鹿児島県大隅地区の地域医療 連携 ‘ 鹿屋方式 ’ の経験と課題 県民健康プラザ 鹿屋医療センター小児科 楠生 亮
大隅地区 ( 鹿屋医療 センター)診療圏 肝属郡( 2 市 4 町)と 曽於郡南部( 1 市 1 町) (東京都ほぼ同じ広 さ) 小児対象人口: 34,226 人 小児科医師: 11 名 (当院3名、小児科 開 業医8名)
鹿屋医療センターの診療圏 肝属郡+曽於郡 南部 鹿児島市 小児科開業医 1名あたり 4,278 人 (1.5 倍) 2,829 人 小児科勤務医 1名あたり 11,408 人 (7.7 倍) 1,489 人
小児科学会基準に基づく病院小児科 医・病床数 現在の数適正数 病院小児科医数 3名3名 13 名 病院小児科病床 数 18 床 32 床 *平成 17 年度の総外来患者数: 6813 人、 新規入院患者数: 854 人
鹿屋医療センターの位置づけ 一次医療 開業医 開業医 開業医 開業医 開業医 二次医療 鹿屋医療センター 三次医療 鹿児島大学 鹿児島市立 国病機鹿 児島 病院 病院 医療センター * 大隅地区は、入院のできる施設が一施設しかなく、また そこ に 3 名の小児科勤務医しかいない小児医療過疎地域 である。
鹿屋医療センターの基本方針
いわゆる ‘ 鹿屋方式 ’ とは ・「かかりつけ医」機能は、開業医が基本的におこ なう。 時間外の一次救急は、鹿屋市医師会の内科(小 児科)当番医が担う。 ・鹿屋医療センターは、入院医療、2次救急医療 へ機能を特化、集中する。 例外(鹿屋医療センター小児科で初めから診療する場 合) 基礎疾患のある患児 ( 血液・心臓疾患等 ) 基礎疾患の症状が増悪した時 ( てんかん等 ) 生後5ヶ月未満の乳児
大隅地区の小児時間外受診者数の推移 平成 13 年 1 月から ‘ 鹿屋方式 ’ が本格的に開始
時間外受診者中の小児の占める割合
鹿屋市外からの時間外受診者の割合
鹿屋医療センターの患者数の推移
‘ 鹿屋方式 ’ の現在 時間外患者数の増加のため、疲弊す る内科当番医師が増えてきた。 ‘ 鹿屋方式 ’ が定着してきても、当番医 によっては小児患者がことわられる こともある。
内科当番医へのアンケート 鹿屋方式がオープンになり、受診者数が増加した。 (昼間は仕事があるために、緊急ではないのに時間外 に受診する患者が増えた。鹿屋市外からの受診者数が 増えた。) 紹介状がないと鹿屋医療センターが原則診ないことか ら、紹介状のみを希望して受診する人がいる。 昼間に小児科を受診した後に、よくならないと来た場 合に非常に困る。 小児診療の教育を受けていないので、自信がない。 診療所では、当番業務のために余分な職員の準備が必 要で、経営に影響する。 ほとんど眠れないことが多く、年をとり体力が続かな い。翌日の診療に差し支える。
その対応 時間外受診の抑制のために、鹿屋市医師会とし て統一して、原則 1 日分処方とする。 小児科医(鹿屋医療センター)による勉強会の 開催。(時間外診療マニュアルの改訂、配布) 小児科医が、健診や育児講演会、マスコミ等を 利用して、適切な受診の仕方のついて広く伝え ていく。
提案された課題 急病センターを設立し、そこに当番医がつめて診療する (周辺の医師会会員の協力をえられ、当番の回数が減少す る)。 ・・・・・自分の病院に重症患者がいると離れにくい。自分 の病院の方がやりやすい。 小児科医による部分的な小児科当番制を立ち上げる(日曜、 祝日の日勤帯)。 ・・・・・年末年始と 5 月の連休は検討する。 準夜は開業医が対応し、深夜は鹿屋医療センターの当直医 または小児科医が対応する。 ・・・・・当直医が、内科医や小児科医である日は多くない。 深夜帯の受診が増加する可能性が高い。小児科医 3 名では 難しい。
