1.異種移植の推進になぜ遺伝子改変が必要か. 2.マウスでの遺伝子改変 (gene targeting) 法. 3.ミニブタでの遺伝子改変 (gene targeting) 法. -マウスと異種移植用動物での gene targeting 法の違い- 4.異種移植用遺伝子改変ミニブタ開発における現在の問題点と解決の方 向性. 異種移植と遺伝子改変
1.異種移植の推進になぜ遺伝子改変が必要か. 同種移植、すなわちヒトからヒトへの移植においては免疫抑制剤 の開発によって拒絶反応 ( この場合には「急性拒絶反応」と「慢性 拒絶反応」 ) をコントロールできるようになり、移植医療が進展し た。 一方、ブタなどの臓器をヒトやサルに移植した場合には、移植後 数分以内に急激な拒絶反応 ( 「超急性拒絶反応」 ) がおきる。ブタを 含めほとんどの哺乳類は細胞表面に ガラクトース抗原という糖鎖 をもっている。一方ヒトやサル ( 旧世界サルおよび霊長類 ) はこの糖 鎖をつくる酵素を欠損しているため、体内に ガラクトース抗原を もたず、この抗原に対する自然抗体を作っている ( 図 ) 。ブタの臓器 をヒトやサルに移植するとブタの ガラクトース抗原にこの自然抗 体が結合し、これに補体が加わって細胞破壊のプロセスがはじまる。 この 「 超急性拒絶反応 」 を防ぐためには遺伝子改変によって上記 の糖鎖をつくる酵素を失活させ、ブタ臓器の細胞表面から ガラク トース抗原を除くことが最も有効な方法であると考えられている。
2. マウスでの遺伝子改変 (gene targeting) 法 ( 下津 2005 を一部改変 )
Gene targeting とは? 特定の遺伝子に任意の突然変異を導入する技術. トランスジェニックとの違い・・・トランス ジェニックでは、導入遺伝子が染色体上にラン ダムに挿入される。 ・用途・・・ノックアウトマウス・ノックインマ ウスの作製 - ノックアウトマウスは染色体上のある特定の遺 伝子を人為的に破壊し,機能を失わせたマウス. - ノックインマウスとは特定の場所に、特定の遺 伝子を導入したマウス. これらは遺伝子の機能を個体レベルで明らかにす るために有用である。
Gene targeting の流れ 1. ES 細胞を作る 2.遺伝子を組み換える 3.キメラマウスを作る 4.交配によって遺伝子欠損マウスを作る
1. ES 細胞を作る ・ ES 細胞とは? embryonic stem cell (胚性幹細胞)のこと. 体中のあらゆる細胞に分化する能力をもつ. ・ ES 細胞の作り方 胚盤胞期の卵の内部 にできる細胞塊を取り 出し、分化阻害因子な どを添加しながら培養 する. 全能性を保つには未 分化状態を維持するこ とが重要. ○ 通常は生殖系列 (germ line) に入ることが確認されている ES 細胞の line を入手して利用することが多い。
2.遺伝子を組み換える 相同組換えという 現象を利用する 相同組換えとは? DNA の二重らせ んの一部がほぐれ、 そこに相同配列の 遺伝子がくると、 本来の鎖との間に 組換えを起こす現 象をいう.
・相同組換えを起こ す確率は低いので、 組換えが起こった ことを見つける工 夫が必要。 ↓ ・ポジティブ選択 ・ネガティブ選択
3.キメラマウスを作る キメラマウスとは?・・・個体を構成する細胞 が、異なった遺伝的背景を持ったものから構成 されているマウスのこと。 選別した ES 細胞を 増殖させて、胚盤胞 期の初期胚に注入し、 キメラマウスを作製 する. ES 細胞
4.交配して遺伝子欠損マウスを 作る キメラマウスの体内に, ES 細胞に由来する生殖 系列の細胞があることが重要. これを生殖系列キメラと呼び、このキメラマウ スを交配することによって、 ES 細胞由来のマウ ス個体を得ることができる.
3.ミニブタでの遺伝子改変 (gene targeting) 法. -マウスと異種移植用動物での gene targeting 法の違い-
マウスでは ES 細胞を用いた gene targeting が日常的におこな われるようになったが、マウス以外の実験動物や家畜については 個体への分化後に生殖系列細胞 (germ line) に寄与する ES 細胞 は知られていない。 1996 年に体細胞核移植によるクローン羊の誕生が報告されて 以後、核移植クローン技術を用いた遺伝子改変 (gene targeting) 個体の作出がおこなわれるようになった。すなわち、体細胞を培 養して体外で gene targeting などの遺伝子操作をおこない、この 細胞をもちいて核移植クローンをつくることにより個体とする方法 である。 ブタについても上記の方法で knock out 個体がつくられている。
Gene targeting の流れ 1.体細胞を準備する. 2.遺伝子を組み換える. 3.核移植クローン個体をつく る.
1.体細胞を準備する. ○ 通常は embryonic fibroblasts などを使うことが多い。 ミニブタ培養体細胞
2.培養体細胞を用いて遺伝子を組み換える 相同組換えという現 象を利用する. 相同組換えとは? DNA の二重らせん の一部がほぐれ、そ こに相同配列の遺伝 子がくると、本来の 鎖との間に組換えを 起こす現象をいう. 選択マーカー X X 標的遺伝子 正常ゲノム targeting construct t argeting により改変された allele ・ ES 細胞は組換え活性が高いことが知られており、体 細胞で は組換えが起こったことを見つける工夫がさらに重要と なる.
3.核移植クローン個体を作る fused embryos の活性化 体外成熟卵子の作成 除核 遺伝子改変細胞の導入 融合 発生開始 受胚雌に移植
4.異種移植用遺伝子改変ミニブタ開発にお ける 現在の問題点と解決の方向性. 培養体細胞での遺伝子操作と核移植クローン作出で、マウス以 外の動物においても gene targeting を含む遺伝子改変が可能と なった。しかし、遺伝子操作をおこなった細胞からの核移植ク ローン作出効率は低く、また、体細胞クローン由来産子ではさま ざまな発生異常がおこることが知られている。 これらに対する対策として、より未分化で継続的な培養が可能 な細胞株を取得して核移植に用いることが考えられている。移植 核の初期化の機構については不明であるが、未分化な細胞ほど初 期化が容易であろうと考えられている。また、近年第 4 の幹細胞 として GS 細胞 (germ line stem cell 精子幹細胞 ) が注目されている。 この細胞は精巣より樹立され、 in vitro で長期に培養可能、かつそ の間染色体異常がほとんど起こらない。遺伝子導入が比較的容易 とされており ( マウスについては gene targeting も報告されている ) 、 遺伝子改変 GS 細胞よりできた精子を用いて個体をつくることが できる。