「歴史的認知音楽学」の構想 と研究事例
David Huron の認知音楽学入門 認知音楽学に関する膨大な資料の中で もっとも充実し,適確でかつ面白いのは オハイオ大学の David Huron とりわけ,彼が 1999 年にカルフォルニア 大学でおこなった「 Music and Mind: Foundation to Cognitive Musicology 」は圧 巻 認知音楽学への民族学的アプローチと歴 史的アプローチについて自身の研究を紹 介
Huron の研究 グレゴリア聖歌の時代,人はそれをどう 聴いていたか 今日の歌における言葉のアクセント,メ ロディックアクセント,音長アクセン ト・・・一致 グレゴリア聖歌の歌詞とメロディックア クセントは一致しないように体系的に作 られていた。 アクセントの一致に関する統計的データ 処理
グレゴリア聖歌では,詩のアクセントの置かれた 場所は,旋律のメリスマのようなところで,旋律 アクセントと異なる 。 In chant, the miscoordination is between syllable placement and melodic accent. The miscoordination is utterly systematic. グレゴリア聖歌の時代の人々のシラブル アクセントの聴き方は,今日と異なる。 Huron は Happy birthday to you をグレゴリ アチャント風に変形してみせる。 村尾が J.Pops における意図的不一致の研究 事例を示してきたことと,通じるのだ が??
日本における洋楽受容の研究 日本音楽学会では十数年前から日本にお ける洋楽受容の研究がブームのように なっておこなわれてきた。 しかし,シンポジウム,個別の研究発表 などそれらのほとんどは音楽についての 研究( study about music )であり,日本人 が構造としての音楽をどのように聴き, 再生( representation )してきたか,とい う視点が欠けていた。
村尾の研究 1985 , CRME 誌に発表した論文 Comprehensibility of the Weakly Closed Pattern in Triple Meter Music: An aspect of the Process of How the Japanese Have been Getting Used to a Triple Meter
奥忍の大正期の日本人の歌い方の 変化に関する実験的研究 奥忍の研究の画期的なことは,実験研究 を歴史的研究としたこと まさしく歴史的認知音楽学の典型,草分 けといってもよい。 ピッチマッチによる方法は,もしかした ら Melodyne にょる分析よりもすぐれてい る可能性がある。
その後の研究の発展:安田寛,嶋 田由美ほか 安田寛が受け継いだ 3 拍子のパターンの研究 は,これを韓国唱歌におけるパターンとの比 較にまで発展させ, Huron のいう Trans cultural approach to cognitive musicology と historical approach を重複する展開となって いる。 嶋田の基本拍内同音反復の理論は,もっと注 目されてしかるべき。 これが前提となって「兎と亀」の変形の研究 (村尾)が可能となった。
今川,有本の研究にも期待すべき アプローチがある。 有本の卒業式の研究は,次の段階で卒業 式の歌を歌う時の共同想起,という哲学 的,社会学的研究へと向かう。 今川の国民学校時代の音楽教育研究は聞 き取り調査の方法で歴史的認知音楽学の もう一つのアプローチに向かう
これまでバラバラにおこなわれてきていた 研究が大きな体系のもとに構築化 歴史的認知音楽学という概念を導入する ことで,これまでいろいろな人がおこ なってきた研究を集約し,体系化できる のでは。 体系化するためには,本として出版する 必要。 二年後を目指して研究会を続け,出版に こぎつけたい。