弱電離気体プラズマの解析(LXXVIII) 平成20年 電気学会全国大会 2008年3月19日(水) 福岡工業大学 放電化学・排ガス処理 弱電離気体プラズマの解析(LXXVIII) 大気圧パルス放電による有機染料の分解(2) -バックグラウンドガスの影響- Studies on weakly ionized gas plasma (LXXVIII) Decoloration of organic dye in aqueous solution using a pulsed discharge at atmospheric pressure (2) -Effect of background gas- 生 駒 晋* 宮 崎 泰 至 佐 藤 孝 紀 伊 藤 秀 範(室蘭工業大学) Shin Ikoma*, Yasushi Miyazaki, Kohki Satoh and Hidenori Itoh (Muroran Institute of Technology)
有機化合物の効果的な分解処理に期待ができる 背景 有機化合物による水質汚染 (ベンゼン,トリクロロエチレン等 …) 促進酸化法による汚染水の浄化 促進酸化法 様々な方法により発生させたO3やOH等の酸化剤を用いて水溶液中の有機化合物を分解する ・パルス放電 ・紫外線照射 ・光触媒酸化 ・オゾン酸化 パルス放電 高エネルギー電子によって化学的に活性な種が生成される[1] 水上でパルス放電を発生させることでO3に加えて,酸化ポテンシャルの高いOHやH2O2などが生成される[2] 高エネルギー電子による直接分解反応 紫外線や衝撃波が発生する[1][2] V=14kV, d=4mm, exposure time T=1s 有機化合物の効果的な分解処理に期待ができる [1] M.A.Malik et al.:Plasma Sourse Sci. Technol. 10 (2006) 497. [2] P.Lukes et al.:J. Phys. D: Appl. Phys. 38 (2005) 409.
パルス放電を用いて液中の有機化合物を分解し,その分解特性を調査する 本研究の目的と最近の報告 目的 パルス放電を用いて液中の有機化合物を分解し,その分解特性を調査する メチレンブルー (C16H18ClN3S・3H2O) 有機染料の1つである(暗黄緑色結晶 ) 非常に安定した物質であり,毒性は低い 比色分析が可能 パルス放電を用いたメチレンブルー分解に関する報告 Pawlat et al.[1] 水溶液中でのパルス放電におけるパルス繰り返し周波数およびガス流量がメチレンブルー分解に及ぼす影響を調査している Georgescu et al.[2] 溶液にO3をバブリングした状態でパルス放電によるメチレンブルーの分解を行い,O3が メチレンブルーの分解に効果的である N2(or Ar):O2 = 100:0, 90:10, 80:20, 60:40, 40:60, 20:80, 10:90, 0:100 バックグラウンドガスの組成がメチレンブルー分解に及ぼす影響の調査 [1] J.Pawlat et al.:Acta Physica Slovaca 55 (2005) 479. [2] N.Georgescu et al.:Proceedings of GD 2006 F05 (2006) 497.
