ダイオキシン分析の 精度管理・評価について 中野 武 (兵庫県立公害研究所)
1.超微量分析と精度管理 2.過去のデータによる検証 3.異性体分布と精度管理 4.起源推定と精度管理
ダイオキシン類に関する用語 TEF…Toxicity Equivalent Factor 毒性等価係数 ダイオキシン類に関する用語 TEF…Toxicity Equivalent Factor 毒性等価係数 毒性が最も強い2378-TCDDの毒性を1として他の異性体の毒性の強さを相対的に表示する係数 ・ TEQ…Toxicity Equivalent Quantity 毒性等価量 ・ TDI… Tolerable Daily Intake 耐容一日摂取量 (4pg-TEQ/kg.BW/day) 一生涯摂取し続けても、何ら健康に影響を及ぼさないと考えられる摂取量
23478-PeCDF 2378-TCDD 75 135 75 209 123567-HxCN 3453’4’-Co-PCB
PCDDsの異性体 TEF 2,3,7,8,-T4CDD 1 1,2,3,7,8-P5CDD 1 1,2,3,4,7,8,-H6CDD 0.1 1,2,3,6,7,8-H6CDD 0.1 1,2,3,7,8,9-H6CDD 0.1 1,2,3,4,6,7,8-H7CDD 0.01 OCDD 0.0001
PCDF異性体 TEF 2,3,7,8-T4CDF 0.1 1,2,3,7,8,-P5CDF 0.05 1,2,3,4,7,8-H6CDF 0.1 1,2,3,6,7,8-H6CDF 0.1 1,2,3,7,8,9-H6CDF 0.1 2,4,4,6,7,8-H6CDF 0.1 1,2,3,4,6,7,8-H7CDF 0.01 1,2,3,4,7,8,9-H7CDF 0.01 OCDF 0.0001
Co-PCBの異性体 3,3',4,4'-T4CB #77 0.0001 3,4,4',5-T4CB #81 0.0001 IUPAC TEF 3,3',4,4'-T4CB #77 0.0001 3,4,4',5-T4CB #81 0.0001 2,3',4,4',5'-P5CB #123 0.0001 2,3',4,4',5-P5CB #118 0.0001 2,3,4,4',5-P5CB #114 0.0005 2,3,3',4,4'-P5CB #105 0.0001 3,3',4,4',5-P5CB #126 0.1 2,3,3',4,4',5-H6CB #156 0.0005 2,3,3',4,4',5'-H6CB #157 0.0005 2,3',4,4',5,5'-H6CB #167 0.00001 3,3',4,4',5,5'-H6CB #169 0.01 2,3,3',4,4',5,5'-H7CBs #189 0.0001 2,2',3,4,4',5,5'-H7CB #180 0 2,2',3,3',4,4',5-H7CB #170 0
ダイオキシン類の毒性 ・急性毒性:サル LD50 2-70μg/kg クロルアクネ 肝障害 中枢神経障害 クロルアクネ 肝障害 中枢神経障害 ・慢性毒性:最小毒性量(LOAEL) 1ng/kg/day(マウス) 肝障害(脂質代謝異常) ・発癌性:プロモーター作用 ・変異原性、遺伝毒性:確認されていない ・生殖毒性:子宮内膜症(サル) ・催奇性:水腎症、口蓋裂(マウス) ・免疫毒性:胸腺萎縮、抗体産生抑制、リンパ球の変動 ・蓄積性: 強、半減期(4~11年 ヒト血液)
ダイオキシン類の主な発生源 (平成10年度 Co-PCBs含まず) ダイオキシン類の主な発生源 (平成10年度 Co-PCBs含まず) 一般廃棄物焼却施設 1,340g-TEQ/年 産業廃棄物焼却施設 960 小型廃棄物焼却施設 325~345 製鋼用電気炉 114.7 製鉄業・焼結行程 100.2 亜鉛回収業 16.4 アルミニウム合金製造業 14.3 火葬場 1.8~3.8 自動車排出ガス 2.14 合 計 2,900~2,940
ダイオキシンの年間排出量
母乳中ダイオキシン類濃度の経年変化 (調査:大阪府立公衆衛生研究所)
食品・環境からの平均摂取量 平成9年度
1.超微量分析と精度管理 精度管理に関しては、実際の環境試料での測定結果を、そのデータが矛盾のないものかどうかを検証することが不可欠である。以下の視点から「精度管理」をとらえ直してみる。
2.過去のデータによる検証 ダイオキシン類の環境データは、環境庁、厚生省などのWebサーバーに登録されている。多数の試料の測定結果や全国平均濃度分布と比較することで、環境媒体のおおよその濃度レベルが検証できる。
濃度レベル(1998調査) 濃度範囲 平均値 中央値 Co-PCB(%) 大気 0~1.8 pg-TEQ/m3 0.22 0.15 5.7 公共水質 0~12 pg-TEQ/L 0.36 0.089 12 地下水 0~5.3 pg-TEQ/L 0.086 0.0073 10 底質 0~230 pg-TEQ/g 6.8 0.23 11 土壌 10-3~110 pg-TEQ/g 6.2 2.3 7.7 生物 0~11 pg-TEQ/g-wet 0.64 0.32 70
