2章:成層圏の成り立ちとしての放射について 大気の全非断熱加熱を場の関数としてのせる:放射による加熱+凝結熱+対流+乱流(3、4項は力学過程であるが、小さなスケールでこの場合非断熱に入れてある) 放射伝達について若干ー>成層圏の成り立ち Newton冷却近似について 年平均された放射による加熱分布(モデル): d’Q/dt (結果としての温度の情報も入っている) 図:東西平均した大気の非断熱加熱( d’Q/dt / cp 、単位は K / day )。上図は北半球冬、下図は夏の緯度—高度断面図。影の部分は冷却を示す。この図は熱力学の式と運動の観測量(大規模場のみ)から、逆算してある。熱帯対流圏中層は加熱 気象力学の問題(運動の表れ)を考える時は移流のところを解くことが主な問題となっているよう。 上図は太陽放射(どこも加熱)、中図は赤外放射(大体冷却、赤道下部成層圏は加熱)、下図はNetの放射加熱(大体のところは冷却、熱帯成層圏では加熱)。K/dayの単位 ->力学的には、このような放射加熱があったとき、大気はどのように運動しているか(成層圏は年変動が大きいが) ?
2−1:放射の基礎 (1) 放射伝達方程式 大気中の任意の所で、波数νと方向を指定して放射強度 Iν を定義する。高さzで、小さな水平の面積 dA を通り、鉛直軸とθをなす方向を中心とした立体角 (φは動径方向)にむかう光の波数νを中心にdνの範囲の光によって、単位時間に流れるエネルギー(Wの単位)が IνdωdνdA’ となる量である。だから、Iνdνは W/m2/str の単位 また、dA’は面素をθの方向から見た時の断面積で次の関係 鉛直方向にz、z+dzの2つの面を考える(大気中のある層)。成層圏において散乱を考えなければ放射エネルギーについて下の式がなりたつ。(放射エネルギーの伝達で、吸収と放出が考えられる) dIν=ρdz secθ( —kνIν+eν) ここで、 kν:吸収係数 eν:単位質量あたりの放出量 ρ: ここでは吸収物質の量(大気の密度ではない) である。 また、キルヒホッフの法則なる、 (放出と吸収の比は黒体放射スペクトルのエネルギー分布からきまる)から eν=kνBν なる式を使うと、 熱放射の伝達を記述する微分方程式として cosθ dIν/dz=— kνρ( Iν— Bν) 波長の長い遠赤外にたいして、空気分子の散乱は無視できるので上のような式をみたす
(2)上下フラックスの近似(上向きと下向きのみにする) -鉛直1次元的取り扱いにすること- (2)上下フラックスの近似(上向きと下向きのみにする) -鉛直1次元的取り扱いにすること- Iνは—般にθの関数で、θ方向に展開して議論、すべての方向をあつかうと自由度が増えてたいへんなので、 上向きと下向きの2つにわけて、水平なz面を通して—方の側から他の側へむかうすべての方向の光エネルギー流の積分である、放射フラックスをあつかおう(鉛直方向だけの議論になる)。 立体角 で、動径φ方向は一様とすると2πをかければよいであろう。 定義の式として(立体角で積分すると): Fν↑=∫0π/2 (Iνcosθ)2πsinθdθ 上半分の積分 上向きフラックス Fν↓= ー∫π/2π(Iνcosθ)2πsinθdθ 下向きフラックス Iνがθによらず一定(等方的)のときは積分してみると、 Fν↑=Fν↓=πIνとなる。 Fν↑のみたす式の導出: cosθ dIν/dz=— kνρ(Iν— Bν) の両辺にcosθをかけて積分すると、 2π/3 d/dz Iν= — kνρ(Fν↑—πBν) Fν↑=Fν↓=πIνを用いて ここからπBν=Bνとおく *注意 2/3 d/dz Fν↑= — kνρ(Fν↑—Bν) d/dz Fν↑=— 3/2kνρ(Fν↑—Bν) とすれば、上下フラックスにたいする吸収係数は、前に定義したものの 1.5 倍になっている。もうすこし込み入った計算では、1.66 倍になるらしい。 光学的厚さの導入: wν=3/2∫z∞ kνρdz なる量を導入する。 dwν= - 3/2kνρ dz で 、これはνの光に対して有効な吸収物質の量をあらわすもので、 (∞から z までの)光学的厚さと呼ばれる。 wνを用いると、みたす式は d Fν↑/dwν= Fν↑— Bν 下向きは d Fν↓/dwν=—Fν↓+ Bν となる。 ー>成層圏ではどんな特徴に?
