2015/03/02 聖マリアンナ医科大学 救急医学講座 後期研修医 吉田英樹 The effect of glutamine therapy on outcomes in critically ill patients: a meta-analysis of randomized controlled trials 2015/03/02 聖マリアンナ医科大学 救急医学講座 後期研修医 吉田英樹
背景 【グルタミン酸について】 グルタミン酸は血漿や細胞内において最も豊富なアミノ酸である。 Critical illness(重症病態)においては、グルタミンの消費が増加する。その結果、グルタミン欠乏が起こる。 グルタミンの欠乏は免疫不全を起こす。 Long CL. Impact of enteral feeding of a glutamine-supplemented formula on the hypoaminoacidemic response in trauma patients. J Trauma. 1996;40:97–102. グルタミンの欠乏は重症病態患者の死亡率上昇と相関している。 Parry-Billings M. Does glutamine contribute to immunosuppression after major burns? Lancet. 1990;336:523–525.
背景 【グルタミン投与のメリット】 <動物実験での研究報告> Bacterial translocation予防(減少) 経静脈投与で腸粘膜委縮が減少 Gianotti L. Oral glutamine decreases bacterial translocation and improves survival in experimental gut-origin sepsis. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1995;19:69–74. Sepsisでの生存率改善 Inoue Y. Effect of glutamine-supplemented intravenous nutrition on survival after Escherichia coli-induced peritonitis. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1993;17:41–46.
背景 【グルタミン投与のメリット】 <ヒトにおける研究報告> 免疫機能の改善、腸管機能の保持 Saito H. Glutamine as an immunoenhancing nutrient. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1999;23:S59–S61. bacterial translocation予防(減少)の可能性 Buchman AL. Glutamine: is it a conditionally required nutrient for the human gastrointestinal system? J Am Coll Nutr. 1996;15:199–205.
背景 【問題点】 過去の研究規模の小ささ 過去の研究の質の低さ 有効性を否定する大規模RCT ① SIGNET study → 有効性なし ② REDOX study → 死亡率増加
SIGNET study The SIGNET study(Randomized, double-blind, factorial, controlled trial) P:ICU or High dependency unitsに48時間以上入室している患者で、かつ、腸管不全で経静脈栄養が必要な患者 I, C:glutamine投与群、selenium投与群、両者投与群、非投与群 O:ICU or High dependency unitsでの死亡率、6カ月後死亡率、14日以内での新たな感染発症率 結果:グルタミン投与で死亡率や新たな感染発症率は低下しなかった。 Andrews PJ, Scottish Intensive care Glutamine or seleNium Evaluative Trial Trials Group: Randomised trial of glutamine, selenium, or both, to supplement parenteral nutrition for critically ill patients. BMJ 2011, 342:d1542.
REDOX study The REDOX study(最も大規模なstudy, randomised, blind) P:ICUで多臓器不全があり、かつ人工呼吸器管理されている成人患者 I, C:glutamine投与群、antioxidants投与群、両者投与群、プラセボ投与群 O:28日死亡率 結果:グルタミン投与群で死亡率が増加する傾向にあった。 →(死亡率32.4% vs. 27.2%; adjusted odds ratio, 1.28; 95% confidence interval [CI], 1.00 to 1.64; P = 0.05) 問題点:グルタミン投与群で、3臓器以上の多臓器不全割合が多い。 Heyland D, Canadian Critical Care Trials Group: A randomized trial of glutamine and antioxidants in critically ill patients. N Engl J Med 2013, 368:1489–1497.
