1 『無限解析入門』 における誤差について 1.『無限解析入門』の誤差とは? 2.誤差に注目する理由 3.ある誤差リストの解釈 4.仮説の全体像 徳島大学工学部 高 橋浩樹.

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8.数値微分・積分・微分方程式 工学的問題においては 解析的に微分値や積分値を求めたり, 微分方程式を解くことが難しいケースも多い。
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1 『無限解析入門』 における誤差について 1.『無限解析入門』の誤差とは? 2.誤差に注目する理由 3.ある誤差リストの解釈 4.仮説の全体像 徳島大学工学部 高 橋浩樹

2 Leonhard Euler (1707-1783) 生誕300周年 1.『無限解析入門』の誤差と は? 「オイラーは人が息をするように、 また鷲が空を舞い遊ぶように、 見た目には何の苦労もなく計算した」 天文学者 フランソア・アラゴ

3 オイラーの解析三部作 著述 出版 『無限解析入門』 1745 17 48 『微分計算教程』 1748 17 55 『積分計算教程』 1763 17 68~1770 ・『入門』には,数値データに 60 個を超える間違いが ある. ・単なる誤植や数値の表現(四捨五入・切捨て)と いった 理由ではないようである. 疑問 オイラーは数値計算が不得意だったの か?

4 log (1+ x )/(1-x) のマクローリン展開を用いた計算

5 sin (m/n π/2) の マクローリン展開 プログラム

6 cos (m/n π/2) の マクローリン展開

7 tan (m/n π/2) cot (m/n π/2) の マクローリン展開

8 (ゼータ値の近似値) × (1-1/2 n )

9 (ゼータ値の近似値) × 1/2 n

10 素数ベキ和の近似値 ゼータ値の近似値を組 み合わせて求められる

11 2.誤差に注目する理由 ゼータ関数に関わる 2 つの疑問 A.ゼータ関数の「美しい関係」 なぜオイラーは,関数等式を美しいと 形容したのか? B.ゼータ関数の特殊値 なぜオイラーは,特殊値を数多く計 算 したのか?

12 A. 『美しい関係』(E352) 美しい? 定義

13 注)1749年に 著述 太陽と月の記号

14 E117E117 [ 著述 1748, 出版 1749] Reflexions sur la derniere eclipse du Soliel du 25 julliet a 年の金冠日食に関する文献 E142E142 [ 著述 1748, 出版 1750 以降 ?] Sur l'atmosphere de la lune prouvee par la derniere eclipse annulaire du soleil. 月の大気に関する推測 金冠日食の観測データ

15 解釈 上の式・・・太陽が月の背後に位置す る. 下の式・・・太陽の光の環がなおも輝 く. Z(n-1)/Z(- n) Γ (n)cos(n π/ 2) πnπn

16 E41 [ 著述 1735, 出版 1740.] バーゼル問題の解決 12 までのゼータ値 ゼータ値 E101 [ 著述 1745, 出版 1748.] 『無限解析入門』 ・・・「いくつか書き添えておく」 26までのゼータ 値 ゼータ 値 E352 [ 著述 1749, 出版 1768.] 美しい関係 ・・・ 「計算した限りを示す」 34 まで のゼータ値a b c ゼータ値abc B . ゼータ関数の特殊値のリスト E212 [ 著述 1748, 出版 1755.] 『微分計算教程』 30までのゼータ値 ゼータ値

17 ゼータ関数の特殊値 ベルヌーイ数との関係(オイラーの発 見)

18 予測できる素数たち

19 予測が困難な素数たち 周期 p-1

20 分子に現れない素数 分子に現れる素数 正則素数 2、3、5、7、11、13、 17、19、 23、29、31、4 1、・・・・・・ 非正則素数 37、59、67、101、103、131、・・・、 283、・・・、593、・・・、617、・・・、 683、691、・・・・・・ ⇔ B 0,B 2,B 4,…..,B p-3 のどの分子も p で割れな い。 ⇔ B 0,B 2,B 4,…..,B p-3 のどれかの分子が p で割れる。

21 疑問 ・691という素数が ζ (12)に突如現れたことに 興味を抱かなかったのか? ・34までのゼータ値を求めたのに,最小の非正則 素数37に気づかなかったのか? 仮説 『無限解析入門』のゼータ値の近似値の誤差に, オイラーは非正則素数を書き記した. 基本的には,誤差の素因数として書き記した. 1998=54 ・ =472= 8 ・ =12 ・ 67= 公表しなかった理由は後述

22 60 を超える誤差の解釈 『無限オイラー解析』 現代数学社 この本はオイラーの問題集. 未発見の解答が残っている. 「理系への数学」(現代数学社) 9 月号より詳細な探究の連載 『オイラー数学の源流』 第 1 回 巨人オイラー 第 2 回 超越への助走

23 3.ある誤差リストの解釈 sin と cos のマクローリン展開の係数の誤差リスト

24 気づくこと ・31個中28個もの誤差がある. ・数値に対する誤差の割合は急激に膨張している. ・誤差は最終一桁の範囲に収まっている. ・ひとつのデータのみ絶対値が正値より大きい. → 奇妙な数値データに思える. 偶然の間違いではなく,意図的なものではないか? sin (正弦), cos (余弦) -楽譜であれば,面白いだろう.

25 オイラーの公式 e ix =cos x+i sin x 係数を組み合わせて,元の指数関数の展開の順番で曲にする! 演奏1 楽譜への変換 - 1-シ 0-ド 1-レ 2-ミ 3- ファ 4-ソ 5-ラ 6-シ 7-ド 8-レ 演奏0 どうすれば,曲になるのだろうか?

26 リズムの調整 賛美歌を参考

27 楽譜

28 オイラーの曲であると推測する理由

29

30 4.仮説の全体像 『無限解析入門』がオイラーの問題集だとす ると,出題者の義務として解答集も残すだろ う. 解答集であると考えられる著作 E352 『美しい関係』 E343 『ドイツ王女への手 紙』

31 非正則素数と指数 (1000まで)

32 3年前に描いた非正則素数たちの宇宙 ( p cos (2πk/(p-1)), psin (2πk/(p- 1)))

33 E343 ドイツ王女への手紙

34 仮説の続き(公表しなかった理由) 非正則素数に関して,オイラーは神秘的な事実を見出し た. けれども,神秘の排除という学界の流れの中では, その事実の公表は立場上差し控えるべきだった. 他方,オイラーは彼自身の驚くべき発見を何らかの形で は 残しておきたかった. (ゼータ関数⇔天体 ⇔ ・・・) 1741 年 7 月 25 日 ロシアからベルリンに到着 ↓ 1748 年 7 月 25 日 金冠日食 1748 年 『無限解析入門』出版 問題集 ↓ 1768 年 『美しい関係』出版 解 答集1 1768 年 『ドイツ王女への手紙』出版 解答 集2

35 仮説の反証可能性 ・誤差の生成理由を説明する. ・このような数値データは稀ではないこと を示す. (誤差が曲になり,しかも生成理由が説明 できないデータの例示)

36 参考 log 10 5 の計算 log(ab) 1/2 =(log a+log b)/2