1 経営学特講 第5章 組織論の発展 法政大学教授 洞口治夫
2 ①意思決定における経営者の役割 ②有機的管理システム ③機械的管理システム ④公式化と集権化 ⑤オープンシステムとクローズドシス テム ⑥組織設計(組織デザイン) ⑦組織の環境適応 ⑧イナクトメント ⑨コア・コンピタンス ⑩知識創造理論 第5章 組織論の発展
3 この講義のねらい テイラー、バーナード、サイモンに よって基礎づけられた組織論が 1960 年 代以降に、いかに発展してきたか? 企業をとりかこむ経営環境をいかに捉 えるか?
4 質問 芸能プロダクションのマネジメント と 自動車組み立て工場のマネジメン ト とは、同じであってよいのだろう か?
5 ①意思決定における経営者の役 割 コンティンジェンシー理論の登場。 どのような組織を構築するかは、経営 者が経営環境に対応して決定する。 例 ネクタイをしない従業員に対して注意 するか、しないか。 フレックスタイム制度を取り入れるか、 否か。
6 ②有機的管理システム 画家、歌手、芸能プロダクション、 広告代理店のコピーライターやテレビ コマーシャルの監督、映画監督、 作曲家・作詞家、大学教授、 探偵、占い師、小説家など、勤務時間 が一定ではない職業がある。 彼らを一定の勤務時間、拘束したら生 産性は高まるだろうか?
7 有機的管理システムの特徴 仕事が定型化されていない。 仕事をめぐる環境の変化が激しい。 常に新しい課題が生まれる。 繰り返しとなる仕事の部分が少ない。 独創性が要求される。
8 ③機械的管理システム 軍隊、警察、大学の応援団、 野球チームの監督・一軍コーチ・二軍 コーチ、 官僚組織、相撲部屋など、組織形態が 100年程度一定している組織がある。 なぜ彼らは同じ組織形態で、不都合を 感じていないのだろうか?
9 機械的管理システムの特徴 仕事が定型化されている。 仕事をめぐる環境の変化が激しくない。 新しい課題の性質が一定している。 繰り返しとなる仕事の部分が多い。 独創性が要求されない。むしろ、完璧 な模倣、マニュアルの重視が要求され る。
10 ④公式化と集権化 有機的/機械的という違いをどう 測るか? 公式化:文書作成の頻度 集権化:権限を握る人の存在 機械的組織では公式化・集権化の 度合いが高く、複雑性は低い、と される。
11 ⑤オープンシステムと クローズドシステム オープンシステム 海岸と海の関係 組織をとりまく環境が開かれている。 システムを構成する変数の数が無限大。
12 クローズドシステム 地球と海の関係 組織をとりまく環境が閉じている。 システムを構成する変数の数が有限。 連立方程式の解が存在する。
13 オープンシステムと組織 海岸と海の関係 組織を取り囲む要因が、無限大に広 がっており、それを許容する。 (例)芸術家・・・どのような作品を つくっても良い。何からアイデアを得 てもよい。誰に見せても良い。
14 クローズドシステムと組織 地球と海の関係 組織を取り囲む要因の数が限られてい る。あるいは、限定している。 (例)東京六大学野球の応援団の 例・・・ 試合の数は限られている。 応援を見せる相手が限られている。や るべき応援の意味内容も限られている。
15 オープンシステムと組織目的 海岸と海の関係 目的は、組織内の誰かから与えられる とは限らない。 目的が「進化」していく可能性がある。 創発 (emergence)
16 クローズドシステムと組織目 的 地球と海の関係 目的は、組織に参加した時点で、自明 である。
17 ⑥組織設計(組織デザイン) 組織をどのように設計するか? 指揮命令系統が明確なほうが常に良い のか? 仲良しグループのように「すべて平 等」がよいのか? 責任は、リスクは誰が負うのか? 報酬は、どう分配するのか?
