求償・免責について 第三者加害行為事案に伴う事務 地方公務員災害補償基金 富山県支部 平成30年6月4日
第三者加害行為事案とは 補償の原因である災害が、第三者の不法行為によって生じた場合をいい、「交通事故」、「公務執行妨害」、「校内暴力事故」や「飼犬による咬傷事故」などが典型的な例 直接の加害者だけが第三者(=損害賠償義務者)ではない。 →従業員の使用者、責任無能力者の監督者や動物占有者など
「不法行為」の構成要件 ①加害者に故意又は過失があること ②権利侵害及び違法性があること ③損害が発生したこと ④加害行為と結果発生の間に因果関係があること ⑤加害者に責任能力があること
第三者加害行為事案とならないもの① 柔道の訓練中に負傷した場合 →相手に故意や重大な過失が認められなければ、正当行為として是認 被災職員が停車中の車に追突して負傷した場合 →被災職員の一方的過失により生じた災害であり、相手に過失が認められない (ただし、安易に判断しない)
第三者加害行為事案とならないもの② 看護師が入院中の精神病患者に殴られて負傷した場合 →精神病等の者は通常、心神喪失状態にあると考えられ責任能力を問えない。 ※責任能力の有無に関する主治医の意見書が必要となります。
求償・免責事務の概要 求償の意義 第三者加害事案について、基金が補償を行ったときに、受給権者(被災職員等) が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、第三者に請求すること。 基金は、補償の原因である災害が第三者の行為によって生じた場合に補償を行った ときには、その価額の限度において、補償を受けた者が第三者に対して有する損害 賠償の請求権を取得する。(地方公務員災害補償法第59条第1項) ①災害発生により請求権発生 受給権者 損害賠償請求権 第三者 ③賠償請求権の代位取得 求償 ②補償の実施 ④賠償金納入 基金
求償・免責事務の概要 免責の意義 第三者加害事案について、基金が補償を行わず、受給権者が第三者から補償と 同一の事由につき損害賠償を受けたとき、基金が受給権者に補償すべき義務を 免れること。 前項の場合において、補償を受けるべき者が当該第三者から同一の事由につき損害 賠償を受けたときは、基金は、その価額の限度において補償の義務を免れる。 (地方公務員災害補償法第59条第2項) ①災害発生により請求権発生 受給権者 損害賠償請求 第三者 ②示談の締結、賠償金の支払 ②補償義務の免除(免責) 基金
治療費は誰が負担するのか 賠償先行(原則) →療養費を加害者本人や保険会社(自賠責保険、任意保険)に支払ってもらう方法で、通常はこの方法となる。基金の補償は免責される。 補償先行 →賠償先行ができない場合で、被災職員の申し出に基づき、基金が支払う。補償先行を行うと、基金は加害者に損害賠償(治療費)を請求することになる。
示談内容の確認について 補償先行、賠償先行いずれの場合においても、示談書の写しの提出が必要となる。 補償先行の場合・・・後日、保険会社へ求償する際の金額の算定のため 賠償先行の場合・・・基金が免責された額を確定するため
求償権の時効 自賠責保険への請求権は、損害及び加害者を知ったときから3年を満了すると消滅する。 不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知ったときから3年を満了すると消滅する。 →示談の有無に関わらず権利が消滅する。 なお、任意保険の場合は、書面等による合意が成立したときから2年を満了すると消滅する。
自賠責保険について 被害者の過失割合 限度額(120万円) 7割未満 減額なし 7割以上10割未満 20%減額 過失相殺がなされる場合であっても、自賠責保険の限度額(120万円※)を超えない程度の災害であれば、自賠責保険による賠償を先行させる。 ※被害者の過失割合に応じて減額される。 なお、過失割合が10割の場合は、第三者加害事案には該当せず、また自賠責保険も支払われない。ただし、自賠責保険上の注意義務は広く捉えられており、居眠りのため対向車線にはみ出してきた車に正面から激突された場合でも、相手の過失割合が10割となることは少ない。 被害者の過失割合 限度額(120万円) 7割未満 減額なし 7割以上10割未満 20%減額
