筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター 古川 純 食と放射能に関する説明会 株式会社幸和様 平成29年1月12日 放射線の生体影響と 食品に含まれる放射性物質 1.放射能と放射線 2.日常受ける自然放射線と人工放射線 3.放射線の人体影響 4.食品に含まれる放射性物質 5.除染と今後の暮らし 筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター 古川 純
分子、原子、原子核 同じ元素(陽子数が同じ)で中性子 分子 数の違うものを同位体という。今日 知られている同位体は3000種以上 あり、核には安定なものと不安定な ものがある。 分子 電子 中性子 陽子 原子 原子核 原子では原子核の周りを電子が回っている。原子核は陽子と中性子から構成される。原子では陽子と電子の数は等しく、元素の種類は陽子の数によって決められている。
放射線、放射能、放射性物質 不安定な原子核 → 安定な原子核に変化(原子核の変化) 放射線:不安定な原子核が安定な元素になろうとして放出 不安定な原子核 → 安定な原子核に変化(原子核の変化) (陽子に対して中性子 この時、放射線を放出 の数が多すぎたり少な すぎる原子核) 放射線:不安定な原子核が安定な元素になろうとして放出 する粒子や電磁波(光子) 放射能:放射線を出す能力をいい、これを持つのが放射性 物質 放射能が出ている? → 放射線が出ている 放射能漏れ? 放射能汚染? → 放射性物質漏れ 放射性物質汚染
主な放射線の種類 α線 Heの原子核:飛ぶ距離が短く、周囲の細胞のみが被ばく β線 電子:皮膚に付いた時や体内に入った時1mm以内が被ばく γ線、X線 電磁波:体内、体外に関係なく被ばく 中性子線 中性子:核分裂で生成し、より遠くまで届き被ばく
放射線の透過作用と遮蔽 131I 137Cs α線(α粒子) β線(電子) γ線,X線 (電磁波) 中性子線 (中性子) 1mm厚 α線は光速の1/10で移動 β線は光速の1/2で移動 γ線は光速で移動 α線(α粒子) β線(電子) 131I 137Cs γ線,X線 (電磁波) 中性子線 (中性子) α線を止める β線を止める γ(X)線を止める 中性子線を止める 1mm厚 アルミニウム 1.5cm厚鉛 水やコンクリート 紙1枚 原子力図面集2005年、原子力防災基礎用語集より
放射線とは、高いエネルギーを持つ、粒子・電磁波 電磁波のスペクトル がん治療 FMラジオ TV 赤外線コタツ 日焼け 長 波 中 波 短 波 超短波 マイクロ波 ミリ波 赤外線 紫外線 線 X γ 可視光 103 105 107 108 1010 1012 1014 1015 1016 1018 ・ 周波数 [Hz] X線CT X線写真 カラー写真 AMラジオ MRI 電子レンジ 放射線とは、高いエネルギーを持つ、粒子・電磁波
単位 放射能の単位 放射線の単位 不安定原子核が単位時間当たりに変化(壊変)する回数:壊変率 不安定原子核が単位時間当たりに変化(壊変)する回数:壊変率 Bqベクレル(壊変数/秒):1秒に何個の核が変化するか この壊変率で放射能が表わされる 放射線の単位 吸収線量:物質が吸収する放射線のエネルギー量(J/kg): Gy グレイ 1Gy = 1J/kg 等価線量:人体の臓器ごとの被ばく量を示す:Svシーベルト 吸収線量×放射線加重係数 吸収線量が同じでも受ける放射線の種類によって 影響が異なるための補正を行った値 放射線加重係数: β線, γ線, X 線=1, 中性子線=5~20, α線=20 実効線量:等価線量を組織ごとに出し組織加重係数をかけて全身への 影響に換算した被ばく量:Svシーベルト
コラム:単位のとらえ方 放射線を出す ベクレル(Bq) グレイ(Gy) 放射線を受ける シーベルト(Sv) (イメージ) 雨がどのくらい 降っているのか? (雨の量) ベクレル(Bq) 放射性物質の量 雨にどのくらい濡れてしまったか? (濡れてしまった量) グレイ(Gy) 放射線を受ける 吸収した放射線の量 濡れたことで人の体にどのくらいのダメージがあるのか? 風邪?肺炎? シーベルト(Sv) 放射線による人体 への影響
