2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 1 東アジアにおける トランスナショナル・コミュニ ティの 実現の可能性 我が国の FTA/EPA 政策と 東アジアにおける人の移動 慶應義塾大学・総合政策学部 教授 渡邊 頼純.

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2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 1 東アジアにおける トランスナショナル・コミュニ ティの 実現の可能性 我が国の FTA/EPA 政策と 東アジアにおける人の移動 慶應義塾大学・総合政策学部 教授 渡邊 頼純

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 2 我が国の FTA ・ EPA 政策 WTO (世界貿易機関)における多国間主義(マル チラテラリズム)に則った貿易自由化を補完 我が国との経済関係の深い国・地域との更なる 貿易投資の自由化とその為の枠組み作り 東アジア域内貿易の比重増大を反映して、東ア ジアにプライオリティ 外交政策としての EPA :相手国との集中的交渉 を通じての関係強化、相手国や地域における我 が国のプレゼンスの確保 資源・エネルギー、食糧、人材の確保

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 3 Intra-regional Trade (%) East AsiaEU(15)NAFTA Export 1980 年 年 Import 1980 年 年 Source : Japan Economic Journal ( 5/11/2004 )

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 4 FTA と EPA FTA (自由貿易協定):特定の国や独立した関 税地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障 壁などを撤廃することを目的とする国際取り決 め。差別性を有するが、 GATT24 条や GATS5 条 で一定の条件のもとに容認 EPA (経済連携協定): FTA を中核とするが、 物品・サービスのみならず、投資や人の自由な移動 や国内規制の撤廃、競争政策などの経済制度の 調和、二国間協力の強化等を目指す我が国独自 の包括的国際取り決め

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 5 EPA:経済連携強化のための 協定 Economic Partnership Agreement 物品、サービス貿易以外の分野でも包括的な 経済連携を推進

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 6 なぜ EPA か? WTO ( 148 カ国)では投資、競争など新たな ルールは当面できない WTO では交渉に時間がかかる:ウルグアイ・ラ ウンド( 年)、ドーハ・ラウンド ( 2001 年 11 月開始) EPA 交渉は速い:日シンガポール EPA10 ヶ月、日メキ シコ EPA17 ヶ月、日フィリピン EPA10 ヶ月、日マ レーシア EPA17 ヶ月、日タイ EPA20 ヶ月(いずれも 大筋合意まで) アセアン諸国の工業品関税は高く、サービス分野の 自由化度は低い ⇒ EPA 交渉でより速く実現 可能 日本国内の規制緩和・構造改革を推進

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 7 EPA による経済活性化 供給サイド 企業収益の改善(関 税コスト削減、生産 拠点効率化) 国内構造改革 投資先としての魅力 向上(対内投資フ ローの増大) 需要サイド 市場拡大(規模の経 済効果) 関税撤廃⇒相手国市場 への特恵的アクセス 原産地規則⇒域内にお ける部品調達の増大

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 8 EPA の構成要素

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 9 我が国の EPA のパートナー シンガポール(人口: 400 万人、一人当たり GDP : 3 万ドル、 2002 年 11 月発効) メキシコ(人口: 1 億 500 万人、一人当たり GDP : 6500 ドル、 2005 年 4 月発効) フィリピン(人口: 800 万人、一人当たり GDP : 975 ドル、 2004 年 11 月大筋合意) マレーシア(人口: 2400 万人、一人当たり GDP : 4000 ドル、 2005 年 5 月大筋合意) タイ(人口: 6000 万人、一人当たり GDP : 2000 ドル、 2005 年 9 月 大筋合意) インドネシア(人口: 2 億 1500 万人、一人当たり GDP : 816 ドル、 2005 年 7 月 交渉開始) ASEAN 全体(人口: 5 億 5 千万人、一人当たり GDP : 1200 ドル、 2005 年 4 月 交渉開始、 2 年以内の合意が目標) 韓国(人口: 4800 万人、一人当たり GDP : 1 万ドル、 2003 年 12 月開 始) この他、チリ、インド、豪州、スイスと共同研究会

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 10 自動車産業「 ASEAN 最適供給体 制」 自動車産業「 ASEAN 最適供給体 制」 日本の自動車産業は、既に ASEAN ワイドで 事業を展開している タイ:ディーゼル・エンジン、 エアコン、 部品関税率: 40-60% マレーシア:エンジン、 コンデンサー、 部品関税率: 5-80% フィリピン:トランスミッション、 コンビネーション・メーター 部品関税率: 3% インドネシア:ガソリン・エンジン、 ホーン 部品関税率: 5-15% 日本:エンジン関連 高級部品

