メディア・リテラシー 2003 春学期・概念構築
講義内容 メディア・リテラシーとは何か メディア・リテラシーの背景 メディア・リテラシーの実践 – 雑誌広告のクリティーク
メディア・リテラシーとは何か メディア・リテラシーとは「能力」と 「(その能力を育むための)教育活 動」を同時に指す概念 「能力」とは – メディアの利用を想定する(せざるを得な い)状況で考えられる読み書き能力
メディア・リテラシーとは何か メディア・リテラシーの定義・1 – メディア・リテラシーとは、市民がメディアを社 会的文脈でクリティカルに分析し、評価し、メ ディアにアクセスし、多様な形態でコミュニケー ションを創り出す力を指す。また、そのような力 の獲得を目指す取り組みもメディア・リテラシー という。 – 鈴木みどり、『メディア・リテラシーを学ぶ人の ために』、世界思想社
メディア・リテラシーとは何か メディア・リテラシーにおけるメディ アとは … – 従来はマスメディアが想定されていた – 現在は様々な電子メディアに拡張されつつ ある(コンピュータ、コンピュータネット ワークの普及・一般化)
メディア・リテラシーとは何か メディア・リテラシーとはどのような能力か – メディアを読む能力 情報の収集・解釈についての教育 – メディアを活用して書く能力 情報の生産・表現についての教育 – メディアにアクセスする能力 メディアの入手・操作についての教育 – メディアの活用をコントロールする能力 すべての活動の土台を見渡す教育
メディア・リテラシーとは何か メディアとの ” つき合い方 ” を主体的に選択す る能力 その根底にあるのはメディアに対するクリ ティカルな姿勢 –critical: making careful judgements –involving making fair, careful judgements about the good and bad qualities of something (OXFORD Advanced Learner’s Dictionary) メディア・リテラシーとは、そのような姿勢 を意識的に形作る教育活動
メディア・リテラシーとは何か メディア・リテラシーの定義・2 – メディア・リテラシーとは、「私にとってメディアとはい かなる存在か」という根源的な問いを通して各個人のなか に確立されるメディア観であり、また、そのようなメディ ア観に基づいてそれぞれにふさわしいメディアとの距離や 接し方を主体的に選択する能力であり、さらに、必要に応 じてメディアの向こう側にいる他者との関係を構築する能 力である。 – 斎藤俊則、『情報がひらく新しい世界9 メディア・リテ ラシー』、共立出版
メディア・リテラシーの背景 イギリス、ヨーロッパ大陸では文化批 判の対象として早くからメディアと文 化、メディアと教育の問題が意識され ていた メディア・リテラシーとはこのような 背景から生まれてきた発想
メディア・リテラシーの背景 イギリス、ヨーロッパ大陸における大衆文化 批判 – アメリカ大衆文化(ハリウッド映画、広告産業、 ラジオなど)への警戒と対抗 – 大衆文化の普及に対する保守・エリート主義的な 立場からの批判 イギリスのスクルーティニー派( 1932 年〜、リーヴィ ス) – 文化産業による文化の市場的画一化に対する左翼 的立場からの批判 大陸のフランクフルト学派(アドルノ、ホルクハイ マー)
メディア・リテラシーの背景 学問的な背景 – 早期の批判理論(文学から大衆文化へ) – 構造主義とテクスト批評、文化批評 ソシュール記号学の影響 – メディア論 マクルーハンの「メディアはメッセージ」 – 社会学 メディア、権力、アイデンティティなどの問題化 オーディエンス研究 構築主義的な観点からのメディア研究、カルチュラルス タディーズ
メディア・リテラシーの背景 カナダにおける教育実践 – 早くから各州の教育カリキュラムに導入 バリー・ダンカン(メディア研究・教育学者、マクルー ハンの弟子)による普及活動 – オンタリオ州のテキスト(教師用リソースガイ ド)は有名 『メディア・リテラシー マスメディアを読み解く』、 カナダ・オンタリオ州教育省編、 FCT 訳、リベルタ出版 ( 1992 年) 欧米諸国の教育現場への普及につながる – 日本にも紹介される( 1980 年代)
メディア・リテラシーの実践 クリティカルなオーディエンスになる ための学び – メディアテクストのクリティカルな読解 – メディアテクストの制作 主体的にメディアを活用していくため の学び – 情報教育との連携
メディア・リテラシーの実践 「メディアテクストのクリティカルな 読解(クリティーク)」の実践 今回の対象はコンピュータに関する雑 誌広告 クリティークの論拠として記号学を導 入する
この広告は私たちの生きる現実に対してどのような力 (影響力)を持ちうるか。また、そのような力を持ち うると考えられる理由は何か。
広告読み解きの手がかり 広告の力とは何か – 商品を印象づける – 購買意欲を刺激し、購買行動に結びつける –… この点は後ほど再検討 広告の力の背景にあるものは何か – 広告主の商業的な意図 広告制作者が自覚しない力を持つこと はないか … ?
