マネジメント・サイエンス 特論Ⅱ 経営学専攻 山下英明
オペレーションズ・リサーチ( OR )とほぼ同義 システムを効率的に運用するための科学的方法 数理計画 シミュレーション 待ち行列 ゲーム理論 金融工学 マーケティング 信頼性・保全性 OR 事典 Wiki ( 日本オペレーションズ・リサーチ学会 HP) 経営科学(マネジメント・サイエ ンス)
経営科学, OR のアプローチ システム(問題)のモデルを構築し、数 理的に解析することにより,最適な解決 策を見出す 現実の世界モデルの世界 システム 対象問題 モデル 解析結果 システム に適用 モデル化 結果解釈 設計・管理解析
鉄・石油化学関連工場の自家発電コスト削減 高圧蒸気エネルギーの利用 ボイラーで水を沸騰し,その蒸気をター ビンに吹き付け回転させ発電 ボイラー 5 ~ 10 基,発電機 10 台以上 工場の必要電力に応じてボイラー,タービ ンにどのように負荷をかけるか 5 分ごとに 最適化 生産計画に対応してボイラーとタービンの 補修計画を1カ月ごとに最適化 コスト約 1% 削減 = 数億円 OR の日本への導入 [1]
自動車組立ラインの稼働率向上 品種はオプションによって異なるので,加 工時間もバラバラ 流れ作業の中で滞留が起こる ライン間に空台車のバッファをおく ベルトコンベヤーの速度を調整 作業員同士が協力できる体制 シミュレーションにより高いライン稼働率 を実現 OR の日本への導入(続き)
「駅探」乗り換え案内エンジンの開発 乗車時間,料金,乗り換え回数等基準様々 多様性のある解を提示することが必 要 約 1 万の駅を含むグラフでモデル化 平均所要時間のデータから MPS 法,ダイク ストラ法を用いて 500 ~ 1000 通りの経路を 求める 時刻表を適用して時間の精度向上,料金計 算 ユーザの優先度に合わせて候補を提示 1997 年首都圏版から 2001 年全国版に拡張 OR の日本への導入 ( 続き )
不確実を伴うシステム例 サービス窓口 ( ATM ,コールセンター,高速道路料金 所) 生産・物流システム (生産スケジューリング,在庫管理) 道路の渋滞 インターネットの輻輳 ファイナンス(ポートフォリオ,リスク評 価)
不確実を伴うシステムの評価 確率モデルを用いて不確実性を表現 確率現象を数学的に表現したモデ ル 解析方法 理論的解析(確率過程論,待ち行列理論) 厳密な結果が得られる モデルに制限がある 実験的解析(シミュレーション) 結果は標本にすぎない どんなモデルでも解 析
模擬実験 1.実際のシステムを数式,コンピュー タ・ソフトウェア,小型模型などでモデ ル化 2.システムのダイナミクスを模擬的に実 験 3.システムの性能指標を事前に推測 1.シミュレーションとは シミュレーションの手順
シミュレーションの例 敵軍を想定した軍事模擬演習 模型を用いた海岸の浸食の実験 経済モデルを用いた景気の動向予測 コンピュータによる航空機の操縦練習 システムを微分方程式系で表現して,それを解 くことによってシステムを解析 コンピュータによる数値実験 コンピュータ・シミュレーション 確率モデルのシミュレーション モンテカルロ・シミュレーション
2.システムのモデル化 モデル化の手順 1. システムの構成要素,評価指標の決定 2. 動的メカニズムを表現 3. 実データの収集 4. 分布の同定
例:銀行の ATM システム 客の到着 客の退去 待っている客 サービス 中の客 ATM
構成要素と評価指標 構成要素 機械の台数 客のサービス時間 (機械の性能) 客の到着間隔 評価指標 客の平均待ち時間 平均機械稼働台数