濃度レベル(1998調査) pg-TEQ/L pg-TEQ/m2/日 pg-TEQ/m3 pg-TEQ/g pg-TEQ/g
ローボリウムサンプラー
ローボリウムサンプラー
環境大気 TEQ値に対する寄与
TEQ値に対する寄与
河川水 全国調査と兵庫県調査の共通点 ダイオキシン濃度レベル 相違点 低塩素成分の分析 ー> 起源推定 降雨の影響(降雨流出と農薬起源)
同族体分布 河川水質 PCDF PCDD
同族体分布 河川底質 PCDF PCDD
同族体分布 河川底質 燃焼系 PCDF PCDD
同族体分布 河川底質 PCP CNP 農薬系 燃焼系 PCDD PCDF
同族体分布 海域底質 燃焼系 PCDD PCDF
PCB濃度とTEQ値 KC300 KC400 KC500 KC600 0.7x10-5 2x10-5 6x10-5 3x10-5
同族体分布と起源推定 KC300 KC500 底質 A 底質 B KC400 KC600
KC300-600 (ガス状) (粒子状) 大気中PCBの異性体分布
環境試料中のコプラナPCBの相対比
異性体分布と起源推定 水質 A 底質 A KC300
異性体分布と起源推定 底質 A KC300 KC400 KC600 KC500
異性体分布と起源推定 KC400 KC500 KC600
環境試料中のコプラナPCBの相対比
3.異性体分布と精度管理 環境試料中の異性体パターンは、大気、水質、底質、生物の各媒体毎に、異性体の物理化学的な特性に応じて、特徴的な分配を示す。
環境中のダイオキシン分析において、PCDD/PCDF/PCBなどの全異性体分析は、起源推定と精度管理にきわめて重要である。
ダイオキシン類の分析は、毒性係数(TEF)のある4~8塩素のDD/DF、4~7塩素のコプラナPCBを対象とされてきた。
1~3塩素のDD/DF、コプラナ以外のPCBを含めた異性体分布/同族体分布が、起源推定や精度管理においても重要な情報となっている。
PCDD/DF生成の前駆物質
PCDD/DF生成の前駆物質
Precursor of PCDD/DF formation
4-MCP 3,4-DCP 2,3,8-TrCDF 1,2,8-TrCDF
Synthesis of 1,4,X-T3CDF isomers from chlorophenol Authentic standard (1,4,7- : NMR) 2,5-DCP 4-MCP 3-MCP 2-MCP O- m- p- 1,4,6-TrCDF 1,4,8-TrCDF 1,4,9-TrCDF 1,4,7-TrCDF
NMR 1,4,7-TrCDF Authentic standard H9 H6 H8 H2 ; H3
環境大気
環境大気
Tracer:Enantiomer Ratio 起源推定 Tracer:Enantiomer Ratio cis-chlordane 生物分解は選択的 cis- : (-)が減少 物理化学過程(蒸発・など)は非選択的 過去の汚染と新規の汚染を区別しうる。
Enantiomer of cis-chlordane
4.起源推定と精度管理 ダイオキシン類は、発生源毎に異性体分布に特徴がある。燃焼過程からは、前駆物質の生成比率に影響を受けるものの、全異性体が生成する。
環境大気の異性体分布(MCDF~TrCDF)
環境大気の異性体分布(MCDD~TrCDD)
農薬中の不純物としてのダイオキシン異性体の場合は、原料としての特定のポリ塩化フェノール異性体から縮合するため、異性体分布は単純なパターンを示す。
CNP合成経路
1,3,6,8-TCDD 2,4,6-TCP 2分子縮合 1,3,7,9-TCDD
農薬CNP中の異性体分布(MCDF~TrCDF) 環境大気の異性体分布(MCDF~TrCDF) 24- 248- 246- 24- 124- 環境大気の異性体分布(MCDF~TrCDF)
塩素漂白プロセスで生成する異性体分布は、また農薬や燃焼起源とは異なる特徴を示している。日本における河川水質、底質は、農薬起源の影響を受け、大気は燃焼起源の特徴を示す。
塩素漂白パターンの異性体分布(MCDF~TrCDF) 28- 2- 37-DiCDF 23- 27-DiCDF 27- 37- 23-DiCDF 28-DiCDF 128-TrCDF 238- 128- 237-TrCDF 238-TrCDF 237- 1278-TCDF 2378-TCDF 塩素漂白パターンの異性体分布(MCDF~TrCDF)
塩素漂白パターンの異性体分布(MCDF~TrCDF) 環境大気の異性体分布(MCDF~TrCDF) 238- 128- 2- 28- 237- 27- 塩素漂白パターンの異性体分布(MCDF~TrCDF) 24- 124- 環境大気の異性体分布(MCDF~TrCDF)
