神経系に対する兵器 講義その 17 応用編 本講義に関する追加の情報は、以下のスライドに設けられた右の各リンクボタンより参照可能です。

Slides:



Advertisements
Similar presentations
新型鳥インフルエンザが発生 したらどうなるか 2008 年 5 月 7 日 Masa. 発表することはあくまで予想で す.
Advertisements

鎮静管理 JSEPTIC-Nursing.
痛み止めを上手にお使いいただくために 痛みを和らげよう 上園保仁 〜医療用麻薬で中毒にはなりません〜 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
変換前データ 変換後データ vrtl Titleへんな毒すごい毒 H1毒のサイエンス毒と薬のちがいとは? toc-001-1
糖尿病の成因と病期 1型糖尿病 2型糖尿病 ・右向きの矢印は糖代謝の悪化、左向きの矢印は糖代謝の改善を表しています
薬物乱用 学校薬剤師 豊見 雅文.
麻酔と鎮痛 7月セミナー 第1回 全身麻酔法に対する最近の考え方の変化についての、 ヒト麻酔科医と獣医師との意見交換
飲酒による人体への影響 市村 将 参考・引用文献:Yahoo!ニュース 未成年の飲酒問題
糖尿病の病態 中石医院(大阪市) 中石滋雄.
木島伸彦 慶應義塾大学 パーソナリティ心理学  クロニンジャー理論 1 木島伸彦 慶應義塾大学.
無機質 (2)-イ-aーH.
2013年8月30日19:00~22:00 群馬県障害者学習センター 参加者18名
休眠(diapause) 内分泌機構による自律的な発育休止状態。 有効積算温度法則は当てはまらない。 正木 進三
がんの家族教室 第2回 がんとは何か? 症状,治療,経過を中心に
開放隅角や閉塞隅角でも治療済みであれば制限はありません
2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討
危険ドラッグは 身体と人格を破壊します 合法・脱法ではなく違法です 合法・脱法という言葉には絶対にだまされない。近づかない。
薬物乱用防止教室 健康で幸せな生活を送るために.
人工血液 神戸大学輸血部 西郷勝康.
動物実験代替法って何? 日本動物実験代替法学会 企画委員会.
自律神経の研究成果 神経生理 平山正昭.
後根神経節における持続性Na電流の解析 技術センター 医学部等部門 医学科技術班 柿村順一.
麻酔薬の作用機序を考えよう -論理で納得するアプローチ-
高血圧 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 二次性高血圧を除外 合併症 臓器障害 を評価 危険因子 生活習慣の改善
輸血の生理学 大阪大学輸血部 倉田義之.
高齢者の肺炎による死亡率. 高齢者の肺炎による死亡率 誤嚥のメカニズム 誤嚥は、脳卒中や全身麻痺、あるいは麻痺などの症状のない脳梗塞で、神経伝達物質の欠乏によって、咳(せき)反射や、物を飲み下す嚥下(えんげ)反射の神経活動が低下して起こる。
・神経 続き シナプス 神経伝達物質 ・ホルモン ホルモンの種類 ホルモン受容体 ホルモンの働き
血管と理学療法 担当:萩原 悠太  勉強会.
生命科学基礎C 第5回 早い神経伝達と遅い神経伝達 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
生命科学基礎C 第3回 神経による筋収縮の指令 -ニューロン 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
サリドマイド 2005/4/3.
フィジカルアセスメント と 始業時にやること
* 研究テーマ 1.(抗)甲状腺ホルモン様作用を評価するバイオアッセイ系の確立 2.各種化学物質による(抗)甲状腺ホルモン様作用の検討
この授業のねらい 個人的問題から、社会的課題までを、 「行動分析学」(Behavior Analysis) の枠組みでとらえ、具体的な対策について発言提案・実践することができる。
第3回周術期セミナー 吸入麻酔薬による麻酔管理 東海大学医学部外科学系麻酔科 金澤正浩.
生命科学基礎C 第4回 神経による筋収縮の指令 -伝達 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
Lesson 22. 健康政策への応用 §C. リスク・マネージメント 疫学概論 リスク・マネージメント
食品の表示 (2)-イ-aーM.
対北朝鮮「最大限の圧力へ」.
IPv6アドレスによる RFIDシステム利用方式
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
樹状細胞療法 長崎大学輸血部 長井一浩.
第19回 HiHA Seminar Hiroshima Research Center for Healthy Aging (HiHA)
米山研究室紹介 -システム制御工学研究室-
付属書Ⅰ.6 潜在危険及び 作動性の調査 (HAZOP).
薬の相互作用 G 中学・高校・一般 くすりの適正使用協議会 テーマG「薬の相互作用」の概略
研究内容紹介 1. 海洋産物由来の漢方薬の糖尿病への応用
Japanese Title (point 32) ご研究の成果物を明確に明示したタイトルをお勧めいたします*
疫学概論 疾病の自然史と予後の測定 Lesson 6. 疾病の自然史と 予後の測定 S.Harano,MD,PhD,MPH.
Central Dogma Epigenetics
1月19日 シグナル分子による情報伝達 シグナル伝達の種類 ホルモンの種類 ホルモン受容体 内分泌腺 ホルモンの働き.
生命科学基礎C 第1回 ホルモンと受容体 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
「骨粗鬆症や癌を予防するビタミンDの作用メカニズム 」
生命科学基礎C 第6回 シナプス伝達の修飾 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
患者さんへの説明補助イラスト -脳せきずい液中のオステオポンチン に関する疾患比較研究- 版
ニューロマーケティング H 経営学科3年 李 ミヌ.
Chapter 24 General Anesthetics
厚生労働省 ラベル表示を活用した労働者の教育推進事業 委託先 株式会社三菱化学テクノリサーチ
合成抗菌薬 (サルファ剤、ピリドンカルボン酸系)
食物アレルギー発作時 に使用する 自己注射について
電子物性第1 第10回 ー格子振動と熱ー 電子物性第1スライド10-1 目次 2 はじめに 3 格子の変位 4 原子間の復元力 5 振動の波
4) 上級編 ~新型インフルエンザに対する 公衆衛生対応について知る~
細胞膜受容体-天然物リガンド間架橋に最適化した架橋法の開発
疫学概論 疫学研究の目的 Lesson 1. 疫学研究 §A. 疫学研究の目的 S.Harano,Md.PhD,MPH.
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
内分泌攪乱物質の環境リスク -何がわかっていて、何がわかっていないのか-
Presentation transcript:

