弱電離気体プラズマの解析(LXIX) 大気圧コロナ放電によるアセトン分解

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弱電離気体プラズマの解析(LXIX) 大気圧コロナ放電によるアセトン分解 平成18年度 電気・情報関係学会北海道支部連合大会 平成18年10月28日(土) 室蘭工業大学   弱電離気体プラズマの解析(LXIX) 大気圧コロナ放電によるアセトン分解 Studies on weakly ionized gas plasmas (LXIX) Decomposition of acetone using a corona discharge at atmospheric pressure 坂本 孝弘* 佐藤 孝紀 伊藤 秀範 (室蘭工業大学) T.Sakamoto*, K.Satoh, H.Itoh (Muroran Institute of Technology) 背景と目的 実験装置および実験条件 実験結果 ・電流, 電圧および電力の時間変化 ・分解生成物の特定 ・注入エネルギーに対する分解率と濃度変化 ・C原子のマスバランス ・オゾンのアセトン分解への寄与 4. まとめ MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

背景 揮発性有機化合物(VOCs) 日本のVOCs排出量(2000年度)[2] 大気汚染防止法の改正[1]  浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダントの生成原因となる前駆物質  土壌汚染や人体に対する健康被害 日本のVOCs排出量(2000年度)[2] 固定発生源からの排出量の上位物質   1. トルエン 2. キシレン 3. 1, 3, 5-トリメチルベンゼン 4. 酢酸エチル 5. デカン 6. メタノール 7. ジクロロメタン 8. メチルエチルケトン 9. n-ブタン 10. イソブタン 11. トリクロロエチレン 12. イソプロピルアルコール 13. 酢酸ブチル 14. アセトン 15. メチルイソブチルケトン 16. ブチルセロソルブ 17. n-へキサン 18. n-ブタノール 19. n-ヘプタン 20. cis-2-ブテン 大気汚染防止法の改正[1] 従来の処理法に加えてより効果的な処理法が必要  法規制による排出抑制  各事業者の自主的取組による排出抑制 [1] 環境省, 「大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行について」(2005) MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY [2] 環境省, 「VOC排出イベントリ」(2000)

他にも様々な分野で多量に使用され, 処理へ要求は高い 背景と目的 アセトン CH3COCH3  有機溶剤として特に多く用いられ, フェノールなどの化学薬品の製造過程で副生成物   として多量に生成される  半導体の脱脂処理に使用される  気化ガスを長時間吸入すると血液機能低下や中枢神経障害を促す作用がある 他にも様々な分野で多量に使用され, 処理へ要求は高い アセトンの放電分解  小田ら[1] (高周波沿面放電) : アセトンの分解率, 効率および分解生成物の調査 アセトンよりも分子量の大きな有機化合物が生成したと報告 分解生成物の特定や分解特性についての調査が不十分 実験の目的 合成空気(窒素-酸素混合ガス)にアセトンを添加した模擬汚染ガス中で,大気圧 コロナ放電を発生させたときのアセトン分解特性を明らかにする 大気圧コロナ放電によるアセトンの分解生成物の調査 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY [1] 小田哲治他, 静電気学会講演論文集, No.16, pp107-110(1992)

実験装置 平板電極(ステンレス製) 複数針電極 マクセレック(株)製 LS40-10R1 放電チェンバー (ステンレス製) 直径 : φ80mm 厚さ : 10mm 針電極数 : 13本 針電極 : φ4mm(ステンレス製) 針電極支持板 : φ50mm(真鍮製) 針密度 : 0.66本/cm2 マクセレック(株)製 LS40-10R1 Vmax : ±40kV Imax : ±10mA 放電チェンバー (ステンレス製) 内径 : φ197mm 高さ : 300mm Infrared Analysis, Inc. ,10-PA 光路長 : 10m O2純度 : 99.5% N2純度 : 99.999% MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY 純度 : 99.5%以上 Ar純度 : 99.999%