目的 ICU患者において、グルタミン投与で死亡率の改善、院内感染の減少、入院期間の短縮が得られるのかを検討するために、メタアナリシスを行った。
論文のPICO P:ICU患者 I:グルタミン投与を行う C:プラセボ投与 O:院内死亡率の低下 上記論文のメタアナリシス
方法 【使用したデータベース】 Medline(1948 – 2013/4月) Elsevier Cochrane database Web of Science Clinical Trials. Gov. 【使用したKey ward】 Glutamine, glutamine dipeptides, L-glutamine, glutamine supplementation Critical care, critical patients, critical ill, critically ill patients, intensive care units, intensive care, surgical intensive care unit, SICU, critical care medicine
Inclusion criteria Outcome 1. RCT(randomized controlled clinical trials) 2. 成人ICU患者 3. 経静脈 or 経腸でのグルタミン投与 4. プラセボのみ or 介入なし Outcome 1.primary outcome 院内死亡率 (記載がない場合、ICUでの28日死亡率を使用) 2.secondary outcomes 6カ月死亡率、院内感染、入院期間
Exclusion criteria Exclusion criteriaについては各論文毎により異なる。 16-18歳以下という年齢制限、肝機能障害が多い(詳細はAdditional file 3を参照)。 2人の評価者が標準化されたデータ除外プロトコールに乗っ取って除外した。 意見が異なる場合は議論を行ったうえで決定した。
方法 前述のinclusion criteriaを基に、2人の評価者により別々に評価。 意見が分かれた場合は3人目の評価者と議論の上決定。
Subgroup meta-analysis 外科ICU、内科ICU、混合型ICUに分けて解析 →患者背景によるバイアスを除去するため グルタミンの投与量毎に分けて解析 →グルタミン投与量によるバイアスを除去するため 栄養投与法毎に分けて解析 →投与法によるバイアスを除去するため 上記サブグループ解析の結果は、3×3群解析ではなく。それぞれ別々に解析している。
結果
結果 ICU患者においてグルタミン投与とプラセボを比較した研究18のtrialをincludeした。 medical ICUにおける研究3、surgical ICU 8、混合型ICU 7。 高用量投与の研究6、中等量8、少量4。 経腸投与の研究6、経静脈10、両者併用 2。
グルタミン投与の有無で院内死亡率に有意差なし RR:1.01、95% CI:0.86-1.19、P=0.87
グルタミン投与の有無で 6カ月死亡率に有意差なし RR:0.97、95% CI:0.79-1.19、P=0.78
primary outcome (院内死亡率)について 【サブグループ解析(患者背景別)】 内科ICUでは有意差なし 外科ICUでは、有意差ないが、グルタミン投与群の方が予後が良い傾向にあった。 混合型ICUでは有意差なし。 ただし、混合型ICUの統計学的値を見ると、外科ICUでの統計学的値より差が(予後が悪い方に)大きいように見える。
サブグループ解析(患者背景によるバイアスを除去) 内科ICUでの研究は3。有意差なし RR:0.99、95% CI:0.65-1.51、P=0.97
サブグループ解析(患者背景によるバイアスを除去) 外科ICUでの研究は7。有意差ないが、グルタミン投与群の方が予後が良い傾向にあった。 RR:0.77、95% CI:0.48-1.23、P=0.27
サブグループ解析(患者背景によるバイアスを除去) 混合型ICUでの研究は7。有意差なし。 RR:1.12、95% CI:0.99-1.26、P=0.07 (私見)上記のように本文に記載あるが、外科ICUの統計値と比べると、こちらの方が予後がわるい傾向にあるのでは??.
primary outcome (院内死亡率)について 【サブグループ解析(投与法別)】 経腸投与では有意差なし 経静脈投与では有意差なし 両者併用投与では有意差なし ただし、統計学的値だけをみると、両者併用投与グループでは、グルタミン投与群の方が予後が悪い傾向にありそうだが。
サブグループ解析(栄養投与法によるバイアスを除去) 経腸栄養投与での研究は5。有意差なし RR:1.15、95% CI:0.83-1.61、P=0.40
サブグループ解析(栄養投与法によるバイアスを除去) 経静脈栄養投与での研究は10。有意差なし RR:0.94、95% CI:0.77-1.14、P=0.52
サブグループ解析(栄養投与法によるバイアスを除去) 経腸/経静脈栄養混合投与での研究は2つ。 有意差なし RR:1.15、95% CI:0.99-1.34、P=0.07 (私見)上記のように本文にあるが。予後が悪い傾向にありそう。
primary outcome (院内死亡率)について 【サブグループ解析(投与量別)】 少量投与(<0.3g/kg/day)では有意差なし。 中等量(0.3-0.5g/kg/day)では有意差なし。 高用量(>0.5g/kg/day)では、グルタミン投与群の方が有意に死亡率が高かった。
サブグループ解析(グルタミン投与量によるバイアス除去) <0.3g/kg/day投与での研究は4。有意差なし。 RR:0.97、95% CI:0.80-1.18、P=0.77
サブグループ解析(グルタミン投与量によるバイアス除去) 0.3-0.5g/kg/day投与での研究は7。有意差なし。 RR:0.92、95% CI:0.65-1.29、P=0.62
