十和田湖南岸域における 一斉開花後8年間の チシマザサ個体群の動態

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十和田湖南岸域における 一斉開花後8年間の チシマザサ個体群の動態 -特に非開花集団に注目して- まずは、“十和田湖南岸域における一斉開花後8年間のチシマザサ個体群の動態“というタイトルの論文を紹介したいと思います。 所信表明ゼミが終わったばかりで疲れていると思いますので、今回はこういうことがあるよ、といった紹介をするだけにしたいと思います。 また、ネット上で見る事ができなかったので、申し訳ないですが、図とかはなく見づらいと思いますが、ご了承ください。 なんでこれをえらんだかというと、 通常、ササの一斉開花について触れるとき、花が咲く方が注目されがちなのですが、 サブタイトルにあるように、花が咲かない方に注目がされていました。 その非開花集団、も森林にとってちゃんとした役割があることを紹介したいと思います。

背景 ササの一斉開花は樹木にとって更新 のチャンス しかしササ実生との競争が必要 加えて、様々な環境に左右される。 森林の移り変わりの検証は不十分 まずは、この論文の背景です。 皆さんご存知の通り、ササの一斉開花という現象は樹木にとって更新するチャンスです。 ただ、チャンスと言っても簡単なことではなく、ササの実生との激しい競争に勝つ必要があります。 また、ササが枯死した後の環境によって、ササ群落の回復状況は違ってきます。 当然、ギャップ内であれば光環境が改善されるのでササの回復は早くなりますし、 動物の影響を考えれば、ササの枯死によりネズミ等が侵入しづらくなり、実生が守られることにつながるかもしれません。 ただ、ササの一斉枯死後の森林動態は、様々な要素が複雑に絡み合っているので、まだ検証が十分にされていません。 この論文によると、これの著者を中心とした方々によって林冠やササの状態に応じてそれぞれの環境に適した生活史戦略をもつ樹種の定着が報告され、 さらに野ネズミと植生動態との関係についても調査が進められているそうです。 その一環として、この論文では、一斉開花に伴う一斉枯死後のササ群落の変化に焦点を当てられています。

背景 一斉開花では開花集団と非開花集団 がある。(Makita 1992) ササ一斉枯死後は多様な環境が生ま れるが、 開花・非開花集団の分布も多様な環 境の創出にとって重要では? あまり注目されていない、非開花集 団に注目してみたらしい。 一斉開花の際、通常、全てが開花するわけではなく、開花集団の中に、その年に開花をしない集団が存在することが蒔田さんによって知られています。 森林動態において、ササ枯死後の林内の多様な環境が、多様な樹種の定着につながっているとすると、 開花・非開花集団のそれぞれの分布は、そのような多様な環境をつくるのに重要な要素の一つなのではないだろうか。 そういった考えから それまであまり注目されていなかった、非開花集団に注目してみたらしいです。

調査地について 秋田県の十和田湖南岸域のとあるブナ 林 1995年、広範囲にわたってチシマザサ の一斉開花が発生 1ha方形区の中に林冠状態(ギャップ/ 閉鎖林冠区)とササの状態(枯死域/非 開花域)の4種類の調査地が設定された。 ここで一斉開花以降、8年間に渡り調査 が続けられた。 調査が行われたのは、 秋田県の鹿角市(かづの)にある十和田湖南岸域の発荷峠(はっかとうげ)の西にある甲岳台(こうがくだい)付近のブナ林です。 1995年に1000haを超える規模でチシマザサの一斉開花が起きました。 このブナ林は一斉開花域のほぼ中央付近にあり、そこに200m×50mの方形区が設定されました。 さらにその中に、林冠状態が2種類、ササの状態が2種類、計4種類の調査地が設けられ、 ここを試験地として、一斉開花後8年間調査が続けられました。

開花状況と非開花個体群の動態 定めた1haの方形区の内、5900m²開花→枯 死・4100m²非開花 非開花集団の内の21%が8年以内に枯死 主要因は開花枯死(同調せずに遅れて開花) 1996以降、小規模な開花パッチが散在して確 認されている。 多くの場合、結実はほとんど認められていな い。 実生密度は、枯死域に比べて、非開花域は著 しく少ない結果も出ていた。 次は調査された結果についてです。 設定された1haの方形区の内、1995年には5900m²が一斉に開花し、4100m²が開花しませんでした。 そして、その非開花集団の内、21%の410m²が8年以内に枯死しました。 1996年以降、小規模な開花パッチが散在して確認されているらしく、そのことから稈ごとばらばらに開花する部分開花ではなく、 一斉開花に同調せず、遅れて開花したものだと考えられています。 (何かしらのインパクトがあったと考えられるが不明) そして、遅れて開花したものは、ほとんど種子をつけなかったことが確認されました。 (一応、矮小間の発生も確認されているが詳しい記述はない) おそらくその影響によるものだろうが、非開花域の実生密度は非常に小さいものでありました。 つまり、枯死後は実生のほとんどない状態のパッチが出来上がることになります。

考察・まとめ 非開花集団は、一斉枯死する集団とは異なる環境をつくり、その後の森林動態における重要な役割を持つ可能性が示唆された。 一斉枯死は森林動態にどのように影響する のか? 一斉開花した集団・非開花後に遅れて開花 した集団・非開花集団のように多様な環境 をつくる →それぞれに適応する形で多様な実生の発 生・定着が起きる(Abe et al, 2002) 以上の紹介した結果から、 一斉開花した集団と遅れて開花した集団、スライドでは紹介しませんでしたが開花しなかった集団でそれぞれ違った動態をしめす結果になりました。 樹木とササの関係のみで考えれば、一斉枯死した集団ではササ実生の成長を上回る成長速度の樹種が更新可能で、 非開花集団の内、最後まで(8年)開花しなかった集団では、それ以前同様ササにより更新は難しい状況だと考えられます。 そして、開花の遅れた非開花集団では、実生を欠くため、成長の遅い樹種でも更新が可能となります。 このようにササの一斉開花において、非開花集団は、一斉枯死する集団とは異なる環境をつくり、 一斉開花後の森林動態において多様な環境をつくるのに、重要な役割をもつ可能性が示唆されました。 これを裏付ける研究の論文は、すみません、この昼ゼミに間に合わず、まだ探せておりません。 非開花集団は、一斉枯死する集団とは異なる環境をつくり、その後の森林動態における重要な役割を持つ可能性が示唆された。

参考 蒔田明史, 安部みどり, 箕口秀夫(2004):十和田湖南岸域 における一斉開花後8年間のチシマザサ個体群の動態-特に非 開花集団に注目して-, BAMBOO JOURNAL, No.21, 57~65 Abe M., Izaki J., Miguchi H., Masaki T., Makita A., Nakashizuka T.(2002):The effects of Sasa and canopy gap formation on tree regeneration in an old beech forest, J. of Veg., Sci., 13, 565-574 Abe M., Miguchi H., Nakashizuka T.(2000):The effect of simultaneous death of dwarf bamboo (Sasa kurilensis) and canopy gap formation on the growth of beech (Fagus crenata) seedlings, 新潟大農学部研究報告, 55, 197-204 Abe M., Miguchi H., Nakashizuka T.(2001):An interactive effect of simultaneous death of dwarf bamboo, canopy gap, and predatory rodents on beech regeneration, Oecologia, 127, 281-286