実験条件 窒素 + 酸素+アセトン アルゴン + 酸素+アセトン 実験内容 80 : 20 810 203 1013 98 : 2 993 窒素-酸素  混合比 封入ガス圧 N2分圧 [hPa] O2分圧 全圧 N2 :O2 [%] 80 : 20 810 203 1013 98 : 2 993 20  電極構成 : 針(13本)対平板電極  電極間隔 : 30mm  アセトン濃度 : 200ppm  印加電圧    : +25kV(DC)  アルゴン + 酸素+アセトン アルゴン-酸素  混合比 封入ガス圧 Ar分圧 [hPa] O2分圧 全圧 Ar :O2 [%]   80 : 20 810 203 1013  電極構成 : 針(13本)対平板電極  電極間隔 : 30mm  アセトン濃度 : 200ppm  印加電圧    : +22kV(DC)  実験内容 ① FT-IRによるアセトンの分解生成物の調査 ② バックグラウンドガス中の酸素濃度の変化による分解特性の検討 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

電圧, 電流および電力の時間変化 N2 : O2 = 80 : 20 [%] applied voltage 約0.5mA discharge current 約0.18mA input power  放電電流値は放電開始時(約0.5mA)から減少していき, 約0.18mAで一定となる  放電開始後60min過ぎから緩やかに増加していき, 約0.25mAで極大となる  放電によるガス組成の変化によって放電電流値が変化する 注入エネルギー(注入電力の時間積分)を用いる MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

分解生成物の特定 N2 : O2 = 80 : 20 [%], アセトン200ppm (3500~500cm-1) 3.0 without discharge 2.5 2.0 ② absorbance [a.u.] ④ ⑤ 1.5 1.0 ③ ① 0.5 ⑥ 0.0 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 wave number [cm-1]  アセトンの赤外吸収帯 ①CH3 d-str : 3019cm-1  ②C=O str : 1731cm-1 ③CH3 d-deform : 1435cm-1 ④CH3 s-deform : 1364cm-1 ⑤C-C str : 1216cm-1 ⑥CH3 rock : 891cm-1     

分解生成物の特定 N2 : O2 = 80 : 20 [%], アセトン200ppm (3500~500cm-1) 3.0 without discharge O3 (anti str : 1042cm-1) CO2 (bend   : 667cm-1) 2.5 with discharge at 8.23kJ(30min) 2.0 CO (2050~2220cm-1) absorbance [a.u.] CO2 (anti str : 2349cm-1) 1.5 N2O (2170~2260cm-1) 1.0 0.5 0.0 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 wave number [cm-1] 0.30  アセトンの赤外吸収帯 0.25 ①CH3 d-str : 3019cm-1  ②C=O str : 1731cm-1 absorbance [a.u.] 0.20 CH4 (deg str : 3019cm-1) ③CH3 d-deform : 1435cm-1 ④CH3 s-deform : 1364cm-1 0.15 ⑤C-C str : 1216cm-1 ⑥CH3 rock : 891cm-1      0.10  大気圧コロナ放電中のアセトンの分解生成物 0.05 N2:O2 = 80:20 [%] CO2, CO, CH4 0.00 3400 3200 3000 2800 N2:O2 = 98:2 [%] CO2, CO, CH4, HCOOH, HCN wave number [cm-1]

分解生成物の特定 (1) (2) (3) (4) (5) N2O (1320~1260cm-1) N原子を含む生成物 N原子を含む生成物 Ar : O2 = 80 : 20 [%], アセトン200ppm (1700~700cm-1) N2(80%)+O2(20%)+ acetone O3 (anti str : 1042cm-1) Ar(80%)+O2(20%)+ acetone CO2 (bend : 667cm-1) absorbance [a.u.] acetone (CH3 s-deform : 1364cm-1) acetone (C-C str : 1216cm-1) (1) (2) (3) (4) (5) wave number [cm-1] N2O (1320~1260cm-1) N原子を含む生成物 N原子を含む生成物 アセトンからの分解生成物 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

注入エネルギーに対する分解率と濃度変化 CO CH4 CO2 HCOOH HCN CH3COCH3 248ppm 34ppm 酸素濃度20%の場合の方が,  分解率が高い 酸素濃度20%時に生成が多くなる 中間生成物 酸素濃度2%時に生成が多くなる 微量な中間生成物 CO2 30ppm 17ppm HCOOH HCN 酸素濃度には依存しない 最終分解生成物 酸素濃度2%時に生成される 微量な中間生成物 酸素濃度2%時に生成される 微量な中間生成物

