今回の日本の公的年金改革に関する一考察 (主に数理的根拠について) 平成16年11月12日 年金基礎研究会 第3グループ
1 1.現行制度(今回の年金改革による制度)の不安点 制度自体がわかりにくい – 公的年金制度の位置付け – マクロ経済スライドの本来の目的・仕組み – 保険料負担額と給付額の関係 不公平感がある – 世代間の公平性 – 国民年金保険料の未納 信頼できない – 保険料算定の数理的根拠 – 将来の年金制度への不安 本発表はこのテーマを 考察する
2 2.当局試算の前提と乖離(財政悪化)するケース ① 出生率低下 ② 死亡率低下 ③ 物価スライド(マイナス)の凍結 ④ 運用利回り、賃金上昇率、物価が前提以上の水準を達 成しても、それぞれの差額(実質運用利回り、実質賃金 上昇率)が前提を下回る場合
3 【当局の前提】 現在の当局による将来推計は以下の前提に基づいている。 1. 出生率:中位推計 2. 労働力率:改善 3. 被保険者率:記載無し(横ばい程度か?) 試算の前提 【現実的シナリオによる試算】 1. 出生率:最低位推計 2. 労働力率:改善せず(現状維持) 3. 被保険者率:5年かけて 5 %低下すると仮定 制度の「支え手の推移」という観点から制度の安定性を考察 3.当局試算の前提と乖離(財政悪化)するケースの 具体的試算
4 総人口 労働力率 労働人口 厚年保険 被保険者 出生率死亡率 当局の試算前提は本当に妥当か? ①中位出生率 ⇒実際の出生率はより低い(アジア他国の例) ②労働力率が上昇(特に女子) ⇒ 1999 ~ 2000 年にかけては、労働力率は上昇せず。 ③被保険者率は同程度 ⇒過去の統計を見ると低下(パート化、非正規社員化が要因) 掛金 負担者 被保険者率
年の各国の出生率 韓国: 1.17 日本: 1.29 香港: 台湾: 1.24 シンガポール: 1.25 参考 スウェーデン: 1.65 イタリア: 1.26 フランス: 1.88 アメリカ: 2.13 年金財政の将来予測は出生率の回復を見込んだシナリオ(中位推計)を主に利 用している。根拠として、「出生率の低下は一時的」と言うことになっている が、アジア各国の出生率は日本より既に低く、下げ止まる保証はどこにも無い。 2003 年実績は、おおよそ低位推計の数値であった。 【出典】 「最低位」以外は、国立社会保障・人口問題研究所より( ) 最低位推計は、上記低位を参考に、出生率が 1.0 になるまで、低下させた。(筆者作成) 前提①出生率
6 労働力率についても、男女共に改善する前提としている。 特に女性については、いわゆる「M字グラフ」の谷が緩やかになる前提として いる。 過去数年の結果からも、女性の改善が見られるが、現状では労働力率の改善と 出生率の低下には強い相関性があると考えられるため、年金財政への影響は相 殺される。 前提②労働力率(その 1 ) 2000 年は総務省統計局『国勢調査報告』、 2005 年以降は厚生労働省職業安定局推計 (2002 年 7 月 ) による。総数は 15 歳以 上。
7 前提②労働力率(その 2 ) 近年の労働力率の推移。女性の 20 代、 30 代が上昇している。 この変動と出生率の低下は表裏一体。
8 厚生年金保険を掛金の面から支えているのは、「被保険者」である。 総務省統計局の「労働力調査報告」と、厚生労働省の「被保険者数資料」を比 較すると、被保険者率の低下が起こっている。 これには、3つの大きな理由が考えられる。 1. 大企業のリストラによる、適用事業所被雇用者の減少。 2. 従業員の非正規社員化 3. 中小企業を中心に起こっている「任意脱退」(本来的には違法行為) シミュレーションでは、被保険者率低下ケースとして、 2002 ~ 12 年までの 10 年間について、「 0.25 %ポイント / 年」低下するケースを試算。 前提③被保険者率 【出典】 総務省「労働力調査」および、厚生労働省「年金数理部会資料」より筆者作成。
9 前提④ 基準日( 2002 )の人口構成 【単位:千人】
10 試算結果
11 1. 今般の年金制度改革において、当局の試算は、当然のことながら、複数の 前提にもとずいている。 2. 結果、積みあがった前提を真とするならば、今の制度で安定的な運営が可 能と主張している。 3. 前提の妥当性・安定性には疑う余地が当然の事ながら存在する。 4. いくつかの前提について「妥当でない」という仮定をおいた場合、制度の 担い手がどのような推移を見せるかを検討。 5. 「出生率」「労働力率」「被保険者率」の前提を変えるだけで、イメージ の異なる風景が見えてくる。 6. よって、現段階で「安全」と言い切るのは困難と考える。 数値に関する一考察(まとめ)