18 <復習>知識管理④職能別組織 社長 人事 総務 製造営業 経理 会計 情報 システム
19 <復習> ⑤事業部制組織 社長 事業部1 製品A製品B製品C 事業部2 製品D製品E製品F 事業部3 製品G製品H製品I
20 <復習> ⑤事業部制組織+地域別組織 =⑥マトリックス組織 取締役会 事業部1 製品A 北米 アジア 欧州 BC 事業部21 製品DEF 事業部3 製品GHI
21 <復習> ⑥マトリックス組織 製 品 地域 製品A製品B製品C・・・ 北米 アジア 欧州
22 <復習>マトリックス組織の問 題点 報告義務の二重性 意思決定の遅さ 利害の相反
23 <復習> ⑦ネットワーク組織 公式組織にこだわらずに、人と人との 関係を重視していく。 情報交換のために組織をフラットにす る。
24 <復習>ネットワークをつく る 取締役会 事業部1 製品A 北米 アジア 欧州 BC 事業部21 製品DEF 事業部3 製品GHI
25 ⑦組織の環境適応 1960 年代に、コンティンジェンシー理 論という理論が一世を風靡した。有名 な理論家は ウッドワード バーンズ=ストーカー ローレンス=ローシュ 彼女、彼らは①~⑥の問題を集中的に 考えた。
26 その問題とは、 有機的管理システム vs 機械的管理システ ム 公式化 vs 非公式化 集権化 vs 分散化 オープンシステム vs クローズドシステム キーワードは、変化と定型
27 ⑧イナクトメント ワイクの登場 Karl E. Weick, The Social Psychology of Organizing, McGraw-Hill, コンティンジェンシー理論とは異なっ た、まったく新しい視角からの組織論。
28 コンティンジェンシー理論の 限界 組織の環境適応が場合わけになっていっ た。 Aという条件では、aという組織。 Bという条件では、bという組織。 アサヒビール、キリンビール、サッポロ ビールは、みな同じ組織でよいのか?
29 「イナクトメント」の意味 Enactment: (1)法律が制定されること。 立法、法令、条例。(2)上演 Enact:vt. (1)法律を制定する。~を法 律にする。(2)提案などを実行に移 す。起きる。生じる。(3)上演する。
30 イナクトメント 「ごちゃごちゃいわずに、やってみな はれ」 活動してみてから、はじめて意義がわ かるのであって、意義がわからないう ちは活動しない人には、結局なにもわ からない。
31 イナクトメント⇒センス・メイキ ング 活動してみることによって、意味が生 まれる。 組織とは、活動する人々に、その活動 の意味を与える場である。 環境に適応して企業の活動を変化させ るのではなく、企業が環境を変化させ るようにイナクトする、働きかける、 ことができる。
32 組織変革 ワイクの Organizing に着目。 組織を変革する=イノベーションを起 こす=新製品を発売する=新しい事業 を起こす すべては、やってみてから。イナクト してから。それから考える。
33 しかし、 やれと言われてもできないことがある。 なぜか。 体力、技能 技術、知識 の不足
34 ⑨コア・コンピタンス Core Competence :コア・コンピテンス と表記される場合も多い。 組織のなかの中核的な能力 ラーメン屋:ラーメンづくり 寿司屋:寿司の握り方 税理士事務所:財務会計と税務の知識 自動車メーカー:機械工学、生産工学
35 企業の外側にある技術 /内側にある技術 コンティンジェンシー理論=環境適合 理論=条件適合理論:技術は企業を取 り囲む「環境」ないし「条件」であっ た。 コアコンピタンスにおいて、技術は企 業の内部において組織の複雑性を決定 づけるものとして捉えられる。
36 ⑩知識創造理論 コアコンピタンス=知識+物理的な処理 能力 テクニカルコアは、すでにそこに存在し ている「所与」の条件。 知識を作り出すことができれば、左辺も 増える。
37 <復習>暗黙知=熟練への着眼 ポランニー『暗黙知の次元』 言葉にできること以上のことを知って いる。 形式知:言葉にして表現された知識 (プログラミング) 暗黙知:言葉にして表現されない知識 (人間の顔の認識)
38 <復習>野中郁次郎・竹内弘高 知識の変換モード 共同化 Socialization 表出化 Externalization (新製品開発) 内面化 Internalization 連結化 Combination 暗黙知 形式知 出力
39 <復習> 知識スパイラル 共有化された暗黙知を形式知にす る 共同化 Socialization 表出化 Externalization 内面化 Internalization 連結化 Combination 対話 行動による学習
40 知識管理論のフロンティア 個人の持つ知識 グループの持つ知識 組織の持つ知識 集団の持つ知識 サイバーネットワークに蓄えられた知 識 =Wikipedia
41 集合知 Collective Intelligence Surowiecki, James.(2005) The Wisdom of Crowds, with a new afterword by the author, Anchor Books. J. スロウィッキー『「みんなの意見」 は案外正しい』小高尚子訳、角川書店、 2006 年.
42 <例>ウィキペディア リナックスなどの事例は、オープンシ ステムの典型例。 誰もが参加でき、どのような「結末」 に向かうのかは、わからない。
43 まとめ 組織論のフロンティアは、知識管理論 の分野に広がっている。 情報管理論/情報処理の機構として組 織をとらえる考え方もあったが、現在 は、あまり強調されることがない。 (終わってしまった学問なのか、これ から新たな見直し作業があるのか不 明。)