フリードマンも消費の平準化に注目して、 恒常所得仮説を提唱した。 消費の平準化を行う各個人は、消費が現在 の所得よりもむしろ、好調な年と不調な年 を 平均した生涯の全所得 ( 恒常所得と呼ばれ る ) に強く依存する。したがって、フリードマ ンは人々は一時所得と恒常所得を区別でき ると主張した。 好調な年と不調な年の間で、消費を平準化 させる点で貯蓄の役割を重要である。
ライフサイクル仮説どう違う のか。 貯蓄の役割を強調する点はライフサイク ル仮説と同じであるが、ライフサイクル 仮説では、所得のパーンが一生涯では規 則的なパターンに従うことを強調してい るが、恒常所得仮説では、人々が年々、 所得の不規則的で一時的な変化を経験す る点を強調した点で異なる。
恒常所得仮説 M. フリードマンは、所得を 「恒常所得 (permanent income) 」と 「変動所得 (transitory income) 」の 2 つの 部分に分けた。
恒常所得とは、自己の学歴・資産・所得 獲得能力からして、将来予想しうる平均 所得。 昇進やより所得の高い職をえると、消費 は増加する。このように消費を増加させ るのは恒常所得。 変動所得とは、景気の良し悪しによって 左右される所得。宝くじやギャンブルで の臨時収入(=変動所得)は、その分だ け消費を増やそうとはせず、貯蓄に回す。
フリードマンは、消費は主に恒常所得に依存 しているという恒常所得仮説を提唱した。 平均消費性向は
:好調時 :不調時
経済成長により賃金等が増加する 生涯賃金が増加すると予想して、生涯所 得の現在価値の増加、すなわち恒常所得 の増加する。 消費が原点からの直線に沿って増加する。 =短期消費関数の上方シフト 所得の一時的変動に対する消費変化はゼ ロ
短期と長期の消費関数 C Y 短期消費関数 恒常所得変動所得
統計的事実の説明 長期的には、変動所得は差し引きゼロと みなしうる。よって、長期的には、可処 分所得は 恒常所得 ( ) に一致する 。 短期的には、恒常所得は変化しないのに 対して、変動所得は大きく変化する。 このため、消費はあまり変化しないが、 平均消費性向は上下に変動する。
恒常所得とは何か? 消費者個人の「人的資本」(彼の全将来 所得の現在価値)を含めて、彼が持って いる全資産の現在価値から得られる所得。 :財産 :人的資本の収益 :賃金
3 期間の所得の割引現在価値 3 期間にわたり所得が同一とすれば ( ならし所得 )
これを整理すると、 現在所得の一時的変動は、生涯にわたる 平均所得(=恒常所得)を少し変動させる。 よって、消費も少し変化する。
恒常所得仮説の数値例 現在の所 得 恒常所得一時所得消費 APC 1期1期 370 万円 300 万円 70 万円 240 万円 期2期 230 万円 300 万円- 70 万円 240 万円 期3期 300 万円 0 万円 240 万円 0.8 利子率はゼロ物価は一定 恒常所得
しかし、実際には将来所得の予想は困難で ある。家計が恒常所得を予想する場合、現 在所得から完全に独立には決まらない。フ リードマンは過去の所得系列から、恒常所 得を予想すると考えた。 順次逓減 ただし、 を用いた。
恒常所得仮説は、本来、将来の所得ある いは その予想に基づく理論であるが、過去の 所得 によって推計せざる点は、大きな問題で ある。 消費の習慣化仮説との区別ができない。
恒常所得の最も簡単な例 :今期の所得 :前期の所得 短期の消費関数
C Y E E” E’
前期までの所得 今期の所得は に増加 その後も が継続 短期消費関数は上方へシフト
もし、2期間にわたり同じ所得が 実現すると、その一定の所得が恒 常所得として認識される。
割引現在価値 将来受け取る金額が、現在ではどれだけ の価値があるかを示す。 今日受け取る 1 万円は、 1 年後に受け取る 1 万円より価値が大きい 例えば 今日受け取った 1 万円を銀行に預金すると、 利子率 5 %の時、 1 万 500 円になる。
1 年後受け取る 1 万 500 円は、今日受け取る と 1 万円の価値である。 = 1 年後の 1 万 500 円の現在割り引き価値は 1 万円である。 1 年後の 1 万円の現在割り引き価値 = 1 万円 1 +利子率 1 年後に受け取る
受領時割引現在価値 1 1+r1+r × 1 万円= 1 万円 1+r1+r 1 1+r1+r × = (1+r)²(1+r)² 1+r1+r 1 1+r1+r × = (1+r)³(1+r)³ (1+r)²(1+r)² 1 年後 2 年後 3 年後 N年後 = 1 万円 (1+r)ⁿ(1+r)ⁿ
家計のクロスセクション・データ に 対する説明 平均所得に等しい所得階層 平均所得はゼロ 平均所得より高い所得階層 の結果その所得階層に入って いる人の方が、 の結果その所 得階層に入ってくる人数よりも多い(図 を見よ)。 ∵ 母集団が正規分布しているため。
母集団の人数分布 平均所得より高い所得階層において、 の人数の方が、 の人数より多い。 低所得平均所得高所得
平均所得より低い所得階層 の結果その所得階層に入っている 人数は、 の結果その所得階層に 入っている人数より多い。 母集団の平均所得より 高い階層では、 低い階層では、
クロスセクションの消費関数 階層別 所得 負の変動所得正の変動所得
消費は常に、どの所得階層においても、 恒常所得に依存する。
有配偶継続世帯 固定効果法および変動効果法においても、 月々の世帯収入は消費に有意義に影響を 与えていない。 一時的な所得の低下は消費支出を減 らさないが、これが恒常化すると消費支 出は減少する。 他に、子供の就学および住宅ローン残 高が、消費支出に対して有意な説明変数。
未婚女性の消費支出 その月の収入が有意であるが、過去 3 年間 の 移動平均収入は有意な係数ではない。 恒常所得仮説は不成立 親の年間収入、親同居ダミー、無職ダミー、 専門・管理職ダミー、技能職ダミーは有意。 ( マイナス ) 預貯金残高が多い時、親と同居している時、 消費支出は少なくなる。
t 検定 回帰分析において、回帰係数の優位性を 検定すること。次の手順を踏む。 (1) 回帰係数の t 値を求める。 t 値=回帰係数 / 標準偏差 (2) この t 値と t 表の値を比較する。 (3) |t 値 | の方が高ければ、その係数の信頼 性が高いことを意味する。逆の場合は、 信頼性が低い。 ( およそ 2 以上 )
恒常所得仮説の問題点 ① 消費者が将来所得を正確に予測できる のか? ② 実証結果によれば、恒常所得仮説が予 測 するほど、現在消費に対して将来所得 は 影響を持たない。 借り入れ制約の存在 ③ 消費の平準化仮説は正しいのか?
短期の消費関数 ライフ・サイクル型 今年の可処分所得 ケインズ型 現実の消費 関数