社会経済学1 宇仁宏幸
テキスト 宇仁宏幸/坂口明義遠山弘徳/鍋島直樹『入門・社会経済学 第2版』ナカニシヤ出版、2010年
社会経済学Political Economyとは何か 19世紀の古典派経済学と20世紀のケインズの有効需要理論を結びつけて、社会的視座と長期的視野を有する経済学を再構築しようとする経済学の諸潮流の総称
資本主義経済の3つの段階 商業資本主義(16~18世紀) 大航海時代を経て成立。既存生産物の空間的配置の変更により、富を創出。 大航海時代を経て成立。既存生産物の空間的配置の変更により、富を創出。 産業資本主義( 19世紀) 産業革命を経て成立。生産方法や生産物の革新によって富を創出。 20世紀の資本主義 「大転換」を経て成立。大量生産・大量消費
経済学における3つの理論的革命 古典派経済学の成立(スミス、リカード、マルクス) 生産と労働生産性が分析の焦点 古典派経済学の成立(スミス、リカード、マルクス) 生産と労働生産性が分析の焦点 限界革命(メンガー、ワルラス、ジェボンズ)新古典派経済学へ。交換が分析の焦点(この点では重商主義へ逆戻り) ケインズ革命 「大転換」を経て成立した20世紀経済を分析(数量調整、寡占的競争、管理通貨制等)
社会経済学と新古典派経済学 古典派経済学の成立 限界革命 ケインズ革命
社会経済学 新古典派経済学 理論と現実との関係をどう考えるか 理論の基礎仮説にも現実性が必要である(実在論) 理論の基礎仮説は非現実的でもよい(道具主義) 個人と社会との関係をどう考えるか 個人と社会とは相互依存しており、分割不可能である。(社会有機体論) 社会は個人の総和である。個人から出発して社会を説明できる(方法論的個人主義)
社会経済学 新古典派経済学 合理性をどうとらえるか 限定合理性、手続的合理性 完全合理性 分析の主要な課題は何か 社会経済システムの再生産 希少な資源の効率的配分と均衡 分析の焦点は何か 生産と分配 交換
社会経済学の創始者たち A・スミス D・リカード K・マルクス J・M・ケインズ M・カレツキ 以下、写真はhttp://www.eumed.net/cursecon/economistasより
社会経済学の創始者たち A・スミス (1723-1790) 『諸国民の富』 『道徳感情論』
社会経済学の創始者たち D・リカード (1772-1823) 『経済学および課税の原理』
社会経済学の創始者たち K・マルクス (1818-1883) 『資本論』 『経済学批判要綱』 『経済学哲学草稿』 『ドイツ・イデオロギー』
社会経済学の創始者たち J・M・ケインズ (1883-1946) 『雇用・利子および貨幣の一般理論』 『貨幣論』
社会経済学の創始者たち M・カレツキ (1899-1970) 『資本主義経済の動態理論』
社会経済学に属する諸潮流 ポスト・ケインズ派(ロビンソン、カルドア等) マルクス派(ドッブ、スウィージー等) 新リカード派(スラッファ等) レギュラシオン派(アグリエッタ、ボワイエ等) ラディカル派(ボールズ、ギンタス等) 新制度学派(ホジソン等)
ポスト・ケインズ派の経済学者 J・ロビンソン (1903-1983) 『不完全競争の経済学』 『資本蓄積論』 『資本理論とケインズ経済学』
ポスト・ケインズ派の経済学者 N・カルドア (1908-1986) 『経済成長と分配理論』 『マネタリズム;その罪過』
マルクス派の経済学者 M・ドッブ (1900-1976) 『資本主義発展の研究』 『価値と分配の理論』
マルクス派の経済学者 P・スウィージー (1910-2004) 『資本主義発展の理論』 『独占資本』
新リカード派の経済学者 P・スラッファ (1898-1983) 『商品による商品の生産』
