的に本人とアプローチをとることになる 個人情報(存在情報)の収集・共有の3方式 同意方式(=「ローラー作戦」「DM方式」) 堅実な方式だが、①調査対象が不在・居留守の場合、②調査対象が多すぎるとローラー作戦は不完全に終わる 最近は、ダイレクトメール(DM)を活用している市町村もある。 それぞれ一長一短はあるものの、これらの3つの方式を地域の事情に応じて使い分けをしていく 手上げ方式(=「呼びかけ作戦」) 要援護者が自主的に申し出てくれるので理想的な方式だが、①避難支援制度の存在を認識し、②自分が要援護者であることを自覚しないと、呼びかけには応じてくれない。 関係機関共有方式(=「既存台帳活用作戦」) 本人の同意を得ないで、既存のデータ(介護保険等)を活用 あらかじめ、どこに要援護者がいそうかを市町村等が知らせてくれるので、負担が軽減される。ただし、居場所を知らせる行為が個人情報の目的外利用・外部提供に当たるので、法的にいかにしてクリアするのか どこにいるのかということで、存在に関する情報の収集・共有のあり方については、皆様おなじみの3方式が考えられます。それぞれ、一長一短がありますので、地域の事情によって使い分けをしていくことになります。 地域は避難支援の担い手となるので最終的に本人とアプローチをとることになる
戸別訪問や行政からの情報提供をもとに台帳作成 個人情報の流れ 存在情報を地域・行政に提供 行政 (市町村) 地域 (自主防等) 外部提供 目的外利用 介護保険台帳 要援護者台帳 身体障害者手帳交付台帳 要援護者台帳 戸別訪問や行政からの情報提供をもとに台帳作成 療育手帳台帳 精神保健福祉手帳 専門家 (民生・地域包括等) 住民 (要援護者等)
個人情報を収集・共有する正当化根拠 関係機関共有方式をいかにして正当化するのか? 情報共有の必要性 情報管理の健全性をていねいに説明すれば、理由付けは可能である!! 本人の同意を得ないで目的外利用・外部提供が許される場合(市町村個人情報条例に存在する例外条項) ① 「明らかに本人の利益になるとき」 →切迫した状況下 あくまでも災害直前・直後における話 ② 「特別の理由」「相当の理由」「公益上の理由」 →どのようにしてこれらの理由を見いだしていくのか? 一度は要援護者にアプローチをかけ、生き残ることが困難であることを認識してもらった上で、個人情報の共有に同意をすることで生き残りを図るという選択肢を選ぶ「チャンス」が与えられるべき 憲法13条 生命の保護 自己決定権の確保 法的な制裁を受ける可能性が高いとかんがえられるのは、さきに述べた関係機関共有方式を実施する場合でしょう。しかし、本人の同意を得ないで目的外利用・外部提供をした場合であっても、このように、要援護者に生き残りを図る機会を与えるべきであるという視点からすれば、少なくとも要援護者とのアプローチに不可欠な存在情報の把握については、法的な正当性が認められるべきだと考えます。こういった発想は、憲法の理念にもかなっていると考えます。 結論的に言えば、法的な問題は何らかの方法でクリアできる!! 存在情報の把握に関しては、正当性が認められる 目的外利用については、どこの自治体でもやって欲しい 外部提供については、必要があればすればいい
いかにして要援護者から同意を得るのか 要援護者の所在が判明しても、本人からの同意が得られない場合がある ① なぜ自分の情報が収集されなければならないのかについての無理解 →「なぜこんな事で情報を収集しようとするのか」 ② 勝手に自分の情報が利用・提供されていることに対する不満感 →「なぜ自分がここにいることが分かったのか」 ③ 自分の情報が地域に漏れてしまう、悪用されてしまう事への不安感 →「地域に情報が漏れないか 犯罪に悪用されないか」 しかしですね、さきほどの3方式を駆使して要援護者の居場所が分かったとしても、本人が個人情報の共有について同意してくれないことが考えられます。原因としては、このような3つのパターンが考えられますが、それに対しては、情報収集の担い手に、対人能力・説明能力を付けてもらうとか、「想定問答集」を作成しておくとか、「ロールプレイング」を実施するとかして克服することが可能だと考えます。 それ以外の台帳づくりに際しても同様のことがいえる!! 情報収集の担い手に、対人能力・説明能力を付けてもらう 「想定問答集」の作成や「ロールプレイング」の実施
当事者の悩み3 要援護者に関する情報共有・管理のルールが確立していない 当事者の悩み3 要援護者に関する情報共有・管理のルールが確立していない
行政が個人情報を渡すとしても、地域での受け入れ体制が整っているのか? 総務省消防庁による調査 「市町村における災害時要援護者の避難支援対策への取り組み状況調査結果(平成20年3月31日現在)」(全国1816団体を対象) 市町村内におけるアクションについて、前年度の調査結果と比べてみると確実に実施市町村が増加 実施機関内における情報共有は進んでいるが、地域レベルでの情報収集・共有が進んでいない 行政が個人情報を渡すとしても、地域での受け入れ体制が整っているのか?
