ローブからのX線 ~ジェットのエネルギーを測る~ 磯部 直樹(ISAS/JAXA; isobe.naoki@jaxa.jp) 田代信、鈴木雅也、阿部圭一、伊藤光一 (埼玉大)、牧島一夫 (東京大学) 他 詳しくは、 天文月報 2004年 7月号をご覧ください。 3. ローブ中のエネルギー 1. ジェットとローブ どうやって? 電波は ローブ中のエネルギー密度 ローブ中の全エネルギー 電波銀河Cygnus Aの電波画像 (Perley et al. 1984) ジェット ホットスポット ローブ 中心核 シンクロトロン放射 : 電子 vs 磁場 強度 FR ∝ ue um V 電子のエネルギー密度 ue [erg cm-3] 磁場のエネルギー密度 um [erg cm-3] 30 mG 3 mG 0.3 mG 小さなローブ (< 100 kpc) 大きなローブ (> 300 kpc) 電子の全エネルギー ueV [10 60 erg] 磁場の全エネルギー umV [10 60 erg] X線は 逆コンプトン散乱 : 電子 vs 種光子強度 FX ∝ ue usoft V 種光子は ○ 宇宙背景放射(CMB) △ 中心核からの光子(小さいローブ) ☓ シンクロトロン(いわゆる SSC) ローブは、 ジェットの運搬した膨大なエネルギーの貯蔵庫 その担い手は、(非熱的)電子(粒子)や磁場 ue ∝ FX / V , um ∝ FR / FX (赤いデータ点はわれわれの結果、文献から引用した黒いデータ点は他の研究者の結果を表す) ue, um, usoft はローブ中の電子、磁場、種光子 (ほとんどの場合CMB) のエネルギー密度、 V はローブの体積である。 ローブでは電子優勢である。 ue ~ 10 um 全エネルギーは 2桁程度のばらつきしかない ローブからジェットの エネルギーを測ろう エネルギー密度は 5桁程度のばらつきを持つ。 大きなローブほど エネルギー密度は小さい ローブの進化に伴い、 エネルギー密度は小さくなるが、 全エネルギーはあまり変化しない。 2. ローブからのX線 ローブからのXはフラックスが小さい 銀河団中だと不可能 明るい中心核に埋もれてしまう。 ハードなスペクトルを持っている。 「あすか」が初めて克服 検出は結構困難である。 感度・空間分解能、広エネルギー帯域 を併せ持つ検出器が必須 「あすか」による「発見」 中心核とローブの関係 中心核のX線ルミノシティ L 2-10 keV [1040 [erg s-1 ] 電子の全エネルギー ueV [10 60 erg] 中心核のX線ルミノシティ L 2-10 keV [1040 [erg s-1 ] 磁場の全エネルギー umV [10 60 erg] 電波銀河Fornax AのX線カラー画像(中心核は取り除いた)に電波の等高線画像を重ねたもの。ローブから広がったX線が検出されているのがわかる。(Kaneda et al. 1995, Tashiro et al. 2001) Chandra, XMM-Newton による発展 Chandra : 超高空間分解能 XMM-Newton 大有効面積 高検出感度 広エネルギー帯域 小さなローブも観測できる。 中心核と磁場エネルギーに 明確な関係はない 中心核が活動的なほど、 ローブの電子エネルギーも大きい 4. ジェットのエネルギー 中心核のX線ルミノシティ L 2-10 keV [1040 [erg s-1 ] ジェットのパワー Ljet [1040 [erg s-1 ] ローブ中の電子は 放射冷却(シンクロトロン電波と逆コンプトンX線) でどんどんエネルギーを失っている。 暗いローブも検出可能 小さくても観測可能 放射冷却を補うエネルギーをジェットが供給して いるから、ローブはローブでいられる。 XMM-Newtonによる電波銀河3C 98のX線カラー画像(中心核は差し引いてある)に、VLA 8.4GHzの電波画像を重ねたもの Chandraによる電波銀河3C 452のX線カラー 画像に、VLA 1.4GHzの電波画像を重ねたもの Ljet =100 LX ローブのエネルギーからジェットの運ぶ 力学的なパワー(ルミノシティ)が分かる。 Ljet = (ueV + umV) / Tcool x (1+k) Tcool : 冷却時間(電波とX線による) 現在のところ15個程度のローブで X線が検出されている Ljet = LX ( k : 陽子などの“見えない” 粒子の効果 ) 中心核 は、 質量降着で輝いているはず。 z = 0.006 - 0.7 中心核ルミノシティと ジェットパワーはよく相関している。 a = 0.6 – 1.1 80 - 1000 kpc ジェットの力学的なパワーは、 放射と同程度以上に重要である。 ジェットも質量降着で駆動することを 示唆していると考えられる。 電波のスペクトル指数の分布 ローブの大きさの分布 赤方偏移の分布 電波銀河Centaurus A : 我々から最も近い活動銀河(距離3.4 Mpc) 複雑なローブ構造を持つ(4x8°のアウターローブ, ミドルローブ, インナーローブ ) X線観測では、ふるくから温度0.3 keV程度のISM, 北東ジェット, 多数のX線連星などが検出 5. ASTRO-E2に向けて ~ ローブの膨張速度を測る ~ 100 sec観測で予想されるXRSスペクトルと、そこから決まるプラズマ温度と6.4 keV輝線の幅のConfidence Contour 膨張速度 1500 km s-1 4500 km s-1 3000 km s-1 プラズマ温度 kT [keV] 6.4 keVの輝線幅 [keV] XRS視野 (約3分角) Chandra による Centaurus A インナーローブのX線画像 (0.4-2 keV;Kraft et al. 2003) XMM-Newton によるインナーローブのX線画像(0.5-2 keV)に2.4 GHzの電波画像を重ねたもの(Kraft et al. 2003)。 Centaurus A南ローブの描像 6.4 keV 付近を拡大 南インナーローブの端に、 X線で明るいシェル状の領域が確認できる。 スペクトルは、ISM(0.3 keV)より十分に高温な、 温度 3 keV程度の熱的プラズマで再現できる。 しかし、光子指数G=2の 非熱的放射も棄却できない。 ローブの膨張速度 2400 km s-1 6.4 keV輝線の幅 50 eV ローブの膨張速度がわかると… XRSなら測定できる! ローブがISMに行う仕事量が求められる (仕事率 = 圧力 x 表面積 x 膨張速度) ローブの膨張がどの程度ISMを加熱 できるかがわかる。 ISM中をローブが2400 km s-1 程度の超音速膨張することで衝撃波が生じ、ISMを加熱していると考えられる(Kraft et al. 2003) ASTRO-E2による観測が重要 たとえば、 銀河団クーリングフローを抑制する 機構になりうるかもしれない。 100 ksecの南インナーローブ の観測時間を確保