‘ 鹿屋方式 ’ の現実 通常受診不可の理由( 909 名複数回答) 仕事 76.3% 待ち時間が長い 7.0% 急病だから 6.5% 休めない 5.0% 用事 5.3% 複数の子供がいるので 2.6% 学校 0.9% 平成 16 年度厚生労働科学研究費補助金「小児救急医療における患者・家族 のニーズへの対応策に関する研究」
‘ 鹿屋方式 ’ の現実 「 #8000 」事業の整備も含めて、時間 外受診者増に対しての抜本的な解決策 も今のところない。 このまま時間外受診者数が増加し、内 科(小児科)開業医が、 1 次救急を支え られなくなった場合には、 ‘ 鹿屋方式 ’ は 崩壊してしまう危険性がある。
‘ 鹿屋方式 ’ のコンセプト 住民の求める地域医療には二つある。 1.一次救急 2.二次医療 現在は、この両方が地域の基幹病院に求めら れている。 しかし医師の数が少ない地方の基幹病院の勤 務医だけで両方とも支えるのは、無理である。
‘ 鹿屋方式 ’ のコンセプト ・ 劣悪な労働環境のために、基幹病院の勤務 医がやめていけば、まず一次救急が立ち行か なくなり、さらにやめていけば、二次医療ま でが危機にさらされる。 (疲弊しやめていく勤務医が増加し、さら なる悪循環に陥る) ・以前から医療過疎地域の開業医は、小児患 者までカバーしていた。
‘ 鹿屋方式 ’ のコンセプト 小児科勤務医の数の少ない大隅地区では、基 幹病院の機能として、二次医療に特化して二 次医療を守ることが他地域への重症患者の搬 送を減らし、結果的に地域住民の医療を守る ことになる。 一次医療(特に一次救急)は、医師数の少な い基幹病院の勤務医だけで考えるのではなく、 地元医師会の協力も得て、ともに維持してい く。
鹿屋方式のメリット ( 鹿屋医療センター) 当センター全体(平成 17 年度) 当センター 小児科: 1)紹介率 58 % 84.6 % 2)平均在院日数 15.2 日 7.5 日 小児科の収益 (平成 17 年度) 小児科 内科 外来単価 1 万 0843 円 1 万 0339 円 入院単価 3 万 2986 円 4 万 3989 円 *複数の小児科開業医に対して、 1 基幹病院し かない地域性も影響
鹿屋方式のメリット ( 鹿屋医療センター) 勤務医は、時間外患者を多く診ても、行政、病院 内、住民からあまり評価されない(診て当たり 前)。 また個人収入も開業医と異なり増えない。 (長時間拘束され、対価も得られず心身ともに疲 弊していく。) この方式であれば、勤務医を少しでも長く続け られる。 (将来的には当然、小児科勤務医の数が現在より増える ことになれば、地域の小児患者は一次医療から支えていき たい。)
鹿屋方式のメリット ( 小児科開業医) 小児科開業医のみで輪番をすると、 4 日に 1 回で あるが、現在は月に 2 回程度である。 時間外にかかりつけ小児患者が急変しても、当 番医から鹿屋医療センターの流れができており、 安心できる。 小児救急以外の分野にも(学校保健や療育、講 演等)時間が使う余裕ができる。 定点制より、患者を診れば診るほど実収入があ がる。
まとめ 現在内科当番医の疲弊が明らかになり、様々な 問題点がでてきている。 共働き世帯の増加等で、時間外受診者数の減少 のための妙案はない。 しかし地域医療を守っていくためには ‘ 鹿屋方式 ’ をつづけていくことのメリットは大きい。 大隅地区では、内科医と小児科医と協力して ‘ 鹿 屋方式 ’ をつづけていく必要がある。