発達障がいのある少年院仮退院 予定者の福祉事業所への受け入れ プロセスについての実践的研究 南海福祉専門学校 原田 和明.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
発達障害が疑われる不登校の実態 -福島県における調査 福島大学総合教育研究センター 中野 明德. 発達障害が疑われる不登校児童生徒の出現率 (福島県、 2007 ) 福島県の 291 の学 校を調査(小学 校 198 、中学校 69 、高校 24 ) これらの数字は 学校が確認した ものであり、実.
Advertisements

社会福祉法人 しがらき会. 職場適応援助者(ジョブコーチ) 支援 障害者の円滑な就職及び職場適応を図るため、 ジョブコーチが事業所へ一定期間出向き、障 害者及び事業主に対して、職場適応に関する 様々な直接的支援や専門的助言等を行います。 最終的に事業所内部の自然な支援体制(ナ チュラルサポート)の中で職業を継続してい.
障害者自立支援法の抜本的な見直し に向けた緊急措置 2007 年 12 月 障害保健福祉関係主管課長会議 H19.12.26 資料2.
(1)1日当たり利用者数が、定員50人までの場合は当該定員の20%(①)を、 定員が50人を超える場合は当該定員から50を差し引いた員数の10%(②)を ①に加えた数を、それぞれ超過しているとき → 基本単位数の70%を算定 (2)過去3か月間の平均利用人員が、定員の105%を超過している場合 → 基本単位数の70%を算定.
1.現 状 ○ 発達障害は、人口に占める割合は高いにもかかわらず、法制度もなく、制 度の谷間になっており、従来の施策では十分な対応がなされていない ○ 発達障害に関する専門家は少なく、地域における関係者の連携も不十分で 支援体制が整っていない ○ 家族は、地域での支援がなく大きな不安を抱えている 2.発達障害者支援法のねらい.
今さら聞けない 2015 報酬改定の見方 (受講者用メモ) 沖縄フォーラム 2015 分科会. 経営実態調査 基本報酬の増減に大きな影響 費用対効果の甘い事業は減額 ポイン ト1.
痙直型四肢まひを持つ こどもさんのケアについて 大阪府理学療法士会 障害児保健福祉部 榎勢道彦. 地域の普通中学校 に通う 15 歳の男の 子 ゲームセンターに行ったり、キャンプに行っ たりと好きなことはたくさんあります。 最近ではパソコンが使えるようになったので、 メールやインターネットでの検索もよくやっ.
特別支援教育につい て. 「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」 ( 文 部科学省 答申) <特別支援教育の在り方の基本的考え方> 特別支援教育とは、従来の特殊教育の対象の障害だ けでなく、LD、ADHD、高機能自閉症を含めて 障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、そ.
設置者・管理者の責務② ~職員の育成指導等~ 平成 26 年度 青森県障害者虐待防止・権利擁護研修 公益社団法人 日本社会福祉士会 平成 26 年度障害者虐待防止・権利擁護指導者養成研修から.
高等教育機関における軽度発達障害学生の支援について(2) 関東1都3県の大学・短期大学に対する2次調査の結果より
広義の自閉症と考えてよい。 知的障害のある「自閉症」「非定型自閉症」と、知的障害のない「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」などがある。
平成28年度 就労支援部会活動計画 1 1 就労支援部会 2 就労支援の課題 3 平成28年度活動計画
平成26年度大阪府通所支援事業者育成事業 事業所アンケート結果
茨城県立美浦特別支援学校 特別支援教育コーディネーター 石川裕香
ノーマライゼーションかしわプラン策定に向けた基礎調査について
Future Dream Achievement
市町村による精神障がい者の地域移行を進めるための支援策について(案)
資料3 事例紹介(抜粋) プロフィール(抜粋) 1.氏名・性別・年齢: T.Tさん 男性 22歳
※自分のストレングスと事業所のストレングスをそれぞれ枠の中に書いてください。
      特別支援学校 高等部学習指導要領 聴覚障害教育について.
PT、OT、ST等の外部専門家を活用した指導方法等の改善に関する実践研究事業(新規) 平成20年度予算額(案) 42,790千円              
(PT調査:外出困難者のうち公共交通利用困難者)
障害のある人の相談に関する調整委員会の設置
発達障がい児者支援に係る市町村 アンケート調査結果の概要について(速報)
大分県立宇佐支援学校 グランドデザイン (平成28年度版)
(現在困っていること、現在やりたいこと、将来やりたいこと・・など)
重度障害者等包括支援について.
重症心身障害児者等 支援者育成研修テキスト 5 ライフステージにおける支援① 各ライフステージにおける 相談支援に必要な視点
手話言語に関する部会について 西脇市障害者地域支援協議会 事務局会議 障害福祉関係者会議 事業所連絡会 サポートノート関係会議
