愛媛大学法文学部法学特講 「現代社会と著作権」 前文化庁長官官房審議官 吉田 大輔 著作権行政の現状と課題 愛媛大学法文学部法学特講 「現代社会と著作権」 前文化庁長官官房審議官 吉田 大輔
1 著作権法の目的 「 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」(1条) 著作物等の文化的所産の利用に関する基本的なルールを定めるもの 創作のインセンティブを高め、一方では新たな創作や文化の享受等に支障が生じないように、「権利」と「利用」のバランスを確保
2 時代の変化に対応した制度の見直し 新たな利用方法の出現 →著作者等の利益確保の必要性高い→権利拡大 2 時代の変化に対応した制度の見直し 新たな利用方法の出現 →著作者等の利益確保の必要性高い→権利拡大 →公共の利益等の確保の必要性高い→権利縮小
3 デジタル化・ネットワーク化の影響 コピーの品質が劣化しない→複製環境の変化 加工改変が容易→予想を超えた多様な利用 3 デジタル化・ネットワーク化の影響 コピーの品質が劣化しない→複製環境の変化 加工改変が容易→予想を超えた多様な利用 早く広く伝達→既存メディアに代わる流通手段 創作者による発信→新たなコンテンツの発見 過去の著作物等の再発見→ロングテール 違法利用の増大→正規ビジネスへの脅威
4 デジタル・ネット時代の課題 (1)家庭内における録音録画への対応 4 デジタル・ネット時代の課題 (1)家庭内における録音録画への対応 デジタル録音録画手段の普及と高度化への対応 ①適法ネット配信事業と著作権法30条の範囲 ②違法配信のダウンロードと著作権法30条の範囲 ③デジタル録音録画機器・記録媒体に関する補償金制度の在り方 …ダビング10、ブルーレイ、iPod、HDD等
(2)コンテンツのマルチユースの促進 ①コンテンツの二次利用の促進 a 契約によるルール作り a 契約によるルール作り ○制作段階において二次利用を想定した契約の 励行(ガイドラインの策定など) ○実演やレコードなどの分野においても、権利の集中管理の拡大 ○権利情報の集積と提供
b 法律による円滑化措置 ○多数の権利者が関わる放送番組のようなコンテンツの権利処理を円滑に進める方策 ○映画の著作物のように、法律上特定の者に許諾権限を集中する仕組みは可能か? ○契約による利用円滑化方策との関係、クリエーターへの利益還元の方法などの課題
②権利者不明の著作物等の取扱い ○文化庁長官による裁定制度 ・・・著作権のみ、時間、経費などの問題点 ↓ ○著作権・著作隣接権共通で、権利者捜索のための相当な努力、利用の表示や通知などを条件に利用を認める権利制限規定を設けてはどうか?
(3)ネット上の豊かな情報の活用 ①検索エンジンサービスの過程で生じるウェブ情報の複製・翻案・公衆送信に関する問題 ②技術開発や研究目的でのウェブ情報等の複製等に関する問題 ③図書館等における蔵書のデジタル化やデジタル・データの活用に関する問題 ④通信と放送の融合に伴う著作権制度の見直し
(4)技術的過程における利用行為 ①効率性、安定性の確保のために行われる通信過程におけるミラーサーバー等における一時的蓄積(複製)に関する問題 ②相互接続性、セキュリティの確保のために行われるコンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアリングにおける複製等に関する問題
(5)ネット上で他人の著作物等を活用して新 たな創作を行う場合 (5)ネット上で他人の著作物等を活用して新 たな創作を行う場合 ①投稿サイト等への投稿に関する適法環境の整備 (例)JASRACとサイト運営者との包括契約 ②写り込みなどの付随的利用 ③意思表示システムの普及と改善 (例)クリエイティブ・コモンズ ④ネット上で多数の参加者の関与により作成されたコンテンツの権利関係の明確化
(6)新たな利用方法の出現に柔軟に対応で きる法的枠組みの導入 (6)新たな利用方法の出現に柔軟に対応で きる法的枠組みの導入 ①権利制限に関する一般条項(日本版フェアユース規定)の導入の是非 ○個別列挙=法的安定性が高いが、柔軟性は 低い ○一般条項=柔軟性があるが、法的安定性は 低く、利用者は訴訟リスクを覚悟 ②いわゆる間接侵害責任の明確化 (例)ストレージサービス等を行う事業者の責任
(7)ネット上の違法利用への対策 ①著作権保護技術に対する法的保護の見直し →アクセスコントロールの位置づけ →アクセスコントロールの位置づけ ②違法な利用を繰り返す悪質な利用者へのアクセス制限措置等の導入 ③国境を越えた違法配信への有効な国際協力の在り方 →外国のサーバからの違法配信対策
(8)保護期間の延長問題 ○ベルヌ条約等=著作者の生存間+死後50年 ○欧米諸国=著作者の生存間+死後70年 ○日本=著作者の生存間+死後50年 <延長賛成> 欧米諸国との国際協調 著作者の創作インセンティブ <延長反対> 二次創作、不明権利者の問題 国際収支面の経済的効果
5 関連する政府の検討組織 <知的財産戦略本部> ①コンテンツ・日本ブランド専門調査会 ②デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会 5 関連する政府の検討組織 <知的財産戦略本部> ①コンテンツ・日本ブランド専門調査会 ②デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会 →改革の基本的な方向性等の提示 <文化庁> 文化審議会著作権分科会 →著作権制度の具体的な制度設計