12 死亡率(厚生労働省 平成 15 年簡易生命表) 人員静態資料等(国立社会保障・人口問題研究所) 改正案のポイント(厚生労働省) 合計特殊出生率(厚生労働省) 韓国統計局 内閣府(資料) 労働統計データ 公的年金被保険者の推移(社会保険庁) 社会保険統計情報(社会保険庁) 労働力調査(総務省) H 13 年度年金数理部会資料(厚生労働省) ( 13 年度) ( 12 年度) ( 11 年度) 参考資料
13 適正な年金数理が使用されているか(その前提となる諸条件も含めて)、明確になっていな い。 政治的決着した部分にいて、数理的にどの程度の債務が生じるかを適正に評価し、その穴埋 めをする解決策(税負担など)が必要。 保険料算定の数 理的根拠 信頼性 保険料負担額と給付額の関係が明確になっていないため、納得感がない。例えばDCやCB など負担額と給付額が明確になっていれば、透明性もあり理解しやすい。極論としては、国 民強制預金制度であれば納得感がある。 保険料負担額と 給付額の関係 2 号被保険者ばかり損をしている感覚がある。国民年金保険料 の未納 マクロ経済スライドの仕組の説明ばかりに目がいくが、本来的に何の目的でマクロ経済スラ イドを導入することになったかが理解しにくい。「年金を支える力と給付のバランスを取れ る仕組み」をもっと簡潔に説明すべきであると考える。 マクロ経済スラ イドの本来の目 的・仕組み 年金は世代間扶養の仕組みとして決め付けているが、国民へ理解できるだけの充分な説明が なされていない。「自律と自助の精神に立脚する我が国の経済社会の在り方」とは何なのか、 それを国民の何人が理解しているのか、疑問である。 世代間扶養以外にも目指すレベルは幾つか考えられるが、その中で今回の年金改正で目指し たレベルと目指さなかったレベルにおける違いが明らかになっていない。例えば、単純化し て①年金制度の廃止、②世代間扶養の実現、③負担額に応じた給付の実現、 3 つのレベルを 考えた場合、①については、年金給付がないことで社会問題が発生する、③については負担 額が大きくなりすぎる、よってその中間の②である、といった説明をするだけでも随分と理 解しやくすなると考える。最低限必要な保障と、実現可能な負担とを説明すべきと考える。 公的年金制度の 位置付け わかりやす さ 持続可能で安心な年金制度になっているか、問題点ばかり目につき、不安である。 将来的に給付減額される可能性は皆無ではない。 将来の年金制度 への不安 充分な説明がなされているか。(他の項目と比べると、説明されているように感じた。)世代間の公平性公平性 問題点検討すべき観点項目 納得して保険料負担できる年金制度 保険料負担額と給付額が明確な制度。具体的なアイディアとして、制度改正時の過去分を保証し、将来分はDCまたはCBとし、財政方 式も変更。 将来的に年金制度が持続できるだけの数理的根拠が明確となった制度。 4.納得して保険料負担できる年金制度(その1)
14 ○ 年金改革全体のトーン 年金制度の抜本改革という言葉が独り歩きしている感があるが、保険料を上げずに、給付が上がる(または、下がらな い)というバラ色の改革はありえないということを認識すべき。 一方で、世帯間の負担と給付のアンバランスが、不公平感を醸成しているため、受給者も含めて一定レベルの調整を行う 必要がある。 ⇒公的年金の被保険者数の減少率(実績値)と平均的な年金受給期間(平均余命)の延び率を勘案したマクロ経済 スライドのような仕組みは必要 ただし、基礎年金部分は、憲法25条に定める最低限の生活保障としての生活費を賄える水準を保証していく必要がある。 *高齢者の所得の中で公的年金の占める比率は約6割となっており、さらに、公的年金が収入のすべてである世帯 は高齢者世帯の約6割を占めている。 加えて、近い将来、わが国の生産年齢人口の減少が予想されることから、一定の経済レベルを維持していくためには、働 く意欲と能力を持つ高齢者は60歳以降も労働していただく必要がある。 ⇒在職老齢年金制度の支給停止を拡大する等、過度に高齢期の就労を抑制するものであってはならない。 ○ 厚生年金の改革案(連合会の21世紀企業年金研究会の報告書にも出ていましたが) 厚生年金の報酬比例部分は、イギリスの適用除外のように企業年金が独自に運営することを可能とする(労使協議により DB だけでなく、 DC 、 CB も可能とする)ことはどうか? ⇒厚生年金の民営化 厚生年金基金の代行返上を行った企業から見れば、形を変えてまた戻ってくるというイメージになるが・・・ *基礎年金部分は、最低限の生活保障としての体系を維持する。 4.納得して保険料負担できる年金制度(その2)
15 4.納得して保険料負担できる年金制度(その3) 別紙 4.1
16 5.数理面からの検証 別紙 5.1 別紙 5.2