神経系に対する兵器 講義その 17 応用編 本講義に関する追加の情報は、以下のスライドに設けられた右の各リンクボタンより参照可能です。 講義その 17 応用編 本講義に関する追加の情報は、以下のスライドに設けられた右の各リンクボタンより参照可能です。 追加情報

1. 目次 非致死性兵器とは? 化学兵器禁止条約との関係 今後の動向 神経系を標的とする生物化学兵器 スライド 2ー6 スライド 7ー12 スライド 2ー6 化学兵器禁止条約との関係 スライド 7ー12 今後の動向 スライド 13ー15 神経系を標的とする生物化学兵器 スライド 16ー18

2. 非致死性兵器とは? ヒトや物質を無力化させ、なおかつ死亡の可能性を最小限にし、器材設備や環境に不要な損害を与えないように開発され、使用される兵器。目標を破砕させたり貫通したりすることによって恒久的に破壊する兵器と異なり、効果が可逆的であり、また同じ領域にいる目標と目標以外とを識別することができる性質をもつ。 Lamb, C. (1995) Non-Lethal Weapons Policy

3. 非致死性兵器とは? ヒトにあたえる効果  低血圧  嘔吐  体温の変化  平衡感覚の異常  一次的な視覚障害  筋振戦  精神異常

4. 非致死性兵器とは? さまざまな非致死性兵器 催涙ガス 嘔吐剤 (くしゃみ剤) スタンガン ゴム弾 刺又 水大砲 音響兵器 アクティブ・ディナイアル・システム 機動阻止システム 停電爆弾 (Wikipediaより)

5. 非致死性兵器とは? BZ (3-Quinuclidinyl benzilate) 冷戦期に開発された非致死性兵器の代表例 常温では白色の固体、溶媒に溶かして散布 アセチルコリン受容体の阻害 効果 瞳孔散大、口渇、心拍異常(はじめ    速くなり、その後低下) 幻覚、意識障害、記憶障害、失見当識、失調など