1.放射能と放射線 2.日常受ける自然放射線と人工放射線 3.放射線の人体影響 4.食品に含まれる放射性物質 5.除染と今後の暮らし 1.放射能と放射線 2.日常受ける自然放射線と人工放射線 3.放射線の人体影響 4.食品に含まれる放射性物質 5.除染と今後の暮らし
自然から浴びる放射線 Na C Be H 宇宙 Rn 空気 C K 食物 U Th K 地面 呼吸で 内部被ばく 外部被ばく 摂取による 24 11 Na 14 6 C 7 4 Be 3 1 H 宇宙 ふりそそぐ 水素の原子核 大気圏にある 物質の原子核 自然から浴びる放射線 222 86 Rn 220 空気 呼吸で 内部被ばく 外部被ばく 14 6 C 40 19 K 食物 摂取による 内部被ばく 外部被ばく 238 92 U 232 90 Th 40 19 K 地面
コラム:内部被ばくと外部被ばく 影響同じ! 放射性物質が体内から出るまで被ばくし続ける 放射線源から離れれば、 それ以上被ばくしない 内部被ばく、外部被ばくそれぞれ“1 Sv”浴びた場合の影響の度合いは? 放射線源から離れれば、 それ以上被ばくしない 影響同じ! 内部被ばくでも外部被ばくでも 放射線が違っても 放射性物質が体内から出るまで被ばくし続ける
コラム:日本各地の自然放射線量は? 日本国内で自然放射線の岐阜県の年間1.19ミリシーベルトと、神奈川県の年間0.81ミリシーベルトでは、年間約0.4ミリシーベルト(1.5倍)もの違いがある。 低 高
自然放射線と人工放射線による被ばく 外部被ばく線量には地域差があり、 日本では西日本が高い (花崗岩の露出した所が多い) 外国には自然放射線量が10mSv/年 を超えるところもある 線量は高度に依存する 12,000mで5μSv/時 (東京-ニューヨークの往復飛行で 約0.2mSv)
原発事故とは関係なく日常の生活で摂取される 放射性物質の量 天然放射性核種 40K: 50 Bq/日(人体は常時これによる内部被ばくを受ける) 238U: 5 Bq/年, 232Th: 1 Bq/年, 230Th: 1 Bq/年, 226Ra: 10 Bq/年, 210Pb: 80 Bq/年, 210Po: 220 Bq/年 人工放射性核種 90Sr: 25 Bq/年, 137Cs: 23 Bq/年, 239Pu+240Pu: 0.07 Bq/年 放射性Csと放射性Kによる内部被ばく影響 放射線の種類やエネルギーおよび生物学的半減期に違いは あるが、体内に存在する場合、放射能(Bq)が同じであれば、 ほぼ同程度の人体影響を与えると推定される
放射線・放射能は自然界の一部でもある 地球誕生の前からある天然の放射性物質 カリウム40、ウラン、トリウム、ラジウム、ラドン・・・ カリウム40、ウラン、トリウム、ラジウム、ラドン・・・ 太陽や遠い銀河系から届く宇宙線 宇宙線が大気に当たってつくる放射性物質 炭素14、ナトリウム22、トリチウム(三重水素)・・ 天然自然の放射線や放射能は安全で人工のものは危険、ということはない。体内への蓄積性は元素の性質で決まり、放射性であるかどうかは関係しない 安全かどうかは、放射線の量(体の中の細胞が傷つく度合い)による。現在われわれが受けている放射線にプラスしてどれだけ被ばくが増えるかが問題
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放射線による人体への影響 脱毛・不妊 など 急性障害 確定(非確率)的 影響 (しきい値がある) 胎児発生の 障害 身体的影響 精神遅滞 白内障 晩発障害 ガン・白血病 確率的影響 (しきい値がな いと仮定) 遺伝的影響 遺伝的障害(先天異常) ※しきい値・・・ある線量以下ならば安全であるという限界線量