社会経済学1の構成 第Ⅰ部 資本主義の基本的構造 第Ⅱ部 現代資本主義の制度的基礎 第Ⅲ部 現代資本主義の動態
第Ⅰ部 資本主義の基本的構造 第1章 市場と資本 第2章 価格、賃金、利潤 第3章 資本蓄積と所得分配 第4章 技術変化と労働過程
第1章 市場と資本 主なテーマ 市場はどのようなはたらきをするのか 労働と資本との関係は、市場の場と生産の場とではどのような違いがあるのか 第1章 市場と資本 主なテーマ 市場はどのようなはたらきをするのか 労働と資本との関係は、市場の場と生産の場とではどのような違いがあるのか 資本の権力(Power)の基礎は何か
1. 資本主義とは何か 資本-----将来において収益をもたらす資金 資本の目的-----価値の増加=利潤の創造 利潤の創造の方法 1. 資本主義とは何か 資本-----将来において収益をもたらす資金 資本の目的-----価値の増加=利潤の創造 利潤の創造の方法 商業資本主義-----交換過程(市場)で 安く買って高く売る or 資源の最適配分 産業資本主義以降----生産過程(企業)で 労働者を支配することにより、剰余を取得
2. 市場の機能 調整機能-----価格変動を通じて需要量と供給量を調整し、両者の一致(資源の効率的配分)を実現 2. 市場の機能 調整機能-----価格変動を通じて需要量と供給量を調整し、両者の一致(資源の効率的配分)を実現 ただし、いくつかの前提条件(価格付けが可能、右上がりの供給曲線、右下がりの需要曲線など)が必要→賃金、資産価格の調整不全 規律づけ機能-----効率が優れているものには高利潤、効率が悪いものには低利潤→イノベーション(技術革新と組織革新)を促進する。 ただし、労働市場や資本市場では、情報の非対称性などにより、規律づけは不完全→「抗争的交換」
3. 資本と労働 資本・労働関係----労働力を販売する労働者と、資本財を所有する資本家との関係 労働市場においては、法的には対等 3. 資本と労働 資本・労働関係----労働力を販売する労働者と、資本財を所有する資本家との関係 労働市場においては、法的には対等 生産過程においては、資本家は労働者に対する指揮命令権(権力の一種)をもつ。また、生産手段の所有権にもとづいて、剰余を取得する権利を持つ。
3.(1) 剰余の生産 GDP=企業の付加価値の合計 (企業の付加価値=企業の収入-原材料費用) 国民所得=賃金所得+利潤所得 (剰余) (企業の付加価値=企業の収入-原材料費用) 国民所得=賃金所得+利潤所得 (剰余) 剰余とは企業のつくりだす付加価値のうち、賃金として支払われない部分
3.(2) 利潤創造をめぐる資本・労働の対立 賃金と利潤の分配をめぐる利害対立 その根拠----労働力商品の特殊性 賃労働――労働者の所有する労働能力(労働力)の使用権を時間ぎめで譲渡(賃貸) 労働契約――商品である労働力の売買は 労働者の雇用という形態をとる
労働力商品と一般商品との違い 貯蔵・保存がきかない――生存を維持できる所得が日々必要。売り惜しみが困難――労働者がもつ資産少ない。労働力販売の停止・中断――労働者の生存の問題 売り切りではない――労働力の使用は、その販売者である労働者の労働という形態をとる。労働力と労働者は不可分。労働者と使用者との関係が発生(労使関係) 。労働力の使用条件(労働条件)が、労働力再生産に影響する。労働契約だけでは、契約内容の履行は保証されない→規律づけの仕組みが必要 労働力の再生産(子供の養育含む)は家族を基盤とする社会的生活をつうじて行われる
労働者を規律づけるしくみ 強制メカニズム ・解雇の威嚇 ・監視、監督 同意メカニズム ・高賃金―――「効率賃金」仮説 ・解雇の威嚇 ・監視、監督 同意メカニズム ・高賃金―――「効率賃金」仮説 ・内部昇進―――「内部労働市場」