実験装置 Fujikura Ltd. 17W sement resistor, Meggitt CGS 5D2V 100pF/m 50m 5nF MAX-ELECTRONICS Co, Ltd LS40-10R1 Vmax ±40kV Imax ±10mA Discharge chamber pulse repetition rate: 20pps N2 :99. 99% O2 :99. 5% Ar :99. 99% Yokogawa Electric Corporation DL1620 1GS/s 1msec/div
バックグラウンドガスの組成がメチレンブルー分解に及ぼす影響 実験条件および実験内容 バックグラウンドガスの組成がメチレンブルー分解に及ぼす影響 溶液量:70g メチレンブルー初期濃度:15ppm 充電電圧:+14kV 繰り返し周波数:20pps 放電照射時間:60min 濃度測定時間:0 , 7, 15, 30, 45, 60min ギャップ長:4mm 針数:1本 ガスの組成:N2(or Ar):O2=100:0, 90:10, 80:20, 60:40, 40:60, 20:80, 10:90, 0:100 ガスの流量:6L/min ガス圧:大気圧
N2-O2混合ガス中での分解 in pure O2 メチレンブルー分解率は最も高い in pure N2 OおよびO3が盛んに生成され,分解を促進している in pure N2 OおよびO3は生成されないが,分解率が高くなる N2(A3∑u+)とH2Oの反応によって生成されるOHが分解に寄与している in pure O2 in N2-O2 mixture O2 + e → 2O + e O2 + O + M → O3 + M H2O + e → OH + H 酸素濃度が高いほど分解率が高くなる傾向を示している
[1] P.Lukes et al.:J. Phys. D: Appl. Phys. 38 (2005) 409. N2-O2混合ガス中での分解 in pure O2 メチレンブルー分解率は最も高い OおよびO3が盛んに生成され,分解を促進している in pure N2 OおよびO3は生成されないが,分解率が高くなる N2(A3∑u+)とH2Oの反応によって生成されるOHが分解に寄与している in pure N2 in N2-O2 mixture N2(A) + H2O → OH + N2 +H[1] H2O + e → OH + H 酸素濃度が高いほど分解率が高くなる傾向を示している [1] P.Lukes et al.:J. Phys. D: Appl. Phys. 38 (2005) 409.
N2-O2混合ガス中での分解 in pure O2 メチレンブルー分解率は最も高い in pure N2 OおよびO3が盛んに生成され,分解を促進している in pure N2 OおよびO3は生成されないが,分解率が高くなる N2(A3∑u+)とH2Oの反応によって生成されるOHが分解に寄与している in N2-O2 mixture in N2-O2 mixture O2 + e → 2O + e O2 + O + M → O3 + M N2(A) + H2O → OH + N2 +H H2O + e → OH + H 酸素濃度が高いほど分解率が高くなる傾向を示している
N2-O2混合ガス中での分解 in pure O2 メチレンブルー分解率は最も高い in pure N2 分解率が大幅に減少している メチレンブルー分解率は最も高い OおよびO3が盛んに生成され,分解を促進している in pure N2 OおよびO3は生成されないが,分解率が高くなる N2(A3∑u+)とH2Oの反応によって生成されるOHが分解に寄与している in N2-O2 mixture in N2-O2 mixture O2 + e → 2O + e O2 + O + M → O3 + M N2(A) + H2O → OH + N2 +H H2O + e → OH + H 酸素濃度が高いほど分解率が高くなる傾向を示している
放電照射後15分でのメチレンブルー分解率,O3,NOx濃度 in N2-O2 N2-O2混合ガス中での反応 [1,2,3,4] O2 + e → 2O + e (1) O2 + O + M → O3 + M (2) N2 + e → N + N + e (3) N2 + e → N2(A) + e (4) N2(A) + H2O → OH + N2 +H (5) N + O → NO (6) N + O3 → NO + O2 (7) N2(A) + O → NO + N (8) NO + O → NO2 (9) NO + O3 → NO2 + O2 (10) NOxの生成にO3,O,N2(A)が消費される [1] M.A.Malik et al.:Plasma Sourse Sci. Technol. 10 (2001) 82. [2] P.Lukes et al.:J. Phys. D: Appl. Phys. 38 (2005) 409. [3] C.Mavroyannis et al.:Can. J. Chem. 39 (1961) 1601. [4] O.Eichwald et al.:J. Appl. Phys. 82 (1997) 4781. メチレンブルー分解率の低下