人体影響の分類 確定的影響 確率的影響 しきい値 = 影響のある下限値 100 発生確率(%) 頻 度 (%) 50 線量 線量 しきい値 = 影響のある下限値 線量 発生確率(%) 10 5 比較的大線量(おおざっぱに100 mGy以上) 数時間~数週間で症状。数年後経ってからも 白血球減少、不妊、脱毛、紅斑、白内障、 胎児奇形 など 高線量はもちろんのこと、100~200 mGy以下の線量でも発生を否定できない。 発がん、遺伝的影響 ⇒これまでに原爆被ばく者を含め、 ヒトでは遺伝的影響は観察されて いない。 ⇒ これまで、1回あるいは短期被ばく場合、 100 mGy未満のしきい値の報告なし。 累積線量で100 mSv以下の放射線の影響に関して問題にすべきは発がん影響であると考えられている。
確定的影響 放射線を浴びて間もなく現れる影響の症状と浴びた線量との 関係(ガンマ線またはX線を一時に全身に浴びたとき) 急性障害 ・吐き気や脱毛、貧血、火傷 ・機能を担う細胞数の減少による ・しきい値以下では全く起こらない 放射線の量(mSv) 症 状 250以下 医学的検査で症状が認められない 250 白血球が一時的に減少するしきい値 500 白血球が一時的に減少し、やがて回復 1,000 吐き気、嘔吐、全身倦怠、リンパ球著しく減少 1,500 50%の人が放射線宿酔(二日酔に似た症状) 2,000 5%の人が死亡 4,000 30日以内に50%の人が死亡 6,000 2週間以内に90%の人が死亡 7,000 100%の人が死亡
放射線に対する組織の感受性の分類 組織を構成する細胞の分裂様式により、感受性の異なる3つの グループに分類できる。一般的に分裂能力(分裂速度、分裂可能 回数)の大きい細胞、未分化の細胞を含む組織が感受性が高い。 1)細胞再生系(分裂系): 高感受性 幹細胞が存在し、常に盛んな細胞分裂を行っている組織: 造血細胞、腸管上皮、皮膚、毛のう、水晶体、精巣 2)潜在的再生系(条件的再生系): 中感受性 普段は分裂しないが、損傷を受けると分裂を開始する組織: 肝臓、腎臓、膵臓、甲状腺 3)非再生系(非分裂系): 低感受性 一度出来上がったら分裂しない組織: 神経、筋肉
確率的影響 ・「確率的影響」のうち「遺伝的影響」は、これまで人間(広島、 長崎の原爆被ばく者や核実験被ばく者、チェルノブイリなどの 原発被ばく者を含む)で見られたことがない。 ・「確率的影響」のうち「発がん」の確率は、1 Sv(1,000 mSv) の瞬間全身被ばくで5%程度上昇すると見積もられている。 ただし、100 mSv以下では発ガンの増加を検出できない。 ・「発がん」が起こる確率は、低い量の被ばくであっても放射線の 量に応じて増加する可能性があると仮定して、必要のない放射線 をできるだけ浴びないようにする、という考え方が重要とされる。 用心のためしきい値がないとして取り扱っており、低線量被ばく で可能性のある人体への影響としては「発がん」が中心となる。
胎児への影響 影響 しきい線量/確率 問題となる被ばく時期 確定的影響 胚死亡(流産) 100 mSv 受精~9日 奇形 受精後2~8週 精神発達遅延 120 mSv 受精後8~25週 発育遅延 確率的影響 小児ガン 成人の確率 (0.05/Sv) の2~3倍 すべての時期 1 Sv(1,000 mSv)被ばくした場合、放射線が原因で将来ガンになる 確率は、成人では100人に5人であるが、胎児のときに被ばくすると 10~15人が小児ガンになる確率。 100 mSvでは実際には増加は見られない。
放射線によるDNAの切断 間接作用: 直接作用: 水分子に電子が当たり活性酸素 が発生し、DNAが損傷 X線、γ線、β線の主な作用 放射線 H e OH・ O p + S-A T-S P H P S-C G-S P ・DNA鎖の切断 P S-T A-S P P S-G C-S 放射線 ・DNA塩基変異の導入 e p + 直接作用: 物質に当たって飛び出した電子 が直接DNAに当たって損傷 α線、中性子線の主な作用 10A ・ 20A ・