サブグループ解析(グルタミン投与量によるバイアス除去) >0.5g/kg/day投与での研究は6つ。グルタミン投与群の方が有意に死亡率が高かった。 RR:1.18、95% CI:1.02-1.38、P=0.03
Secondary outcome (院内感染発症率)について 15のtrialがincludeされた。 グルタミン投与群で有意に感染発症率が減った。
グルタミン投与群で有意に感染発症率が減った。 RR:0.85, 95%CI:0.74-0.97, P=0.02
Secondary outcome (院内感染発症率)について 【サブグループ解析結果】 内科、混合型ICUでは統計学的有意差を認めなかったが、外科ICUにおいて統計学的有意差を持って、グルタミン投与群で感染率が低かった(RR:0.70, 95%CI:0.52-0.94, P=0.04) 栄養投与法別においては、経静脈投与グループ解析で、統計学的有意差を持ってグルタミン投与群で院内感染率が低下した (RR:0.83, 95%CI:0.70-0.98, P=0.03) 投与量別の解析についての記載はなし。
Secondary outcome (入院期間)について 14のtrialがincludeされた。 入院期間に有意差は無かった。 (WMD:-1.48days, 95%CI:-3.93-0.98, P=0.24)
筆者らの考察(discussion) 重症患者において院内感染発症を減らす。 →今までのstudy同様の結果。 重症患者の死亡率を低下させない。 →今までのstudyと異なる結果。 高用量投与(>0.5g/kg/day)では予後を悪化させる。 入院期間の短縮はない。
筆者らの考察(discussion) ICU形態によって効果が異なる可能性がある。 →これまでのstudyでも外科ICUにてグルタミンが予後を改善 する可能性が示唆されていた。 筆者が考える理由 →外科患者の方がよりグルタミンへ投与への依存度が大き い。 ⇒外科患者は腸管機能が障害されている可能性があり、 グルタミンの摂取方法が、(自分の腸管からの吸収で はなく)グルタミン投与に依存している割合が大きいから。 内科ICU患者はグルタミンを食事から吸収することが出来る ため、(グルタミンの有無よりも)経管栄養そのものが出来る かどうかが予後に関わってくる。
筆者らの考察(discussion) 経静脈投与で院内感染率(本文では「死亡率」と書かれているが,本文のデータからすると誤記載と考えるp.8 右下から4行目)が改善したが,経腸栄養ではその効果がなし →腸管が使える患者では、グルタミン吸収が腸管からされる ためと考える。 グルタミン濃度が低下していない患者へのグルタミン投与は意味が無い。 →グルタミン欠乏は,重症患者において死亡率増加と相関するが, 重症なら必ずグルタミンが欠乏しているとは限らない。実際グル タミン血中濃度が高値の重症患者は死亡率増加と相関すると いう研究がある。 Rodas PC. Glutamine and glutathione at ICU admission in relation to outcome. Clin Sci (Lond) 2012;122:591–597. →REDOX studyではグルタミンが高用量で投与されており、それが 予後悪化に関係した可能性がある。
筆者らの考察(discussion) 筆者らの対応 →グルタミン血中濃度モニタリング ⇒グルタミン血中濃度が基準値下限以下 →グルタミン血中濃度モニタリング ⇒グルタミン血中濃度が基準値下限以下 (<420mcromol/L)であれば、0.3-0.5g/kg/dayでグル タミンを投与するというアプローチをとる。
今回のstudyのlimitation 英語論文しか検索していない いくつかのtrialでは平均値と幅(SD)しか提示されていなかったため、入院期間については、そこからの予測値を使用した。
論文の結語(Conclusions) 重症患者において院内感染発症を減らす. →今までのstudy同様の結果。 重症患者の死亡率を低下させない。 →今までのstudyと異なる結果。 外科ICU患者においては有意に感染発症率を低下させた。死亡率も下げる可能性がある。 →今までのstudyに沿った結果。 高用量投与(>0.5g/kg/day)では有意に予後を悪化させる。 入院期間の短縮はない。
個人的な考察 ルーチンでのグルタミン製剤の使用は勧められない。 →経腸栄養を早期に開始できる患者では不要か。 →経腸栄養を早期に開始できる患者では不要か。 ⇒予後改善・感染率低下の効果は乏しいと考えられる。 ⇒経腸栄養にグルタミンが含まれている。 →経腸栄養が長期間開始できないと考えられる患者へは投 与を考慮してもよいかもしれない。 ⇒動物実験での根拠 ⇒予後改善の可能性。少なくとも予後悪化はなさそう ⇒ただし、高用量にならない( <0.5g/kg/day)ように!
追記 【GFO®について】 販売者:株式会社大塚製薬工場 グルタミン、ファイバー、オリゴ糖を含有する。 1袋15g当たり:グルタミン 3.0g エネルギー 36kcal、タンパク質3.6g、脂質0g、糖質 6.0g、食物繊維 5.0g、ナトリウム 0.5mg、ラクトスクロース 1.45g 価格:15g×21包×3箱 (63包) 8,190円→1包130円 それぞれの頭文字から商品名をGFOとしました。 さわやかレモン風味です。
追記 【マーズレン配合錠0.375ES®について】 販売者:寿製薬株式会社 1錠中: L-グルタミン247.5mg 薬価:9.10、ジェネリックなら6.50
追記 【グルタミン酸の点滴薬について】 <アルギU点滴静注20g> 規格:10%200mL1袋 一般名:L-アルギニン塩酸塩注射液 薬価:1744.00 メーカー:エイワイファーマ <点滴静注用アンコーマ20%> 規格:20mL1管 → 4g 一般名:L-グルタミン酸ナトリウム注射液 薬価:215.00 メーカー:東亜薬品工業