NOxの生成プロセス(低酸素濃度時) O2 + e → 2O + e (1) O2 + O + M → O3 + M (2) N2 + e → N + N + e (3) N2 + e → N2(A) + e (4) N2(A) + H2O → OH + N2 +H (5) N + O → NO (6) N + O3 → NO + O2 (7) N2(A) + O → NO + N (8) NO + O → NO2 (9) NO + O3 → NO2 + O2 (10) NOの生成 (3)式の反応で気相中に多くのNが生成され,これが(6)および(7)式に示すNOの生成を促進する BGガスに少量でもO2が添加されることで(8)式に示すようにN2(A)とOからNOが生成される
NOxの生成プロセス(高酸素濃度時) NOxの生成にO,O3,N2(A)が消費されることで分解率の低下を招く O2 + e → 2O + e (1) O2 + O + M → O3 + M (2) N2 + e → N + N + e (3) N2 + e → N2(A) + e (4) N2(A) + H2O → OH + N2 +H (5) N + O → NO (6) N + O3 → NO + O2 (7) N2(A) + O → NO + N (8) NO + O → NO2 (9) NO + O3 → NO2 + O2 (10) NO2の生成 (1)および(2)式の反応により気相中で多くのOおよびO3が生成され,これが(9)および(10)式の反応によりNOを酸化することでNO2が生成される NOxの生成にO,O3,N2(A)が消費されることで分解率の低下を招く
Ar-O2混合ガス中での分解 Ar-O2混合ガス中で分解に寄与すると考えられるものは・・・・ 準安定励起原子Ar* O3濃度がO2の混合割合に比例して減少する N2-O2中では,NOxがO3の生成を抑制していた O3濃度が減少しても分解率は,ほぼ一定である Ar-O2混合ガス中で分解に寄与すると考えられるものは・・・・ 準安定励起原子Ar*
Ar-O2混合ガス中での分解 準安定励起原子:Ar* Ar準安定励起原子 放電照射後15分 電子衝突によるOHの生成量はガスの組成によらず一定であると考える H2O + e → OH + H Ar-O2混合ガス中で分解に寄与すると考えられるものは・・・・ 準安定励起原子:Ar* 低酸素濃度時・・・ Ar*の分解への寄与が支配的である Ar準安定励起原子 Ar準安定励起原子(43P2,43P0)と水分子の反応によってOHが生成される H2O + Ar* → OH + H + Ar Ar*がベンゼン環を分解する[1] Ar*がメチレンブルーを直接分解する [1]Dennis L McCorkle et al, J.Phys. D:Appl. Phys. 32 (1999) 46.
まとめ バックグラウンドガスの組成を変化させながらパルス放電によってメチレンブルーを分解し,その分解特性を調査した O2ガス中では,効率よくOおよびO3が生成されるため分解率が上昇する N2ガス中では,N2の準安定励起分子(N2(A3Σu+))がOHを生成し,メチレンブルーを 分解する N2-O2混合ガス中ではNOxが生成されるため,分解が阻害される 低酸素濃度時には,N2(A3Σu+),OおよびO3がNOの生成に消費されている 高酸素濃度時には,OおよびO3が盛んに生成されることで,NO2が多く生成される Arガス中の放電では,Arの準安定励起原子(43P2,43P0)がOHを生成し,これが分 解を促進する Ar* + H2O → OH + H