動的メカニズム 客の到着時に機械が空いていれば即サー ビス開始(両機械が空きのとき機械1優 先) 両機械ともサービス中のとき客は一列に 並ぶ 待ち行列の先頭の客は機械が空いた時点 にサービス開始 サービス終了後客は直ちに退去
到着時間間隔とサービス時間の 実データ
到着時間間隔のヒストグラム
指数分布の密度関数
到着時間間隔分布の同定 指数分布の密度関数 指数分布の平均
サービス時間のヒストグラム
サービス時間の対数のヒストグ ラム
対数正規分布の密度関数
サービス時間分布の同定
3.シミュレーションの実行 シミュレーションの実行手順 1. シミュレーションサンプルを生成 → 乱数を使用 2. サンプルを用いてシステムのダイナミク スを計算 3. 性能指標を計算
一様乱数 1. X 1, X 2, ‥‥がそれぞれ区間 [0.1] の一様 分布 U ( 0,1 )に従う 2. X 1, X 2, ‥‥は互いに独立である のとき X 1, X 2, ‥‥は区間 [0.1] の一様乱数 作成法:乱数さい, 乱数表 乗算合同法 等 → 擬似乱数
一般分布 F(t) に従う乱数
指数分布に従う乱数
到着時間とサービス時間の生 成
シミュレーションの計算方法(1) 時間駆動型シミュレーション 時間軸を微小な Δ 時間ごとに分割し,分 割した時点ごとにシステムの変化を 追っていく. (粒子運動,道路渋滞のシミュレー ション) 長所:システムが連続的に変化する場合 に 適する 短所:計算時間が膨大,誤差も大きい
シミュレーションの計算方法(2) 事象駆動型シミュレーション 現在の状態から,次の事象の発生時刻と その事象による状態の変化が計算でき るとき,事象発生時刻ごとに状態を更 新する. 長所:計算時間が短い.精度が良い. 短所:適用できるモデルに制限がある 実装がやや困難
シミュレーションの実行結果
シミュレーションの計算方法(3) 漸化式を用いた シミュレーション システムを漸化式を用いて表現し,シス テムの変数を漸化式によって順次計算 する. 長所:計算時間が短い.精度が良い. 実装が容易. サンプルパス最適化が可能 短所:適用できるモデルに非常に制限さ れる
漸化式を用いたシミュレーション の例 1. ATM の機械が1台しかない場合
4.シミュレーション結果の分析 結果分析の手順 1. 性能指標の信頼区間を求める 中心極限定理を利用 2. 構成要素と性能指標の関係を求める 到着率,機械の台数・性能を変化 3. 実際のシステムを評価・設計する 機械設定のコスト(機械購入+メイ ンテナンス+設置面積)と待ち時間 による損害(客の不満による客離 れ)を考慮
シミュレーション結果の信頼 区間
性能指標の信頼区間
到着率と平均稼動機械台数の関 係
到着率と平均待ち時間の関係
シミュレーションの注意点 モデル化において重要な要因を盛り込む と共に,複雑になりすぎるのを防ぐ 入力データが実際のデータと乖離しない モンテカルロ・シミュレーションでは, 1つのシミュレーション結果は統計的標 本にすぎない
この授業の内容 ① シミュレーションの概要 ②~⑤ ランダム要因の決定と乱数作成法 ⑥~⑨ シミュレーションモデルの作成と実 装 ⑩ シミュレーション結果のまとめ方 ⑪ 効率的なシミュレーション方法 ⑫ シミュレーションによる最適化 ⑬ マルコフ連鎖モンテカルロ法 ⑭~⑮ シミュレーション解析事例(学生の 発表)
参考文献 [1] エコノミスト増刊「オペレーションズ・ リサ-大研究」毎日新聞社 (2010). [2] 高橋勝彦他,『シミュレーション工学』, 朝倉書店, 2007 . [3] 森戸晋,逆瀬川浩孝,『システムシミュ レーション』,朝倉書店, 2000 .