二本鎖切断は重篤な損傷であり、生物影響はその頻度に依存する 切断DNAの修復 傷 自然発生 放射線由来 (/細胞/日) (/細胞/Gy) 塩基損傷 20,000 300 1本鎖切断 50,000 1,000 2本鎖切断 10 30 (『基礎から学ぶ緊急被曝ガイド』 より引用改変) 二本鎖切断は重篤な損傷であり、生物影響はその頻度に依存する
放射線による細胞への影響 放射線 正常細胞 DNA損傷 (わずか) (ほとんど全て) 修 復 (極めてわずか) 修復に成功 修復に失敗 細胞が死を免れても放射線によるDNA損傷が突然変異として存続することがある。ただし、放射線による特有の突然変異があるわけではなく、自然でも起こりうる変異の確率が上がる。 体細胞突然変異: 発ガンの原因 生殖細胞突然変異: 子孫への遺伝的影響 放射線 正常細胞 DNA損傷 (わずか) (ほとんど全て) 修 復 (極めてわずか) 修復に成功 修復に失敗 突然異変 正常細胞 細胞死/アポトーシス 細胞のがん化
コラム:放射線量の違いによる影響をイメージ 回復 1 mSv ある臓器 2 mSv 回復 100 mSv 機能喪失 形態異常 細胞には回復能力がある。低線量で長期に浴びたほうが、一度に浴びた場合(広島・長崎)に比べて、その確率的影響は1/2~1/10くらいに頻度が低くなる。 生物学的には、細胞の修復機能が証明されており、 少しずつ被ばくする場合の影響は小さいと考えられる。 ただし、放射線防護の基本的な考え方では、修復を考慮しない。
コラム:放射線によるリスクを感覚的に知る ※相対リスク:目的のグループが何もしていないグループに対し、 どのくらいがんに罹患するリスクが高いかを示したもの。 低 高 放射線(生涯被ばく線量) 100 mSv未満 100-200 mSv 野菜不足 受動喫煙 (非喫煙女性) 200-500 mSv 肥満 (BMI≧30) やせ (BMI<19) 高塩分食品 運動不足 500-1000 mSv 飲酒 (毎日2合) 1000-2000 mSv 飲酒 (毎日3合) 喫煙 検出不可能 1.01~1.09 1.10~1.29 1.30~1.49 1.50~2.49 相対リスク (国立がんセンターHPより引用改変)
高自然放射線地域における放射線の影響 低線量放射線安全評価情報HP http://ciscpyon.tokai-sc.jaea.go.jp/dresa/dresa/index.htm
福島県での推定外部被ばく線量(事故後4ヶ月間) 飯館村、浪江町、川俣町の住民 1,589人の外部被ばく線量を 放射線医学総合研究所が推計:平成23年12月23日発表 1 mSv 未満 63 % 1~2 mSv 23 % 2~3 mSv 8 % 3~5 mSv 3 % 5~10 mSv 2.4 %(38人) 10 mSv 以上 0.3 %(4人, 最高値 14.5mSv) 弘前大などの研究:平成23年9月8日新聞報道 住宅地で最も高い線量を示した浪江町赤宇木地区の住民の推定値 避難までの2ヶ月で約50mSv、年間被ばくは最大で68mSv → 今後の健康影響調査の基礎となる
コラム:低線量発がんのリスク評価 しきい値なし直線モデル (Linear Non-Threshold:LNT) 高線量 領域 100~4000 mSvでは障害の発生が直線的に増加すると立証されている 線量 発がん率 自然発生 レベル しきい値なし直線モデル (Linear Non-Threshold:LNT) ⇒ 少ない被ばくがあっても、それに比例した 影響が出るとの説 高線量 領域 (『低線量放射線と健康影響』より引用改変)
コラム:低線量発がんのリスク評価 ホルミシス効果仮説 高線量 領域 100~4000 mSvでは障害の発生が直線的に増加すると立証されている 発がん率 自然発生 レベル ホルミシス効果仮説 ⇒ 免疫力が活性化され有益という説 高線量 領域 (『低線量放射線と健康影響』より引用改変)
