特別講義信託法 樋口 範雄 2008年11月11日10時20分 22番教室 東京大学法学部信託法講義⑤

Slides:



Advertisements
Similar presentations
個人情報保護講座 目 次 第1章 はじめに 第2章 個人情報と保有個人情報 第3章 個人情報保護条例に規定されている県の義務 第4章 個人情報の漏えい 第5章 個人情報取扱事務の登録 第6章 保有の制限 第7章 個人情報の取得制限 第8章 利用及び提供の制限 第9章 安全性及び正確性の確保 第 10.
Advertisements

オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構 事務局 オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構 自治体条例調査資料 平成26年度 第1回データガバナンス委員会資料 資料1-6.
1 特別講義信託法 2008年11月4日10時20分 22番教室 東京大学法学部信託法講義④ 樋口 範雄 参照 →
第8回 商事関係法. 前回の内容 商号とは 類似商号規制の撤廃 類似商号の事例研究 名板貸って 名板貸の事例研究.
現代社会と経営 (11 月 15 日:会社とは何か ) 長岡技術科学大学 情報経営系教授 阿部俊明.
医療情報管理への信託法的発想の導入 2011 年 7 月 9 日 医療情報学会北海道支部会講演会 寺本振透( Teramoto, Shinto ) * * 九州大学大学院 法学研究院 教授、弁護士 1.
Ⅱ 委託・受託の関係 法第二条第九項第一号の主務省令で定める委託は、次に掲げるものをいう。 1.
労使協定により65歳まで継続して雇用する社員を選別する基準を定めている場合は…
秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然として知られていないもの(不2Ⅳ)
『会社の仕組み』(2013年度秋学期) 第一回 講義概要 会社法について
2014年度 民事再生法講義 6 関西大学法学部教授 栗田 隆
第4回 商事関係法.
II. 信託の担い手としての弁護士 2011年7月28日 寺本振透* * 九州大学大学院 法学研究院 教授、弁護士 1.
特別講義信託法 樋口 範雄 2008年10月28日10時20分 22番教室 東京大学法学部信託法講義③
「事 務 管 理」 の 構 成 債権 第一章 総則 第二章 契約 第三章 事務管理 第四章 不当利得 第五章 不法行為.
わが国の信託の新たな展開 -商事信託とは?-
地方公務員災害補償基金 富山県支部補償課 平成21年8月21日
特別講義信託法 テーマ 事業自体の信託 2008年12月16日 東京大学法学部信託法講義第10回 中央三井トラスト・ホールディングス株式会社
【資料3】 条例検討会議について 平成28年8月30日 福岡市障がい者在宅支援課.
 信託事業    土地信託事業 2回 0400‐15‐5211       田中 優紀.
2016年度 民事訴訟法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
2005年度 民事執行・保全法講義 第2回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
債権 債 権 法 の 構 造 (不法行為法:条文別) 第709条 不法行為の要件と効果 第710条 非財産的損害の賠償
I. 信託の基礎 日弁連夏季研修広島会場「信託」
取引情報委員会活動報告 ープライシング・マトリックスについてー
第14回 商事関係法 2005/11/21.
2014年度 民事再生法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
金融の基本Q&A50 Q41~Q43 11ba113x 藤山 遥香.
第7回 商法Ⅱ 2006/11/20.
第3回 商事関係法 2006/10/23.
特別講義信託法 樋口 範雄 2008年10月21日10時20分 22番教室 東京大学法学部信託法講義②
株式と投資信託の双方の特性を兼ね備えた商品
2016年度 民事訴訟法講義 秋学期 第11回 関西大学法学部教授 栗田 隆
保険募集における 代理店賠責の必要性 御社に所属している代理店は大丈夫ですか? 一般社団法人 日本損害保険代理業協会
(安全衛生活動についての基礎研修) 安全配慮義務とは?
人材育成 1.従業員の雇用 1-1 従業員採用への配慮事項 1-2 人材の募集 1-3 労働契約の締結 Appendix-1 労働者保護法規
Unit18 設けるにもルールあり.
第20回 商事関係法 2005/12/ /11/8.
第8回 商法Ⅱ        2006/11/ /11/8.
ニッセン WEB広告での個人情報取り扱い審査内容について
2008年度 倒産法講義 民事再生法 7 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2008年度 倒産法講義 民事再生法 8 関西大学法学部教授 栗田 隆.
第16回 商事関係法 2005/11/ /11/9.
株式会社における出資者と経営者 経営とは、一定の事業計画を構築し、それに沿って経営資源を調達し、さらにそれを用いて、社会に財やサービスを効率的に提供しようとする一連の営みである。 投資家(株主) 取締役 (経営者) 株主総会 所有者 経営 所有と経営の分離 資本の循環 資本金 商品 生産 商品´ 売上.
トレーニングの際はスライド, ノートの両方を確認してください
取締役の責任と代表訴訟 ・取締役の責任軽減 ・代表訴訟の合理化.
第7回 商事関係法.
経済活動と法 ~消費者と法~ <特定商取引法>.
※介護保険法施行規則第140条の62の4及び総合事業実施要綱第17条の規定に基づき、事業対象者特定の有効期間の適用イメージをまとめたもの。
第1章 日本の統計制度 ー 経済統計 ー.
システム監査学会・監査基準分科会 合同研究会 平成19年4月6日 公認会計士・公認システム監査人 藤野正純
「内部告発」 という名の ボランティア 金沢大学附属病院 産婦人科講師 打出喜義.
2001.12.4 エルティ総合法律事務所所長弁護士 システム監査技術者 藤 谷 護 人
第13回 法律行為の主体②-b(無権代理、表見代理)
NPOマネジメント 第3回目 NPO と 法律.
~認知症発症により、資産凍結や節税計画頓挫のリスクを解消~
~認知症発症により、資産凍結や節税計画頓挫のリスクを解消~
2013年度 民事訴訟法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆
2018年度 民事再生法講義 5 関西大学法学部教授 栗田 隆
「不 当 利 得」 の 構 造 債権 第一章 総則 第二章 契約 第三章 事務管理 第四章 不当利得 第五章 不法行為.
【資料3】 骨子案の検討事項について 平成28年9月30日 福岡市障がい者在宅支援課.
監事の監査報告について 計算関係書類・財産目録の監査 事業報告等の監査
~求められる新しい経営観~ 経済学部 渡辺史門
2016年度 民事再生法講義 6 関西大学法学部教授 栗田 隆
2017年度 民事訴訟法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
第10回 商法Ⅱ 2006/12/11.
2014年度 民事再生法講義 3 関西大学法学部教授 栗田 隆
「投資」の新たな展開 -株式会社以外に…-
第4回 商法Ⅱ 2006/10/ /8/28.
個人情報に関する基本方針 基本方針 具体的な取り組み 相談体制
Presentation transcript:

特別講義信託法 樋口 範雄 2008年11月11日10時20分 22番教室 東京大学法学部信託法講義⑤ 2008年11月11日10時20分 22番教室 東京大学法学部信託法講義⑤ 樋口 範雄 nhiguchi@j.u-tokyo.ac.jp 参照→http://ocw.u-tokyo.ac.jp/

今回のポイント 注意義務 公平義務 3つの信託    自己信託    目的信託    限定責任信託

Uniform Prudent Investor Act 1条 プルーデント・インヴェスター・ルール 2条 注意義務の基準・ポートフォリオ戦略・リスクとリターンに関する目標 3条 分散投資 (Diversification)   4条 受託者として業務開始後合理的期間内にルール遵守の義務 5条 忠実義務 (Loyalty) 6条 公平義務 (Impartiality) 7条 投資に関する費用 (Investment Costs) 8条 コンプライアンスの判断時期 (Reviewing Compliance) 9条 投資および管理機能の委任

アメリカにおけるルールの変遷 1 court list rule の時代 裁判所リスト・ルール 2 legal list rule の時代          裁判所リスト・ルール 2 legal list rule の時代             法定リスト・ルール 3 prudent man rule の時代    プルーデント・マン(慎重人)・ルール 4 prudent investor rule の時代    プルーデント・インベスター・ルール          合理的な投資家ルール 