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 11 「人の移動」フィリピン・タイ の要望 専門的・ 技術的 労働者 「グレー ゾーン」 労働者 単純労働 者 その他 フィリピ ン 看護士 介護士・介 護労働者 タ イ マッサージ師、ス パセラピスト、 保育士、老 人介護士、 タイ料理調 理師 家事補助者、 ベビーシッ ター 治療目的で の渡航への 医療保険適 用

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 12 日比 EPA 看護士・介護士の受け入 れ 看護士・介護福祉士国家試験受験コース 候補者の選抜 ● 看護候補者の要件:資格保有者+看護士経験者 ● 介護候補者の要件:介護士研修修了者+ 4 年制大学又は看護大学卒業者 入国・滞在・日本語研修 (看護 3 年介護 4 年) 就労・研修 国家試験受験 ● 合格者は新たな在留資格で就労、不合格者は帰国 ● 在留期間は最長 3 年、更新可能

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 13 日・タイ EPA における「人の移 動」 日本側は、タイ人料 理人、指導員等の入 国・就労条件を緩和。 今後スパ・セラピスト、介 護福祉士の受け入れ を検討し協議 タイ側は、タイにお ける日本人の滞在お よび労働許可取得に かかる条件を緩和

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 14 日本の外国人労働者の推移 ( 推計) ( 年 ) ( 人 ) 就労目的の在留 資格を有する者 67, ,726168,783185,556 技術実習生など 3,260 6,558 29,749 53,505 留学生・就学生 の資格外活動 10,935 32,366 59,435 98,006 日系人労働者 71, ,748233,187230,866 不法就労者 106,497284,744232,121219,418 一般永住者 - 17 、 ,154 86,942 合計 260,000620,000740,000870,000

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 15 日本における外国人労働 国内の外国人労働者数は、推定約 87 万人 定住化傾向も顕著 ( 一般永住権取得者は 9 万人 弱) 「在留特別許可」により合法化された不法残留者 数は 1 万 3000 人程度( 2004 年度) 止まらない少子化傾向:「合計特殊出生率」 (女性が一生の間に出産する子供の推定値)は 1.29 (2004年)で過去最低 ⇒ 労働力不 足 歳層の減少は、 5 年間に 10% を超えるス ピードで進行 (東京ディズニーランドのアル バイト平均年齢は現在 26 歳まで上昇)

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 16 主要国の外国人労働者( 2003 年) 外国人労働者数労働力人口比 % 専門的・技術的労働者 入国者数(単位 1,000 人) アメリカ 21, ドイツ 3, カナダ 3, オーストラリ ア 2, イギリス 1, フランス 1, イタリア n.a. ニュージーラン ド 日 本 韓 国

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 17 「高度人材」獲得競争 1990 年代後半以降、 IT (情報通信技術) 技術者・労働者など高度人材をめぐる獲 得競争が激化 ⇒ グローバルな人材市場 が成立 アメリカ:「IT革命」の中心として、 インド、中国などアジア諸国から高度人 材の受け入れに成功 EU :入国規制の緩和、留学生の学位取得 後の就労許可、永住権取得の要件緩和な ど 中国、韓国、シンガポールなども優遇措 置

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 18 日本としてどう取り組むか 第 3 次出入国管理基本計画( 2005 年 3 月) 「現在の在留資格や上陸許可基準に該当 しないものでも、専門的、技術的分野と 評価できるものについては、・・・積極 的な受け入れを進めていく」 「特定活動」の在留資格を積極活用 外国人労働者の受け入れ基準の明確化・ 透明性確保(語学能力、就労経験、資格 技能のレベル、地域経済活性化への貢献 度等)

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 19 高度人材受け入れの推進 外国人雇用の形態、外国人労働者の技術 水準、国内のニーズ等に即した入国管理 制度の整備(永住型・非永住型長期・短 期などのカテゴリー分け) 対日投資に伴う外国人駐在の審査手続き の迅速化、入国審査基準の明確化 IT技術者・研究者に対する在留要件の 緩和 在日留学生の日本企業への就職支援

2005 年 10 月 15 日渡邊頼純 20 東アジアにおけるトランスナショ ナル コミュニティ実現の可能性 同化政策( assimilation ) 植民地政策 多文化主義( multi-culturalism )カナダ、豪州 統合( integration ) EU 「多様性の中の一致」 非周辺化( demarginalization ) 「多文化共生」:総務省、地方自治体が使用 分かりやすいルール作り ルール作りへの差別なき参加の確保 権利と義務の漸増型アプローチ( incremental approach ) ⇒ 秩序ある外国人労働者の受け入れ態勢