コラム:低線量発がんのリスク評価 バイスタンダー効果仮説 高線量 領域 100~4000 mSvでは障害の発生が直線的に増加すると立証されている バイスタンダー効果仮説 ⇒ 被ばくした細胞から被ばくしなかった周辺 の細胞に遠隔的に被ばく情報が伝えられる という説 線量 発がん率 自然発生 レベル 高線量 領域 (『低線量放射線と健康影響』より引用改変)
コラム:低線量発がんのリスク評価 しきい値あり仮説 高線量 領域 100~4000 mSvでは障害の発生が直線的に増加すると立証されている 発がん率 自然発生 レベル しきい値あり仮説 ⇒ 低線量被ばくにもしきい値が 存在するという説 高線量 領域 しきい値(数十mSv) (『低線量放射線と健康影響』より引用改変)
1.放射能と放射線 2.日常受ける自然放射線と人工放射線 3.放射線の人体影響 4.食品に含まれる放射性物質 5.除染と今後の暮らし 1.放射能と放射線 2.日常受ける自然放射線と人工放射線 3.放射線の人体影響 4.食品に含まれる放射性物質 5.除染と今後の暮らし
食品などに含まれる 自然放射能 遮蔽箱の中でイメージングプレートの上に試料を置き、1ヶ月間露出することによって得られた像。野菜や人体にはカリウムの放射性同位体40Kが含まれる。半減期が約13億年で、元素誕生以来存在する。これから放出されるエネルギーの高いベータ線の放出分布像。 上から順に 豚肉 バナナ(縦切) バナナ(横切) ショウガ
食物中の40Kの放射能(Bq/kg) 40Kの天然存在比:0.01% 人体の中の自然放射能 40K :67Bq/kg 体重60kgの人で4100Bq 14C :41Bq/kg 体重60kgの人で2600Bq
1/T = 1/Tb + 1/Tp 生体に影響を与える半減期 例) T :実効半減期 代謝・排泄により体内量が 1/2になるまでの時間 Tp :物理学的半減期 放射性崩壊によって放射性核種の原子数が1/2になるまでの時間 例) Cs-137 1 相対量 物理学的半減期 1/2 生物学的半減期 実効半減期 30y 150d 時間 100d
読売新聞2015年8月10日
放射性物質の陸上での移行経路 汚染源 大気 農作物 人体 土壌 飛散 外部および内部被ばく 吸入 付着 食事 降下 吸収 吸入 大気中に放出された核種は、移動中に減衰するか、あるいは比較的短期間で地表面に沈着する。その後、陸上表層の核種は一般的には長い期間をかけて減衰し、その地域に住んでいる人々に外部被ばくを与える可能性がある。また、食物の摂取や吸入による内部被ばくの可能性がある。
大気中を移動した放射性物質で汚染されたコムギ H23.5.26採取 福島県 青矢印:2011.3.20ごろに展開していなかった葉 きぬあずま ゆきちから Tanoi et al., RADIOISOTOPES, 2011
土壌の汚染と玄米の汚染 二本松は棚田 稲葉、東日本大震災後の放射性物質汚染対策(NTS出版)より
土壌中カリウム濃度と玄米中のセシウム濃度 暫定規制値を超過した放射性セシウムを含む米が生産された要因の解析(中間報告)より (福島県、農林水産省)
土壌中の養分バランスにセシウム吸収は 影響される 窒素施肥量2倍 -K:カリウム施肥なし 通常の窒素施肥量 no:施肥なし ヒトメボレ Normal:通常の施肥 -K+2N:カリウム施肥なし 窒素施肥量2倍 -K:カリウム施肥なし 通常の窒素施肥量 no:施肥なし Normal -K+2N -K no ヒトメボレ コシヒカリ Ohmori et al. JPR, 2014
農林水産物モニタリングの結果 (『食品と放射能Q&A(第9版)』より引用改変)
農林水産物モニタリングの結果 (『食品と放射能Q&A(第9版)』より引用改変)
農林水産物モニタリングの結果 (『食品と放射能Q&A(第9版)』より引用改変)
