マクロ経済学初級I タイプIIクラス 白井義昌 第7回講義 マクロ経済学初級I タイプIIクラス 白井義昌
海外部門 輸入 輸出 国内 政府 政府購入 総生産 GDP 財・サービス市場 消費 家計 生産者 投資 労働 土地 資本 生産への 投入 賃金・地代・利潤 要素 所得 利子所得 生産要素市場 貯蓄 労働・資本 貸し出し 借り入れ 資産市場 金融市場 利払い
第7回講義の内容 7.1 資産市場の概要 7.2 資産選択 7.3 貨幣需要 7.4 貨幣供給 7.5 貨幣市場(資産市場)の均衡
7.1 資産市場の概要 資産取引を理解する
金融取引とは? 金融取引:資金の余っている主体(黒字主体、資金の 最終的貸し手)から資金の足りない主体(赤字主体、 最終的貸し手)から資金の足りない主体(赤字主体、 資金の最終的借り手)への資金融通取引 [現在の財と将来の財の取引] 黒字主体と赤字主体の間に立って金融取引を仲介 する主体を金融仲介主体(機関)という。(銀行など) 間接金融:金融仲介主体を通じて行われる金融取引 直接金融:金融仲介主体を経ずに行われる金融取引
金融取引とリスク 債務:金融取引の結果、借り手が貸し手に対して確約した、将来の所得支払い約束 債権:金融取引の結果、貸し手が借り手に対して確約されている、将来の所得受け取り約束 債務不履行リスク、信用リスク: 金融取引の結果の債務が確約どおりに履行 されない危険
資産について 資産(asset)とは、 将来の財サービスに対する請求権である。 資産の分類。 無形資産 有形資産 金融資産 人的資産 将来の財サービスに対する請求権である。 資産の分類。 無形資産 金融資産 人的資産 有形資産 生産設備、土地
金融資産(Financial Asset)のうちわけ 金融資産は大きく分けて3種類に分類できる 貨幣(Money): 取引決済に用いられる資産 債券(Bonds): 利子を生む資産 株式(Stocks): 会社の所有権(会社が生み出す利潤の請求権および会社にたいする制御権)
7.2 資産選択 ポートフォリオ選択
資産の収益性、安全性と流動性 家計は保有する金融資産の内わけをどのようにするか(どのように資産を運用するか)という問題、すなわち資産選択の問題に直面する。 資産選択を行ううえでの基準 収益性 収益が高いほど望ましい 安全性 信用リスクの少ないほど望ましい 流動性 決済手段に用いやすいほど望ましい(現金化しやすいほどよい)
貨幣、債券、株式など、資産保有のうちわけをどのように配分するかを決定することである。 よく観察される状況として 収益性の高い資産は安全性が少ない 流動性の高い資産は安全であるケースが多い 資産選択(ポートフォリオ選択)とは、 収益性、安全性、流動性の基準に基づき、 貨幣、債券、株式など、資産保有のうちわけをどのように配分するかを決定することである。
資産保有の収益 ある資産を一期間保有することによって得られる収益とは、 その資産がもたらす利子収益または配当収益 その資産の価格(価値)が上昇[下落]することによって得るキャピタルゲイン[ロス] キャピタルゲイン: 資産価格が上昇すればその資産を売却することで資産価格上昇分だけ利益を得たことになる。
資産の期待収益率 資産の期待収益率: 当該資産の期待利子(配当)率 + 期待資産価格上昇率 リスクプレミアムρ:= 当該資産の期待利子(配当)率 + 期待資産価格上昇率 リスクプレミアムρ:= 危険資産の期待収益率Rー安全資産の収益率r かきなおせば R=r+ρ 危険資産の収益率は安全資産の収益(利子)率にリスクプレミアムをたしあわせたものになっている
R<(>)r+ρ であれば人々は危険(安全)資産を保有しようとしない。したがって 危険(安全)資産の価格は下がる。 危険(安全)資産の収益率は上がる。 R=r+ρが回復する。 上式は人々が危険資産と、安全資産のどちらを保有しても同じであるように裁定取引をした結果成立することになる。すなわち、上式は裁定条件をあらわす。
資産価格と利子率 危険資産の期間tでの価格をPtで表し、期間tに支払われる利払い(配当)をdtで表す。危険資産の収益率は Rt=(Pt+1-Pt )/ Pt +dt /Pt 安全資産の期間tでの利子率をrtで表す。 危険資産と安全資産の裁定条件は (Pt+1-Pt )/ Pt +dt /Pt =rt +ρ すなわち Pt = (Pt+1 +dt )/ (1+rt +ρ) 資産価格Ptと安全資産の利子率rtは逆の動きをする。 rt +ρ
資産価格と利子率(続き) 安全資産の利子率が高いほど、資産価格は低くなる。 リスクの大きい資産(リスクプレミアムρが高い資産)ほど資産価格は低くなる。 将来の利払いまたは配当の大きな資産(dが大きい)ほど資産価格は高くなる。
貨幣の需要の要因はどのようなものか? 貨幣需要関数を理解する 7.3 貨幣需要 貨幣の需要の要因はどのようなものか? 貨幣需要関数を理解する