地域移行支援の対象施設拡大に伴う障害のある矯正施設等退所者支援の今後についての一考察
「就労支援に係る相談支援機関」 障害者就業・生活支援センター 障がい者 自立・安定した職業生活の実現 雇用と福祉のネットワーク 福祉施設等
事例紹介(抜粋) ・特別支援学校高等部卒業後、近隣のB事業所へ2年通うが、トラブルを起こし、平成25年4月に退所。現在まで自宅で過ごしている。1か月経過した頃から「外出したい」と言うようになり、やり取りの中で不安定になる様子も見られ始め、支援に限界を感じ始めた。母が市役所へ相談。市役所は計画相談の対象として、市内のC相談支援事業所に計画相談の依頼を行う。C相談支援事業所はMさん・母と数回面接を実施し、サービス等利用計画を作成。Mさんの特別支援学校の同級生が3名いるK生活介護事業所を日中支援の場として調整を
市町村 域 都道府県 障害保健福祉圏域 受講番号:
A型事業所の利用者サービスの質を高めるために ~「はたらくNIPPON!計画」 A型フォーラムin福岡~
<校訓> つよく・あかるく・たくましく 【目指す宇佐支援学校の児童生徒像】
知的障害・発達障害 と差別解消法 2013年9月28日(土) REASE公開講座:知的障害・発達障害と社会
特別支援教育 障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち,児童生徒一人一人の教育的二一ズを把握し,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するため,適切な指導や必要な支援を行うものである。 (「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」平成17年12月8日.
軽度発達障害の理解 中枢神経系における脳の機能障害である。 → 脳の発達の遅れ
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク
ニーズ整理表(記入例) 記入例:演習事例とは関係ありません ○○さんが望むこと・希望など ○○さんのストレングス
地域ネットワークを構築 相談支援事業が核 甲賀地域障害児・者サービス調整会議(甲賀地域自立支援協議会)の運営 図3 約80機関で構成
(現在困っていること、現在やりたいこと、将来やりたいこと・・など)
事例を読んで、事前にポイントを記入してください。
相談支援従事者初任者研修のカリキュラムの改正について
天理市第1号訪問事業 (短期集中予防サービスC)について
<資料 2> 静岡市障害者自立支援協議会専門部会の活動状況について
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 2 計画作成③ 重症心身障害児者等の ニーズ把握事例 ~久留米市のコーディネートの現状~
平成24年4月から 業務管理体制整備の届出が必要となります。 休止・廃止届を事前届出制にするなどの制度改正が併せて行われました。
就労継続支援B型事業所で行う個別支援計画の一例(案)
発達障害と就労を考えるセミナー 日 時:平成22年3月28日(日) 開場9時20分 会 場:広島県社会福祉会館 2F講堂
障害者自立支援法等の一部を改正する法律案の概要
課題別の支援イメージ(例).
筑波メディカルセンター病院 緩和ケア病棟 佐々木智美
平成30年度県央圏域障害児・者相談支援フォーラム
(現在困っていること,現在やりたいこと,将来やりたいこと・・など)
今後めざすべき基本目標 ―「ケアの流れ」を変える―
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 2 計画作成① 重症心身障害児者等の 意思決定支援
施設入所者の地域移行について 施設入所者の状況について 資料2
10 就労継続支援B型事業所で行う個別支援計画の一例(案)
市町村 域 都道府県 障害保健福祉圏域 受講番号:
(参考)ツールを使ってニーズを整理する。本人を知るための地図
大阪市の依存症対策 現状と課題 H29事業 共通 アルコール依存 薬物依存 ギャンブル等依存 治療が長期間に及ぶ-薬物治療の効果は限定的
発 達 障 が い 児 者 支 援 に 関 す る 主 な 取 組 平成30年度当初予算 218,554千円
障がい者多数雇用事業所サポート事業 【大阪府商工労働部雇用対策課】
発 達 障 が い 児 者 総 合 支 援 事 業 平成29年度予算 218,128千円
若年性認知症の人への支援 若年性認知症支援コーディネーター これらの支援を一体的に行うために を各都道府県に配置
地域療育センターによる発達障害支援にかかる 障害児通所支援事業所への助言・支援について
( 平成29年6月30日時点精神科病院長期入院者数[暫定値] )
実習プログラミングシート 時間 実習課題(ねらい) 具体的実習内容 必要となる知識等 指導担当者の留意点 例) アセスメント演習 例)
退院後支援事業における手順 ⑧退院後支援計画による支援の終了 ⑦退院後支援計画に基づいたサービスの利用 ⑥退院後支援計画の決定・交付
Presentation transcript:

発達障がいのある少年院仮退院 予定者の福祉事業所への受け入れ プロセスについての実践的研究 南海福祉専門学校 原田 和明

研究目的 ① 障害者の福祉事業所 実習や体験利用によって利用への意思確認, 事業所としての受け入れの可否確認. 矯正施設収容者の場合 自由に制限,距離的な問題,護送について の人員的問題,面接の制限など 一定の制限がある

研究目的 ② 帰住先がない障害のある矯正施設退所予定 者は,福祉事業所の利用が必要となる場合 がある. 少年院(医療少年院)仮退院予定者を福祉 施設で受け入れる時の望ましい実践方法と はどういったものか. また,その際に留意する点とは何かを実証 し提言する.

研究方法 ① 本研究における発達障害の定義 主たる障害が注意欠陥多動障害 (ADHD AD , HD それぞれのみも含む ) ,広汎性発達障害 (PDD 自閉症,アスペルガー障害,特定不能 の広汎性発達障害 ) ,学習障害 (LD) のある者 また,これらの障害と知的障害とを重複し ているが,知的障害が中度ないしは軽度で ある場合についても,発達障害と定義.

研究方法 ② 同じ少年院(医療少年院)を仮退院した男 性 X と Y のケースについてその支援のプロセ スや結果を比較.(ただし仮退院は同時期 ではない) X 仮退院時 17 歳 自閉症,軽度知的障害 X は福祉事業所に定着せず再非行 Y 仮退院時 18 歳 広汎性発達障害 Y は福祉事業所に定着し自立生活を目指す

事例 X① 仮退院時 17 歳 自閉症,軽度知的障害 児童自立支援施設入所歴あり 知的障害者入所更生施設利用 相談支援事業所の面接 2 回,施設担当者 1 回 施設見学及び実習 1 回とその際に保護観察官 も立ち合いで意思確認. 身元引受人は母親

事例 X② 見学時は明るく作業をしており強く入所の意思 を示す. 入所直後はトラブルなし. しかし, 1 か月程度で重度の他の利用者に対し ての暴力が始まる.在院中は他者への暴力はな し その後も暴力行為がおさまらず,また,無断外 出して自宅に戻ることが多くなる. 「殴らないことは守らないといけないことには なっていない」本人

事例 X③ あまりにも暴力がひどくなり,同一法人内 での施設変更を検討する. 本人,無断外出し帰宅.施設に戻らない意 志が強固なため退所となる. その後,相談支援事業所の支援を受け,市 役所で家族も交えて今後の対応検討するが, まもなく,家族に対する傷害等により検挙 され,再度少年院送致となる.

事例 Y① 仮退院時 18 歳 広汎性発達障害 強制わいせつ等の非行事実 高等学校卒業認定試験合格 相談支援事業所面接1回(兼ケアホーム事業 所),通所事業所実習,ケアホーム見学及び現 場での支援会議3回 障害福祉および生活保護の 援護の実施者,保護観察所,ケアホーム事業所, 相談支援事業所,通所事業所 実習と支援会議はほぼ 1 日 受け入れ後も 2 回支援会議(現在まで)を実施

事例 Y② 実習は複数場面を試してみる. → 障害特性から,パン製造 本人の希望,接客 接客で定着 暮らしについての自己決定 → どんな暮らしがしたいか,自身で決める. 福祉事業所の枠組みでできるのか確認.所 得保障についても確認ができた.

事例 Y③ ケアホームに居住して,通所事業所に通所 する. コミュニケーション障害があるものの,他 者とのトラブルもなく生活ができている. BBS を利用しての自主学習を行う. 6 か月以上経過しても規則正しい生活,金銭 の自主管理ができており,ワンルームタイ プの自立生活型グループホームに転居予定. 比較的早期に自立する予定.

考察 ① X の場合,自己決定への選択肢の提示が不十 分 → 実習内容イコール作業,暮らし方の自 己決定が不十分 相談支援事業所も含め福祉事業所との事前 の関係づくりができていなかった. → 課題 を共に解決することができなかった. Y の場合 自己決定の選択肢を実習という形 で提示,暮らし方も自己決定. 複数回の支援会議による福祉事業所との関 係づくり

考察 ② X,Y の能力の差を勘案した上で 少年院という環境下の面接を多く行うこと よりも,見学,実習という体験の方が,具 体的で認知しやすい.したがって,自己決 定に結びつきやすい. 選択肢があることで自己決定しやすい. 暮らし方(生活)は,自身で計画し自己決 定する.納得のいく暮らし → 触法行為をし ないほうが快適な暮らし

考察 ③ 少年院や保護観察所もふくめた支援体制を 構築し,実習時からその体制を開始して輪 型支援の体制をとる. 輪型支援体制の構築(生活環境調整)を行 うことで,多面的視線で本人を見ることが でき,ストレングスを見出しやすくなる. 矯正,保護,福祉の支援方向性を統一化で きる → 本人中心主義に基づく支援 司法も含めた支援者によってアフタフォー ローを行うことで,支援の継続性を担保で きる.

提言 少年院での面接はインテーク程度にとどめ, 移動や人的な面などの課題はあるが,実 習・見学を複数回行い,その際に支援会議 を行うことで支援の継続性が担保され,自 己決定による暮らしを送ることが自立を図 るにあたって効果的といえる. したがって,発達障害のある少年の福祉事 業所を利用した仮退院にあたっては,種々 の課題はあるものの,本研究で提示したプ ロセスを踏むことが望ましいといえる.