コプラナPCBやPCN異性体を起源推定に追加することで、さらに総合的な判断が可能となる。
PCDF PCDD 河川水中DD/DFの同族体分布
4~8塩素 1~3塩素 河川水中PCDD/PCDFの相対比 PCDD > PCDF
燃焼起源 農薬起源 特徴的な異性体 PCDF パルプ漂白 漂白パターン TeCDF (2,3,7,8-, 1,2,7,8-) クロルアルカリ : PCDF (2,3,7,8-, 1,2,7,8-, 1,3,4,6,8-, 1,2,4,7,8-, 1,2,3,7,8-, 1,2,3,4,8-, 2,3,4,7,8-) 燃焼起源(流動床炉) : PCDF (2,4,6,7‐, 3,4,6,7-, 2,3,6,7-, 2,3,4,6-, 2,3,4,6,8-, 2,3,4,6,7-, 2,3,4,7,8-) 農薬(CNP) : 24-F,246-F,248-F,2468-F,12468-F, 23468-F 農薬(PCP): OCDF, 1234689-F,1234678-F, 124689-F,12468-F 農薬(24-D) : TeCDF (2,4,6,8‐)
特徴的な異性体 PCDD 燃焼起源(流動床炉) : 2,6-PeCDD(xxx68, xxx79)パターン 燃焼起源(流動床炉) : 2,3-PeCDDパターン 農薬(CNP) : PCDD(13-,136-,138-,137-,139-, 1368-,1379-,12479-, 12468-, 12368-, 12379-) 農薬(PCP) : OCDD, HpCDD(1234678-) 農薬(24-D) : D2CDD (2,7- , 2,8-) PCB 燃焼起源とPCB製品(KC,AC) #118/#77比、#77/#126比、 PCN 燃焼起源とPCN製品(HALOWAX) (燃焼起源)1267-N, 12367-N, (PCN製品)1248-N
同族体分布(1~8塩素) PCDD PCDF 環境大気
環境大気 PCDD < PCDF PCDF PCDD 河川水質 PCDD > PCDF PCDD PCDF
メーリングリストによる情報共有 内部標準として添加する標識化合物の情報を はじめとして、MS分析のノウハウ、失敗の共有 などを進める。 ms-l@ee-net.ne.jp ダイオキシン分析 dioxin-l@ee-net.ne.jp
Webサーバーによる情報共有 内分泌かく乱・ダイオキシン最新情報 ダイオキシン国際シンポのabstract翻訳 http://www.ee-net.ne.jp/dioxin2000/share.html <volume, page no.> 47, 9-12 <English title> Relative Contribution of Chlorinated Naphthalenes, Biphenyls, Dibenzofurans and Dibenzo-p-Dioxins to Toxic Equivalents in Biota from the South Coast of the Baltic sea. <Japanese title> バルト海南岸生物相のPCN, PCB, PCDD, PCDF、毒性等価量への相対的寄与 <authors> J. Falandysz, K. Kannan, M. Kawano and C. Rappe <key words> TCDD TEQs, Baltic sea , PCN, PCB, PCDD, PCDF, sediment, plankton, mussel, crab, fish, cormorant, wildlife, seafood <Japanese key words> TCDD毒性等価量, バルト海, PCN, PCB, PCDD, PCDF, 底質, プランクトン, イガイ, カニ, 魚, 鵜, 野生動 物, 海産食品 <captions> Table l. TCDD Equivalents (H4IIE EROD or H4IIE-Luc) of dioxin-like PCBs, PCNs, PCDFs and PCDDs in varioussamples from the southern of the Baltic Sea(pg/g lipid wt) Table l. バルト海南部の各種試料中ダイオキシン様のPCBs、PCNs、PCDFs、PCDDsのTCDD毒性当量(H4IIE-ERODまたはH4IIE- ルシフェラーゼ)(pg/g脂質重量) <summary> 研究の目的は、バルト海南岸の海産生物のPCN, PCB, PCDD, PCDFにおけるダイオキシン様活性、毒性等価量 への相対的寄与を、提出することである。底質, プランクトン, イガイ, カニ, 魚, 鵜, 野生動物, 海産食