わが国への示唆 1 善管注意義務の問題点 注意義務の基準は? 他人か自己のものか? 行為指針としての機能は? 受託者から見ると??    注意義務の基準は?    他人か自己のものか?    行為指針としての機能は?     受託者から見ると??    アメリカでは公益団体のところから     日本では? 2 信託のリスクの開示と丁寧な説明

信託法 旧法 4条 20条 21条 大正11年勅令5条 教材199頁 要綱案第19 大きな変更はなし(自己執行義務は除く) 新信託法 旧法 4条 20条 21条 大正11年勅令5条 教材199頁 要綱案第19    大きな変更はなし(自己執行義務は除く) 新信託法 29条 注意義務 28条 (受託者の権限の中に)第三者への委託

大阪高判2005・3・30 金融商事判例1215号12頁 1 年金信託→年金信託の仕組み 2 厚生年金基金の理事 v 信託銀行  金融商事判例1215号12頁 1 年金信託→年金信託の仕組み 2 厚生年金基金の理事 v 信託銀行 3 合同運用義務違反 4 アセット・ミックス義務違反 50%→58.5% ◆事案 ◆判決の論理・信託法の論理 ◆プルーデント・インヴェスター・ルールなら?

大阪高裁判決2005年 事案: 1970年 年金信託契約 30億円の運用 1997年 運用割合の覚え書き 事案: 1970年 年金信託契約      30億円の運用       1997年 運用割合の覚え書き      2000年 5億円で19ファンド立ち上げ         ITへの集中運用       3億円弱に減少 1審は受益者勝訴 2審で逆転 

判決の論理 信託の論理 判決→もっぱら信託契約の解釈      当事者の意思 これがアメリカであれば・・・

アメリカでの善管注意義務 1 McGinley v. Bank of America (Kan.2005) エンロン株への集中について義務違反なし 2 Fifth Third Bank v. Firstar Bank (Ohio 2006) P&G 株への集中について義務違反あり 信託条項で書かれていることの意味 善管注意義務=任意規定とはいっても、一定の限界 わが国では? 条項の絶対視、一般条項しかない弱さ

McGinley v. Bank of America, 109 P.3d 1146 (Kan.2005) 1990年撤回可能信託の設定。最終的な投資決定権限も留保。エンロン株1500株。9年余で株式分割で9500株に。信託財産の77%、80万ドル弱に。2000年に銀行内で分散投資の助言あり。担当者は動かず。2001年12月エンロン崩壊。 カンザス州裁判所は3審とも銀行の勝ち。 自己決定=自己責任? 契約で書いてあるから? 

Fifth Third Bank v. Firstar Bank, N. A. 2006 WL 2520329 (Ohio App Fifth Third Bank v. Firstar Bank, N.A. 2006 WL 2520329 (Ohio App. 1 Dist.), 2006 -Ohio- 4506  P&G株200万ドル相当。委託者は創始者の孫。 1年後に株式下落で価値が半分に。  裁判所は分散投資義務違反を認め、受託者に損害賠償104万ドルを命ずる。 信託条項には、受託者は元々の信託財産を保持する権限と、価値の下落に対し法的責任なしとする条項あり。→Wood v. U.S. Bank N.A., 828 NE2d 1072 (2005)では、分散投資義務免除はより明確な文言がないと不可と判示。上訴審でも受託者敗訴。

In re Will of Dumont, 4 Misc In re Will of Dumont, 4 Misc.3d 1003 (A), In re Chase Manhattan Bank, 26 A.D.3d 824 (N.Y. 2006) Kodak株だけを集中して保持。保持する権限と分散投資義務を免除する条項あり。ただし、compelling reasonある場合は別と規定。 1審→2100万ドルの賠償を命じ、配当が十分でなく十分な収益がないことが、compelling reasonだとした。2審ではそれを破棄。 しかし、1973年時点ではimprudent と言えないという理由であり、信託条項があるから問題なしという理由ではない。 Prudenceの判断は残る。