広告読み解きの手がかり 広告に用いられる表現は斬新であると ともに理解可能でなければならない – 宣伝対象を効果的に印象づける戦略 斬新であるために – 既存の意味のカテゴリーとの対立 理解可能であるために – 既存の意味のカテゴリーの反復
読解の論拠としての記号学 広告は<記号>の組み合わせ 記号とは、そこにない「何か」の存在 (=意味)を読み取らせるもの – 意味を読み取ってしまうあらゆるもの
読解の論拠としての記号学 意味は記号間の関係(共通性・差異) によって生み出される – <オトコ>とは<オトコでないもの>との差異によって規 定される – <オトコ / オトコでないもの>の関係は、その都度の文脈 (コンテクスト)によって変化する <オトコ>と<オンナ> <オトコ>と<ショウネン> – コンテクストを形成するのもまた、記号間の関係 <アタッシュケース>と<オトコ> <ビトンのハンドバッグ>と<オトコ>
(ふたたび)広告読み解きの 手がかり この広告におけるコンピュータのイメージは 他のどんな記号によって与えられているか – コンピュータと〜との組み合わせ その組み合わせに斬新さが感じられるとすれ ば、それと対をなす「斬新でない組み合わ せ」とはどのようなものか – 広告の外部にあるコンテクスト イメージが十分理解できるために、どのよう な「既存の意味のカテゴリー」が用いられて いるか – 分かりやすい記号の組み合わせ
読み解きからクリティークへ 記号間の関係は常に恣意的に構築される 記号は私たちの主観に関係なく存在する<何 か>を代理するのではない 私たちの主観が記号を読みとることによって <何か>の存在が生み出される – 再確認の場合もあれば創造の場合もある 記号間の関係は現実的な力の作用によって構 築・維持・更新される – 広告制作者がそのような広告を作ること – 読み手がそのように読むこと – これらは相似性とズレを含みつつ、記号間の一定の関係を 社会的に定着させる力となる
読み解きからクリティークへ 固定化した記号間の関係は、時に現実に対し て抑圧的に作用する – 固定化した記号間の関係は規範(コード)として 社会秩序の形成に向かう力となる – ステレオタイプ、偏見に基づく社会的関係の構築 – たとえばジェンダーの問題 固定化された記号間の関係、それによっても たらされる意味、を読むということは、その 関係を反復・強化することでもある 読み手のアイデンティティもまた、読み取り の度に(再)確認・維持される
読み解きからクリティークへ 広告の力とは – 商業的な影響力 – 政治的な影響力 社会的な秩序(ステレオタイプのカテゴリー、読み手の アイデンティティも含む)の形成と維持 – 制作者の意図とは必ずしも関係せず 広告の力を生み出すのは – 経済のシステム – 文化・社会のコンテクスト – 読み手(オーディエンス)の振る舞い
というわけで レポート課題 本日取り上げた「コンピュータの雑誌広告」 を、講義の内容を踏まえてクリティークせよ テーマは「 この広告は私たちの生きる現実に対し てどのような力(影響力)を持ちうるか。また、そ のような力を持ちうると考えられる理由は何か。 」 A4 用紙、2000字〜3000字程度 7月7日(月)までに i306 に提出