(3)成層圏の様子:灰色大気での放射平衡 波長依存性はかなり複雑で—>具体的にはそれぞれ計算が必要—>放射屋さんの仕事 ここでは定性的な話しをする。 kνを波長によらず—定として解いてみる。 —> 等温層としての成層圏の生成論としてのみ dF↑/dw = F↑ — B dF↓/dw = —F↓+ B ここで、B=∫0∞ Bν dν=σT4( ボルツマンの法則 ) 放射平衡の条件:Netの放射フラックスとしてF↑net =F↑—F↓を定義して、これのたまりがないことで決まるB(w)(温度)をきめることにする(たまりがあると温度が変化していくので)。 式であらわすと、 d(F↑net )/dw =d(F↑—F↓)/dw=0 F↑net =—定= J0 という条件である。 さらに、大気上端で逃げるエネルギー F↑(0)をJ0( これは入射する日射量(—短波反射)であろうから)で、それは F↑net にも等しいとして解くと、 B (温度)は B=J0(1/2+w/2) また F↑=J0(1+w/2) F↓=J0(w/2) のように決まる。 図としては右のようになる(光学的厚さを鉛直座標として) w=2 大気上端近くでは(成層圏では)、下向きフラックスはゼロに近い
光学的厚さをふやすと、そのまま下にのびる、Tが増加する ———>温暖化、温室効果 地面の温度をTgとする。それを黒体としてBgとかくと、これが地面でのF↑と同じになる。 Bg( Tg )=F↑g=J0/2*(wg+2) =B(wg)+J0/2 地面温度(左辺)と地面と接する大気の温度(右辺の1項)と差がでてくる。 最期に、wを高さに変換する: 吸収物質の密度は静力学平衡の大気密度とおなじように指数関数で分布すると仮定 ρ(z)=ρ0exp(—z/Hs) Hsは吸収物質のスケールハイト(水蒸気の場合2km程度) B(w)=J0/2(w+1) として B(z)=J0/2(wg exp(—z/Hs)+1) 右が鉛直に広げた図:←これまでは、物質の量としての分布であった。 ー> 成層圏では等温層のようになっている。
大気の上端に等温の成層圏ができる <— w≒0のところで密度が小さいので引きのばされて等温層になる。 結果としての成層圏の普遍性 外からみた地球大気の相当黒体温度は B(Te)=F↑(0)=J0 一方成層圏の温度は式 B=J0(1/2+w/2)から B(0)=J0/2=B(Te)/2 と低温になる。 実際には地球のように成層圏でオゾンによる高温化あり。惑星によって異なる。ー>図を参照 ●対流圏 光学的厚さwgが大きいと下層の温度がおおきくなる、温度傾度もおおきくなる——>断熱勾配より大きいと対流不安定がおこって、対流がおこるであろう。 ->熱帯対流圏の高度については1章で述べた。
2−2 成層圏オゾンによる短波吸収 cosθ dIν/dz=— kνρ( Iν— Bν) の式で、短波の場合はBνは考えなくてよいであろう。そうすると、 dIν/dz=— secθkνρIν 今の場合は太陽の天頂角をχとし、フラックスは下向きなので、 dIν/dz= secχkνρIν のようになるであろう。 解は Iν(z) = Iν(∞) exp( -(∫z ∞ kνρ dz)secχ ) 成層圏オゾンによる短波吸収の大気加熱率は Q=secχkνρIν / ρa Cp ここで、 ρaは大気密度、 Cpは定圧比熱である。 大気加熱率と冷却率 短波長のスペクトルの例: 成層圏は比較的簡単、一方対流圏は雲がありその散乱を考えているので、はるかに複雑な計算になる。
2—3 Newton冷却近似: エネルギーフラックスのたまりが大気温度の変化をもたらすので、 ρa Cp dT/dt = - d/dz (F↑—F↓) のようになるであろう。ここで、ρa =kg/m3は大気密度である。 Cp=J/K/kg は定圧比熱。 右辺は、 d/dz(F↑—F↓)= —kρ( F↑+F↓—2B ) (kに1.5のfactorを含める) 成層圏ではF↓は無視(大気の上端では0であった)、F↑ は殆ど変化なしと仮定、B も殆ど変化なしとする。 r=ρ/ρaとすれば、上の式は Cp dT/dt=—2k r B +k r F↑ のようになる。 平衡から少ししかずれないとすれば、 B=B0+dB/dT dTみたい に書けるであろう。そうすると dT/dt=—2kr/Cp dB/dT dT—2kr/Cp B0+kr/CpF↑ このような線形近似(右辺の1項)をNewtonian coolingの近似とよぶ。 温度擾乱に伴う力学の議論でよく使う(あとの議論のいろいろの所でこの近似をつかう) 。 2kr/Cp dB/dT :Newton冷却係数とよぶ。