自賠責保険の対象となる事故 ア 自動車の「運行による」事故であること ア 自動車の「運行による」事故であること 運行:人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車 を当該装置の用い方に用いること(自賠法第2条) →ダンプカーなどのダンプなどの装置を操作 ドアの開閉 など広く解されている イ 「人身事故」であること ウ 損害が「他人」に生じたこと 他人:車外通行人や相手車の運転者及び同乗者はもとより、 車内に同乗している者も含まれる →公用車に同乗した職員も一般的に「他人」
交通事故が発生したら・・・ まず ① 直ちに運転停止 ② 被害者の保護 ③ 警察へ届出 ① 直ちに運転停止 ② 被害者の保護 ③ 警察へ届出 ※ 相手の確認、(できれば)証人の確保、自分でも記録(スマホの活用) 次に ・その場で示談しない 示談は口頭でも有効成立するので注意 ・過失の話し合いは(原則)しない 全面的に自分の方が悪かった など言わない その後 ・人身事故であれば医師の診断を受ける たいしたことはないと思っても、後日・・・ ・早急に任意保険会社へ事故報告する 事故状況は正確に伝える、過失割合が問題となるケースが多い
第三者加害行為事案における任命権者の役割 示談締結までの間、示談の内容が適正なものとなるよう適宜、被災職員から状況報告を受ける。 示談はいったん締結されると示談の当事者の双方を拘束するため、示談を締結して損害賠償請求権を放棄してしまうと、放棄した部分について一切加害者に請求することが出来ない。 一般的な自動車事故であれば、通常、保険会社間で話し合いを行い、お互いの均衡点を見いだすこととなる。
共済組合の短期給付との関係 公務災害として認定された場合、私傷病ではないため、共済組合による短期給付(いわゆる3割負担)は適用されない。通常事案であれば、治療費全額を基金が負担することになるが、第三者加害事案の場合は第三者が全額を負担することになる。 認定前に、誤って3割のみ自己負担した場合であっても、認定後は速やかに病院に申し出て、全額を病院から基金に請求させることが望ましい。また、3割のみを自己負担したからといって、第三者に3割のみを負担させることは出来ない。
具体的な処理事例 事例1 通勤途上、交差点で赤信号のため停車中、前方不注意の後続車両に追突された。 事例2 信号のない十字路に安全を十分確認しないまま侵入したところ、進行方向右から侵入してきた車両に激突された。
事例1の場合 ①停車中に後方から追突されたような事例であれば、通常、過失割合は 加害者:被災者=100:0 となる。 となる。 ②したがって、本人負担は発生しないため、基金による支払いも通常は不要となる。 ③全額、加害者からの補償により対応する。 (賠償先行)
事例2の場合 ①事例1とは異なり、加害者の一方的な過失は認められないため、過失相殺がなされる。 加害者:被災者=40:60など ②災害の程度によっては、自賠責保険の範囲を超え、本人負担が発生する場合がある。 ③このような場合、先行して基金から補償を行うこととなる。(補償先行) ④示談締結後に、職員の過失割合に応じた金額を基金から加害者(保険会社)に求償する。
(該当ある場合は、第三者加害事案報告書へ必ず記載) 人傷保険金と補償費 生命保険、損害保険 どちらも被災職員が加入する 保険=相手方からの賠償 にあたらない・・・? 人身傷害保険 人身傷害保険については、保険会社が事故の過失割合に応じて、相手方へ求償 する=間接的に相手方からの賠償を受けることとなる 基金による補償と調整が必要 (該当ある場合は、第三者加害事案報告書へ必ず記載)
おわりに 本来、公務上の災害であれば基金がその任により補償することが原則 ただし、第三者の故意・過失による災害の場合、第三者にその責めを負わすことなく、各団体の負担金(税金)からなる補償費を療養費に充当することは不適切 通常事案に比べて、事務は煩雑となりますが、公平な損害の負担に資するよう、正義感をもって取り組んでください。