C原子のマスバランス (CH3COCH3, CO, CO2, CH4, HCOOH , HCN) N2 : O2 = 80 : 20 [%] アセトンのC原子数 [ppm] = (アセトンの濃度) [ppm]×(アセトン1分子中のC原子の個数 : 3) 分解生成物のC原子数 [ppm] = (各分解生成物の濃度) [ppm]×(各分解生成物1分子中のC原子の個数 : 1) N2 : O2 = 80 : 20 [%] N2 : O2 = 98 : 2 [%] 13.5%(75kJ) 27.8%(75kJ)  アセトンの完全分解に要するエネルギー(アセトン中のC原子数が0ppmとなるエネルギー)   は 酸素濃度が2%の場合の方が大きい(約70kJ)    酸素濃度が2%の場合,アセトンは中間生成物を経ずにCO2に転化し易い  アセトンの分解が進むつれて気相中のC原子量が減少し,10kJ付近から飽和する     減少した分のC原子は,電極や放電チェンバーの内壁等に堆積した  酸素濃度2%の場合,堆積するC原子の割合が少ない 

オゾンのアセトン分解への寄与 O3 酸素濃度20%の場合 アセトンの有無に関わらず, 15kJ付近 から飽和する  酸素濃度20%の場合  アセトンの有無に関わらず, 15kJ付近   から飽和する O3  アセトンの添加によって, オゾンの濃度   が増加する MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

オゾンのアセトン分解への寄与 O3 酸素濃度20%の場合 酸素濃度2%の場合  酸素濃度20%の場合  アセトンの有無に関わらず, 15kJ付近   から飽和する O3  アセトンの添加によって, オゾンの濃度   が増加する  酸素濃度2%の場合  アセトンを添加しない場合は20kJ付近   から飽和し, アセトンを添加した場合は   生成の後分解される 2%  アセトンの添加によって, オゾンの濃度   が減少する バックグラウンドガス中の酸素濃度の変化によって, オゾンの分解への寄与の仕方が異なる MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

まとめ アセトンの分解特性 大気圧下で発生させた直流コロナ放電を用いて,窒素-酸素混合ガス中 のアセトンを分解し,分解特性を明らかにすることを目的として, 今回は主 に分解生成物を詳細に調査した アセトンの分解特性  アセトンの分解生成物は, CO,CO2 ,CH4, HCOOHおよびHCNである  アセトンは  酸素濃度20%の場合, CO, CH4の中間生成物を経てCO2に分解される  酸素濃度2%の場合, CO, CH4, HCOOH, HCNの中間生成物を経てCO2に分解される  アセトンは, バックグラウンドガス中の酸素濃度が20%の場合に比べて,      2%の場合の方が  完全分解に要するエネルギーが大きい  中間生成物を経ずに最終分解生成物であるCO2に転化し易い  電極やチェンバー内壁等に堆積するC原子の割合が少ない  バックグラウンドガス中の酸素濃度の変化によって, オゾンの分解への寄与の仕   方が異なる

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堆積物の透過スペクトル C-O str C-O str 酸素濃度20%の方が, 堆積物の割合が多い C原子のマスバランスと矛盾しない N2 : O2 = 80 : 20 [%] N2 : O2 = 98 : 2 [%] C-O str C-O str 酸素濃度20%の方が, 堆積物の割合が多い MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY C原子のマスバランスと矛盾しない

N2Oの生成量がアセトンの有無に依存しない  N2OによるO3の生成と消失過程 N2O O2 + e → O + O + e O3の生成過程[1] O + O2 + M → O3 + M O + N2O → NO + NO O3 + NO → NO2 + O2 O3の消失過程[2][3] O3 + NO2 → NO3 + O2 O2 : 20% N2+O2+acetone N2Oの生成量がアセトンの有無に依存しない N2+O2 O2 : 2% N2+O2+acetone O3の生成量の違いにN2Oの影響はない N2+O2 [1] Baldur Eliasson et al, IEEE Trans. Plasma Science, Vol.19, pp309-323(1991) [2] Niles F E, J. Chem. Phys. 52, pp408(1970) MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY [3] Atkinson R et al, J. Chem. Phys. Ref. Data 26, pp521(1997)