Dickinsonの値をしめしておこう、この程度でもとにもどる——>10日くらいまたはそれより早い! 中間圏ではもうすこし緩和時間は早いようである(数日?)。 左がNewton冷却係数で 右は全体的な冷却を示す(K/dayの単位)
実際は大気放射は複雑である 赤外のところの様々な物質の吸収率、schematicに書かれている。 太陽と地球大気の温度の黒体放射スペクトル(a) 大気上端から11kmまでの吸収率(b) 地表面までの吸収率 紫外線はほとんど吸収 波長に関して平滑化してあるが、波長依存性は複雑 ->それぞれに計算する必要がある。
2−4 熱帯圏界面層の放射過程の例(下部成層圏の境界近くの話) 2−4 熱帯圏界面層の放射過程の例(下部成層圏の境界近くの話) Thuburn and Craig, 2002, GRL:1次元放射対流モデルを用いて15μm CO2バンドが熱帯圏界面の決定に重要であることを示している。CO2の効果は140mbあたりの高度でHeatingになっている。対流は140mbくらいまでしか効いていないよう。より高い高度では大循環と放射で決まるー>熱帯圏界面層の議論 O3の吸収放出による全赤外加熱(K/d) CO2の吸収放出による全赤外加熱(K/d) オゾン分布と標準実験からの平衡温度、四角は対流の上端、ダイアモンド印がcold point CO2濃度を、85.9pptv, 455pptv, 2.40ppmv, 12.7ppmv に変化させたときの、左は平衡温度の変化、量の増加にともない対流上端とcold pointが分離される、矢羽根は量の増加に対応、右は加熱率の変化 水蒸気の吸収放出による全赤外加熱(K/d)
補足:スペクトルが複雑なので各波長に関して解く必要がでてくる。 以前の各波長ごとの放射の式は光学的厚さを使って、 d Fν↑/dwν= Fν↑— Bν (d Fν↓/dwν=—Fν↓+ Bν) 波長を区別する記号は省く Bを既知関数とすると、 dF↑/dw—F↑=—B は—階の微分方程式 dy/dx+P(x)y=Q(x) とおなじ形で、 一般解は y=exp(—∫Pdx)( ∫exp (∫Pdx) Qdx + C ) なので、これを使うとP=-1、Q=-Bとして F↑=Cexp( w )+ exp (w)∫exp(—w)(—B)dw の形になる。 吸収係数を比較的簡単にした例:金星大気 積分定数Cをもとめること: —>地面wgで B(Tg)とする(境界条件)。また積分の範囲をwgからwとする。 w=wgのときは第2項は消えるので、 B(Tg)=Cexp(wg) から定数Cは C=B(Tg)exp(—wg) となるので、結果として、 F↑(w)=B(Tg)exp(—(wg—w)) +∫wwg B(w’)exp(—(w’—w))dw’ がえられる。(Bの前の符号をかえて、積分範囲をいれかえる)
d F↓/dw=—F↓+ B については(下向きフラックス) dy/dx+P(x)y=Q(x) P=1、 Q=Bと対応させて # y=exp(—∫Pdx)( ∫exp (∫Pdx) Qdx + C F↓=Cexp(—w)+ exp(—w)∫0w exp(w) B dw 大気上端w=0で、下向きはゼロとすれば(境界条件)、C=0として F↓(w)=∫0w B(w’)exp(—(w—w’))dw’ 別の形として吸収物質量として u(z)=∫z∞ ρ(z)dz を用い、透過関数を使った式では、 ua 、 ub≧ua として、( b が下層にあるとする ) ua=∫za∞ ρ(z)dz, ub=∫zb∞ ρ(z)dz, として τ(ub, ua)≡exp(—(w(ub)—w(ua))=exp(—∫ua ub k(u)du ) ( 光学的厚さ w=∫z∞ k ρ(z)dz だから dw=kρ(—dz) du=—ρdz dw=kdu ) のようにτ(透過関数)を定義する F↑=B(Tg)exp(—(wg—w))+∫wwg B(w’)exp(—(w’—w))dw’ は ∂τ/∂u’ ・ du’=∂τ/∂w’ ∂w’/∂u’ du’ = —τ k du’ = - τdw’ で符号がかわるので、 F↑(u)=B(Tg)τ(ug 、 u)— ∫uug B(u’)∂τ(u’、u)/∂u’ du’ τは温度や圧力によって変化する、さらに光の波長依存性などを考慮して、適当に平均化。 ー> このような式を解くことになる。 F↑(w)=B(Tg)exp(—(wg—w)) +∫wwg B(w’)exp(—(w’—w))dw’