反応式および反応速度定数 O2 + e → 2O + e k1=1.3×10-8 cm3・s-1 (1) O2 + O + M → O3 + M k2=6.3×10-34 cm6・s-1 (2) N2 + e → N + N + e k3=2.0×10-11 cm3・s-1 (3) N2 + e → N2(A) + e k4=1.1×10-10 cm3・s-1 (4) N2(A) +H2O → OH + N2 +H k5=1.1×10-11 cm3・s-1 (5) N + O + M → NO + M k6=9.1×10-31 cm6・s-1 (6) N + O3 → NO + O2 k7=5.0×10-16 cm3・s-1 (7) N2(A) + O → NO + N k8=7.0×10-12 cm3・s-1 (8) NO + O + M→ NO2 + M k9=1.2×10-31 cm6・s-1 (9) NO + O3 → NO2 + O2 k10=3.6×10-14 cm3・s-1 (10) N + OH → NO + H k11=4.9×10-11 cm3・s-1 (11) NO2 + O → NO + O2 k12=9.3×10-12 cm3・s-1 (12) O2 + e → O + O(1D) + e k14=2.3×10-10 cm3・s-1 (14) O(1D) + H2O → 2OH k13=2.3×10-10 cm3・s-1 (15) N2(A) + O2 → N2 + O + O k13=2.3×10-10 cm3・s-1 (16)
測定方法 Laser :650nm 比色分析 測定装置 detector レーザ 検量線 25ppm 10ppm 1ppm 濃度の違いによる溶液の色の濃淡を利用して分解を簡単に判断できる 測定装置 レーザ detector PMA Hamamatsu Photonics K.K. PMA-11 wavelength range:200~950nm 検量線 Laser :650nm
放電形態の違い Arガス中での放電 N2ガス中での放電
発光スペクトル測定方法
発光スペクトル
パルス電圧・電流・電力波形 power negative 最大電流 : -70A 最大電圧 : -23kV パルス幅 : 500ns パルス電圧・電流・電力波形 power negative 最大電流 : -70A 最大電圧 : -23kV パルス幅 : 500ns 瞬間的な電力は最大で約 1.5 [MW] 1pulse当たりの注入エネルギーは約0.7 [J/pulse] (14J/s) 電極構成やバックグラウンドガスの種類によらず一定
バックグラウンドガスのガス組成が分解に与える影響 in pure O2 H2O + e → OH + H 2OH → H2O2 O2 + e → 2O + e O + O2 + M → O3 + M N + O3 → NO + O2 NO + O3 → NO2 + O2 N + O → NO NO + O → NO2 BGガスをO2単体としたためO3およびOが効率よく生成される H2Oの解離により生成されたOHおよびH2O2 メチレンブルー分解にはO3,Oが関係する
バックグラウンドガスのガス組成が分解に与える影響 in pure N2 H2O + e → OH + H 2OH → H2O2 O2 + e → 2O + e O + O2 + M → O3 + M N + O3 → NO + O2 NO + O3 → NO2 + O2 N + O → NO NO + O → NO2 BGガスにO2が存在しないためO3が生成されない 酸化剤としてOHおよびH2O2のみが存在する N2(A) + H2O → OH + N2 + H OH,H2O2,N2(A)がメチレンブルー分解に関係する
バックグラウンドガスのガス組成が分解に与える影響 in N2-O2 H2O + e → OH + H 2OH → H2O2 O2 + e → 2O + e O + O2 + M → O3 + M N + O3 → NO + O2 NO + O3 → NO2 + O2 N + O → NO NO + O → NO2 N2-O2混合ガスでは,N2単体,O2単体と比較して分解率が低くなった NOxが多く生成された NOxの生成にO3,O,N2が消費される 酸化剤がH2Oからの解離によって生成されるOHおよびH2O2のみとなる メチレンブルー分解率の低下
バックグラウンドガスのガス組成が分解に及ぼす影響 作用エネルギー密度11[J/(ppm・g)] Ar-O2混合ガス中では,N2-O2混合ガス中よりも高い分解率が得られた O3濃度が減少しても分解率は,ほぼ一定である Ar=100%のときO3は最も低くなっているが分解率は上昇している O3以外の物質の分解への寄与?
バックグラウンドガスのガス組成が分解に及ぼす影響 O2の混合比を小さくしていっても分解率が上がっている オゾン濃度は,O2の混合比の減少とともに減少する O3以外の物質が分解に寄与していることが考えられる Ar準安定励起原子,OH,H2O2 電子衝突によるOHおよびH2O2の生成量はガスの組成によらず一定であると考える H2O + e → OH + H 2OH →H2O2 Ar準安定励起原子 Ar準安定励起原子(43P2,43P0)からのOHの生成,それに引き続きH2O2が生成される H2O + Ar* → OH + H + Ar 2OH → H2O2 Ar(Ar*)がベンゼン環を分解する[1] 作用エネルギー密度10[J/(ppm・g)]