食品中の放射能と内部被ばくの関係 内部被ばくにおける実効線量(預託実効線量)の計算法 外部被ばく線量を考える場合には放射線にさらされた期間だけを考えればよいが、内部被ばくの場合には、放射性物質が体内に取り込まれてから排泄される、または、減衰するまで臓器が放射線にさらされ続けるので、その期間の量を計算する必要。そこで摂取してから50年間に受ける量を積算し、しかも、それを最初の1年間で全ての線量を受けたとして、その値を「mSv/年」で示す。 実効線量係数の例(成人、経口摂取) 131I : 2.2 x 10-5 mSv/Bq (0.022 μSv/Bq) 137Cs : 1.3 x 10-5 mSv/Bq (0.013 μSv/Bq) 134Cs : 1.9 x 10-5 mSv/Bq (0.019 μSv/Bq) 例:100 Bq/kgのセシウム137を含んだ食品を毎日100 gずつ 1年間食べ続けた場合の預託実効線量は0.047mSv/年 100 (Bq/kg) X 0.1 (kg) X 365 (日) X 1.3 x 10-5 (mSv/Bq) = 0.047 (mSv/年)
食品中の放射能と内部被ばくの関係 摂取してから50年間(成人、子供は70歳まで)に受ける量を積算し、その上で、その線量を最初の1年間で全て受けたとして、その値を「mSv/年」で示した影響 = 預託実効線量 (『食品と放射能Q&A(第9版)』より引用改変)
放射性セシウムに係る摂取基準値 平成23年12月22日 厚労省審議会了承 平成24年 4月 1日 適用 放射性セシウムに係る摂取基準値 平成23年12月22日 厚労省審議会了承 平成24年 4月 1日 適用 ・食品からの放射性セシウムによる許容被ばく線量を暫定規制値の 年間 5mSv から 1mSv に変更 ・1mSvのうち飲料水からの被ばくを0.1mSv, その他食品(コメ、 卵、肉類、野菜など)からのそれを0.9mSv以内に抑える ・飲料水は一日2L飲むと仮定、一般食品は年代毎の摂取量を推定 し、最も摂取量が多い13~18歳男子で1年間食べ続けた場合で も値を超えないように設定 < 基準値 > 飲料水 10 Bq/kg 一般食品 100 Bq/kg 牛乳・乳児用食品 50 Bq/kg
朝日新聞2012年1月19日
食品中の放射性物質から受ける線量 陰善方式による推定年間放射線量 (『食品と放射能Q&A(第9版)』より引用改変)
Whole Body Counter:WBC ホールボディカウンター Whole Body Counter:WBC 内部被ばく線量を調べるために、人間の体内に摂取され蓄積された放射性 物質(ガンマ線放出核種)の量を体外から測定する装置。体内に存在する 微量の放射能の定量、あるいは人体内の放射能分布の測定に利用されている
ホールボディカウンターによる内部被ばくの無い人のスペクトル ホールボディカウンターによる測定例 ホールボディカウンターによる内部被ばくの無い人のスペクトル 体の中の40Kからのγ線だけが見える
軽度の内部被ばくをしている人のスペクトル ホールボディカウンターによる測定例 軽度の内部被ばくをしている人のスペクトル
数万人に一人見つかっている内部被ばくの多い人のスペクトル ホールボディカウンターによる測定例 数万人に一人見つかっている内部被ばくの多い人のスペクトル 20,000 Bq/body, 1日の平均摂取量140 Bqと推定
相馬市、南相馬市でのホールボディカウンター による測定の状況 2012年9月22日 朝日新聞デジタル版 東京大学医科研坪倉医師の報告 ・99.9%以上の小学生が検出 限界以下を維持 ・1960年代の数年以上も続い た大気中核実験中の日本人の 平均値を下回っている ・チェルノブイリ事故1年後の フランスやドイツの一地方に おける日常的な内部被ばく量 より、現在の浜通りの住民の 内部被ばく量の方が少ない ホールボディカウンターによる 日本人の体内137Csの測定
検査(受診)月別セシウム検出率の推移 南相馬市民のWBCによる内部被ばくの測定: 産経新聞2016年2月22日 南相馬市民のWBCによる内部被ばくの測定: 時間と共に放射性Csが検出される人の割合が減少(排泄により徐々に減少、 追加の内部被ばくは抑えられている:日常の生活での慢性被ばくが少ない)
