法とコンピュータ(第7回) 法の構造 慶應義塾大学法学部 2008/6/24 吉野一
4 法の構造 目次 法文の構造 法文の相互結合の構造 法の体系構造 むすび
4.1 法文の構造 文の内部構造 法文の3タイプ 要素法文と複合法文 ファクト法文とルール法文 オブジェクト法文とメタ法文 その他?
4.1.1 文の内部構造 言語の構造は、事態の在構造と人間の認識構造に対応していると思われる。 要素法文は文である。 4.1.1 文の内部構造 要素法文は文である。 要素法文は文一般と同様の内部構造を有する。 文は事態を記述する。 事態の記述の仕方は言語の構造に従う。 言語の構造は、事態の在構造と人間の認識構造に対応していると思われる。 事態を構成する対象がある。その対象自体を記述する記号が用いられる。(この記号は定項または変項と呼ばれる。) 事態は、その対象の性質または関係として記述される。性質または関係を記述する記号が用いられる。(この記号は述語と呼ばれる。) 何を対象とするかは、相対的である。すなわち、人間の物の見方・観点によって対象は構成される。対象の関係として表現される事態もまた対象として把握されうる。
4.1.2 法文の3タイプ 要素法文と複合法文 ファクト文とルール文 オブジェクト法文とメタ法文
4.1.2 法文の3タイプ 要素法文と複合法文 ファクト文とルール文 オブジェクト法文とメタ法文
4.1.2.1.1 要素法文 法を構成する最小単位を想定し、その最小単位から法全体を説明する。 4.1.2.1.1 要素法文 法を構成する最小単位を想定し、その最小単位から法全体を説明する。 法文を構成する最小の単位法文を要素法文とよぶ。 要素法文の論理的結合から法が構成される。
4.1.2.1.2 複合法文の構造 要素法文 複合法文 複合法文の実益 法文の最小単位 個々の最小単位の法規定 例:第3条1項 私権の享有は、出生に始まる。 複合法文 法文の集合に名前を付けて一まとめにしたもの 法典、編、章、節等 一つの条文でも複数の要素法文から成り立っている場合 例:民法で考えよ! 複合法文の実益 まとめて取り扱うことができる 例: 此法律施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム 明治二十三年法律第二十八号民法財産編財産取得編債権担保編証拠編ハ此法律発布ノ日ヨリ廃止ス
4.1.2 法文の3タイプ 要素法文と複合法文 ファクト文とルール文 オブジェクト法文とメタ法文
4.1.2.2.1 ファクト文の構造 定義 ファクト文は事態について記述する文である。ファクト文は事態を表現する。ファクト文を定立することは、ある事態が成り立っていることを宣言することである。 法の世界では、ある事態が成り立っていることを表現する場合がある。その場合は、ファクト文として定立される。 ある事実的事態が成り立っていることを、言い換えれば、ある事実が成り立っていることを主張する場合。例えば、 「アンザイの4月1日付けの申し入れ手紙が4月8日にバーナードのハンブルグ支店の郵便受けに配達された。」 ある法的事態が成り立っていることを主張する場合。例えば、 「申込が4月8日に効力を生じた。」 「バーナードは安西に5万ドルを支払う義務がある」 ルール文との違いは純粋に(統語論的)構造的なもの。
ファクト文の内部構造 対象の性質を記述する文 (対象がある性質を持っていることを表現する文) 「aは・・・である」: 「aは人である」 対象の関係について記述する文 (ある対象と別の対象が一定の関係にあることを表現する文) 「aとbは・・・関係にある」 「aとbは婚姻している」 婚姻(a,b) 関係を対象化してそれについて記述する文 (対象間の関係を一つの対象と見てその性質または関係を表現する文) 「aとbは婚姻を解消する」 婚姻(c)&解消する(a,b,c)
ファクト文が用いられる場合 事態が成り立っていることを宣言(主張)する 事実的事態 法的事態 法律要件および法律効果のそれぞれについて記述する(ルール文を構成する要素として用いられる) 申込が到達すると申込が効力を生じる 申込が到達する。 申込が効力を生じる 法文(の効力)について宣言する場合 例:民法交付文 此法律施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム その他、例を見つけよ
4.1.2.2.2 ルール文の構造 CならばFである 法律要件 →法律効果 「申込は到達したとき効力を発生する」 申込が到達する→申込の効力が発生する 「人を殺した者は死刑に処す」 人を殺した者→死刑に処す 「FであるのはCのときである」(逆に読むことができる) F←C 法律効果 ←法律要件 申込の効力が発生する←申込が到達する 死刑に処す←人を殺した者 次の例で考えよ: 民法第3条、民法4条、民法97条、民法709条、等 何が法律要件で何が法律効果?