貨幣需要とは? 資産選択の結果、人々が保有しようとする貨幣量のことをいう
貨幣需要の特性 貨幣需要は期待収益、安全性、流動性に依存して決まる 貨幣はもっとも流動的な資産 貨幣の収益率は低い したがって、人々が貨幣を需要する度合いはどれだけ低い収益性をがまんして流動性を求めるかによる
貨幣需要に影響する経済変数 物価P: 物価が上昇すれば名目取引額が増大するので、必要名目貨幣量もそれに応じて増える。 実質所得Y: 物価が上昇すれば名目取引額が増大するので、必要名目貨幣量もそれに応じて増える。 実質所得Y: 実質所得の増大は実質取引数が増大するため、必要実質貨幣量もそれに応じて増える 利子率r: 利子率の上昇は貨幣以外の金融資産の収益率の上昇を意味し、これによって人々は実質貨幣保有量を減少させ他の実質金融資産を保有しようとする。
名目貨幣需要関数 物価上昇は名目貨幣需要を増大する 実質所得の上昇は実質貨幣需要を増大する 実質利子率の上昇は実質貨幣需要を減少させる 以上の性質を表現する名目貨幣需要関数を次のように表す。 P・L(Y,r) このように、貨幣需要が資産選択を通じて需要される(利子率に依存する)と考えることを流動性選考仮説ともいう。
実質貨幣需要関数 L(Y,r)は実質貨幣需要関数で、Y について増加関数、r については減少関数である。 これらの性質をつぎのように書き示すことが多い ∂L(Y,r)/∂Y= LY(Y,r) > 0 ∂L(Y,r)/∂r= Lr(Y,r) < 0
貨幣需要の利子弾力性 1%の利子率上昇が何%の貨幣需要の減少をもたらすかを示す指標を 貨幣需要の利子弾力性 という。 貨幣需要の利子弾力性 という。 これは次のように表される |Lr(Y,r) /L(Y,r)| 貨幣需要の利子弾力性が大きい(小さい)ほど貨幣需要量は敏感に反応する(しない)、またこのとき貨幣需要は利子に弾力的(非弾力的)であるという。
貨幣とは? 貨幣は中央銀行によってどのように供給されるか? 7.4 貨幣供給 貨幣とは? 貨幣は中央銀行によってどのように供給されるか?
貨幣の測り方 貨幣供給の詳しい定義については http://www.boj.or.jp/siryo/exp/exms.htm を参照 貨幣の測り方 貨幣供給の詳しい定義については http://www.boj.or.jp/siryo/exp/exms.htm を参照 貨幣とは取引決済に用いられる資産である。 現金通貨(日本銀行券、硬貨) 預金通貨=要求払い預金ー対象金融機関保有小切手 (普通預金、当座預金など) M1=現金通貨+預金通貨 準通貨(定期預金) CD 譲渡性預金 M2+CD=M1+準通貨+CD
貨幣はどのように供給されるか? 中央銀行(日本の場合は日本銀行)が供給する。 ハイパワードマネー(H) =現金通貨(C)+銀行の預金準備(R) 現金通貨:人々が保有する紙幣および硬貨 銀行の預金準備:銀行が預金の引き出しに 備えて保有する紙幣および硬貨 貨幣供給量(M) =現金通貨(C)+預金通貨(D) 預金通貨:人々が保有する預金残高
中央銀行 現金通貨C 預金通貨D ハイパワード マネー H 預金準備R 貨幣供給量M 銀行貸出 銀行以外の 民間 銀行
現金保有比率、預金準備率 現金預金保有比率=C/D≡q: 人々が決める。 預金準備率=R/D≡s: 0から1の間の値をとる。 人々が決める。 預金準備率=R/D≡s: 0から1の間の値をとる。 法律で最低限保有すべき準備率(すなわち、預金準備率の下限)は日本銀行によって決められている(法定準備率)。
貨幣乗数と貨幣供給 M/H=(C+D)/(C+R) =[(C/D)+1]/[(C/D)+(R/D)] =(q+1)/(q+s)>1 貨幣供給量はハイパワードマネーの量より大きい。信用創造が行われた。 (q+1)/(q+s)を貨幣乗数という。貨幣供給量はハイパワードマネーの貨幣乗数倍になる。 M=[(q+1)/(q+s)]H
7.5 貨幣市場の均衡 とLM曲線 貨幣市場の均衡は資産市場均衡としてとらえられる。 財市場と資産市場の同時均衡
資産市場の均衡としての貨幣市場の均衡 金融資産需要量 =貨幣需要量P・L+債券需要量DB 金融資産供給量 =貨幣供給量M+債券供給量SB 金融資産市場の均衡(需要と供給の一致)は次の結果をもたらす、 P・L+DB =M+SB P・L-M=SBーDB すなわち、貨幣市場が均衡していればPL=M、債券市場も均衡していることになるSB=DB。
貨幣市場の均衡 名目貨幣供給量と名目貨幣需要量が一致するとき貨幣市場は均衡する。 M=P・L(Y, r) これはとりもなおさず、実質貨幣供給量と実質貨幣需要量の一致でもある。 M=P・L(Y, r) (LM)
LM曲線 LM曲線とは 貨幣(資産)市場の均衡をもたらす実質所得と利子率の組み合わせの軌跡である。
LM曲線 r Y