6. 非致死性兵器とは? Fentanyl オピオイドの一種、合成麻薬 麻酔・鎮痛に使われる医薬品 モルヒネの200倍の鎮痛作用 効果 意識障害 呼吸抑制 嘔吐

7.非致死性兵器とCWC 非致死性兵器は化学兵器禁止条約CWCの抜け道 ただし、第1条 一般的義務 の第5項には  5.締約国は,暴動鎮圧剤を戦争の方法として使用しないことを約束する。  という限定がついている。

8. モスクワ劇場占拠事件 モスクワ中央部の劇場ドブロフカ・ミュージアムの占拠事件 (2002/10/23-26) 武装勢力42名、人質922名 ロシア軍のチェチェン共和区からの撤退を要求、26日朝までに要求が容れられなければ人質を射殺すると通告

9. モスクワ劇場占拠事件 ロシア軍特殊部隊が非致死性ガスを使用して、銃撃戦ののち制圧 人質129名が中毒死 使用した非致死性ガスはフェンタニルの誘導物質(カルフェンタニル?)だと推測されている(ロシアは当初成分を公表しなかったが、のちに保健相がフェンタニルを主成分にしたものであると発表)

10. 非致死性兵器は人道的か? 劇場という広い空間で、一様な濃度に散布するのは不可能 場所によって致死量を越える可能性 呼吸抑制に至る濃度には個体差も 結局銃撃戦は避けられなかった → 人質の犠牲は覚悟の上?

11. Non-lethal weaponsは 本当にnon-lethalなのか? 狭い安全域 効果を発揮する量と、致死量の間で使用できる保証はない。Nonではなく、sub-lethalあるいはless-than-lethalであるという批判。 通常の致死的兵器の使用へ結びつく 非致死的兵器の使用の際は致死的兵器もふつう準備されている。 併用の可能性もはらむ。

12. Non-lethal weaponsは 本当にnon-lethalなのか? とは言っても銃や爆弾よりはマシではないか? 非致死性兵器まで規制を強化してしまって、何の規制も受けていない(無視している)テロリストに対処できるのか? →今後も非致死性兵器の研究・開発は止められないことが予想される。

13. 今後の動向 からだに非可逆的な損傷をきたさずに、無能力化するには全身の統御系を標的にすることが必要 免疫系 内分泌系 神経系

14. 今後の動向 速効性、さまざまな機能を選択的に標的にすることが可能な点から、神経系が重要な標的になると予想される。とくに内因性のBioregulator分子(神経系の場合伝達物質や修飾因子)やその関連分子が候補となる。 たとえば、 アセチルコリン受容体作動薬/拮抗薬:既に挙げたBZはその例 -adrenoceptor作動薬:dexmedetomidineなど 神経ペプチド

15. 今後の動向 Bioregulator分子の特性 診断が困難 速効性 ワクチンが使用不可能 研究の急速な進歩で危険物質のリストが追いつかない(そもそも内在性の物質を危険物質とできるのか?)

16. 神経系を標的とする 生物化学兵器候補 Dexmedetomidine a2-adrenoceptor agonist a2Aは青斑核ニューロンにおける抑制性のautoreceptor a2Aを刺激するとフィードバックが働いてノルアドレナリンの作用が減弱する  →鎮静作用を呈するが、意識レベルは保たれる。呼吸抑制はない。

17. 神経系を標的とする 生物化学兵器候補 Substance P ペプチド伝達物質 NK1 receptorに結合 末梢神経系の感覚線維では痛覚の伝達に関係するが 気道から吸入すると、気道平滑筋の強い収縮を起こす

18. 神経系を標的とする 生物化学兵器候補 野兎病菌での-endorphin産生 Borzenkov, V.M., Pomerantsev, A.P. and Ashmarin, I.P. (1993) [The additive synthesis of a regulatory peptide in vivo: the administration of a vaccinal Francisella tularensis strain that produces beta-endorphin]. Biull Eksp Biol Med, 116, 151-153. 生物兵器とbioregulatorとを組み合わせた新たな兵器化の可能性?

19. 結論 意図しない形で兵器開発に寄与してしまうことを避けるには、 対処法の公式はない。 自らの研究成果に、さまざまな利用可能性があることを認識して、ケースバイケースで判断することが必要。