ホールボディカウンタでの測定結果から (福島県で実施、対象は主に福島県民、茨城県牛久市民) (福島県で実施、対象は主に福島県民、茨城県牛久市民) ・平成24年4~6月における福島県の12歳以下小児での検出率(検出限界 を超えて検出されたもの)は 0.1%(約6,000名中6名、3名は同一家族) ・平成24年7月~9月の茨城県牛久市民4,000名(内15歳以下82%)を 対象にした検査。検出なし ・セシウムは排泄される:年齢が低いほど、男性より女性で、 また妊婦でより排泄が早い ・日常での追加内部被ばくは抑えられている。 南相馬市:スーパーで食品の産地を選んでいる人といない人で 内部被ばくに差なし。また、水道水を飲んでいる人とミネラル ウオーターを飲んでいる人で差なし ・空間線量と内部被ばくの相関はみられない。内部被ばくはほと んど食品由来、数万人に一人みられる内部被ばくが高く線量の 下がらない人:野外で採取したしいたけなどのキノコ類、野生 動物の肉など未測定のものを常時食べている。
放射性ヨウ素による甲状腺被ばく量の測定結果 平成23年8月17日:原子力対策本部発表 ・福島県の子供1,150人を対象とした甲状腺内部被ばく検査 3月24日~30日実施 ・45%で被ばくが確認(55%は検出限界以下) 0.01 μSv 26% 0.02 μSv 11% 最高値 0.10 μSv 平成24年3月9日:新聞報道 ・原発周辺から非難した方および浪江町に残った方65人の調査(弘前大) ・実測値から3月の被ばく時の甲状腺の被ばく線量を計算 ・50 mSv超えが5名(最高値 87 mSv) これまでの医学的研究:50 mSv の被ばくをもたらす放射線 照射で甲状腺ガンの発生率増加なし ヨウ素による内部被ばくの年間線量限度 50 mSv 甲状腺ガンのリスクが高まる可能性を考え、注視する必要
1.放射能と放射線 2.日常受ける自然放射線と人工放射線 3.放射線の人体影響 4.食品に含まれる放射性物質 5.除染と今後の暮らし 1.放射能と放射線 2.日常受ける自然放射線と人工放射線 3.放射線の人体影響 4.食品に含まれる放射性物質 5.除染と今後の暮らし
これからの暮らしと放射線 放射性物質とのつきあいは長くなるが、存在箇所を把握した上で、できるだけ通常の生活を 現在ある放射性物質は土壌表層の粘土に強く吸着しており、土壌中での地下浸透はおきない。地下水(井戸水)に放射性物質の汚染はなく、水道水にも含まれていない。また、空気中にはほとんどなく雨にも含まれていない。 冷戦時代の核実験によるフォールアウトの137Csは50年を経た今でも測定されるが、土壌中で20cmの深さまでは達していない。放射性Csは10年で約半分、30年で1/4になると推定(放射線量は3~4年で半減)される。 身の回りの高線量スポットの除染を通して外部被ばくをより少なく 抑える。
空間線量率と被ばく線量との関係 目標年間追加被ばく線量:1 mSv以下 (0.23 μSv/時 以下)
放射性物質の現状と生活での注意事項 子供の方が放射線感受性は高い。 余分な放射線を避け、より安心感を得るために、 ・土を触ったらよく洗い流す ・幼児が土を食べたり、なめないよう注意する ・土埃が多くたつようなところでは吸入を抑える手段をとる ・高濃度の放射性物質を含む土が見つかった場合はあわてずに 隔離する(学校等では特に配慮する) ・自治体などは地産野菜や給食についてはできるだけ測定・ 公表し、基準を超えた食品が食卓にのぼらないようにする 一方で、不安ストレス(精神的な障害)とパニック(不必要な恐怖)がおこらないようにすることも重要。冷静な判断と生活環境除染のための実際の行動が望まれる。
内部被ばくの低減とさらなる安心を得るために ・食品に含まれる原発事故由来の放射性核種の含量を知り、 摂取基準値以下であることを確認する。 ・食品には40Kを中心とした自然放射能があり、放射性物質の 摂取低減には限度があることを理解する。 それでも影響が心配な場合、 野菜:よく洗い皮をむき茹でる 茹で汁は使わない 肉・魚:煮る、煮汁は捨てて味付け用の汁などは別に作る たけのこ、野生のキノコ:しばらくは摂取を避ける 米:玄米はやめ、よく精白したものを 体のために栄養の確保は重要。