法律要件の内部構造 法律要件要素の論理的結合からなる 一つの法律要件からなる場合 ①二つ以上の法律要件要素が&で結合する場合 F ← C1 申込は被申込者に到達した時にその効力を生ずる (CISG15(1)) 申込効力発生←申込が被申込者に到達 ①二つ以上の法律要件要素が&で結合する場合 F ← C1 & C2 契約成立←申込有効&承諾効力発生 ②二つ以上の法律要件要素がorで結合する場合 F ← C1 or C2 相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。 (民法101条但し書き) 前条第一項の規定を準用する←相手方が代理人が本人のためにすることを知りor相手方が知ることができた ③&とorが組み合わさる場合 F ← (C1 or C2) & C3 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。 (民法90条) 無効←(公の秩序or善良の風俗)&反する事項を目的とする法律行為 損害賠償責任←(故意or過失)&(他人の権利を侵害or法律上の利益を害する) (民法709条) 課題:CISG、憲法、民法および刑法のなかから上記①、②および③の例を、それぞれ少なくとも1つ挙げよ。
法律要件と法律効果の結合の種類 ①法律要件が法律効果発生のための十分条件 法律効果←法律要件 法律要件が充足されたならば法律効果が発生する 例 ②法律要件が法律効果発生のための必要条件 法律効果→法律要件 法律要件が充足されたときに限り法律効果が発生する ③法律要件が法律効果発生のための必要十分条件 法律効果←→法律要件 法律要件が充足されたならばかつそのときに限り法律効果が発生する 法ルール文が尽きている場合⇒③へ 課題:①、②、③の例をCISG、憲法、民法および刑法の中から見つけよ! 反対推論(法律要件非充足から法律効果の非発生への推論)の問題⇒いずれの場合に可能か?
4.1.2 法文の3タイプ 要素法文と複合法文 ファクト文とルール文 オブジェクト法文とメタ法文
4.1.2.3.1 オブジェクト法文の構造 オブジェクト法文 オブジェクト(対象)について記述している。 オブジェクト:義務 義務について記述している法文 例:民法第八百七十七条 探してみてください!(日本国憲法、民法、刑法、それぞれの中で)
4.1.2.3.2 メタ法文の構造 メタ法文 法文について記述している 法文の効力について規律している 例:法例第1条 4.1.2.3.2 メタ法文の構造 メタ法文 法文について記述している 法文の効力について規律している 例:法例第1条 探してみてください! (憲法、民法、刑法、それぞれの中で)
権利について記述している法文はオブジェクト法文かメタ法文か?(検討課題)
オブジェクト法文とメタ法文の連携 ある義務の存在 あるオブジェクト法文が効力がある、ということはメタ法文により記述される その義務を記述するオブジェクト法文が効力がある、こと あるオブジェクト法文が効力がある、ということはメタ法文により記述される ある義務があるということは、その義務を記述するオブジェクト法文が効力がある、ということが真であることが証明されること。 ある法文が効力があるということは、メタ法ルール文の適用により、推論の結果証明されるか、当該法文の効力があるとするメタファクト法文が真である措定されるかである。 メタ法文の効力も別のメタ法文により記述される ある実定法の体系を効力あるものとして証明するためには、その効力を証明するために適用するメタルールがもはや存在しない究極のメタ法文の効力は、ファクト法文として、真なるものとして、定立され必要がある。
4.1.3 法文の3タイプ 要素法文と複合法文 ファクト文とルール文 オブジェクト法文とメタ法文 その他?
4.1.4 その他 行為規範、裁判規範および組織規範について 4.1.4 その他 行為規範、裁判規範および組織規範について
4.2 法文の相互結合 同じ法律効果を持つルールの結合 ルールの要件部を別のルールで具体化 複数のルールを別のルールで体系化する F←C1 ↓ F←C1orC2 ルールの要件部を別のルールで具体化 F←C C←C1 C1←C2 複数のルールを別のルールで体系化する F1←C, F2←R F←F1&F2
具体化と体系化の例 法的正当化の推論 Case3b ⇔ 契約成立←申込効力発生& 創設 承諾効力発生 申込効力発生←申込到達15(1) 承諾効力発生←承諾到達19(2) 意思表示←申込 ⇔ 意思表示←申込or承諾 法的正当化の推論 意思表示←承諾 創設 意思表示到達←郵便受けに入る 意思表示到達←電話で言う 創設 申込の通知が4/8に郵便受けに入る 4/9にBは電話で「承諾する」と言う Case3b 出来事 創設 4/9に契約成立
オブジェクト法文とメタ法文の結合 s1: 義務がある(anzai, bernard,代金支払う) ms1:効力がある(s1,1998_4_15)
法文の効力の依存関係 あるルールの効力は別のルール(メタルール)によって基礎つけられる。 この別のルールもさらに別のメタルールによって基礎づけられる r1: f(X)←c(X) mr1: valid(R)←cm(R) mmr1: valid(MR)←cmm(MR) mmmr1: valid(MMR)←cmmm(MMR) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
法文の効力の証明関係 CISGの例で考えよう r1: f(X)←c(X) valid(r1) mr1: valid(R)←cm(R) cm(r1) valid(mr1) mmr1: valid(MR)←cmm(MR) cmm(mr1) valid(mmr1) mmmr1: valid(MMR)←cmmm(MMR) cmmm(mmr1) ………………
? 4.3 法の(効力の)体系構造 命令 憲法 法律 判決・行政処分・契約 根本規範 効力基礎付け mmmmr1: valid(mmmr1) mmmr1: valid(mmr1)←cmmm2(mmr1) 法律 mmr1: valid(mr1)←cmm1(mr1) 命令 mr1: valid(r1)←cm1(r1) 判決・行政処分・契約 r1: f(X)←c(X) f1: c(a) ⇒ j1: f(a)
5 むすび 本講義で法の構造を、要素法文、法文の相互結合および法文の体系構造の点おいて明らかにした。 5 むすび 本講義で法の構造を、要素法文、法文の相互結合および法文の体系構造の点おいて明らかにした。 法的決定が効力ある法ルールと真なる事実命題から論理的に演繹できるように法は体系構成される その過程で諸法文が創設される その際、法文の成立と効力がキーワードである。 法文が効力あることを証明することが要請される。 法文が効力があるためには、まず成立しなければならない。