大阪高裁判決に戻ると 契約の解釈 善管注意義務の任意規定化で、今後もその傾向が残るように見えるが・・・  善管注意義務の任意規定化で、今後もその傾向が残るように見えるが・・・  しかし、オハイオやニューヨークのようにprudenceの基準が歯止めとなって、 契約=自己責任にならない可能性もある

公平義務 1 アメリカでの一例 2 アメリカで問題となる状況 複数で異質の受益者の存在 ①投資運用の方針決定時 ②収益か元本か 1 アメリカでの一例  Matter of Chase Manhattan Bank (NY 2006) 2 アメリカで問題となる状況  複数で異質の受益者の存在     ①投資運用の方針決定時     ②収益か元本か     ③費用や報酬の負担は

In re Chase Manhattan Bank 846 N.E.2d 806(NY, March 30, 2006) 父が設定した信託.制限行為能力者の娘。娘が生きている間は収益は娘に、残りの元本は大学他の公益法人に(CRAT=charitable remainder annuity trust) 娘はほとんど費消せず、80万ドルが残る 収益なら娘の無遺言相続人へ、しかし大学らが異議申し立て。受託者の銀行は、相続人へ分配しようとするのを1審2審は支持、最高裁で逆転。

公平義務 日本でこれまで問題とならなかった理由 今後の課題  しかし、条文自体は何も示さず

まとめ わが国の課題 1 受託者責任の概念の明確化 善管注意義務・誠実義務 忠実義務・情報関連義務の不明確性 2 強行規定・任意規定 まとめ わが国の課題 1 受託者責任の概念の明確化     善管注意義務・誠実義務     忠実義務・情報関連義務の不明確性 2 強行規定・任意規定     営業信託・年金信託→規制の必要     一般の信託法理→私法としての任意          規定であることとその限界 3 受託者責任が理解されないままでの信託  拡大の危険→契約的思考・取引的思考の貫徹   実は依存型の信託にまで、自己責任

自己信託 宣言信託 第二条 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。 2 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。  一 次条第一号に掲げる方法による信託 同号の信託契約  二 次条第二号に掲げる方法による信託 同号の遺言  三 次条第三号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示 第三条 信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。  三 特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法 第四条 3 前条第三号に掲げる方法によってされる信託は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものによってその効力を生ずる。  一 公正証書又は公証人の認証を受けた書面若しくは電磁的記録(以下この号及び次号において「公正証書等」と総称する。)によってされる場合 当該公正証書等の作成  二 公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合 受益者となるべき者として指定された第三者(当該第三者が二人以上ある場合にあっては、その一人)に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨及びその内容の通知 4 前三項の規定にかかわらず、信託は、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる。

自己信託 利用法と効果 S    T(=S)    B 商事信託 業法的規制 T=株式会社 民事信託 業概念の壁 反復継続性        効果は?

目的信託 第258条1項は、「受益者の定め(受益者を定める方法の定めを含む。以下同じ。)のない信託は、第3条第1号又は第2号に掲げる方法によってすることができる」 従来の目的信託  公益信託  S   T             Bはなく代わりに公益目的

公益信託 日本 主務官庁による規制 アメリカ IRC(税法上の事後規制) 公益信託の効果 日本   主務官庁による規制 アメリカ  IRC(税法上の事後規制) 公益信託の効果 1)rule against perpetuities(永久拘束禁止則) 2)cy pres法理(シープレ法理=できるだけ近いものにする法理) 3)税制上の恩典

非公益の目的信託 利用法  従来は、徳義的信託 商事信託での利用

限定責任信託 2条 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。 12 この法律において「限定責任信託」とは、受託者が当該信託のすべての信託財産責任負担債務について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいう。 216条 限定責任信託は、信託行為においてそのすべての信託財産責任負担債務について受託者が信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨の定めをし、第232条の定めるところにより登記をすることによって、限定責任信託としての効力を生ずる。