地域の状況によって、タイプを選択する必要がある 情報共有に関する市町村の関わり方 現在においては、市町村による台帳作成は中央から要請されている。 ↓ 単なる部局・課間の共有だけでなく、地域との共有も必要とされている。 個人情報を積極的に出すタイプ(行政積極型) 市町村が主体となって情報収集・共有 一度、災害に見舞われた市町村はなりやすい 個人情報を補完的に出すタイプ(行政補完型) 地域が主体となって情報収集・共有 地域では困難な部分を市町村が補完的に収集・共有 個人情報を出さなくても済むタイプ(地域完結型) 地域が主体となって情報収集・共有 地域の活動を市町村がバックアップする 地域で同意を得た情報を行政が最終的に保有すればよい 市町村と地域の台帳がバラバラでは意味がない!! そもそも、市町村がどのような形で、要援護者の避難支援であるとか、個人情報の共有に関わるのかについて、図にあるような3つのバージョンを考えてみました。見てもらいますと、共有に関して市町村が何にもしないという「地域完結型」というパターンがあるのが、この論文でのセールスポイントでもあります。 お互いの守備範囲は決めておく お見合いにならないようにする 地域の状況によって、タイプを選択する必要がある
市町村がどのようにして地域に渡すのか? ―外部提供・外部委託の手法 市町村がどのようにして地域に渡すのか? ―外部提供・外部委託の手法 本人の同意を得ずに直接地域に渡すタイプ 本人からの苦情が出てくる可能性がある!! 必要性がないのにむやみにすべきではない!! 同意を得ない外部提供 本人の同意を得てから地域に渡すタイプ 同意を得た 外部提供 行政だけで同意を得ていくタイプ DMの活用 そもそも、市町村がどのような形で、要援護者の避難支援であるとか、個人情報の共有に関わるのかについて、図にあるような3つのバージョンを考えてみました。見てもらいますと、共有に関して市町村が何にもしないという「地域完結型」というパターンがあるのが、この論文でのセールスポイントでもあります。 民生委員・地域包括などの専門家の協力を得ながら本人から同意を得ていくタイプ 外部委託方式 (小千谷・輪島)
地域はどのようにして台帳を管理すればいいのか 管理運営マニュアルの作成 個人情報であるが、基本的には「他人のお金を預かる」という感覚で扱えばよい ・基本的には、地域のみんなで作成することが大事 ・マニュアルは、作成した人間でないと分からない ・防災についての議論が展開される場・チャンスになる ・優良事例や行政によるアドバイスを参考にする ・他人のお金はむやみに机の上にほったらかしにはしない ・他人のお金は勝手に使ったり・人に渡したりはしない
当事者の悩み4 避難支援のなり手がいない
最終目標としての「なり手」の確保 要援護者の存在情報を集め、存在情報を地域で共有し、地域において避難支援のなり手を確保してはじめて、要援護者台帳が完成したといえる… ただし、実際はなり手がいないことも多く、結局は自治会役員や民生委員がなり手になる… 避難支援者が公費で保険に入れる自治体もある 中学生や元気な高齢者もなり手になりうる!! 避難支援者を増やすインセンティブにもなり得る!! 普段からの声かけのなり手という意味も含んでよい 防犯・福祉という側面
まとめ 自然災害に対しては、耐震改修と避難行動の二つの対応 自分自身が危険であることとそれに対する対処法を知る 災害時要援護者を支援するには地域での周知が必要 周知のためには個人情報を取り扱わなければならないが、法的な問題はクリアーされている 地域でいかに個人情報を受け入れる体制を整えるかが課題 台帳の「記録」も大事だが、地域における「記憶」が大事